ゆっくりかえろう

散歩と料理

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餓鬼鎮め 1/4

2011-09-25 | フィクション

 遠田です

 ハケンの仕事が休止になって 今は特殊な仕事の助手のアルバイトをやってます
 雇い主は個人ですが 給料は払ってくれるし きちんとしているので
 当分は喰ってけそうです

 ただ 将来の不安はあります
 こんな仕事いつまでもやってられないことは 判りますから

 この仕事がなくなれば また元の派遣会社で働くんですが 不況で仕事も先細り
 元の職場にもどれるかどうか判りません


 この仕事 作業は簡単なんですが 困ったのは恐怖が付きまとうことと
 理解不能なことが多すぎて混乱してしまうこと

 作業は慣れるとなんでもないことで センセイがいうには 何も危ないことはない
 というのですが 驚くことの連続で疲れます

 最初は見習い期間ということで センセイがついて仕事を教えてもらってやってたんですが
 慣れれば一人でやることになります

 仕事は餓鬼つきの人から憑物をとったり 直接浮浪餓鬼を集めて持って帰ります
 センセイはそれを集めてどこかへ持っていきます

 最初の段階の餓鬼をみつけたり おびき出したりすることがなかなか難しく
 そのあとの作業自体は簡単です

 考えたら 前やった探偵のアルバイト(浮気調査)に似てなくもないですが
 餓鬼を生け捕りにして持って帰るところは クワガタとりにも似てるし ネズミ駆除の仕事にも通じるところがあります

 最初に 餓鬼捕獲法(作業マニュアル)をセンセイに教えてもらいました

 いわば自動車運転教習所でいうところの学科教習です


 「いいかい遠田君、餓鬼つきというものは 人がモノを食べている場所に現れる」
 「自宅より外食場所がいい それも庶民的な食堂とか ファストフード店 立ち飲みやも集めやすい」
 
 「というのも餓鬼は行儀の悪い人につく場合が圧倒的に多いからだ」
 「高級なレストランや料亭は 人の間が遠いことや 格式ばってマナーにうるさいから
 餓鬼憑きには 居心地が悪い場所なんだ」
 なるほど理にかなってます
 
 「餓鬼憑きの好む場所といえば カウンター席の牛丼屋やカレー店などがいい」
 「椅子はあってもなくてもいいが 椅子なしのほうが客の回転が早くてテキを見つけやすい
 そのかわり腰が落ち着かず 取り逃がすことも多い
 反対にお好み焼き店やラーメン屋なんかは客の回転が遅いが じっくりやれるので 一長一短だ」

 「馴れれば効率の良い牛丼屋やカレーや 立ち食いそばもいいが 最初は自分のペースでやれるお好み焼き屋がいいよ」

 ただ私は君に オーバーワークは望んでいません あせることなく一匹ずつ集めてきてくれればいい」
 「食事代その他は 経費で落ちますから 安心してください」

 センセイのおハナシは いつも薀蓄を含んでいて 訊いてて成る程と思うことが多いです

 しかしたまに思うのは こんな誰も知らないマニュアルをどこで手に入れられたんだろうか

 センセイにはそのまたセンセイが居られるのか

 それともうひとつ 捕まえた餓鬼はどうするんだろう?ということ
 まさか悪いことに使うとか ペットショップやお化け屋敷に売りつけるんじゃないだろうか?

 もっと想像を飛躍すれば 闇のオークションにかけるとか ダイエットにつかうとか・・・


 俺の想像力なんてこんなものです
 だから会社をクビになってハケンでしか働けなくなっているのかなぁ

 いずれにしても今の僕は 社会正義をどうこう言ってる余裕はありません
 喰ってかなきゃ干上がっちゃうんですから

・・・あ、すいません 脱線しちゃいました
「恩田君 餓鬼が憑いている人の特徴は わかりますか?」
「いいえ 見当もつきません」

「君は人よりずっと餓鬼に遭遇しているはずだ 違うかね?」

僕はうなずいた 
「立ち食い蕎麦屋へ行っても 牛丼屋にいっても 必ず誰かにジロジロみられます」

「それは複数ではなく 必ず一店一人なのですが そのかわり必ず現れます 居ない日はありません」

「はい しかもその人は 沢山いるお客さんの中から 迷わず僕だけを選びます」
「それがいつも不思議でしょうがないんです」
普段の疑問をぶつけてみる センセイならわかるかもしれない

「ははは そうかね それは彼らから見たら 君は選ばれし人間なんだよ」
「だから君はこの仕事に採用されたんだけどね」

とんでもない話だ 僕は少しも嬉しくない それどころか憂鬱な気分だ
まえまえから悩んでいたことなのに それが偶然ではなく 必然だとセンセイはおっしゃる
僕はなんて運が悪いんだろう

怖いのでそれ以上聞くことは控えた
またいつかわかるときがくるだろう

 僕はかなりナーバスになっていましたが そんなことはお構いなしにセンセイは質問してくる

「よく思いだしてください 餓鬼憑きの特徴を・・・・」
「ええと・・・・・ 見られるのは男性ばかりで 女性はいないような気がします」
「それから?」

「う~ん  年齢は幅広くて 若い人から年配や老人もいます 一人きりで来店している人がほとんど」

「服装は様々で 背広の人もいれば作業着 私服など色々 仕事もサラリーマン風もいれば
水商売風 遊び人 学生・・・うーんあとはわかりません」

「では回答です」
センセイは楽しそうに答えます

「男性が多く女性はほとんどゼロに近い これは正解」

「何故 女性が少ないかというと 彼女達には母性というものがあります」
意外な答えだった

「母性は身を削って子供を育てるという本能=自分の血(母乳)を子供に与える
 というような究極の慈悲を持っています」

「子供の為なら 迷いなく死を選べる無償の愛も持っています」

「近頃の子殺しの母親もですか?」
ホントかな と思って聞き返しました

「あれは大抵男が悪く作用しているでしょう? 餓鬼とはまた違う「魔」が憑いているんです」
僕は実感が湧かなかったが 闇に詳しいセンセイの話だから 反論はしない

「服装 年齢 職業など 特定できないのは その通りです」
「聖職者や宗教家に憑いている例もあります」

けっこうどこにもいるんだな と僕は思った

「もうひとつ重要なポイントは 体型です」
「餓鬼憑きは 痩せ型が圧倒的に多く たまに中肉中背 筋肉質や肥満体型の人はつきません」

僕は聞いてみた
「餓鬼が痩せているからですか?」
「それもありますが」
 「他には?」

 「餓鬼が憑きだすと どんどん痩せていきます 人のを見るだけで 自分は食べなくなるからです」
「それと餓鬼自身 そういう体型をもっとも好みます」

 「太った人なんかは がつがつしてて なんか憑いてそうですがねぇ」
センセイは笑った

 「彼らも行儀が悪いですが 人の食べものに関心はありません 自分の目の前の食べ物を見るのに 忙しいですから 人のものを見ている余裕がありません」
 「それに太った人は食べることが大好きだ 見るより食べるほうに興味がある」

 なるほど いちいちもっともです

 確かにそうだ センセイの鋭い指摘に僕はうなりました 

 「講義はこれくらいにして 次は実地でやってみましょう」

 いよいよ講義から実地教習 仮免までいくのかな

 



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