フランシス・ピカビア
原題「トレロ」
実在のモデルがいるらしい。かっこのいいスタイルをしているが、これはほとんど何もない人間である。
人間としてのことはほとんど何もしていないので、何もないのだ。本来なら原野に生まれて、原始の段階の勉強をせねばならないのだが、それをいやがり、段階の高い社会に無理矢理生まれてきたのである。
しかし勉強の差は歴然としてあり、彼は生まれついた社会についていけない。その目は周りにいる人間を、激しい嫉妬で焼いている。
自分というものが、まわりにいる人間と徹底的に違うのが、つらいのだ。
闘牛士などという仕事をしているのも、原始段階の攻撃性をそれでなんとかしのいでいるからだろう。
破壊してやる、と目が言っている。このような段階の人間は、自分よりすぐれた人間たちのすむ国に生まれると、どうしようもない破壊欲に、目が眩むほど苦しむのだ。
そして実際に、何かを破壊して罪に落ち悲劇的に人生を終わる例も多いのである。