一日明けて台風10号はようやく九州を抜けましたが、それでもまだ山口県付近をノロノロと進んでいます。その台風に影響されてか、遠く離れているはずの神奈川県では昨日から猛烈な雨が降り、厚木市にも一時避難指示の出された地区がありました。
こうなると、もう外になど出られるはずもありません。なにしろ、自宅前の道路が川と化していて、レインシューズレベルでは歩くことすらままならない状況なのが、家の中から見ていても分かるくらいなのです。
そんなわけで、今日も引きこもりコースまっしぐらの我が家で大人しく過ごしていました。そして我が家では
今日もハイドン先生の出番となりました(笑)。
昨日は暗めの曲を聴いたので、今日は明るくて穏やかな曲を聴くことにしました。それが《交響曲第22番 変ホ長調》です。
《交響曲第22番 変ホ長調 Hob. I:22》は、ハイドンが1764年に作曲した交響曲です。ハイドンの第21番から第24番までの4つの交響曲は、残された自筆楽譜から1764年に書かれた作品であることが知られていますが、この第22番は4曲の中でも楽章構成も使用楽器も最も特殊なものとして有名です。
この第22番は『哲学者』の愛称で知られていますが、この愛称はハイドンがつけたわけではなく、由来は不明です(第1楽章の深く思索するような曲想からそう呼ばれるようになったと言われています)。しかし、イタリアのモデナにあるエステンセ図書館が所蔵する1790年頃の筆写譜にこの名称を記したものが見られていることから、ハイドンの生前には既にこの愛称で呼ばれていたと考えられています。
この交響曲最大の特徴は、よく使われるオーボエではなく、かわりにコーラングレ(イングリッシュホルン)が使われていることです。
コーラングレは1720年頃に発明されたアルト〜テノール音域のオーボエで、18世紀後半のウィーンで何人かの作曲家によって使われるようになりました(ドヴォルザークの《交響曲第9番『新世界より』》の第2楽章のメロディで有名な楽器です)。
管弦楽にコーラングレを加えた現存最古の楽譜はイタリアの作曲家ニコロ・ヨンメッリによるもので、歌劇《エツィオ》を1749年にウィーンで公演する際にコーラングレを加えています。また、クリストフ・ヴィリバルト・グルックの歌劇《オルフェオとエウリディーチェ》のウィーン版(1762年)で使用されたほか、ハイドンの実弟のミヒャエル・ハイドンも自作でコーラングレを使用していました。
そしてハイドン自身もコーラングレを使った初期の作曲家のひとりで、交響曲での使用はこの第22番のみですが、他にも1760年代のディヴェルティメントや1767年の《スターバト・マーテル》、オラトリオ《トビアの帰還》、《大オルガン・ミサ》などにコーラングレを使用しています。なお、通常ではオーボエ2本とコーラングレ1本という組み合わせで用いられますが、ハイドンの作品ではコーラングレが2本組み合わせて使用されました。
《交響曲第22番 変ホ長調》はアダージョで始まる緩-急-緩-急の教会ソナタ風の構成されています。そしてこれも珍しいのですが、全ての楽章が変ホ長調で書かれていて、別な調に変化する楽章はありません。
第1楽章はアダージョ.4分の4拍子のソナタ形式。
『哲学者』の愛称の由来ともいわれる楽章で、弱音器をつけた弦楽器のユニゾンで足取りを刻むような伴奏の上に、ホルンとコーラングレが交互に息の長い瞑想的な旋律を歌い上げます。展開部は弦によって対位法的に展開されながら、管楽器が主題の断片を様々な調で表出していきます。
第2楽章はプレスト、4分の4拍子のソナタ形式。
第1楽章とは対照的に弦によるせわしない音型で進行していき、管楽器がそれに合いの手を入れていきます。
第3楽章はメヌエット - トリオ、4分の3拍子。メヌエット主部は
弦楽器を主体としたごく単純な音楽です。中間部であるトリオは
管楽器が旋律を演奏し、ホルンとコーラングレを重ねた独特の音色が魅力的です。
第4楽章はフィナーレ:プレスト、8分の6拍子のソナタ形式。
狩りを思わせる快活な楽章で、中音域に集中した和音の響きに特徴があります。ハイドンの交響曲の終楽章は『追い出しの音楽』といわれることがありますが、聴衆がスカッとした気分で会場を後にできるような爽快さを秘めています。
この交響曲は、高音域のオーボエではなく中音域のコーラングレが用いられていることや、ヴァイオリンが全体的にあまり高音域にならないことによって、響きが非常に落ち着いています。頭に響くキンキンした高音をあまり聴きたくない時には、この交響曲はうってつけです。
そんなわけで、今日はハイドンの《交響曲第22番 変ホ長調》をお聴きいただきたいと思います。『哲学者』の愛称に相応しい落ち着いた響きのハイドンを、じっくりとお楽しみください。