共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

トマゾ・アントニオ・ヴィターリのシャコンヌ

2014年04月14日 17時18分10秒 | 音楽
昨日、久しぶりにCDを買いました。タワーレコードでポイントカードを見てみたら、以前CDを買ったのが去年の秋だったので、半年以上CDというものを買っていなかったようです…。

ヴァイオリンを弾く人であれば、恐らく中上級クラスになるとほぼ全員が取り組む曲の中に《ヴィターリのシャコンヌ》というものがあります。これは17世紀後半にボローニャで生まれたトマゾ・アントニオ・ヴィターリ(1663~1745)という作曲家兼ヴァイオリニストが作ったものとして伝えられてきました。しかし、実際に楽譜を買ってきて弾いてみるとわかるのですが、まだバロックヴァイオリンという旧タイプの楽器が主流だった時代の作品にしては、やたらゴテゴテしていて小難しいのです。

それもそのはず、実は現在《ヴィターリのシャコンヌ》という名前で出回っている楽譜は、かの有名なメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を献呈された19世紀のヴァイオリニストのフェルディナンド・ダーヴィッド(1810~1873)によって、より自分にとってカッコよく聞き映えのするように改竄されたものなのです。

17~18世紀にかけて作曲されたバロック時代のヴァイオリン音楽というものは、特に19世紀に入ってから、名手達がそれぞれに己の腕前をより効果的に披露すべく、至る所に自分なりの勝手な手心を加えられてしまうという悲劇に見舞われることが少なくありませんでした。この作品も、その一つといっていいと思います。

細かい話はさておき、学生時代にバロック時代の作品を中心に勉強してきた身として、実は私はこの曲があまり好きではありませんでした。勿論、ともすればバッハやベートーヴェンといった名だたる巨匠の陰でこの作品が消えていってしまったかも知れない中で、ダーヴィッドが改竄したことによって図らずも人々から忘れ去られずに今日まで生き延びることが出来たというメリットもあると思います。しかし私はこの曲を聞く度に、何だか『本来はこんな曲のはずがない』という思いが頭の隅にずっと引っ掛かったまま、モヤモヤしっぱなしだったのです。

ところが昨日、こんなCDを見つけました。通常の《ヴィターリのシャコンヌ》はグランドピアノの伴奏をバックにモリモリとヴィブラートをかけたヴァイオリンが弾きまくっているものばかりなのですが、このCDでは全員が古楽器を使用してていて、楽譜も南ドイツのドレスデン・ザクセン州立図書館に収蔵されている《トマゾ・ヴィタリーノの変奏曲》という古い手書きのオリジナル楽譜を使って、バロックヴァイオリン独奏とオルガン伴奏で演奏しています(因みに、先程登場したフェルディナンド・ダーヴィッドは、この楽譜を基に改訂版を作ったと言われています)。

これを聞いて思ったのは『こんな曲だったらいいな』ということでした。はっきり言って、現在流布している楽譜のバージョンは本当に好きになれないのですが、これなら『弾いてみたい』と思えたのです。

それに、このCDを聞いて、改めてこの曲の面白さを再認識することができました。本来シャコンヌという作品は《ラ・フォリア》と同じく、一定の音型を繰り返す執拗低音というベースラインに乗せて高音部が変奏を展開していくので、殆ど転調をしません。しかしこのシャコンヌは、基本的にはト短調というマイナーコードで進んでいくのですが、それだけでじっとしていないで途中でいろんな調に転調していきます。それこそ、ひとつの音を軸足にして「そっちに行くんか~い?!」と言いたくなるようなちょっとブッ飛んだ方向へ転調してくれますが、例えばヴィヴァルディも、有名な《四季》の《秋》の第2楽章で「オイ~…!」という転調をしているので、そういった意味ではあながち無いことではないのだろうと思います。こんなにも自由度の高い先人の作品を見て、もしかしたらダーヴィッドもテンションが上がってしまったのかも知れません。

果たしてこのオリジナルバージョンの楽譜というものが世に出回っているのかどうか定かではありませんが、発表会が終わったらあちこち探してみようと思います。

このCDにはトマゾ・アントニオ・ヴィターリの他にも、彼の父親であるジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィターリの作品も収録されています。日本語の解説も入っていますので、興味のある方は聞いてみて下さい。


《『ヴィターリのシャコンヌ』を、作曲したのは…?》

アンサンブル・クレマチス(古楽器使用)
Ricercar(リチェルカール)レーベル  MRIC326



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