
いよいよ、明日は骨折した左手小指の手術の日です。一日ですが入院もするためいろいろと準備も必要なのですが、何をしていても落ち着きません。
今思うことは、すべて『たられば』ばかりです。
あの時、手をつかずに肩から落ちていれば…
あの時、背中から落ちていれば…
そもそも、あそこでセミさえ飛んでこなければ…
そんな、どうにもならないことしか頭の中をループしません。
ある人からは
「ヘッツェルみたいにならなくてよかったじゃないか。」
とも言われました。

ゲルハルト・ヘッツェル(1940〜1992)とは、長年ウィーンフィルハーモニ管弦楽団の第1コンサートマスターを務めた伝説のヴァイオリニストです。
ヘッツェルは1992年、ザルツブルク近郊のザンクト・ギルゲンで登山中に海抜900m地点から転落し、全身打撲のため搬送先の病院で死去しました。岩に手をかければ助からないこともなかったといいますが、楽器奏者として大切な手をかばった結果、死に至る傷を負ってしまったと伝えられています。
精一杯の慰めとしての言葉なのでしょうが、そんな偉大な奏者と我が身を比べるなど恐れ多いにもほどがありますし、私の骨折の原因がセミに驚いて転倒ですからお話にもなりません。それでも、今はもう『まな板の上の鯉』よろしく、整形外科医に全てを託すしかありません。
今日も心を落ち着かせるためにバッハを聴いて過ごしていましたが、その中で響いたのが《管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068》の第2曲『アリア』です。俗に『G線上のアリア』と呼ばれている曲ですが、正式には組曲の第2番目の曲です。
トランペットやティンパニも入る華やかな音楽の中で、このアリアは弦楽合奏のみで構成されています。どの楽器もとりたてて難しいポジションは使われていないのですが、それらが組み合わされた時に、まるで天国の扉が開くかのような感動的な音楽が展開していきます。
こんな音楽を生み出し得たバッハは、やはり天才です。決して大袈裟ではなく、人類がこの世にある限り、永遠に伝えられるべき名曲です。
そんなわけで、今日はバッハの《管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068》から第2曲『アリア』をお聴きいただきたいと思います。壮年期のバッハが書いた、この上なく美しい音楽をご堪能ください。