共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

ブリューゲル《バベルの塔》展

2017年06月23日 23時40分56秒 | アート
今日は教室の定休日でした。なので、この機会に是非とも観ておきたい展覧会を観に、上野の東京都美術館に出かけました。

今、ここで《バベルの塔》展が開催されています。今日は平日ということもあってか、比較的並ばずに会場内に入ることが出来ました。

中世オランダ絵画史上に燦然と君臨するピーテル・ブリューゲルとヤン・ブリューゲル親子ですが、今回は一族の先駆けとなったピーテル・ブリューゲル一世が手掛け、現在ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館に所蔵されている名画《バベルの塔》を中心としたオランダ絵画黎明期の作品が多数展示されています。

今回の展覧会の目玉である《バベルの塔》は、旧約聖書の物語の中でも山場のひとつとして登場するものです。

かつて人々が共通の言語を話していた頃、人々は広い平地の上に焼き固めた煉瓦を積んで、天にも届かんばかりの巨大な塔を建てようと計画した。それを知った神は怒り、降りてきて彼等の言葉を様々に乱してしまう。結果、意思疏通出来なくなってしまった人々は大混乱となり、塔の建設計画は断念され、言語の通じ合う者同士が各地に散り散りになって行った。それから、世界には多様な人種と言語が発生して今日に至っている…というものです。

ブリューゲルは今回来日したボイマンス美術館所蔵品の他に、同じ主題の作品をもう1つ描いています。それがウィーン美術史美術館に所蔵されている《バベルの塔》です。実は西洋美術史上有名なのはウィーンのものなので、今回は今一つ地味に受け取られてしまったのでしょうか、本当に勿体ないくらいに人がいません。まぁ、その分ゆっくりと堪能できました。

今回の副題が『ボスを越えて』とありました。このボスというのはブリューゲルの先駆者として活躍し、現在プラド美術館に所蔵されている《快楽の園》という問題作を製作した異形の画家ヒエロニムス・ボスのことなのですが、この展覧会に世界で25点しか確認されていないボスの真作が



何と2点も出品されていたのです。写真右は《行商人(放浪者)》、左は《聖クリストフォルス》で、共に50㎝四方ほどの絵なのですが、その中に様々な謎のアイテムが散らされていたり、河鍋暁斎ばりの異形が飛び交っていたりするという問題作です。思いがけず私の大好きな画家の作品が2点もあって、妙にテンションが上がりました。

肝心の《バベルの塔》ですが、薄暗い部屋の中央にドンと鎮座坐していました。そう大きくもない画面いっぱいに描かれたバベルの塔には、3㎜ほどの人間たちが総勢1400人も描き込まれているという、ある種の変態性すら感じてしまう名画です。ただ、そこは日本の美術館の下衆なところで、近くで観たい人の列は常に係員が

「恐れ入ります。立ち止まらずに御鑑賞下さいませ。」

と言いながら強制的に列を流されてしまうので、そんなブリューゲルの変態性を直接確認することなど不可能です。

ところが今回の展覧会では、何と別枠に芸大生が製作した300%拡大図が展示されていて、そちらで細かな人々の動きや唐浜中での営みを鑑賞することが出来るようになっていました。これはこれでなかなか面白く、長々と鑑賞させて頂きましたが、見れば見るほどこれを1から完成させたブリューゲルの変態性を思わずにはいられません。

因みに、描かれた人物の平均身長を170㎝とすると、このバベルの塔の高さは約510mということになるのだそうです。それを具現化するように会場には



バベルの塔の高さを示したパネルが用意され、気軽に写真撮影出来るようになっていました。比較対照が通天閣と東京タワーなのは、バベルの塔を追い越してしまってはどうにもならないという都美術館側の配慮でしょうが、そうだとすると神様は今、東京スカイツリーというバベルの塔をはるかに追い越す建造物(634m)を御覧になって、一体どんな心持ちになっておられるのでしょうか…。

この展覧会は来月2日まで、東京都美術館で開催されています。ブリューゲルも勿論ですが、ヒエロニムス・ボスの真作も観ることが出来る貴重な機会ですので、是非お出掛けになってみて下さい。
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