【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

忘れ物な世渡り。(イケナイアルバイト)

2008年08月20日 17時37分59秒 | イケナイアルバイト (仮題) 
 
T3年生イケナイアルバイト。 (3)



(違う意味での邂逅。)



「ホレ、なっ判るかぁ 」

っと、問うても顔を此方に向けず、黙ったままで丼から食い物を箸で摘み上げていた。
だから、自分の左手の甲を目の前に突きつけてやった。

「なんですかぁ、此れぇ?」
「火傷の痕やがな 」

アイツの箸の動きが止まり、ワイが手を引っこめると、視ていた手の甲に釣られ顔をあげた。
古傷の火傷痕は、今ッデは時が経っていたので、表面はツルンっとした白ッポイ丸さで、左手の甲に残っていた。
パット見には、一円アルミ硬貨くらいの白い斑点みたいだった。
其れは、酒を飲んだり何かに興奮して躯温が上がると最初は薄らとした赤みが差しだし、暫くすると真っ赤になった。

「ヤケドって、こんな風な白いんかなぁ?」
「イッパイあるやろ 」
「ぅん、小さいのがイッパイぃ、どないしはったんですかぁ?」
「若い頃にな、悪タレもんらに舐められへんようにやったんやで 」
「ナメラレへんよぉってぇ、意味が判らへんわぁ 」

「根性焼きやぁ 」
「ふぅ・・・・・・ン、熱そぉやねぇ 」
「ぅん、熱いがな。 そやけどな、熱いけどせなアカンかったんやで。」
「なんでぇ?」
「こんなショウモナイもん見せて、なんもアンタニ自慢してるんとチャゥさかいにな。」
「ぅん、わかっとぉ 」
「ただな、コンナンするんも自分の表現の仕方やった想うねん。」
「ヒョウゲンぅ?」
「やった時の若いころは、なんも考えんかったけどな。」

「今やから想うんやけど、誰かに自分を認めて欲しかったんやろな。」

「アンタの手首かて、そないに切りまくるんも此れとおんなじやろ。 違うか。」

「ァホっ、酌なんかせんでえぇがな 」

子供が徳利の首ぉ摘まんで、ワイの目の前のコップに注ごうとしていたのを、
白布(シロキレ)巻き付けた細い手首を掴んで止めた。
咄嗟なことだったので、想わずな強く握りをしてしまった。

「ハイッ 」 脅え声で   

「ぁっスマンスマン、おっきい声だしたな、ごめんやで 」
「ハイ 」
「あんな、店出たらな、ぅんでえぇねん 」
「ハイ 」
「・・・・・・なっ、ぅんでえぇ、ゆわんかったか、なッ 」
「そやかて、マスタァは大人やし、ハイでいぃんと違いますぅ 」

「・・・・・好きにしたらえぇわ 」


場所は、自分が店が終わってから、いつも帰りに寄っていた、飯屋 
(ット言うか田舎作りな衣酒屋風ヤッタ)。
ナニかコイツにえぇもん食わせたろぉ想っていたけど今みたいに、
深夜営業しているファミレスがあるような時代じゃぁなかった。

夜更けて開いてる店といえば、深夜営業の大人相手の呑み屋か如何わしい風俗店ぐらいでした。
幾ら今夜が土曜の晩でも、小娘連れて入れる店も限りがあるもんやから、
自分が普段から馴染みにしている、知り合いが遣ってる店に。

「えぇか中に入ったらな、ワシのことぉ、オトォさんって呼ぶんやで、判ったな 」
「ぇえ~!ッそんなん嫌やわぁ 」
「ぁほぉ、コナイナ夜中にお前を連れて中に入ったらな、ワシがなんぞ悪さを仕組んでる想われるがな 」
「ホナ帰る 」
「店のタイショウは知り合いやけど、客の中にはナンでも詮索したがるもんも居るがな。そやから便宜上や 」
「ウチ帰るわぁ 」

「判った。イネや。もぉうえぇ 」

「ぁッ、怒りはったんですかぁ?」

聴こえたのは少し慌て気味な声だったのを無視し、表の暖簾を掻き分け引き戸を開けた。
背中で引き戸を閉じてたら、チョットヤケクソ気味なんが聴こえた。

「なにするんよぉ、おとぉさんぅ締め出さんといてぇ!」


自分、心でほくそ笑みしましたがな。
幼気ない小娘を、上手に手玉に取って操縦するんも、ホンマニ疲れるわぁ!

 ヤッタ。





「ぉッ!あんたハンもとぉとぅ、幼女趣味に走ったんかぁ 」

っと、白木のカウンターに座る間もなく飯屋のタイショウが言ってきた。

「ハイハイ、走りますがなどこまでもなぁ 」

自分、隣の席にアイツがよじ登るようにしながら座るのに、椅子が安定するように押さえていた。

「幼女ッテ、ウチのことやろかぁ?」 娘ッコ。

「子供は他におるんかッ! 」 傍らの見知った客。 此の店ウチ(内)だけ限定の呑み仲間。

「ぇらい見んうちに大きゅうなったなぁ 」

っと、シミジミとアイツを眺め、ナニやらな感慨を込めて言いながら、奥から出てきたのは此の店の大女将。

手には店の屋号が手書きの墨文字で、殴り書きしたような大きな湯呑を載せた茶色い手盆。
大女将の小皺が刻まれた手、年を重ねても元は白魚みたいな、綺麗な肌だったのが分かる細い指だった。

盆の縁のニスが所々剥げ落ちていた。

「ェッ、ウチとおぉたこと(会ったこと)ありますのぉ?」
「ぁれ、覚えとらんの?バァバぉ 」
「ぉかぁはん違いますねん、コイツは〇〇と。」

「ホッ、そぉなんか?」

ッデ、タイショウが肴の小鉢をワイの目の前に置きながら、助け船を出した。

「観れば判らんかぁ おかぁさん、ちょっとオボコすぎるんチャウかぁ、まぁコレやろぉけどな 」 小指を立ててた。

「ぁほぉ、ゆわんとき、ァテはそないにボケておらんわ 」

おかぁハンを宥めようと喋りかけたら、肘を突かれた。

「○○って、誰なん?」
「ぇッ!ソッそんなん、知らんでもえぇ 」

「・・・・・・ぅん 」

「好きなんゆうてナンぼでも食うたらえぇさかいな、遠慮したらアカンで 」
「ぅん 」


自分、泣きそうやった。



忘れもんが多かった自分の人生、少し呪かけた。





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