【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

ブラウスマフラー 

2006年09月28日 22時26分38秒 | 夜の時代 【深夜倶楽部】 
  


 【暗闇回想世界】


「久保君、此れぇ首に巻いときぃ 」

差し出されたのは、清美がさっきまで纏っていたブラウスでした。

「ぇ、なんで? 」
「夜に、そんな革ジャンだけやったら首が寒いことないんかなぁ 」
「ぇ、ハァ そぉですかぁ ・・・・」
「遠慮したらぁ アカンよぉ 」
「ホンナラ お借りします 」

着ていた黒色革ジャン脱いで ブラウス絞るようにして首に巻きました
それから改めて革ジャン着て、前身ごろのジッパー引き上げるとき
窮屈さで胸の息ぃ全部吐き出しました。
 ケッコウナ締め付け感覚がぁ! 
だけど再び脱ぎたいとは 思いませんでした。
女の匂いが 首の辺りからしてましたからね !

忘れた心算の懐かしさの匂いが、胸にこみ上げてましたぁ!


ボン、キチガイマッハのアクセル 手首イッパイまで回し切っていました
清美、振り落とされまいとボンの背中に 必死で抱きついています。
ボン背中で、女の温もりを憶えたのは 随分前のぉ・・・っと


無理にと忘れ 心の奥で眠っていた懐かしさが、
2サイクル3気筒発動機の黒色艶消し塗装が施された 
胃袋みたいな三本のカスタムマフラーから
強烈な甲高い音と共に吐き出される排気音で脳裏が覚醒され、
目覚めて来始めました。


二人の乗る単車が、夜を切り裂き 奔り去った痕には
青い排気瓦斯 星明りを映し旋風のように路上に舞っていました。


深夜の市街地、喧騒な昼間の顔を暗闇に潜めさせます。
時折、遠くのビルとビルの谷間を過ぎゆくパトカーの
赤色回転灯の瞬く明かりが望め、暗闇から夜の顔を覗かせられるのは、
突っ走る二人乗り単車の、流れる様なヘッドライト上目の明かり。 

ライトに照らされ闇に浮き上がるは
見えないものを追いかける 

 暗闇回想世界


暗闇に流れるライトに照らされる狭い範囲で 
暗い闇夜から浮き上がっていた





夏の太陽 木陰で微睡みたいほどでした。 

気がついたとき ボン
おかしな感じで舗道の縁石に 後ろ首を押し付け顎を胸に
右腕は 躯の下になって感覚が無かった
右脚、気がつかされた痛みが 太腿の付け根から次第に腰全体に
背骨と胸 なんとか騙して 大丈夫なようなぁ・・・
右鎖骨は 鎖骨骨折の覚えある痛みぃ

 自分でも知らないで 呻いていました

頭の中 真っ赤な絶望感覚 広がり始めてます

・・・ぁぁ あいつぅ・・・大丈夫ぅ・・・・!

太陽の光を透かして視える、真っ赤な血色目蓋を開けると 
視野にぃ世界が横向きでぇ・・・目イッパイに縦に道路が!
路の向こう端で 陽炎が地面からぁ ゆらゆらぁ・・・ 
顔の左半面 夏の陽が熱く焼き付けるように照らしてぇ・・・
右半身 夏の日差しで焼けたアスファルトの表面でぇ・・・!

ボンの彼女 道路の向こうで、ズタ袋のように力なく転がっていました
さっきまで被っていたヘルメット 何処かに
長い黒髪 アスファルトに広がり 生暖かな風で毛先がぁ・・・

無理に顎を上げ捜すと、随分な距離を飛んでいったホンダのCB
完全スクラップ状態で 道路の向こうでぇ・・・!
事故った衝撃で潰れたタンク そこから漏れ出たハイオクガソリン
流れ広がっていました。 ゆっくりと道路の熱で揮発する陽炎がぁ! 

蒸し暑い空気に燃料の刺激臭漂い 遠くの此処まで 


残骸CB 小さな爆発音して道路と共に燃え上がりました
焔が、流れた燃料を追って奔ります
太く濃密に揚がる黒煙柱 太陽に陰を差しました

ボン、痛みとは違う涙がぁ 自然にぃ

彼女を再び視ると 涙で滲んで視えるのとは違った
夏の午後の日差しの逃げ水現象で、骸姿が揺らいでました



「久保くん! 飛ばすんやねえっ! 」 清美が大声で耳元!

ボン、無意識にアクセルを捻る手首の力を緩めます
急なエンジンブレーキ! 前にと身体が! 
腕を突っ張り 上半身起こして堪えます
清美の重さが 背中にぃ!


もっと、もっと! 心で何回も念じたそうです ボン。

「姐サン 落ちんようしてんかぁ! 」 肩越しに夜に響きそうな声で!

もっと、もっと早くにぃ! ナンで想い出弔いしてやらんかったんやぁ~!
自分、アホちゃうんかぁ!

 もっと、もっとぉ・・・!


アクセル全開しましたそうな



随分後でね 清美が言いよりました。 

「ちぃふぅ久保君ぅ あんときなぁ啼いとったみたいやったぁ 」
「なんでや・・・? 」
「ぅぅん わからんよぉ けど、肩越しに見たらぁ
    目尻からなぁ 耳までなぁ 濡れてたんよぉ・・・・ 」

「そぉかぁ ボンなぁ・・・ 」


閉店後の店で有志だけの、
「今日も一日ご苦労さん打ち上げ酒盛りぃ」
ヨッパラッテ酔い潰れて 店のダンスフロアー
其処の奥のボックス席の絨毯に だらしなく寝転んだ姿の若ボン
誰かが、コートを掛けて遣っていました


「ちぃふぅ 起こさんでいぃのぉ 」
「えぇで、暖房切らんといてやるさかいになぁ 」


店内全部の 照明スイッチ落とすと
真っ暗闇にぃなりました。





   


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