【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

【地獄耳】

2008年12月12日 14時09分14秒 | 店の妓 ツネ嬢
 (画像はイメージ 無関係) 



戯言語り (タワゴトカタリ)



「ちぃふ、飲ませたり 」


今夜の売り上げ伝票を集計していたママぁの声が聞こえてきた。
厨房横、事務所兼着替え室(ロッカー部屋)、営業時間外にはいつも開けっぱなしの入り口扉の向こうから。

「ママァ、おぉきにぃ!」

「ツネちゃん、逝く(死ぬ)までキッチリ呑むんやでぇ 」

自分この時、コナイナヤツにぃ甘いんや、ボケっ! っと、心の中で微か呟きやった。

「ァンタが、隙だらけなんやちぃふ 」


地獄耳め。 クソババァ~! って心でやで。
声に出して呟きもせず、ナニも喋ってもいないかったから、絶対聴こえる筈もなかった。
ワイ、ナンも言わんと流しに山積みの汚れたグラスやオードブルの皿ぁ、洗いはじめました。

全部の食器を洗い終え、ギョウサンの生ゴミ詰め込んだ業務用ナイロン、
公園横の集積場まで持っていき、ヤットあと片づけが終わった。
一息ついて煙草を銜えながらツネの隣に座るまで、ママぁもツネも自分も、何も喋らんかった。
けどぅ、ナンかを想い煩いながらの重たい時間だけが、
如何にもならずに過ぎて逝ってたような気がしていました。


「ちぃふぅ、ウチが作ったるよぉぅ 」

店の燐寸擦って、ワイが銜えた煙草に火を点けながらやった。
ツネ。片手だけで、左掌の燐寸の箱から、指を巧みに動かしてマッチの軸を取り出し、火を点すのが巧かった。

「ぅん。ぉおきにな 」


天井めがけて吹き出した紫煙。円錐形のライトの明かりの中を登って行ってた。

「お疲れさんやわぁ、濃いぃんがエェのぉ?」

「並みや 」

ヨッパライが目を眇めながら息を詰め、真面目腐った顔しながらダルマの蓋を回します。
グラスの淵から溢しもしないで、上手にカチ割り(コオリ)入れたハチオンスグラスに○徳ブレンド酒を、
キッチリスリーフインガー注ぎ、欧州銘柄のミネラル申し訳程度に垂らした。
バースプーン手渡すと、中指と人差し指の間に挟みグラスの琥珀を優しく攪拌してた。

チリチリリリリ・・・・・ッテ、薄造りのクリスタル硝子が鈴の音発てた。

冷やっこい氷が唇に、前歯の歯茎に当たるのもかまわず、酒を流し込んでグラスを置いた。
立ち上がったツネ、躯をワイの太腿に押しつけるようにしながら、左手をワイの肩に置き、
右片手だけで掴んだダルマを、ワイのハチオンスに傾けてきた。

溶けかけたカチ割りの頭が、グラスの淵と同じまで浮かぶと、ダルマをワイの目の前に静かに置きよりました。
ツネ、ワイの太腿を躯で押すようにしてミネラルも足さず、攪拌もしないで席に戻りました。


「ワイぉ酔わしてドナイする心算や?」

「〇〇チャン、酔わへんわ 」

ワイが駆け出しのころに呼ばれていた実名呼びしました。
目の前の灰皿で半分になって燻ってた煙草、指で摘まんで銜えよった。

暫くは、静かな時間が流れていました。
奥からママぁが算盤弾く五月雨みたいな音と、
ナンぼやっても合わへんなぁ、っとか呟くのが聴こえてた。

ワイ、旧式エアコンのファンの音が耳にツキダシ、気分が苛々し始めてた。


「ちぃふぅ、アイツぅ戻ってくるやろかぁ?」

「知らん 」

「・・・・・なぁ、優しゅぅできませんのぉ 」

「なんでや?」


「シランッ!」



時間はトックに、ッテやねん。ダボ~!

戻らんもんは戻りよらんもんやねん。


ボケがっ!




   
【店の妓ツネ嬢】(3)

A woman of the alcoholism (アルチュウオンナ)

2008年12月12日 02時56分41秒 | 店の妓 ツネ嬢



【源氏名 常代(ツネヨ)】

重たい看板抱え暗いなか、階段踏み外さないように足元に気をつけ地下まで降りた。
店の入り口扉、後ろ向の背中で押し開け明かり落とした店の中に。
抱えていた看板を絨毯の上に落とすように置いた。
営業時間中小便を我慢していたので急いでトイレに駆け込んみ、長々と用をたした。
トイレから出ると、暗い店内のカウンター辺りで人の影が蠢いていたのでカウンター上の照明を点けた。
帰り支度をしない夜会服姿(ドレス)の店の妓(ホステス)、ツネ嬢が足元も覚束なげに少しヨロメキながら、
客のキープ預かりボトル専用棚から、艶消し緑色の洋酒瓶レミーマルタンの首掴んで取りだしていた。


「ぉいっ!勝手なマネさらすな!」

ボケがっ、っと心で毒づきました。
暗い中、よぉ棚からボトルを取り出しよったなぁっと、感心もいたしました。
時々、他の客のキープボトルの残量、客が飲みに来ないのにもかかわらず、
時々目減りしよるのはコイツのせいかもなぁ。 っとも。

「ちぃふぅ、このボトル○○さんのんやでぇ、ウチが何時でも飲んでえぇゆうてくれてたわぁ 」

ボトルの首に吊るした、細い銀の鎖に繋がった小さな真鍮製薄板の名札を見ながら言いよった。

「ぁほっ!客が酔ぉて言うたこと、イチイチ本気にする奴があるかぁ 」


渋々とな感じの不貞腐れ顔しながら、「ぁほおぅ ッテちぃふぅナニゆうてますの、今更なんとチャウのぉ 」

棚にボトルを戻しながらやった。語尾の最後に、微かに舌打ちの音が混じってた。


「ナンかぁ飲ませてぇなぁちぃふぅ?」

ッチ!今夜もアルチュウのお付き合いせな、アカンのんかいなぁ。
自分、心でね、半分諦め気分で毒づいてましたわ。

返事しないでフロァーよりか一段下がったカウンターの中に戻り、バッグ棚の下、引き戸式の戸棚を開けた。
直ぐにホワイトホースのデッカイガロン)瓶を両手で担いで取り出した。

店の客で、ボトルキープしていながら半年以上も飲みに来ない不良客゜預かりの色々な銘柄ボトル。
其の期限切れとなったボトルを処分した折、中身の酒を集め此のガロンサイズのホワイトホースの大瓶に移していた。

ガロン瓶をスノコ床の上に置き、厨房に入り漏斗とダルマ(サントリー)の空瓶、二つ持ってきてカウンターの上に並べた。
両腕でガロン瓶を抱えあげ、カウンターの外に出た。


「手伝えや 」

ツネ嬢の顔、視ないで命じると背中丸め、ガロン瓶の首を掴んで小脇に抱えたワイの背中に密着してきた。
躯を無理にとクッ付け、酒の匂いのする温かい息、ワイの項にワザと吐きかけながら瓶の底を右手で支える。

「ユックリとやぞ 」

「判っとぉ 」

言いながら、左手をワイの腹前に這わせてきた。

「イランことしたら飲ませへんでっ!」

這わすのをやめ、大人しく掌を、ワイの臍の上辺りで停める。
ツネの掌の温もりは感じられなくて、腹に冷たかった。


大きなガロン瓶の口から、空瓶のダルマ(サントリーオールド)に差し込んだ漏斗にと、静かに琥珀が細くと注がれる。


「ヨッシャ、巧いこといったがな 」

「ふたりの初めての共同ぅ作業ぉぅ、ケーキ入刀やわぁ!」

嬉しそぉに拍手しよりましたわ、アルチュウ。


カウンターの中に戻り、クローム鍍金のアイスペールにカチ割り氷、山盛詰め込んだ。
ジュラルミンの天板に荒っぽい仕草で置いてやった。


「ホレッ!ヨッパライ。ウットコの〇特ブレントや、上手に呑まんかいっ!」

「ちぃふぅ、モット優しゅ喋れませんのぉ 」

「どなたサンにぃかいな?」

「ぅちぃ 」

「ダボぉ!おんどれナニ様のつもりやねん」

「つきおうてなぁ 」

「そないな暇ぁないわ 」

「バイトや想うてたら、えぇやないのぉ。どぉせも少ししたら朝市ぃ(公設市場での頼まれバイト)に行きますんやろぉ 」


「ホナ日当かぁ、時間給ぅかいな?」

「ナァ、夜明けの日払いでえぇかぁ?」

上目使いで見てくる酒精に浸かりすぎたコイツの眼ん球、真っ赤に充血し酷く不気味な感じでお座りしてました。
口紅はトックに落ち、代わりに酒で舐め過ぎた為に腫れボッタイ、視ようによってはエロスな濡れ光りのプックリ唇。

「おまハンの躯で、チュウなら要らんで 」

ツネの眼ぇ外さずに見据えて言いました。ツネぇ、眼ぇ逸らしよりました。

「ドナイもならんもん、グダグダナンボ考えたかてしょうもないがなっ!」 ッテ畳掛けてやった。


不貞腐れた横顔やった。顎の付け根の筋肉は噛みしめ固まっていた。
黙って見続けたら、悔しそうに下唇噛んどった。

ッチッ!アホゥが! 

コイツ、ポロリってなぁ感じで目尻から涙ぁ、出しよりました。

「ボケっ!泣くんやったら邪魔やさかい、ハヨいにさらさんかい(帰らんかい)!ダボがっ!」


「・・・・・泣かへんさかい、飲ませてぇなぁ 」 

横向いたままの、聞き取りにくい呟き喋りやった。





【店の妓ツネ嬢】(2)