【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

【 玄人 素人 】

2007年12月18日 13時53分27秒 | トカレフ 2 
   



晩飯には少し早かったけど、ママぁが近くの大衆中華の店から、出前をとってくれた。
自分、番外地で饂飩を喰っていたけど、口直しがしたかったので、アリガタク奢って頂いた。

仕込が粗方終わった厨房、大きな俎板を前に、ママぁは丸椅子に座り、
自分はビールケースを裏返しにして、二段重ねで座った。

調理台の上には、今夜、店で出す料理と、まだ調理してない他の材料が載っていた。
それらを掻き分けるようにして隙間をつくり、ふたり肩を並べて喰った。
マルデ何処か場末の店で、意地汚く喰ってるような気がした。

手の空いた若いボンさん(スタッフ)たち、指示しなくても勝手に薄暗いフロアーで、
テーブるのセッティングや、ピアノの横のスタンドマイクの音量調整などして、開店の準備をしている。
酒屋の若い衆が数人、頼んでた酒類を配達に着たり、珍味屋が注文の品を届けにきてた。
契約してる花屋の若い女の人が活花を換えにきて、ボンさんらと話す声が時折聴こえる。


麺を啜る間、覆面パト後部座席の、松屋の大将を思いだし厭な気分になってた。
パトのドアガラス越しに此方を見ていた、松屋のタイショウの爬虫類の瞬かない眼。
凄い嫌悪感を伴った厭らしさ丸出しの眼ぉ、想いだすと如何にもぉぅ・・・・


「松屋の大将、縄澤に怒鳴られてたでッ 」

「何処で?」

「駅前 」

「なんやの?」

「覆面パトに乗せられてたわ 」

「なんしたん?」

「知らん、駅前のロータリーの舗道でな 」


ママぁ、ご出勤時間はいつも、モット晩い時間やった。
今日は昼の用事が早く終わったので、早めに店に着たと言う。

そぉかなぁ、っと自分。 想いました。


「ママ、人に遭へゆわれたわ 」

「誰?」

「ワイやがな 」

「チャウ、誰がゆうねん 」

「ガイチ(番外地)のバァさん 」

「ぇッ姐さんッ?がッかぁ・・・・何方はんにぃやねん?」

「知らん 」


ふたりが麺ぉ啜る音、なんかぁモノ静かな感じの音、してました。
サッキから、一定間隔で水が滴り落ちる音、気になっていた。
流しの蛇口の栓、パッキンがチビて閉まりきらず、ユックリと水滴が垂れ下がり、落ちる。

厨房内、静かなので、古い業務用冷凍冷蔵庫の、温度調節のスイッチが音立てゝ入っては切れ、
その度に壊れかけのコンプレッサー、モーターの音、重々しく唸って煩く響いてた。
その音、静かな部屋では大げさなくらいで、ケッコウ聴こえている。


「冷蔵庫、ソロソロめげる(壊れる)んとチャウんかぁ?」

「せぇやな(ソゥヤナァ)」

「ママ、今度は中古やのうて、サラ(新品)にせなアカンで 」

「せやな 」

「今年で何年モッタんやったかな 」

「真二が居らんように為る前やから、八・九年くらいとチャウかぁ?」

「もぅ、そないに為りますんかぁ 」

「時間なんか、ぁッ!チュウ間ぁやなぁ、ウチも歳ぃいくわぁ! 」

「九年も、モテばえぇやんか、ママ 」

「よぉけ儲ぅけもせぇへんかったけど、食うに困らんかったさかいな 」

「・・・・ママ、店の話やないがな 」


「・・・・判ってる 」


ふたりとも、箸を止めていたので、麺、のびてしまってた。自分、汁だけ啜りました。
ママぁ、流しに汁だけ捨て、業務用ゴミ箱の黒色ナイロンの袋に、丼を傾け麺を捨てゝいました。

「ママ、ワイが誰に遭うんか知ってるのとチャウん?」

ママ、聴こえない振りしてました。
背中を丸め丼を、ザットッ蛇口の水の勢いで洗いだします。


「ぁんたのん、貸しんか 」

「えぇがな、自分で洗うさかいに 」


ママの背中、何を背負ってますんやろなぁ、っと想いながら後姿を眺めていました。


「ァテの背中ぁ、ケッコウ色っぽいやろ、なッ!」


頭の後ろにぃ眼ぇ、在りますねん。 このお方ぁ!


「ママぁ、何方ハンがそないにぃ、オッシャイマスんやろ?」

「真二ぃ、言いよったわ 」

「(ッチ!)古い話しぃやな }

「そやな、もぅ古い話しぃやな 」


ママ、煙草を取り出し、業務用ガスコンロの点火用ライターで火を点け、ユックリト一服吸いました。
細い顎を上向け、唇を窄め、煙を細く噴き上げます。

有線のスイッチ、誰かゞ入れたのか、開けっ放しの扉から演歌が流れたきた。
厨房には、スピーカーはなかったけど、カナリ聴こえてる。

ふたりとも、互いにぃなんとなく黙ったままが益々やった。
言葉が、会話に為り難い雰囲気が、狭い厨房内に充満していました。
煙草の煙、部屋の中に濃いく漂いだしたので、換気扇の電源を入れました。
ファンが勢い良く廻ると、煙は四口のガスコンロの上、天井からの換気扇フードの傘の中に、
何かに導かれたように漂い、吸い込まれる。

壊れかけの冷蔵庫の、唸る音。

換気扇が空気を風として、勢い良くカキ廻す音。

開け放たれた扉の外からの、ド演歌。

大きな音は、水の滴るような小さな音。簡単に消して隠します。
ワイの身の周り、何かの大きな出来事で、何かゞ隠れているのかもッなぁっと。


ママぁ、半分までになった煙草を前歯で噛んで、両手で丼を重ねて持ち、厨房から出て行った。
自分、後姿に舌打ちしたかったけど、地獄耳のママぁに聴こえるかも。ッと我慢しました。


営業用の倶楽部衣装に着替え、眉毛もない能面顔に、綺麗に化粧を施したたママ、
指に細長い洋モク挟んで、再び厨房に入ってきて言います。

「ぁんたぁ、火ぃや 」

ワイ、業務用点火ライターぉ、突き出すようにしてやりました。

「ホィ、コッチ 」

華奢な首を少しぃ傾け、火ぃに煙草を近づけた。
長い付け睫毛の先、橙色の火ぃで燃えそうやった。

小刻みに三回吸って、四回目に、旨そうな表情して肺に溜めていた。
ッデ、ユックリト紫煙を小さな鼻孔と、薄きに開けた唇から吐きながら言います。


「あんたぁ、かわったわ 」

「ワイがですんか?」


ママ、返事の代わりに、顔を伏せるようにして煙を吐き出した。
ワイ、俯いたママに釣られ、視線をママの足元に落とした。
細い踝の下の小さな踵が半分乗っている、赤いサンダルの先が、
濡れた土間コンの床には不釣合いやった。

黒い小さな網目のシルクのストッキング、先ッポ、濡れ床の水に浸かって濡れていました。


「明日ぁ、暇かぁ?」

「バァさんと逢いますんやけど 」

「ウチも付き合うさかいにな 」

「えぇけど、ナンでゞすねん 」

「ウチにも責任あるさかいにな 」

「責任?ッテ、なんの?」

「コナイナ騒動にぃ為るとは想わんかったんよ 」

「今のですんか? 」

「ほぉやぁ(ソウデス)」

「スキにしたらぇえけどぅ 」


ママぁ頷くと蛇口を捻り、水で煙草の火を消した。
消えた煙草を指で摘むように挟んで、厨房から出掛けに振り返りました。


「もぉぅ、松屋に助っ人せぇへんでえぇさかいにな 」

「行かんかったら、不味いんとチャイますの?」

「サッキ電話いれといたさかにな 」

「なんて?」

「アンタは悪党やから、アホちゃうかって、チィフが言うてるでッテ 」

「マッママッ!ナッナニ言いますねんッ!」

「嘘やがな、言うかいなそないなこと 」

「・・・・・・ッタクぅ!(ッチ!)」


「アイツ(タイショウ)留守やったから、番頭のイッチャンに言伝しといたわ。暫く休むゆうて 」


「あのまゝ、縄澤に引張られてたらえぇのになぁ 」

「駅前でかぁ?」

「そぉや 」

「無理やな、ショボイ交通違反じゃぁヒッパレンわッ 」

「縄澤かてド素人相手とチャウさかい、如何にかしよるやろぉ?」

「その玄人やから、如何にもアキマセンねん 」


「玄人相手なら、素人とチャウやろぉから終わらせ方も、堅気やないようにぃっと違うかぁ?」


ママぁ、返事の代わりにぃ、真っ直ぐワイの目ン玉覗き込んで、静かに一回頷きました。

ワイ、その仕草を視て、ァレッ?ママぁ、ケッコウ美人やなぁ・・・・ッテ



如何にも為らんもんなら、如何にか出来ないものかと足掻くより

流れのままに身を任せると、如何にかなるかもなぁ・・・・・


今夜、真っ直ぐアパートには戻らん方が、身の為やでッ!
ナニが待ち構えてるか、判らんさかいにな。

ドッカ、寝倉を探さんと、アカンなぁ・・・・・


ッデ、何処にやッ?