二月の、冬のころだった。
或る日 雪が降る夕暮れの街を歩いてた。
傘を差さずに手に提げて歩いてた。
肩につもるは粉雪、冷たさは肩の肌まで。
凍える冷たさ、やせ我慢しながらだった。
あの時は、心の何処かに積もるもの、なにかと判らずただ歩いてた。
わたしは、独りに為りたかった。
六月の、梅雨の終わりごろ。
雨上がりの街のなかを、結婚式かえりの、振袖姿の娘たちが歩いてた。
はじけるように笑いあう華やかさが、妬ましく疎ましかった。
わたしは、和服すがたは視たくはなかった。
心の刃、研ぎ澄ましていたから。
拗ねた、独り者だったから。
夜の眠れぬ暑さな、八月。
人の世を、斜めに視ながら生きるのが、如何しようもないことだと。
なにかを掴もうとして、掴みきれない自分を眠れずに、蔑んでいた。
求めるものは、他の誰かのものだったから。
迫る仕掛けは、自分で片付けるしかないことだと。
逃げれずに、堕ちてゆくのも心地いいことなのかもと。
心になにか憑かれたんだろうか、判らないなにかに。
わたしはそれでも、人のものが欲しかった。
年の瀬。
担ぎ込まれた病院では、治療を拒否したかった。
揺れる救急車のなかは、血の臭いで芳しいと思った。
左手首の痛みは、自分のせいだと。
胸の一突きは、死にぞこないの想い突き、だった。
なにもかもと、なにもかも中途半端さなと。
顔を覆う樹脂マスク、酸素の匂いを生まれて初めて嗅ぎました。
毟り取りたかった、マスクを。
自分での死までもが、見放すのかと。
幾日も、眠れたような気がした。
暗かった部屋のなかに、明かりが。
カーテンを引きながら、誰かゞ話しかけてくれた。
求める声とはちがう、他の誰かの声で。
窓の明るさが眩しかった。
私は、目を瞑った。
明るさを遮り、真上から覗き込まれた。
その人は目蓋の陰になっていたので、誰か知れません。
私の名前が呼ばれ聴こえ、枕元になにかゞ置かれた。
北原ミレイの、小さな歌声が流れた。
最後まで歌い終わらないうちに、涙で目蓋の中がイッパイになった。
涙が溢れてしまい、濡れた目尻を優しく拭かれた。
涙で翳む目で枕元を視ると、小さなトランジスターラジオから聴こえていた。
これ、返しにこないでいいから
わたしは返事をしなかったら、探られて右手を握られた。
優しさは、返事に困るものかと知りました。
わたしは、あの時のことを時々想いだします。
そぅしますと、胸のなかで騒ぐものがあります。
自分は、今でも如何しようもない者です。
なのに、想いだすのは、あの頃のことばかりです。
キッカケは、北原ミレイの、ざんげの値打ちもない。
聴けば、戻れるから訊きたがります。心が。
ですけど、やせ我慢しています。
歌手、【 北原 ミレイ 】さんが好きな、わたしが尊敬しています
某ブログの ≪教授≫ の為に書きました。
以前、教授に大変お世話に為りました。
そのお礼の意味を込めての作品です。
教授、その節は大変有難う御座いました。
【 北原 ミレイ 】
【 ざんげの値打ちもない 】