【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

天女ト二人デ修羅場デ追イ詰ツメラレタ。

2007年10月16日 02時47分08秒 | トカレフ 2 
   



人は背中で、人の視線を感じるものだろうか。


自分背中の痛みを堪えて立ち上がると、縄澤に押しのけられた。
背中から腰にと益々な激しい痛みが奔ったけど、何もないような顔を必死さで繕う。

「勝手に人の部屋に入ってくるなやッ!」

縄澤そのまま、我関せずな態度で部屋の奥に断りもなく行く。
ズボンのポケットに手を突っ込み、一直線に背中を伸ばした後ろ姿勢だった。
勝手に狭い脱衣所の入り口隠しカーテン、勢い良く引き開けた。

埃で汚れたカーテンから、白ッぽい粉が舞い揚がった。

縄澤、何かを毒ヅキながら顔の前で手を振り、背を反らす。
靴が床に飛び散った硝子の破片踏みつけると、歯が軋るような厭な音が鳴った。
埃の中、左手の便所の壊されかけてた扉を、無理にと揺すりながら開き中に入る。
便所の中から何かを訊いてきが、聴こえないフリをした。
中をザット調べたのだろう、直ぐに出てきて、また硝子を踏んで風呂場の前。
歪んだサッシドア枠に残った硝子の破片を、靴の爪先で突ッツキ落す音がした。
ッデ、床から何かを拾い上げようとして、前屈みに為りかけて途中で動きを止めた。

屈む途中の姿勢のまま、此方にと顔を向けてきた。

 ユックリト。


「これ、お前のもんか? 」

縄澤、含み笑いで訊いてくる。

「知らんけどな 」

「ほな、どいつのんやッ?」

「知るかッそんなん 」 

ット、喋る自分の声、情けないことに虚勢丸出しの、掠れ声やった。

「ナンやお前、何でも知ってるんとチャウんかッ!」

「もぉぅ帰ってくれるか、サッサト帰れやッ!」

「なんやとぉ、ほんなら初めっからワイらを呼ぶなッ ボケッ!」

最後に一声怒鳴って縄澤、怒りに駆られて、サッキ掴もうとしていた入浴剤の空箱
救い上げるようにして拾い上げ、そのままの勢いで投げてきた。
自分、思わず眼の前に飛んできたその箱、咄嗟に掴んだ。

「ナイスキャッチッ!」 

顔中笑い皺に包まれて、縄澤が言う。


上着のポケットから、白いハンカチを取り出しながら近づく縄澤。

「ここに、中身を空けんかッ 」

デッカイ熊の掌の上で広げられたハンカチの上に、空箱と思っていた箱から
僅かに残っていた粉末を、振り掛けるように落とさせられた。

「白いな、なんや?」

「温泉の元チャウんか 」

「誰のんや?」

「ワイのや 」

「・・・・温泉ぅ・・・お前ぇ、オジン臭いヤッチャなぁ・・・・・」

縄澤、ハンカチ鼻の下にもって行き、静かに臭いを嗅いでいた。

「何処のんや?」

「ドコって?」

「温泉や? 」

「そやからなんやねん?」

「お前、何処の温泉か判らんと、買うんか?」

「店のママが客から貰ったんぉ、ワイにくれたんや 」

「○○子が客からモロォタぁ・・・・・義理堅い○○子がぁそないなことするんかぁ?なぁ?」


自分、息を悟られんように詰め、胸の奥で舌打ちした。
縄澤、下から救い上げるように見上げて来る。
自分、空箱をジッと見続けて、刺し貫こうとする縄澤の視線をカワシタ。


「ッデ、なんで風呂場の天井、破られてるんやッ?」

「縄澤ハン、ワイ、なんかしたんやろか?」

「なんや? したんか?」

「・・・・なんもせんがな、そやけどなワイ、被害者やでッ!」

「ホンナラ、捜査せぇチュウんやな?」

「・・・・・・ワイ天井まだ観てへんさかいに判らんわ 」

「観んでもえぇがな、なんで天井までメガレテル(壊されてる)か訊いてるねん 」


「お前。 ナンやねん? なんでそないにぃ捜査、嫌うんや?」

後ろの内扉から、若い刑事が喋ってきた。

自分、少し驚いた。 この刑事が初めて喋るのを、背中で聞いたから。
直ぐに振り返ると、白塗りの能面みたいな顔して、直ぐ後ろに立っていた。
何を考えているのか、まったく表情が読めない、黒い目ン玉の能面顔で。

同じような肉食種の動物は、狩りの時にはツルムのだろうか?
孤独な狼は、狩ろうとする得物の前と後ろの逃げ場がないようにと。
時には仲間と為って、互いに協力しあうのだろうか?

自分、静かなものが胸の中の其処深い場所から、湧いてきて広がるのを意識し始めていた。


風呂場の天井も、他の部屋と同じように為っていた。
タだ違うのは、部屋が狭いので、天井の殆どが無くなっていた。
今は廃材と為ってしまった防水天井のモルタルと、下地の裂けた木材屑が
真下の浴槽の中で、浮いたり沈んでいた。
白かった入浴剤が溶け込んでいた風呂の中は、天井から落ちた埃と廃材で、汚れ水状態。
プラスチック樹脂製の天井点検孔枠が、歪んで汚水に浮いている。

縄澤、点検孔枠を指で掴んで肩越しに振り返る。


「これ、上の点検孔の枠やろ 」

「そぉですわ 」

「コンくらいの大きさの点検孔やったら、首ぃ突っ込んだら、何が在るかわかるわな?」

「そやな、そやけど蓋にぃ換気扇ついてたから、見難かったんとちゃいますのん 」


「ほぉぅ・・・・・・そっか 」

縄澤、目ぇが笑わん笑顔で、納得返事。

自分、気づかずに知りたくもないけど段々と、追い詰められる恐怖感なんだろうかぁッっと。
背中で、皮膚の上で、何かがザワザワと、蠢いているッ! 感覚しまくっていた。


「縄澤さん、お客さんやで 」

玄関の外から、若い刑事が教えてくる。
縄澤、風呂場の開け放った窓目がけて怒鳴った。

「何処にやッ?」

「ウチやけど、入ってよろしいか 」 玄関から、女の声。

縄澤、後ろの自分に振り向き、顎で行けと指示。
脱衣場から出ようと行きかけたら、浴槽の汚水の中に天井枠が落ちる、水の音。

自分、まさかぁ・・・・・・っと。


「ママぁ! ドナイしましたんやッ?」

「あんた、今日は集金日なんやで、けぇへんから(コナイから)迎えに来ましたんや 」

「ママぁ・・・・・!ッ 」

仄かに笑ってるママの顔、天女に観えました。


「どないしたんや、なんぞお取り込みなんやろかぁ?」

「ぁッ!ぅん。 チョットなぁ・・・・」

「○○子ぉ、泥棒やッ!」

背中の向こうから、縄澤のワザト無理にとな嗄れ声。


「ほぉぅ! 縄澤さんね。 珍しかトコで遭いますんやねぇ 」

ママぁ、度胸据わってました、ワイの肩越しで、後ろにメンチ切るような視線ッ!キッチリ飛ばしてました。
縄澤、ナンも挨拶返さんかった。 代わりに自分の背中を一つ拳で軽く打ってきた。

「ホナ、帰ったるわ 」

ット、縄澤、ワイと壁の間をスリ抜けるとき、ワイの耳元に囁き言葉で。

 
ママと二人で台所の窓から眺めていると、覆面パト、既にエンジンは始動させていたのだろう。
縄澤が開いていたドアから助手席に乗り込んだら、ドアが閉まらないうちに走り出した。


「ママッ、助かったわぁ!」

「なんや?この有様はぁ・・・・・」

破壊され捲くった部屋の中を見渡しながら。

「夕べぇ、空き巣に遣られましたんや 」

「空き巣ッテあんたぁ・・・・・」

「ぅん。判ってるで 」

「ヤッパシなんかぁ?」

「そぉやと想いますねん 」

「そぉかぁ・・・・・ッで?」

「ぇッ、なにがですねん?」


「見つけられてしまいましたんかぁ?」

ママぁの眼ッ、冗談は聴きたくないでッ! ット言ってました。

「ママッ、預かって欲しいもんが在りますねん 」


「なんですのん?」

ママに訊かれたけど返事せんで、風呂場に行った。
自分の後から着いて来る、ママの和服の履物、草履が硝子を踏む音は、靴底で踏む音とチャウなぁ。
ット、ナンや知らんけども、サッギで荒んでいた自分の心が、穏やかに為ってくるのが判る。

自分、上着を脱ぎ捨て、長袖シャツの両腕を捲くった。

「なにしますの?」

「ママ、此れやがな 」

自分、浴槽に身を乗り出して、汚水の中に腕を突っ込んだ。
肘の辺りまで水に浸け、向こうの壁際辺りを、此処ら辺りやったなぁット弄る。
直ぐに見つけ、両手で掴んで引き上げようとしたら、重さで身を浴槽の中にと持っていかれそうに為る。

「あんた、大丈夫なんかッ!」

ママぁが、ズボンのベルトを掴んでくれたので、助かったッ!

「ママぁ・・・・ォォキニィッ!」

奥歯噛み締め言葉で、言いながら無理にと引き上げた。
ッデ、ヤットの思いで持ち上げ、そのまま此方にと持ってきて洗い場に置いた。

「あんたぁ、ナンですのんコレ?」

「ママッ、騒動の元やがな 」


狭い浴室の中でママと二人で見下ろした物は、黒色ナイロンのゴミ袋に何枚も重ねて、厳重に包まれていました。
袋の口や全体を、同じような黒色の、ビニールテープでぐるぐる巻きにしてました。
自分、落ちていた硝子の破片を拾い、袋を切り破ります。

直ぐに見えてきました。 中の物が。

黒色革鞄がね、姿を現しだしますねん。
マッタク、水には濡れていませんでした。


「ママ、中身を見んと預かって欲しいんやけどなッ 」

「・・・・・ぅんッ判った 」


ママと二人の共同作業で革鞄を抱え、鉄の階段降りた。

「ぁッあんたッ モノゴッツ重たいなぁ!」

「ママ、気ぃつけや、怪我しても知らんからな 」

「女にぃコンナンさせよってからにぃ・・・・ぁほッ!ぉ・・・」


二人、ヤットの思いでアパートの敷地の外の、道に停めてあったママの車の後ろ、トラングで運んだ。
ッデ、車のトランクを鍵で開け、鞄を二人でトランクに積み込もうとしたら、車の後ろの窓越しに観えた。
縄澤の覆面パトが、道のずっと向こう側、公園前の電柱の陰に停まっているのが。

ユックリト覆面、動き出した。

其れは獲物を発見した肉食獣が、隠れ潜んでいた場所から出てくる様ヤッタ。


ッチ!・・・・「ママ、縄澤が来よるでッ!」

「ぇッ!ほんまか?」

ママも顔に、怯えが奔った。
自分、再びな感覚に囚われてきた。

自分、覆面パトに背を向け、一生懸命に考えたッ!

なんにも、真っ白な頭の中には浮かんできませんでした。
タだぁ、背中にぃ、二つの対の脅迫な視線を感じていました。


ッチ!どぉしようもないやんかッ!


愚痴にも為らん、愚痴やった。