【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

弱イモノ虐メ

2007年10月01日 15時28分57秒 | トカレフ 2 
  


身を屈め、内扉を少し押し、首だけが入るようにと。
直ぐに何かが支えて、それ以上開き難くなってしまい、中の様子は良く観えなかった。
ッデ、力を加えると思った以上に開くから、ドアノブと柱に縋って
部屋の中にハンミ(半身)を入れ、無茶苦茶な中の様子を眺めた。

此れが昨日、自分が出て来た部屋なのかと、想いました。
帰ってきて直ぐに裏のベランダから、中の様子は覗いて解っていたけど
実際に部屋を観たら、寝不足で痺れた頭の中、得体の知れない物の怪が
大声で激しく怒鳴り散らし、ガンガン響かせているような感覚に陥った。

自分、家具なんかは、そんなに揃えてはいなかった。
布団が一組と、お膳代わりの、丸い棒みたいな脚が折畳める卓袱台。
服は押入れに鉄のパイプを横に通して、それにハンガーで吊り下げていた。
台所には作動音だけが煩い、型落ちの古いタイプの冷蔵庫と、二合炊きの小さな電気釜。

安物ステンレス流し台の下、観音開き扉の中の狭い棚には、自分の湯飲みや飯茶碗と皿が幾枚か。
扉の内側に吊るした俎板と、引き出しに仕舞ってた包丁だけは、贅沢させてもらっていた。
和風洋風、中華、全ての料理に対応できる各種の包丁は、誂え造りで揃えて持っていた。

台所の床板、訳解らん色んな物で汚されていた。
天井がアッチコッチと捲くられ、そのときに落ちてきた埃や廃材。
タブン、大勢の地下足袋で付けられた踏み跡。
普段絶対に家の中では、お目に掛かれない汚れで彩られた台所の床に。
自分の手に馴染んでいた全部の包丁は、刃が折られたり、くの字に曲げられ捨てられていた。
知り合いの大工の棟梁に頼んで拵えて貰った白木の俎板、叩き割られていた。

テレビは元々持っていなかったし、暖房器具と呼ぶものもなかった。
畳み半畳ほどの洗面所の床板には、いつ壊れてもいいような、ボロな電気洗濯機。
洗面所床の左の方には、和式便器が詰め込まれた狭いトイレの木の扉。
もぅ片方が同じように、狭い洗い場の風呂のサッシガラス扉でした。

硝子の扉も、洗濯機も、水洗タンクの陶器の蓋も
その他、悉くなにもかも全部が、壊されていました。

洗面所の出入り口隠しカーテン何故か、下から一メートル辺りで、
横に醜く、ギザギザに切り取られていました。

辺りを見渡せば目に付く物全て、破壊の大嵐に遭った痕のようだった。
此れだけ徹底的に遣られて最後に何故、部屋に火を点けなかった。
ット自分、不思議に想いました。


「もぉぅえぇ加減に、言うたら(白状したら)どないや、なッ 」

自分の後ろの縄澤が、迫り言葉、背中に浴びせてくるのが判ります。

「なにをですねん?」

「お前、儂がゆわんでも判っとろぉもん 」

「そやから、なに言えばえぇねん?」

「お前なッ普通、こんだけ滅ッ茶やられたら、事件にするんとチャウんか 」

「もぉぅ、えぇねんけどなぁ 」

「なんがや?」

「訴え、取り下げたさかいに帰ってもろうてもなぁ 」

「コラッ! ガキの使いやないんぞッ! 」

無理やり左肩つかまれ、屈んだ状態で上半身だけ、後ろに振り向かされた。
自分の顔、身を屈めた縄澤の鼻先寸前にッ! だった。

「ボケッ!嘗めとったら承知せぇへんぞッ ワレッ!」

キツク閉じた自分の唇に、縄澤の唾が飛ぶ。
眼の前の縄澤の眼、アマリに近すぎて焦点が合わなかった。
だけど目ン玉の奥で、怒りで燃えた物、垣間見えたような気がした。

暫くは互いの眼の裏にへと、探り合う見合いだった。

自分、小便。 チビッタかもなぁ・・・・・ 


「取り下げたんは、大家に迷惑掛かるさかいや 」

先に口ぃ利いたのは自分やった。 タブン、縄澤の脅しが怖かったからやと想う。
あの時は、気ぃが張っていてテンパッテいましたし、此処で怯んだら計画が台無しやッ!
だから自分、必死で怯んで萎えそうな肝っ玉を、奮い立たせておりました。

「お前、判って物ゆうてるんか、コラ!」

熊みたいなデッカイ縄澤の手で胸倉摑まれた自分の頭、面白いように前後に揺すられたッ!

「ナにするんやッ! 刑事が暴力奮ぅてええんかッ!」

舌噛みそうになりながら、漸く言えた。

突然、胸倉を強烈に突き飛ばされた。
勢いよく背中で内扉押し退け、部屋の中へと倒れ込んだッ!
空を掴みながら背中から、畳が捲られた座板の上に堕ちる。
刹那、右の肩甲骨辺り激しい痛さが襲った。
其処に、目覚まし時計が在ったのだろう。

落ちる音に混ざって小さく チンッ! と鳴る音。

同時に自分の躯の周りから埃が湧き、舞い揚がった。
自分、声を挙げそうになったけど、息止めて堪えた。
身動きせずに暫くは、痛さなんか感じないフリで忙しかった。

埃の中で見上げる天井、安物クロス製の、模造天井板が邪険な感じで剥がされ、
天井の四隅には、イビツな穴が開けられていた。

「コラ、鑑識呼んで、家捜ししたろかッ!」

縄澤、上から覗き込むようにしながらだった。

「ぁあ、したらえぇがな、なんぼでもせんかいッ!」

思いックソ横っ腹蹴られたッ!

だけど、その痛さよりも背中の時計の痛さのほうが痛かった。

「よぉぅ口の減らんヤッチャで 」

「令状もなしで家宅捜査が遣れるんヤッタらしたら、したらえぇがなッ!」

起き上がりかけたら、背中でモットな激痛が奔る。
自分、想わぬ呻き声、少し漏れた。
縄澤、人の弱音を聞き逃す奴じゃぁなかった。

「なんや、こんなんで泣きかいッ!」

座板が、縄澤が一歩近づく感じで揺れた。
自分、マタ蹴られると身を硬くしたら、眼の前に毛深い縄澤の手がッ!

「ホレ、助けたるわ 掴まんかい 」

「要らんわ 」

「遠慮せんでえぇがな、ホレ 」

軽く揺すられる手が、不思議な物に観えた。
自分、背中の痛さもあったのか、手を掴んでしまった。
掴んだ縄澤の掌、何かの生き物のような感じで、生暖かく湿っていた。

縄澤、手で掴んだ相手の背中の痛みなんか、なんの考慮も無く勢いよく引張る。
自分、痛みが全身に奔り、甲高い呻き声挙げてしまった。
もぅ少しで起き上がれる。 っと想ったら、手ッ離された。

縄澤の顔、この上ない笑顔でした。


背中のサッキと同じ場所から、またぁ時計の上に堕ちた。
今度は、我慢なんか出来なかった。
人は我慢なんかセンかったら、あないに大きな声で叫べるとッ!

「ナンや、お前オッきい声するさかい、吃驚するがな、なッ!」

自分、縄澤の上から覗く顔視て、タブン絶望ってなぁ、こんな感じやでッ!ット。


「ホレ、掴まんかいッ!」

再び差し出された毛むくじゃらな手。


同時に、絶対センでもえぇ体験でも、厭でも逃れられない事も在るッ!

ット、経験しました。