【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

空き巣と言い訳

2007年09月16日 01時50分37秒 | トカレフ 2 
  


獣たちの世界では、群れの中で一番強い者が其の集団を率います。
強さなことが正義なんだから、仲間を疑うことなんてないんでしょう。

人は人を疑います。

だから、其の相手が眼の前から居なくなると、
胸の奥での疑惑は、尚更らに深まるのでしょう。
事実なにもなくても疑うことで、妄想する猜疑心を現実の如くにと感じるから。
なにが正しいなんて、凡て思い込みだから如何にでもと。

納得尽くめで、言い包めましょうかと。



【空き巣狙い撃ち】


寝不足と、歩き疲れたからだろう、脳の痺れを感じながら古い木造アパート、鉄の階段登った。
合板製ドアの錠前鍵穴に、鍵を差し込んだらドアを開ける気がしなくなった。
穴に差し込んだ鍵を摘む指先が、いつもの感覚じゃぁないと。
鍵は穴の途中で止まり、鍵穴の奥まで入らなかった。

誰かが、無理にドアを開こうとした。


廊下の端から端にと、顔を振った。 誰も居なかった。
屈んで新聞受けの蓋を押し、中を覗いても暗い向こう側に
嵌め殺しのスリ硝子が、明り取りの小窓に為った内側扉が見えるだけ。
其の内側扉、少しだけ開いていました。

出かけるときには、キッチリ閉めていたはず。

暫く、何かの気配はないかと覗き込んでいたが、そんな様子はないようなので
アパート二階裏側、三左衛門川(別名三段掘)の在る方に続いてる通路を裏側にと。
裏側にはベランダ代わりの、アパートの端から端まで通しの、非常用の通路が通っています。
その通路は、アパートの住民の共同通路で、其処には何も置いてはいけない規則でした。
火災や何かのおりに避難通路と為るから、邪魔になる物は置いてはけない規則。

手前から二軒目、欄間の在る掃きだし窓に、カーテンも吊られていないのが自分の部屋だった。
硝子越しに部屋の中を覗くと、所帯道具と呼べるようなものは殆どなかったけど。
部屋の中は、畳が雑な感じで何枚も捲られていて、無茶苦茶な状態だった。

押入れの襖は外され、中に仕舞っておいた布団は、畳がなくなった座板の上へ投げ出されていた。
天井も何箇所か破られていて、其処から埃が舞い落ちたのだろう、煤けたように布団は汚れていた。
座板も天井と同じように、所々板がなくなって、四角い穴が空いている。
奥の方、玄関横の台所も、コッチの和室と同じようだと見て取れた。
此の観てくれ状況なら、何かをと、徹底的な家捜しが行われたんだろう。

自分、煙草が無性に吸いたかったけど、生憎と切らしていた。
だけど無いと判っていても無意識に、部屋の中を眺めながらアッチコッチとトポケットを弄る。

自分、アマリのことなので、舌打ちの癖、出もしなかった。
代わりに大きな溜め息が一つ、吐きぃ・・・・・・ッチ!っと。
バイト明けの眠気や疲れなんか、何処かに吹っ飛んでいってた。

煙草が、吸いたくて堪らなかった。

和室の開きの襖の中に、買い置きが在ったけども、其処も荒らされているので諦めた。


「アンタが居らんときになぁ、アイツら来よったんや 」

「・・・・・ッで?」

「わしらぁで止めたんやけど、アカンかった 」

「・・・・・・ナンで警察に言わんねん?」

「ナンでッテ・・・・ユッゆうても良かったんかぁ?」

「えぇがな・・・・ナンであかんねん? 」


大家の爺さん、眼を逸らした。


爺さんがサッキから此方にと差し出してる、ヒシャゲかけたヨレヨレな煙草のパッケージ。
其処から斜めに一本突き出た煙草を、指で摘んで抜き、唇で挿んで銜えた。
ライターを取り出そうとしたら爺さん、エラい勢いでマッチ点けて煙草に近づけてきた。

自分、マッチの硫黄が燃える匂いと共に煙を、大きく肺にと吸い込んだ。
一瞬、立眩みがしそうに為るのを堪え、ユックリト煙を吐き出した。


「ワイらな、済まんけどゴタゴタにぃ巻き込まれとぉないんや・・・・・ 」

横から話し出した大家の息子の声、掠れ気味やった。

「判ってる、そやからナンで警察に言わんかったんや?」

「あんたが困る、思うたんや 」

「ナンでワイが困るねん、なッ?」

「ソリャァ、なんでッテ・・・・・・」


タブン、この親子は、自分が何かの事件(暴力団絡み)にでも巻き込まれてる。
だから、関わりあってトバッチリが自分らに及ぶのかもと、警戒したのだろう。
其れと、此のアパートの在る界隈は、日頃から何かと警察沙汰が多すぎる地域だった。

此処らの賃貸アパートや借家なんかの家賃は、他の地区に比べたら安いと評判だった。
だからと言う訳じゃぁないけど、街中の歓楽街に近いせいか、
入居している店子も、深夜のお水仕事関係が多く、それ以外でも一見すると
何を生業にしているのかと見極め難い、怪しいヤツが殆どだった。

何と無く此の付近、治外法権的な雰囲気がぁ・・・・・ッチ!


「チョット、電話ぁ貸してくれてないやろか?」

自分、返事も聞かずに眼の前の、爺さんと息子の間を割って、
勝手に大家の玄関んの引き戸を開け、家の中のに入った。
昔の古い造りの家なので、二坪ほどの玄関は土が剥き出しで、上がり框がくの字。
くの字の奥の突き当たりに、地面から浮き上がったような、大きな開きの履物箪笥が在る。

其の上に、ダイヤル式の黒色電話機。 受話器を摑んで振り返り、尋ねた。


「駅裏の派出所の番号、何番や?」

息子が、怪訝そうな顔で言う。

「其処ん紙に書いてるわ・・・・」


指差された薄茶色く変色した漆喰壁に、此れも黄色くなってる紙が貼られてた。


「赤い字ぃやがな 」

「ぉおきになッ 」


「すんませんけどなぁ、空き巣が入ってますねん着てくれてないやろか 」


受話器の向こうで、複数の人の言葉の遣り取りがあった。
直ぐに、サッキとは違う人間が出て喋る。


「空き巣って、どんなんですのん? 」

「サッキ帰ってきたら、部屋の中ぁ荒らされてますねん・・・・・?」


自分、マサカなぁっと。

こいつの声、なんかぁ聞き覚えがある声やでッ! っと。
受話器を握ってた手のひら、汗で濡れてきていました。
最初に説明した住所を再び聞かれたし、同じように名前も問われたので答えた。

受話器を戻して、玄関から外に出ようとしたら、爺さんが引きとめた。


「あんた、朝飯ぃまだなんとチャウんか 」

「ぁあ、まだや 」

「食べてくれてないかぁ?」

「なんでや?」

「腹が減ってたら、巧いこと喋れんさかいになぁ 」

「なんも要らんけど、茶ぁイッパイくれてないか 」


爺さんが言うとおりやった、何かが腹の中に入っていなかったら、
今から色んな事を訊かれても、巧くは返答できないやろぅ

・・・・喰えん、爺ぃやッ!

家の奥から大家の息子が、盆に載せた湯飲み茶碗を、
中身が零れないようにと、覚束なげな、慣れない感じで運んでくる。
茶碗、取り上げたら、玄関引き戸を開け放った外から、
アパート敷地内駐車場の砂利が、タイヤに踏まれる音がした。

茶碗を静かに框に置き、外に出た。
サッキ感じていた≪マサカ≫が、遣って来ていた。


派出所の警官が来ないで、覆面パトに乗って、縄澤が遣って来てた。
助手席側のドア、勢い良く開けられると


「お前、よぉぅ災難に遭うみたいやなッ! 」


ット、言いながら降りてくる縄澤の姿、屈んで潜んでた獣が姿を表すようだった。

縄澤の顔、此の上も無く、嬉しそうな顔やった。


こいつ、モシ化したら自分と同じ種類の人間なんかもぅ、っと。
ッデ、イヤイヤ、タだの疲れも知らぬ、化け物なんやでッ!

ッチ!・・・・最悪の災難はッ!お前やろもッ!
自分、心で毒吐いてました。


煙草が吸いたいなぁ、っとも。