夏の昼下がりに降る雪、輝く真昼の闇に飛び交う、蛍のようだった。
乱舞な無数の蛍虫 光る尾っぽ眩しき夏の太陽で焦がし、白さで光らせてた。
「そやから何遍も言うとるやろッ!視たんや、雪が降っとるんやッ!」
あいつ、胸の真ん中真っ赤にさせ、言ってました・・・・。たぶん言ってた。
口が動くたびに何か、聴こえ難い何かを言うたびに、胸からブクブク っと
蟹にみたいに赤い泡、吹いとった。
「なんやッ! なんがやッ! なんがやッ!」
あいつ、幾ら聞いても返事せんかった。
人の躯が何かの抜け殻なら、毛布もつより頼りなかった。
と、知りました。
落ちるかと、低さナ感じの太陽に焦がされ、陽炎が立ち昇る、黒い舗装道路の向こう側。
焼ける道の中央白線隠し、地面スレスレに浮かんでいました。
幻視かな逃げ水蜃気楼。
近寄れば、逃げて消え逝く朧な水面、青い空映していました。
焦げる道の真ん中に、池が掘られてるのかと。
サッギで、あいつが跨り駆ってた単車 遥か向こう側でパイプ鍍金ハンドル
酷くひん曲がって青い池の真ん中で、半分沈んで横倒しになっていた。
単車の燃料タンク破れ目から流れ出た、薄赤いワイン色の燃料。
道路の熱さで揮発させられ、揺らぐ陽炎のように、空気メラメラさせていました。
自分、発火するのは時間の問題だな、っと。
自分たち此の日が、仲間とつるんで走るのは、最後の日に為るはずだった。
或る日、「おれ、所帯もつかもしれんで 」 ットあいつ仲間に告白した。
「お前、夕べなにしたんや?」
「ドッカ悪いんかぁ?」
「冗談 チャウねん 」
突然、仲間から取り囲まれた。
「ボケ、イッチョ前にぃナニ言うねんッ!」 ボコッ!
「冗談チャウぅ~? ホナなんやッ!」 ボッコンッ!
「誰が悲しむ思うとんか、ボケッ!」 グッ!
「浣腸ぉ~!」
「ギャッ!」 ケツ渋ッう~!
「もぉ一回やッ、指浣腸したれッ!」
「ヨッシャ、動けんように押さえとけや 」
「もぉぅえぇ!ソンくらいでえぇやろもッ! 」
あいつ、いつもに似合わん、チョット恥ずかしそうな顔やった。
首まで真っ赤にさせ、物凄く嬉しそうだった。
おれら、ただ嬉しかった。 仲間の一人が女と所帯。
いつでも訪ねて行けれる。
そんな家が出来るからと想うたからやった。
「最後の独身オダブツ卒業ハシリやなぁ!」
「お祝いやでぇ・・・・・キッツイなぁ!」
「ケツに乗せるんかぁ?」
「ぉ~!ホンマや乗せたれや、おれらも嫁ハン拝みたいがなッ!」
「あいつぅ、来よるんかぁ?」
「女ぁ、恥ずかしいぃ為ってんとチャウかぁ?」
「ぁッ!来よるッ 」
ケツ(後ろ)に乗っかってる女、サングラスしてた。 長い髪、ポニーテールに結んでた。
あいつ得意げに、道幅イッパイに、スラロームしながら近寄ってきた。
「夏に見る雪は、秋に見る桜の散るが如く ッテかぁ?」
「勿体無いなぁ、アイツになぁ・・・・ッチ!」
「クッソゥ!えぇ娘(コ)ぅ見つけヨッタなぁ!」
女がケツから降りてメット脱いだら、あいつに判らんように、みんなは呻いた。
「お前の女、夏の雪やで 」
「ウチがですかぁ?」
メット脱いだら、みんながヒヤ化しモって、想像した以上の上玉やった。
「ぅん、意味なぁ滅多と居らん、別嬪ちゅうねん 」
「ぅち、恥ずかしかぁ!」
「国ぃ何処ね?」
「○ュゥ○ュゥの、○○ですぅ 」
駅裏の、紡績工場で働いてるって、言ってました。
道路の側溝の向こう側、藪の中まで吹っ飛ばされた女が、後から見つかった。
対向車線のスポーツセダン、センターラインを跨いであいにつぶつかって、止まりもしないで逃げた。
直ぐに仲間が追いかけて、現場まで連れ戻した。
運転していた若者、顔つきが判らん位に、゛コボコにされていた。
「このガキ、謝らんのやで 」 泣きながらやった。
「こんガキ、道に寝かせろッ!ワイが轢き殺したるッ!」
自分、何も言わんと若者の躯ぁ、道の真ん中まで引き摺るようにして、持って行った。
「お前、ホンマに謝らんかったら殺すでッ!コラ 」
鼻血と鼻水塗れの、腫れぼったい横顔に、唾飛ばしモって囁いた。
コッチに顔向け殴りつけた。 何回怒突いたかは、憶えていません。
「どや、謝る気ぃに為ったんかッ!」 今度は怒鳴った。
口が動いたような気がしたので、胸倉から手ぇ離したら、地面に落ちた後頭部から、鈍い音がした。
遠くで、パトと救急車の緊急サイレンの音が鳴ってるのが聴こえ、次第に音が近寄ってくる。
「お前ら、もぅえぇさかいに、ドッカに行かんか 」
「ナンデや? 居るがな 」
「あんなんしたんや、コッチかてただで済まんのやで!」
道路に転がってる若者、顎で指しながらやった。
女は頚椎の捻挫と、軽い擦り傷打撲で済んだけど、数日入院した。
此の女とは、此れが最初で最後の出会いだった。
女の国元から、事故の連絡を受け、心配した親御さんがやってきた。
女が入院していた病院から、退院するとそのまゝ国まで連れ帰ってしまった。
おれら、事故の現場を後にしようとしたら、単車が燃えた。
道路の脇まで流れ出してたガソリンに引火した。
横風で流れる黒煙突っ切って、事故現場から離れた。
最初の角を曲がるとき、パトと救急車と擦れ違った。
後を追って振り返ると、燃え上がる黒煙が、晴れた空高く昇っていました。
夏は、想いでなんかじゃぁない、悔いを連れて遣ってきます。
幻が、暑さななか夏の雪、降らせました。