【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

特攻桜

2007年03月30日 03時02分08秒 | 無くした世界 
  






「お願いします! 此れをあの人に!! 」


必死の形相でした。
其の勤労奉仕隊の女学生さんは。

駄目だと言っても、聴きわけが御座いませんでした。



わたしはね、わたしに縋るような目線で喋る女学生を視ていて
其の自分の目線をですよ、逸らし下げるのが怖かったんですよ。


目線を少し下げると、桜の枝がわたしに
捧げられるように差し出されてるのは、判っていました。
女学生さんがわたしに近づいて来たときに、最初に目に入ってましたからね。

特攻で死にに逝くあの人に、せめて桜の一枝をと。
遠慮したような、本当に小さな小さな一枝の、桜でした。

未だぁ幼顔してました。 彼女。


決してわたしの顔から、視線を逸らしませんでした。
一瞬の僅かな瞬きも、致しませんでしたよ。

其の白目の部分がですねぇ
今でも忘れられないほどの、綺麗な蒼い白さでした。
黒い瞳はね、綺羅綺羅って輝いてました。
空は黄砂で雲って、お日様も翳ってますのにねぇ。

わたしの方はね、圧倒されての必死さでした。
其の視線を、如何しても逃げずに って!
逃げたら、自分の中のね、小さいけども僅かに残ってる
矜持が何処かにぃ っと。


「どぉした 」

わたしの背中に、言葉が。

「ぁ!班長殿、この人が桜の枝を渡したいと 」
「誰に? 」
「今日、出撃の隊員にです 」
「今日ぅ・・・・かぁ・・・ 」

「お願いします!お願いします!! 」

声が一段甲高くなって懇願し、必死さナ瞳で見つめて乞い願う言葉を吐く其の顔
視ている此方が、苦しくなってくるような、無表情に近い顔でした。

突然。 飛行場から少し離れた林の中の半分土に埋まって
周りの風景に溶け込むように迷彩を施され、高空を飛んでくる
敵の偵察機から発見されないように、秘匿された大きな防空格納庫から
出撃前の発動機調整の為にの、耳を聾する轟音が!

女学生さん。 顔が益々にぃ!
真っ白になりましたよ。 まるで蝋人形の顔かとっ!
もぉぅ、わたしはですよ、堪らんかった。


「おぃ、便箋持って来い 」 耳元で班長が、怒鳴るように。
「はっ? 」 同じく。
「いぃから、持って来い 」

訳判らんかったけど、何となくですよぉ、何となく。

便箋は見付かりませんでしたから、便箋代わりの整備状況の控えを取る
帳面の後ろの方の頁(ページ)を数枚破り、急いで戻りました。
タブン、怒られると想いましたけど、班長、軽く頷いて受け取ってくれました。


発動機の音、しなくなってました。

代わりに聴こえるのは、遠くの空で雲雀がでしょうかねぇ
何かの鳥が囀るのが、時折、聴こえてました。
長閑さが、其の場の救いになるようなですね、そんな雰囲気が辺りに漂ってました。



「此れに、何か書きなさい 」

近くの桜の木の下で、自分は立って、班長は女学生と並んで座ってました。

「はい、申し訳ありません 」

屈んでモンペの膝の上で、チビタ鉛筆を指先で持つ手
元々滑滑で綺麗だったろうに、大人顔負けの勤労奉仕で
酷く荒れていました。
まぁ、当時はですね、誰でもでしたけど。


書き終わるのを待つ間に、班長。
ナニを想ってか、地面を近くに落ちていた枯れ枝で掘り出しました。
彫った土、手で丸めたら、桜の枝の枝の切り口で挿します。
そぅして白いハンカチで、其の桜の枝が刺さった土を包みます。
最後に、きつく結んでました。


「書きました 」
「ぅん、じゃぁ貸して 」
「ぇ! 」
「半分に折りなさい 」
「はい 」

半分に折ったのを受け取ると、其れを折り続けて細くしました。

「此れ、枝に結びなさい 」

女学生さん、見る見るうちに目に涙ッ!
震える指先堪えて、なんとか、のノ字に結び終えました。
結ぶ間、桜の花がね小さく頷くようにぃ揺れてました。

「寄越しなさい 」

女学生さん下向いて、渡していましたよ。
其の手ね、涙で随分と濡れてた。
書く間は、我慢してたんでしょうねぇ!

 泣くのを。


「此れ、今からね、操縦席に置いときます、水を与えてね、お名前は? 」
「ッ? 」
「誰の飛行機にですか? 」

もぉぅ! 彼女、堪え切れなかったんですよ。
嗚咽がね、絞るようにぃ !!

自分、戦争がぁ~!アホがぁ~!! 心でですよ。



搭乗員、操縦席に入りかけたら気づきましたよ。
自分、反対側から主翼の上の隊員に、指で教えました。
飛行場の近くの、大きな桜の木の下、指で示して。

若者、示した方角に顔を向け、直ぐに気づいて躯を向けました。
其れから敬礼じゃぁなく、腰を深く折りました。

わたしぃ、あの時以来、今日の今まで若い者のですねぇ
あんな嬉しそうな笑顔ッ! 未だにぃ視た事は無いんですよ。



あの時の桜はですね、特攻の最後まで一緒だったんじゃぁ無いんですよ。
若者、操縦席で、直ぐに枝に結んだ手紙を読み終わると
手紙は自分の胸のポケットに、枝はわたしに渡すんですよ。
っで、怒鳴り声で、爆音に負けないようにですよ。


これ持って逝ったら自分 罰が当たります 敵艦に思う存分に突入ぅがぁ! 


自分、此の時まで送り出す特攻隊員にはですよ、涙なんか見せた事がっ!
けどねぇ、あの時にはぁ、本当にぃ隊員には申し訳なかったですよぉ!

わたしが翼から飛び降りると、チョーク(車輪止め)外せの手合図が。
機が離陸するまで、若者の顔、桜の木の方角ぅ向いてました。



「この桜、貴女の元で枯れさせてくださいと、手紙で十分だからと 」

桜の木の下で、見送っていた女学生さんに、枝をお返しいたしました。
受け取った時、無言でした。 魂が、抜け切ったみたいでした。

「それと、これもぅ 」

わたしね、周りを気にしながら素早く、彼女の手に握らせました。
海軍が搭乗員に支給の、航空時計。

「自分にはもぉ此れは必要ないですよ、機の時計が在るからっと言ってました 」

彼女、腕時計を直ぐに耳元にもっていきました。


「ぁ! 刻んでる、あの人のぉ・・・・ 」





今の季節になると、如何にもぅ・・・・・!