【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

腐爛ナ桜  

2007年03月17日 02時26分04秒 | 幻想世界(お伽噺) 

フランナ サクラ   



「 二十三年前 」



わたくしが埋葬され 埋まる時には あの丘にお願いします
あの丘の高さならば 何時でも 町が見下ろせるから
雨上がりで空気が澄んでいる時には 隣の街も見えるから

夕方の街の喧騒 風に乗って聴こえるかも
だから わたくしは きっと寂しくないでしょう


わたくしが埋もれる丘は 秋の終わりころに
白さなススキの穂に 覆い尽くされることでしょう
その頃ならば 初冬の招き風 丘を吹き渡り
ススキさんたち みんな仲良く 白波のように蠢く事でしょう



わたくしを埋める時には 焼かないで下さい
焼かないで 生のままでお願いします
死化粧は 自然な感じでお願いします
三途の川の渡し賃は 決して添えないで下さい

何故なら 未練でしょうけど
此の世の何処かをですね さ迷いたいから
わたくしの躯は 地面の下でも

わたくしは さ迷いたいから



埋葬は 夕方近くにお願いします
黄昏が お似合いですから 埋まるときには
終わったら 墓の上に立ち よく土を踏み固めてください
そおしながら 夕方の空を見てください
夕焼けが綺麗だったら わたくしは喜んでると
あなたに踏まれて 喜んでいるから

そして最後に 若い桜の苗木を植えてください



長い時間を掛けて 土の中でわたくの肉体は
ゆっくりと 腐爛して 逝くことでしょう
その朽ちて融け逝くわたくしの躯 若い桜の木の肥料となります

苗木を 育てていくのは わたくしです


土は 長い年月で わたくしの躯を骸骨だけにするでしょう
わたくしの死への想いは 長い年月で 桜の木をですね
わたくしの 未練な想いで 育てる事でしょう


わたくしは 桜の木の根っこから
桜の木に入ります 穏やかに自然に入ります
桜の花は 腐欄なわたくしの養分で 咲き誇ります
桜の木は 年毎に大きくなりながら
腐欄なわたくしと 一緒になって成長します


土の中で わたくしの骨だったもの
何故に肉だけがと 寂しがる事でしょうか
わたくしだった髑髏(シャレコウベ) 土を食みながら
寂しそうに 笑うことでしょうか



朝日射す 二階の仏蘭西窓

その外のテラス 朝露の中並んだ茶色ナ鉢には
花びらに 綺麗な雫を載せた 薄青い朝顔が望めました
向こう側には あの時の 丘が
近いけど 遠すぎる丘が

わたくしは 見たくも無かった

無理にと 視界の隅に
何時の間にかに 何時の間に

心の均衡 気づかぬうちに
壊れ始めていました

 



「 昨日の 次の日 」


あの人が、わたくしじゃぁなく
あの丘の 桜の木の下の 土の中に

貴方の 二十三回目の命日に わたくしは貴方の枝にです
揺すられながら この躯をですね 吊るす事でしょう

その時 桜吹雪が舞うのでしょうか
数えきれないほどの 沢山の小さな花びらが
緩やかな風に乗って 貴方の下にも逝く事でしょう


きっと 桜の木も枯れるんでしょう
腐欄しながら 枯れるんでしょうぅぅ


あの時の感触 掌にいつまでも
貴方を殺めた 掌の感触
何もかも 悉く 何もかも

触れなば あの時の感触
桜の木の 木肌触り


 あの時の 


わたくしの 手肌は 腐欄です