サッカーのキリンカップの決勝が、7日、大阪で戦われ、日本は、
ボスニア・ヘルツェコビナに1-2で負けました。
きょう、書きたいのは、その試合のことではありません。
試合後のインタビューのことです。
試合の後、放送したテレビ朝日の若手アナウンサーが日本の選手
にインタビューをしましたが、インタビューが、あまりに下手なの
です。
この話は、前にも書いたことがあります。
同じことを書くのは気が進まなかったのですが、しかし、あまり
の下手さに、もう一度書かずばなるまいと思いました。
では、どう下手だったか。
アナウンサー君は、まず、日本チームのリーダーである長谷部選
手にインタビューしました。
アナウンサー「お疲れさまでした。残念な結果になりましたが、
いま、どんな気持ちですか」
長谷部選手「うーん。残念ですね」
アナウンサー「前半、先に点を取ってすぐ、点を取られました。
前半、振り返っていただけますか」
長谷部選手「うーん。点を取った直後に・・・(略)・・・」
アナウンサー「9月からワールドカップの最終予選が始まります。
意気込みを聞かせてください」
長谷部選手「はい。絶対勝たないといけないですからね。また応
援よろしくお願いします」
アナウンサー「お疲れさまでした」
これだけの短いインタビューに、下手さ加減が凝縮されています。
まず第一に、「いまの気持ちを教えてください」です。
こんな古典的な手あかのついた言い回しをつかって、アナウンサ
ーとして、はずかしくないのだろうかと思います。
第二に、「前半、振り返っていただけますか?」とは、いったい、
どういう手抜きのインタビューでしょう。
選手は、いま試合が終わったばかりで、疲労しています。しかも
負け試合ですから、疲労はなお大きいでしょう。選手もがっかりし
ています。実際、長谷部選手も、冴えない表情をしていました。
その選手に、「前半、振り返ってください」はないでしょう。
この質問、試合をずっと見ていた監督に聞くのならともかく、試
合を終えたばかりの選手に聞いても、選手は、答えようがありませ
ん。
第三に、いま試合を終え、しかも、負けた試合です。その直後で
すから、選手はだれしも、しまったとか、残念とか、なんで負けた
んだろうかとか、くやしいなあとか、そう思っているところです。
そう思って、いま負けた試合のことを考えています。
その選手に、「ワールドカップ最終予選に向けて意気込みを語っ
てください」と聞いても、選手は、いま、意気込みなど語れるはず
がありません。意気込みを語るような気分じゃないでしょう。
長谷部選手は紳士ですから、律儀に「負けられません」などと答
えていましたが、ちょっと、想像してみてください。私たちが試合
に出ていたとして、さあ、残念ながら負けてしまいました。くやし
いなあ、何が悪かったんだろう。そう思ってがっかりしているとこ
ろへ、「意気込みを聞かせてください」と言われたら、怒りますよ。
第四に、これがまた、一番いけないですが、このアナウンサーの
質問は、試合を見ていなくても聞けた質問なのです。
そうでしょう。
「いまの気持ちは?」
「試合、振り返ってください」
「次の試合の意気込みを」
この質問は、試合を見ていなくても、できます。
せっかく、試合の現場で、選手に質問するのです。そもそも、ア
ナウンサーは、試合を見ているわけでしょう。それなら、試合を見
ていた人ならではの質問を、なぜ、しないのでしょうか。
この原稿、書いているうちに、だんだん、ハラが立ってきました。
このアナウンサーは、次に、清武選手と宇佐美選手にインタビュ
ーをしました。
これも、ひどかったですよ。
まず、清武選手です。
清武選手は、いつもは笑顔を見せますが、このときは、負けた直
後で、憮然とした表情をしていました。
その憮然とした選手に、アナウンサーは、やはり、「いまの気持
ちを教えてください」とやりました。清武選手は、何を聞くんだ?
という感じで、投げやりな感じになり、ただひとこと、「残念です」
とだけ、答えました。
いまの気持ちは?と聞かれたら、残念ですとしか答えようがあり
ません。
清武選手は、ひとこと、残念ですとだけ答えて、ぶすっとしてし
まいました。そんな質問するなよ、という感じがありありと出てい
ました。
この対応に、アナウンサーは、話の接ぎ穂がなくなってしまい、
焦るように、また「得点シーン、振り返ってください」みたいな質
問をしました。清武選手は、なにかまた、ひとこと、短く答えただ
けです。
よせばいいのに、アナウンサーは最後にまた、「ワールドカップ
最終予選の意気込みを」とやりました。清武君は、いよいよ、むっ
とした感じになり、なにか短く答えてだけです。
最後に、宇佐美選手です。
宇佐美選手は、負け試合に、さらにまた、ぶすっとした表情で登
場しました。くやしかったのでしょう。
そういう選手に、アナウンサーは、また「いまの気持ち、教えて
ください」という感じの質問を出しました。
宇佐美選手は、憮然としています。
憮然とした様子がアナウンサーにも伝わるから、アナウンサーは、
これはいけないと思うのでしょう、やたらに声だけ張り上げて、元
気そうに質問するのです。ところが、宇佐美選手は、元気そうな質
問に、元気に答えようという雰囲気ではありません。
テレビでインタビューを見ていて、こちらがハラハラするような
きまずい空気が流れました。
最後の質問が、また、最悪でした。
試合の会場は大阪でした。
宇佐美選手は、大阪出身です。
そこで、アナウンサーは、こう聞いたのです。
「ここは宇佐美さんの出身地ですから、きょうは勝ちたかったで
すね」
この質問には、テレビを見ていて、思わず、「あほか」と、突っ
込みを入れたくなりました。
宇佐美選手も、この質問には、えらく不機嫌になりました。
そして彼は「試合は、どんな試合でも勝たないといけませんから」
と、突き放すようにして、答えました。
それはそうでしょう。
この試合は、キリンカップという大きな大会です。ハリルホジッ
チ監督は、国際Aマッチ級の試合と位置づけて、海外組を大勢呼び、
本気で勝つつもりでした。
そんな試合に、大阪出身だから大阪で勝ちたかったでしょうね、
とは、なんとまあ、寝ぼけた質問ではありませんか。この質問をし
た瞬間に、せっかくの試合が、なんだか、どさ回りの試合みたいに
なってしまいます。この質問、選手にも、観客にも、失礼でしょう。
まことに不思議なのですが、毎回毎回、試合のたびに、同じよう
に、紋切り型のつまらないインタビューを見せられます。
アナウンサーもテレビ局も、もう少し、勉強したらどうかと思い
ます。
テレビ局で、組織的に、勉強する機会を作る必要があります。
いや、そういう機会があろうがなかろうが、インタビューをする
人間は、アナウンサーであっても、記者であっても、個人で、ひと
りで、自分で、インタビューの方法、インタビューの作法、良いイ
ンタビューの技術を、みずから、工夫して、身につけるのが本当で
す。
テレビで見ている私たちのほうがはずかしくなるようなインタビ
ューを、いったい、いつまで続けるのでしょうか。
テレビ局もインタビュアーも猛省をーーというより、
繰り返し、同じインタビューばかりしているのを見ていると、
どこか、根っこのところで、抜本的な改革が必要だと思わざ
るをえません。