いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

国会の原発調査委と菅前首相。そして民主党の悲しさ・・・菅直人氏は首相になる人ではなかったのです。

2012年05月29日 23時28分22秒 | 日記

 原発をめぐる国会の調査委員会で、菅直人・前首長が参
考人として呼ばれ、質問に答えました。

 聞いていて、私の考えはというと、
 菅直人という人が一生懸命だったことは認めますが、し
かし、組織の長、組織のリーダーではなかったなあ。
 ということです。

 それが端的に出たのは、原発事故の翌日、2011年3
月12日に、自ら、ヘリコプターで原発の視察に向かった
ことをめぐる質疑です。
 首相が事故を起こしている最中の原発に向かったのは、
現場の作業を邪魔して、事故への対応を遅らせただけでは
ないのかーーというのが、菅氏への批判です。

 これに対して、菅氏は、
1) 私のところに情報が上がってこないので、状況が
全然分からなかった。
2) だから、現場に行って、どうなっているのか実際に
    確かめたかった。
3) また、現場の人と会って、顔と名前が一致すると
いうことも大事だと思った。
――と答えました。

 うーむ。
 これを聞いていて分かるのは、菅氏というのは、こうい
うことをしたのが悪かったとは、いまも、まったく思って
いないーーということです。
 いや、むしろ、菅氏は、いいことをしたと思っているの
ではないでしょうか。

 もし菅氏が、運動部のキャプテンであるとか、会社の課
長とか係長であるとか、あるいは、組織の中間管理職であ
るとかなら、こういう行動は、賞賛されるかもしれません。
 しかし、日本という国の文句なしにトップにいる首相と
いう肩書を持てば、話は別です。首相が、こういうことを
してはいけないのです。
首相は、中間管理職ではありません。
そこのところを、菅氏はまったく理解していないのです。

 そう書いてしまうと、なにやらえらそうな話に聞こえる
でしょうから、私自身の経験を書いてみましょう。
 G7サミットとか、日米首相会談とか、大きな国際会議
を想定してください。
 そうした会議では、最後に、記者会見があります。
 当然、大勢の記者が会見に出ます。
 それはそれでいいのですが、会見の時間が、新聞やテレ
ビのニュースの締め切りに近い場合が、よくあります。
 大きな国際会議は何人かの記者でチームを組んで取材に
当たります。そういう場合、最後の記者会見に、つい、全
員で入ってしまうのです。これが、間違いのもとです。
 だれか一人、具体的にはその取材チームのリーダー格の
人間が、会見場の外にいて、原稿の取りまとめをしないと
いけないのです。
 もう締め切りが来ているというときに、取材チームのリ
ーダーまで会見場に入ってしまうと、原稿のとりまとめが
できず、締め切りに間に合わなくなります。
 もちろん、本来なら、会見にはリーダーこそ入るべきで
しょう。締め切りまで時間があって、余裕があるという場
合は、リーダーも、会見場に入り、会見の様子を自分で知
るべきでしょう。
 しかし、締め切りが来ていて、切迫しているというよう
な場合には、リーダーは、会見場の外にいて、原稿のとり
まとめに当たるべきなのです。
 そういうことは、経験をして、初めて分かります。
 経験しないと分からないことですし、経験したことは次
の人に伝えていかなければなりません。

アメリカの場合、
「リーダーシップは訓練で身につけることができる」
「リーダーは育てられる」
という考え方があります。
アメリカはマニュアルの国ですから、
「リーダーシップの取り方」
 というような本があったりします。

アメリカの手法がいいか悪いかはひとまずおくとして、
日本の場合、リーダーを訓練で育てようという風土はあり
ません。
それなら、リーダーシップは、経験で身につけるしかあ
りません。

 そういう視点で菅氏を見ると、菅氏は、長い間、
リーダーとして、どう行動すればいいのか。
リーダーは、どう行動するべきか。
ということを経験する場面がなかったのだろうと思いま
す。

これは民主党の政治家の多くに言えることなのですが、
民主党はずっと野党だったので、実際に責任のある与党
として仕事をしたことがありませんでした。
だから、そういう「経験」を積む機会がなかったのです。
「経験」を積まないまま政権与党になってしまったのが、
民主党の悲しさであり、民主党の失敗です。
 
 佐高信氏が、田原総一郎氏との対談で、おもしろいこと
を話しています。
 ・・・菅直人という人は、事務局長みたいな意識がある。
閣僚になっても、たとえば、会議のあと、椅子の後片付け
をするんです。そんなことをしなくてもいいといっても、
彼は、それが自分の仕事だと思っている。・・・
 
 普通なら、これは、美談になります。
 会議のあと、役員が自ら椅子や机の後片付けをする。
 いい話です。
 しかし、首相になって、それをやってはいけないのです。
 私たち国民は、首相に、椅子や机の後片付けをやっても
らおうと思って、民主党に投票したわけではありません。

 原発事故を見に行こうとしたこと、現場の人の顔と名前
を知りたいと思ったこと。
 それは、立場が違えば美談になるでしょうが、しかし、
首相が、それをやったら、暗愚になります。
 なによりも、国民は、首相にそんなことをやってもらお
うと思って民主党に投票したわけではないのです。

 悲しいかな、菅直人氏は、そこが、決定的に分かってい
ないのです。

 今回の原発事故に際し、彼がやらなければならなかった
のは、調査委員会で菅直人氏が説明したことでいえば、
 1)の、首相のところに情報が全然来なかった
 というところです。
 これは、首相として、断固、即座に、改めるべきでした。
 とにかく、情報を、全部寄こせ。
 情報がどこかで止まっているなら、その場所と原因を突
き止めて、情報が流れるようにせよ。
 即刻、そうせよ。
 それが出来ないものは、解任する。
 そう言って、そこを改めるべきだったのです。

 ところが、彼は、情報が来ないからといって、自分で原
発を見に行った。
 これは、会議の後、だれも椅子を片付けないから、じゃ
あ、俺が片付ける、というのと同じです。

 菅前首相が、一生懸命だったのは、その通りでしょう。
 しかし、菅氏は、首相になってはいけなかったのだと思
います。

民主党に、そのことが分かっている政治家はいるのでし
ょうか。いることを心から望みます。