三洋電機が、こともあろうにパナソニックの手によって
ハイアールに切り売りされたとき、「ついにこの日が来ま
した」と書きました。
きょう再び、「ついにこの日が来ました」と書かなけれ
ばなりません。
半導体メーカーのエルピーダが、会社更生法の適用を申
請したのです。早い話が、倒産です。
エルピーダが製造していたのは、半導体の中でも、DR
AMと呼ばれるメモリーでした。
これによって、DRAMを製造する日本企業は事実上、
なくなってしまうかもしれません。
エルピーダの倒産のほうが、三洋電機よりも衝撃は大き
いと思います。
1980年代から90年代にかけて、日米半導体摩擦と
いう激しい日米摩擦がありました。
当時、世界のDRAM市場を、日本企業が制覇してしま
ったのです。アメリカ市場も、日本企業が席巻します。
NEC、富士通、東芝、日立、三菱電機、沖電気など、
日本のほとんどの電機メーカーがDRAM の製造に携わ
り、アメリカの半導体会社を駆逐してしまいます。
DRAMはあらゆる電機製品で使われるため、産業のコ
メなどと呼ばれました。
そしてなによりも、日本がDRAM市場を制覇したこと
によって、「電子立国」という言葉が生まれました。
1980年代から90年代にかけて、日本は電子立国で
行くんだという機運が充ち満ちます。その「電子立国」の
中心として考えられていたのが、DRAMだったのです。
80年代後半、ソニーの盛田昭夫さんと石原慎太郎氏の
共著で「NOと言える日本」という本が出ます。何に対し
てNOかというと、アメリカに対してNOです。
貿易摩擦で日本に無理難題ばかりふっかけてくるアメリ
カに、断固、NOを言おうというわけです。
その際、DRAMが念頭にあります。
F-14トムキャットや、F-15イーグルは、アメリ
カが誇る最強の戦闘機ですが、いずれも、DRAMが大量
に使われています。そのDRAMを供給しているのは日本
の電機メーカーです。だから、日本の電機メーカーがDR
AMの供給を止めれば、F-14もF-15も、作ること
ができません。
だから、アメリカが無理難題を言ってきたら、DRAM
を売りませんよという姿勢をちらつかせて、NOといおう
ーーというのです。
日本製DRAMの品質の高さも、日本の技術の高さを示
すものとされていました。日本製のDRAMは1000個
作っても不良品は出ないが、アメリカ製のDRAMは10
00個のうち数十個も不良品が出るので、とても使えない
ーーというのです。
当時、DRAMは、日本企業というより、日本経済の輝
かしい力の源泉、シンボルというイメージがありました。
昔のことではありません。
たかだか17,8年前のことです。
日本の半導体メーカーは、90年代半ばから、韓国と台
湾のメーカーの急速な追い上げを受けます。
DRAMは、常に新しいものを生産していかなければな
らず、多額の生産投資が求められます。しかし、韓国、台
湾勢が追い上げてきたころに、日本はバブルが崩壊し、日
本企業は、多額の投資をするだけの体力がなくなってしま
します。
その結果、日本の電機メーカーはDRAMの生産から次
々に撤退し、残ったNECと日立が、生き残りをかけてD
RAM部門を合体させて作った会社がエルピーダです。
そのエルピーダが、とうとう、倒産したわけです。
「電子立国」や「NOといえる日本」のバックボーンに
あったDRAMを作る会社が、とうとう、消えてなくなる
のです。
実は、エルピーダは、再建に向けて、アメリカの半導体
会社マイクロン・テクノロジーに提携を打診していまし
た。
倒産後、マイクロン社が、エルピーダの救済に入る可能
性も報じられています。
この話も、「とうとうその日が」という話なのです。
というのも、マイクロン・テクノロジーは、1980年
代、日米半導体摩擦のきっかけとなった会社なのです。マ
イクロン社は、80年代、日本の電機メーカーがアメリカ
市場に半導体をダンピング輸出しているとして、米政府に
訴えます。それが日米半導体摩擦のスタートになるのです。
マイクロン社は、アイダホ州にある小さな半導体メーカ
ーで、訴えたものの、やがては、日本企業の攻勢に堪えき
れず、倒産するのではないかと見られていました。
ところがどっこい、マイクロン社はしぶとく生き残り、
逆に、その日本企業を救済しようというのです。
本当に分からないものです。
あれだけ、世界に覇を唱えた日本の電機メーカー、半導
体メーカーが、それからたかだか10数年で、ここまで凋
落してしまうとは、考えもしませんでした。
世界のDRAM市場は、韓国のサムスン、やはり韓国の
ハイニックス、日本のエルピーダ、アメリカのマイクロン
・テクノノロジーの4社で、寡占状態となっています。
エルピーダが撤退すれば、日本は、DRAMを海外メー
カーから輸入しないといけないことになります。
こんなことは、80年代、90年代には、考えもしなか
ったことです。
とんでもない事態になりました。
日本企業、日本経済は、このまま凋落の道をたどるので
しょうか?
それとも、この危機感をバネにして、ふたたび復活する
日も来るのでしょうか。
非常に心配なことが、ひとつあります。
それは、日本企業、日本経済のこれだけの危機に臨んで、
民主党政府から、ほとんどなんの反応も返ってこないこと
です。
エルピーダは、政府資金で救済してもいいぐらいの大事
な企業です。
野田首相の顔を見ていると、エルピーダの倒産の意味を
まったく分かってないのではないかと、本当に心配になり
ます。
このままでいいはずがありません。
奮起せよ、日本企業。
奮起せよ、日本の企業人。