ヘレンさんのお葬式も終わり
レストランも1週間ぶりにオープンされた。
木曜日の夕方 仕事に行くと
バーもレストランもしんと静まり返っていたが
6時を過ぎる頃には活気だって来
何もせずに ぼんやり立っている苦痛から救われた。
この夜 アイオワに住む何でも屋の義弟が
仕事を終え 一人の息子と一緒に
店に来た。
乳児の時に義理妹夫婦の家に来た彼も
もう高校生だ。
バーで軽食を取り
ダーツをして遊んでいた彼は
帰り際にわざわざレストランにやって来て
ハグをしてくれる。
”学校に戻る準備は出来た?” と訊くと
”ぜぇーーんぜん、学校なんて戻らないで
ずっと お父さんのお手伝いをしていたいよ。” と
ニコニコして彼が云う。
目が極度に悪い彼の事を
”目が見えなくなるかもしれない” と
義理妹が心配して話していた事は忘れられない
彼の目が悪いのは乳児の頃
実母のボーイフレンドに
暴力を受けた事からかも知れないと聞いてからは
不憫でたまらない。
”じゃぁ 来週の土曜日にね” と
義母が帰省した時の会食で会おう と云うと
”うん” と力強く言った彼に
パッと明るい陽が射した。
” おばあちゃんに会うのが
僕 とっても待ち遠しいよ。” と
続けた彼の優しい眼差しが
ずっと心に残り
やわらかいベールで包まれたかのようだった。

彼のこの優しい眼差しこそ
記憶にしっかりと残したい
価値ある瞬間、、、だ。
