最期を看取るプログラムは
一人のホスピスボランティアさんによって
提案され出来たプログラムで
今年スタートしたばかり。
死を前にされた患者さんのインフォメーションは
メールでなく電話によって
希望するボランティアたちに送られる。
頂くインフォメーションは
患者さんの名前、住んでいる場所、年齢 それに誕生日、、と
ワークシートに記入しなくてはいけない内容のみ。
メールやテキストを使わないのは
患者さんの情報が他に漏れる事を避けるためのようだ
こういった事にホスピスは非常に慎重
患者さんは
ラテン語で鳥を意味する名を持つ婦人なので
鳥婦人と呼ぼう。
鳥婦人が住んでおられる老人ホームの名に聞き覚えがあると思ったら
その昔私たちが住んでいたストリートに建っていた。
鳥婦人の部屋に行く途中
”まあ 鳥婦人に会いに行かれるの
彼女はそれはスイートな方なのよ。” と
エレベーターの中で一緒になった一人の従業員に
そう言われ
緊張感がほぐれる。
病室に入ると見るからに小柄の鳥婦人が
真新しいキルトの掛け布団をかぶって
深い息をしながら眠っておられた。
”患者さんの手を握る”
”お祈りの言葉をかける” などのアドバイスもあったけれど
お祈りの言葉も覚えておらず
手を握るには
室温が低く感じられ
布団から腕を取り出す事を躊躇った私は
鳥婦人のベッドサイドにあったCDプレイヤーのディスプレイにある番号が
赤く点灯しているのに気づき
プレイボタンを押した。
波音や鳥の鳴き声をバックにし
ピアノやハープの演奏が静かに流れ始める。
流れる音楽にも何の反応もしない鳥婦人は
同じパターンの深い呼吸を繰り返されるだけだった。
呼吸は深くとも
苦痛を感じておられるように見えなかったのは
傍にいる私にも大きな救いだった。
そんな中で
高校時代に観たアメリカ映画を思い出した。
映画の内容は覚えていないのに
その中の1シーンが何故か記憶に鮮明。
それは、、、、、、、、
安楽死を選択できる未来の社会に暮らしていたある老人が
安楽死センター?に行く事を決める。
老人は係り員に自分の好きな映像や音楽を伝え
通された部屋にあるベッドに横になる。
スクリーンに映る大自然の画像を追いながら
ベートーベンの田園を耳にし
老人はあの世に旅立つ。
と言う物。
映画のそのシーンを思い出しながら
安らかに逝かれますように、、、と
深い呼吸をする鳥婦人の傍で2時間程過ごした。