語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


バリ島日記 ? 椰子の木の話(後編)

2010年02月27日 | 旅日記
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椰子(やし) は、食用にできる実だけでなく

葉も木もあますところなく活用されている。


バリ島は、ヒンズー教徒の割合が高い。

上の写真は、そのお祭りの時に、村中で一斉に作る飾り。

太い竹に、椰子の葉で細工した飾りをつけて、

お寺を中心に、メインストリート沿いに何本も立て飾る。

下の写真も、お寺に飾る祭事用の飾り。

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バリ ヒンズーの人々は、

毎日、椰子の葉やバナナの葉で小さなかごを編み、

お米や豆や小さな花などをのせて、

土、水、木. . . . やおろずの神々にお供えをする。

その数、1日に30個とも。

天然素材の器だから、中身もろとも

生物が分解して、すぐに自然界に還っていく。

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小さい時から、丁寧に、毎日繰り返していること。

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知り尽くされた椰子の葉は、その指の動きに逆らわず、

目にも留まらぬ速さで、美しい立体形に生まれ変わって行く。

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椰子は、木材としても大変重宝されている。

家の柱をはじめ、さまざまな建材としての用途、

くりぬいて、器としても使われる。


これは、海塩を干すための容器。

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さて、最後に、椰子の実を食べたあとの殻の話。


まず、外側のモケモケの繊維は、日本でおなじみの

亀の子たわしの材料である。


椰子は、殻さえ いろんな活用方法がある。

ここに書くのは、一週間の滞在中、私が見た限りのこと。



秦泉寺さんに教わった、ココナツ染めの行程

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殻を2時間ほど煮出す。

美しい色を抽出するには、直火の強い火力が必要。

燃料として、椰子の葉も大胆に。

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煮出した染め液に布を入れ、

回しながら、じっくり色をしみ込ませていく。


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染まったら、何度も水にさらして

色をととのえる。

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太陽の下で乾かして、

ココナツ染の布が完成。


少しえんじ色かかった、ピンク色。


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あの椰子の木のどこに入っていたのだろう、

こんなにきれいなピンク色。




さて、出がらしの椰子の殻は、

最後に燃料として活用される。

その熱量で、おいしい地鶏を焼いて頂いた。




ついに灰となった椰子は、土の栄養となり、

次の椰子につながっていく。




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ひとつの命が、あますところなく燃焼する。


自然のいとなみの中に、人間が在る。

そこに文化を作り出し、

生活の中に愉しみを取り入れる。


共存と創造のすばらしいバランス。


生まれてきて、朽ちていく

作り上げて、放出する(あるいは破壊される)



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くりかえす、くりかえす、

なんていさぎよいのだろう。


この創造と崩壊のくり返しが、

やがて美しい姿となって現れてくるということを

バリ島は教えてくれた。


バリ島の話、おわり


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バリ島日記 Ⅹ 椰子の木の話(前編)

2010年02月24日 | 旅日記
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バリ島の中心地では、近年、

椰子の木がどんどん減っているのだという。

管理するのがなかなか大変で、

昔、男たちは誰でも登ることができたのに、

街ではすっかり現代の生活が定着し、

学校の体育の時間でも教えてもらえない。

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だから椰子の実ひとつ採るにも

椰子の木登りの専門家を呼ぶことになる。

採らなければ、30メートル上空から、

堅い実が落ちてくることになり、

人にも建物にも危険ということになる。


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さて、バリ島で染色のアトリエをもつ秦泉寺さんは、

昔ながらのバリの生活を実行していらっしゃるから

当然、椰子の木も敷地内で大きく育ち、

日傘として、天然の扇風機として、家族を守っている。


実が落ちてきたとき、現代の瓦屋根なら割れてしまうが、

秦泉寺さんの家の屋根はかやぶきだから、大丈夫。


昔は自然とうまく共存し、

すべてにバランスがとれていたのだ。


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椰子の実いわゆるココナッツは、

よく熟した実、

ほどほどに熟した実、

そしてまだ青い色の若い実、

それぞれの段階で、使い分けられる。


若いココナッツの中には、ほんのり甘いジュースが入っている。

病気の時には欠かせないそうで、

ポカリスエットなどのスポーツドリンクの発想は

このミネラルバランス抜群のジュースからきている。


体の細胞にすんなり浸透していく。


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ほどほどに熟してくると、

成分が濃くなって、ココナツミルクがとれる。


さらに熟したら、内側の壁に、

固形の白い果肉が残り、それをすって

お菓子に使ったりする。


油分だけをとる方法も教えて頂いた。

よく熟した果肉を、お湯で煮ると、

やがて油が浮いてきて、それを丹念にすくい集め、

水気を完全に除去し、

何度も濾して不純物を取り除いたら、

純粋なココナッツオイルの出来上がり。


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滞在中の食事はすべて

この作りたてのココナッツオイルで調理された。

油料理でも、すばらしく消化がよかった。


毎朝日替わりで、いろんな種類のバナナを

フリッターにして出して下さった。

ココナッツオイルはほんとうにあっさりとして

しかもパリッと揚がる。

中はもっちもちのバナナ。


しかし手間がかかることこの上なく、

今はこうして家庭でオイルを作ることは

めったにないそうだ。

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さてココナッツが実るには、当然、

花が咲かなくてはならない。

房状になって、垂れ下がるようにして咲くその花を

竹筒の中に入れて(もちろん木の上に設置)

ゆっくり花のエキスが溜まるのを待つ。


じっくり時間をかけて溜まった花のジュースは、

やがて竹の中でアルコールに変わる。

丹念に蒸留し、透明なココナツの花のお酒が完成。


そのお酒を買い求めに、深い山奥の、小さな集落へ。

普通の民家から、年配の女性が現れて、

家内で作られた中から、少し量り売りして下さった。


お祭りの時に、神様にお供えするために

魂を込め、手間ひまかけて作る。

そんな貴重なお神酒を分けて頂いた。




その味は、摩訶不思議な味。

ツンッと少しトゲがあって、

あとから柔らかに、花が咲く。

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ココナツの話は長い。
後半へつづく。


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バリ島日記 Ⅸ 先住民族の美しい布

2010年02月21日 | 旅日記
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霊泉の地、カランガサンへの道中、

深い山のふところに、バリの先住民族が、

今も伝統の暮らしを続ける、テンガナン村がある。


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山に包まれるように在るその村は、

まっすぐのびるメインストリートから

規則正しく横道が何本も山に向かっていく。


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メイン道の中央には、祭事を行う場所や、

家畜たちの管理棟、子供の遊び場などの

公共の建物が、秩序正しく並び、

村人たちが、先祖代々の伝統を粛々と守ってきた

厳かな空気が流れている。


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この小さな村の女たちが織り続けてきた

美しい絣(かすり)の布は、

縦糸も横糸も、先染めをしてから織るという、

東アジアでは他に類のない織物なのだという。

世界的にみても、数カ所にしかない技法が、

バリ島の中の、小さな村に存在する. . . . .


グリンシンと呼ばれるこの縦横絣は、

信じられないほど難しい方法で作られる。

タテ、ヨコの糸に、先に模様を染めて

あとで織ってきっちり色をそろえるなんて、

超絶した技巧である。

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上の写真が、染める過程の糸。

白い糸をきつく巻いたところは染まらない。

色ごとに巻いたり、外したり、

この糸染めだけで10年かかったという作品も。


さらに織る時は、佳き日だけを選ぶのだという。

そうして気の遠くなるような歳月かけて、

一枚の布が完成する。

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魔除けとして、神に捧げる布として、

祭りの時だけ身につける聖なる布。

そして大切に受け継がれる家宝となっていく。







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バリ島日記 Ⅷ 泉湧くところ

2010年02月20日 | 旅日記
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どうしても連れて行きたい場所がある、と秦泉寺さん。

数々の美しい場所を巡った旅だったが、

そこは特別美しく、霊力あふれるところだった。


山から大量の湧き水が流れ出る。

しかも全貌すらつかめないような巨木の根元を通って。




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そしてその下に作られた段状の池に

満々と水が行き渡り、流れ落ちていく。

色とりどりの花、瑞々しい緑

いたるところに配された石の彫刻。



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この美しい場所は、もともと王宮で、

今は、ホテルに改装されている。

この山ふところの神秘の場所で

あらゆる生き物の気配につつまれながら

静かな夜を迎えた。


突然、ふっとかすかに甘い香りがした。

池の方を見ると、さっきまで閉じていた睡蓮が

闇の中から白い光を放って現れた。


そして、翌朝の光に包まれる睡蓮。

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池のほとりで朝食をとっている時、

今度は艶やかなハスの花が、ゆったり開きはじめた。

ここにいると、もう夢かうつつかわからなくなる。



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王宮の池の水は、やがてふもとの村へ流れていく。

村には、バリの風物詩ともいえる

緑の棚田が広がっていた。


今は王族のいないこの宮殿の庭は、

誰にも開放されているので、

池の一角では、朝から村の子供たちが

大はしゃぎで水浴びをしている。


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私も迷わず、石の上から勢いよく飛び込んだ。

びっくりする子供たち。でも大喜び。

村の子供たちと一緒に、しばし水と戯れる。



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まだつづく。


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バリ島日記 Ⅶ 白色を求めて

2010年02月15日 | 旅日記
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それまで、白を染めるということは

染色の世界では不可能、という常識があった。

「本当にそうなのだろうか. . . . 」

ある日、秦泉寺由子さんは、疑念をいだく。


そして、あらたな探求の旅に踏み出していく。


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熱帯に存在する、様々なニュアンスの白。

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様々な質感をもつ白。

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様々な植物を染めていった。

でも、白に染まらない。

なにかしら色が染まってしまう。

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長い試行錯誤の日々が続いたある日、

天から降りてきたようなひらめきがあった。

スタジオの中にうっそうと茂る、竹。

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「竹をまだ試していない。もしかしたら. . .」

あらゆる方法で竹を染めてみた。

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ある日、太陽の光を浴びて乾いた布が、

光のような白色になった。

それは白なのに、見る方向で、

オレンジが見えたり、ピンクが見えたり

光のプリズムのような白だった。

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奇跡の白い布は、光に透かすと

あたたかみのある、それは美しい色に輝く。

その陰影もまた、すばらしい。


秦泉寺さんの白い布の世界、

現在、東京都/目白にある古民家のギャラリー

「ゆうど」で見ることができます。

2月20日(土)まで。

http://blog.yu-do.noor.jp/


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