バリ島の中心地では、近年、
椰子の木がどんどん減っているのだという。
管理するのがなかなか大変で、
昔、男たちは誰でも登ることができたのに、
街ではすっかり現代の生活が定着し、
学校の体育の時間でも教えてもらえない。
だから椰子の実ひとつ採るにも
椰子の木登りの専門家を呼ぶことになる。
採らなければ、30メートル上空から、
堅い実が落ちてくることになり、
人にも建物にも危険ということになる。
さて、バリ島で染色のアトリエをもつ秦泉寺さんは、
昔ながらのバリの生活を実行していらっしゃるから
当然、椰子の木も敷地内で大きく育ち、
日傘として、天然の扇風機として、家族を守っている。
実が落ちてきたとき、現代の瓦屋根なら割れてしまうが、
秦泉寺さんの家の屋根はかやぶきだから、大丈夫。
昔は自然とうまく共存し、
すべてにバランスがとれていたのだ。
椰子の実いわゆるココナッツは、
よく熟した実、
ほどほどに熟した実、
そしてまだ青い色の若い実、
それぞれの段階で、使い分けられる。
若いココナッツの中には、ほんのり甘いジュースが入っている。
病気の時には欠かせないそうで、
ポカリスエットなどのスポーツドリンクの発想は
このミネラルバランス抜群のジュースからきている。
体の細胞にすんなり浸透していく。
ほどほどに熟してくると、
成分が濃くなって、ココナツミルクがとれる。
さらに熟したら、内側の壁に、
固形の白い果肉が残り、それをすって
お菓子に使ったりする。
油分だけをとる方法も教えて頂いた。
よく熟した果肉を、お湯で煮ると、
やがて油が浮いてきて、それを丹念にすくい集め、
水気を完全に除去し、
何度も濾して不純物を取り除いたら、
純粋なココナッツオイルの出来上がり。
滞在中の食事はすべて
この作りたてのココナッツオイルで調理された。
油料理でも、すばらしく消化がよかった。
毎朝日替わりで、いろんな種類のバナナを
フリッターにして出して下さった。
ココナッツオイルはほんとうにあっさりとして
しかもパリッと揚がる。
中はもっちもちのバナナ。
しかし手間がかかることこの上なく、
今はこうして家庭でオイルを作ることは
めったにないそうだ。
さてココナッツが実るには、当然、
花が咲かなくてはならない。
房状になって、垂れ下がるようにして咲くその花を
竹筒の中に入れて(もちろん木の上に設置)
ゆっくり花のエキスが溜まるのを待つ。
じっくり時間をかけて溜まった花のジュースは、
やがて竹の中でアルコールに変わる。
丹念に蒸留し、透明なココナツの花のお酒が完成。
そのお酒を買い求めに、深い山奥の、小さな集落へ。
普通の民家から、年配の女性が現れて、
家内で作られた中から、少し量り売りして下さった。
お祭りの時に、神様にお供えするために
魂を込め、手間ひまかけて作る。
そんな貴重なお神酒を分けて頂いた。
その味は、摩訶不思議な味。
ツンッと少しトゲがあって、
あとから柔らかに、花が咲く。
ココナツの話は長い。
後半へつづく。