大切な友人同士の結婚披露宴。
音楽、美食、と共感し合うものが多い二人にとって
その「らしさ」が隅々までいきわたる素敵なパーティだった。
ことにワイン好きの新郎新婦だから、
お色直しのドレスは深いワイン色。
私はそのドレスのブーケを任された。
この季節に一番かがやく花の中で、このドレスに似合う花 . . .
春の花、ラナンキュラスをたっぷり選んだ。
赤ワイン、ロゼワイン、白ワインの花色がそろい、
ドレスにも会場にもよく映えていた。
ラナンキュラスは新婦が小さい頃、
家族旅行で出会った、一面の花畑、思い出の花なのだそうだ。
このブーケは宴後、妹さんに手渡された。
きっと その美しい思い出を共有したことだろう。
新郎の友人の中に、私が花屋になって間もない頃、
ブーケを作らせて頂いた方が。
15、6年ぶりの再会、とても感慨深かった。
花の仕事をはじめて17年。
今まで何百個のブーケを作ってきたことだろう。
そのすべてに物語があるから、
ほとんどのブーケを覚えている。
特別の心を込めて束ねる花束。
花嫁にブーケを渡す時は、いつも胸が熱くなる。
末永く、お幸せにね。
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「芍薬」がテーマの結婚披露宴
芍薬は、観賞用だけでなく、
" 生薬 " としても昔から人と関わってきた花。
新郎新婦ともに医療関係のお仕事をされているので
この花で会場を飾るというのは素敵なアイデアだと感心した。
折しも、芍薬が真っ盛り。
今でなければ、そう願っても実現しないことだった。
いつもの年より少し寒いので、
ゆっくりひらいてく芍薬。
待つこと一週間。
花はその日をわかっていたのだろうか、
披露宴の朝起きたら、見事にひらいていた。
咲いたばかりの初々しい芍薬、
今日の晴れの日を彩る花。
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会場は、金沢の老舗料亭、金城楼。
玄関の屏風の前にも、
偶然、芍薬が一輪生けられていた。
立てば芍薬、 そのものの風情。
歴史を刻んだお部屋に、
今日咲いたばかりの花たちを。
背景のお庭の緑も目に鮮やか、
美しい五月晴れの日。
花と人の出会いは一期一会
さらにご縁の不思議、
私の花屋はもと薬局であったため、
アトリエには古い薬品用器具が残っている。
その道具を持ち込んで、薬道具のコーナーを設けた。
濾過(ろか)器やビーカー、すり鉢などに
やさしい野花をあしらった。
紅殻の壁には、試験管の花屏風。
ほんとうに ご縁は異なもの、
ひとつひとつ、一日一日、
大事にしていこう、と思った。
この日は、すべてが輝いて見えた。
この薄桃色の花、
新緑の山を彩る空木(うつぎ)の花。
貴重な品種だそうで、葉に斑点があり、
咲き始めは白く、
やがてうっすらとピンク色に変わっていく。
これを、もとスタッフのるり子ちゃんが
能登にある実家のお庭から持ってきてくれた。
るり子ちゃんの実家は、
「牡丹 (ぼたん) の寺」の愛称で知られるお寺さんなのだが、
牡丹だけでなく、一年中、様々な花を咲かせる
美しい花のお寺なのである。
その るり子ちゃんが金沢の大学に通っていた頃、
ちょうど私が花屋を始めたばかりで、
初代アシスタントとして、
時々、仕事を手伝ってくれた。
卒業後、東京で就職し、かれこれ10年以上たったけど、
先日、ひょっこり現れて、
私の店からすく近所のお寺さんに嫁ぐことになった、
という 驚きの吉報をもたらしてくれた。
細く繋がっていたご縁の糸が、
太く強度を増して、結び直されたようだ。
そして、今日、るり子ちゃんは花嫁になった。
お寺さん同士の結婚式、
仏前の結婚式を 私は生まれて初めて拝見した。
ご本尊への奉告、
僧侶による、笙(しょう)や篳篥(ひちりき)の演奏、
三三九度の杯を交わし
厳かに式が進んでいく。
そして、神式などでは見られない、献花の儀式。
新郎新婦が、それぞれ花を献上する。
御仏前に献げられた花は、
遠い能登の地、
花嫁の実家のお寺に咲いていた花である。
淡いピンク色の芍薬と白いカラーの花。
見物に集まったご近所の人々も、
思わず顔をほころばせて、
花の儀式を見守っていた。
とどこおりなく儀式が終わり、
" 花嫁のれん " の向こうに入った花嫁は、
わたぼうしをはずして、少しほっとした表情になった。
その控え室の床の間にも、
花が美しく生けられていた。
花嫁の家の庭に咲いていた薄桃色の花、
白無垢姿の花嫁を優しく見守っている。
これからの人生にも、たくさんの花が咲いて
慰めと歓びを与えてくれますように。
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