語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


ニコールのウェディングブーケ(前編)

2010年05月26日 | 思い出の花
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薔薇は、私をこの仕事に導く道しるべとなった花である。


私が、花の仕事を初めて意識したのは、

高校2年生の夏だった。


夏休み、私は アメリカ カルフォルニア州の南、

小さな山あいの町で、ホームステイをさせてもらえることになった。

私がお世話になった家は、

おいしいワインを作る、ワイナリーの家だった。


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家族は元ヒッピーのお父さんお母さん、

小中学生の子供が三人、とても楽しい家だった。


二番目だけが女の子、当時4年生くらいだったニコールと私は

毎晩ひとつのベッドをシェアして、ふざけ合いながら眠った。


そのひと月の間に、ニコールの誕生日がめぐってきた。

ある日、お母さんがそっと私を呼んで、買い物に出ようという。

今年は大事な贈り物をしたいから、立ち会ってほしいと。



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向かった先は、ガーデニング ショップだった。

たくさんの薔薇の苗木が並んでいた。

あらゆる色の薔薇の中から、お母さんは、吟味を重ね、

まだひょろひょろの苗木を一本選び出した。

そして、こう言った。

「この薔薇の色が、ニコールの肌の色に合うはず」


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一輪だけ咲いていたその花の色は、

うすいクリーム色に、ほんのりサーモンピンクがかかったような

淡い優しい色だった。


お母さんは、続けて言った。

「この薔薇で、いつかニコールのウェディングブーケを作ろうと思うの」



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そのエレガントな薔薇は、

ニコールの部屋からすぐ眺められる場所に植えられた。


一本の薔薇の木から、ひとつの夢が生まれた瞬間だった。


私は、その時初めて、花嫁の持つブーケというものを意識した。

なにか特別な思いをこめる花束なのだろうと思った。


自分も誰かのために、こんなことをしてみたい。

と、そのとき確かに思ったのだが、

まさかそれを仕事にすることになろうとは。


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ニコールの結婚式の招待状が届いたのは、

それから15年後、私が花屋になって2年目の夏だった。


つづく。

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小さな宇宙

2010年05月24日 | 庭の花たち
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風の音で目が覚めた。

どうやら雨に向かうようだ。

目覚まし時計が鳴るまであと2時間あるが、

もう寝ていられないほど心が騒ぐこんな時は

何かが起きるものである。


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庭に出てみると、あらゆる植物が、

雨を目前にして、なんだかそわそわしていた。

アカシアの甘い香りも、

波のように渡ってくる風にのって、

どこかへ消えていく。


ふと足下を見ると、

3日前には堅いつぼみだったジャーマンアイリスが

膨らみ、そこにいっぱいの力を集中させていた。

5時少し過ぎ、朝一番の光の中で。


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静かに、みなぎる力。


いつの間にか、雨が降り始めていた。


6時、三枚ある濃紫色の花びらのうちの一枚が、

ゆっくりひらいていった。

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花びらは、少しずつ下に向かい、

最後の一瞬、神経を緊張させ、ガクッと垂れた。


7時半、二枚目がひらく。




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9時、三枚目の花びらがひらききった。

それはもう、機械仕掛けのような正確さだった。

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濃紫の花びらと、うす紫の花びらの間から、

黄色い花粉が、その魅惑の姿を現した。

花びらは、大事な花粉を、完璧に雨から守っている。


ああ、なんという神秘!


でもすべてに意味があるのだ。


この自然の中に、私も含まれているはずなのに、

そう、完璧なるバランスの中に、

私も組み込まれているはずなのに. . .



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五月の能登路 ⅲ~牡丹の寺

2010年05月16日 | 能登の花
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能登、富来町の町はずれの、

「草江」という小さな集落に、

一年中、花があふれ咲くお寺がある。


「遍行寺(へんぎょうじ)」というその小さなお寺は、

五月、見事な牡丹の花につつまれる。


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住職さんはじめ、そのご家族が、

丹誠こめて育て、増やし、

今では何百株、何百種類、数は把握できないほど。

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毎年、牡丹の花便りを聞きつけて、

近辺ばかりでなく、県外からも見物客が集まり、

静かな集落が、一転してにぎやかになる。




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住職さんは、かつて高校の先生を兼業されており、

定年退職ののち、この牡丹の栽培に

一層精を出されるようになった。


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住職の奥様も、大の植物好きでいらして、

境内に、なんとイングリッシュガーデンを作ってしまった。

牡丹が終わると、薔薇やハーブや珍しい花々で、

まさに百花撩乱の世界となる。


そんな花好きのお二人は、

暇をみつけては新しい株を探しに出かけるらしい。

こんな珍しい品種も花を咲かせていた。

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そして、お二人の娘さん、るり子ちゃんは、

実は14年前、私が花屋を開店した時の、

初代スタッフなのである。

当時、金沢の大学に通っていて、

私の店に、アルバイトとして手伝いに来てくれた。


もちろん、るり子ちゃんも花が大好きで、

大事に花を扱うその姿勢は、

あきらかに、このご両親から受け継いだものである。


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その後、東京で就職したるり子ちゃんも、

牡丹の咲く頃には帰省して、来客のお世話をする。


今年は、おいしい洋菓子を山ほど作って、

”お寺カフェ” をオープン、大にぎわいをみせていた。

私も、平均年齢たぶん70歳くらいのカフェ客の中に交ざり、

コーヒーとケーキで、花談義を楽しんだ。





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境内の一角には、檀家さんのお墓も並ぶ。

いつ来ても、お墓には、供花があふれている。


住職さんは、お墓参りに来る人のために、と

たくさんの花を育ててるそうだ。

なんとほぼ自由に摘み放題のシステムらしい。


このお寺は、入場料もないし、

能登の人のおおらかさに触れるところである。





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弱い雨も、だんだん激しくなってきた。

ゆったり花びらをひろげる牡丹も、

さすがに水滴の重みに耐えられなくなってきたようだ。




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牡丹の花は、女王の風格、

その華麗な姿は、他を圧倒するほどである。

女王だからこそ、その散り方も激しく、いさぎよい。


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華麗で、壮絶な花。

この奥能登の静かな一角にも、

こんな烈しい命がある。











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遍行寺では、牡丹と入れ替わるように、

シャクヤクや薔薇が 見頃を迎える。

そして季節ごとの花々. . .


こうして冬までの間、花の寺として、

人々の心に 豊穣を与えてくれる。


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五月の能登路 Ⅱ~のとキリシマツツジ

2010年05月15日 | 能登の花
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燃えている。

花が、燃えている。



大昔、火の国 九州から伝えられた種火が、

能登の地で、見事に点火した。

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火の国から来たツツジは、

異なる風土の中で、少しずつ変容し、

のとキリシマツツジとして、

この地で、命を燃やし続けている。





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五月の能登路 Ⅰ~藤の花

2010年05月15日 | 能登の花
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五月雨。

この季節の雨は、やわらかい。

透けるほど繊細な 木々の新葉や、

大地から出てきたばかりの小さな芽を

傷つけないよう、やさしく天から降りてくる。


そんなやさしい雨の中、能登路をいく。

萌える新緑の山からは、

藤の花のシャワーが降り注ぎ、

あたりに甘い香りを放っている。


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一瞬、目を疑うほどの、大きな白藤と出会った。

巨木にからみつき、天へと登らんという迫力だ。

そのたくましい枝から、

滝のように、純白の花が降ってくる。


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そして、愛らしいピンク色の藤の花。

うす紫や白が、大人の魅力なら、

このほんのり紅をさしたような藤の花は、

無邪気な乙女を思わせる風情。

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溢れるほど、楽しそうに咲く花たち。

民家の庭先に、にぎやかな笑い声が響きわたる。



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