金沢には桜の名所があまたあるが、
中でも一番好きな、裏山の桜。
兼六園の開花から、3、4日遅れて咲き始める。
毎年心待ちにしていて、
咲く前の匂い立つ時や、
散った後の余韻さえも感じ取りに行くほど。
でも今年の冬は雪が多く、
かなりの枝が冬の間に折れてしまった。
上の写真の桜の枝も途中から寸断されている。
実は この大きなしだれ桜が雪の災害にあった後、
私は偶然ここに来て、
その可哀想な姿を目の当たりにしたのだ。
ばっさり折れた太い枝から
しなやかな細い枝がいくつも下がり、
まだ固い、小さなつぼみがびっしり付いていた。
車で持って帰るには大きすぎるし、
その日は迷った末、あきらめた。
でも数日後、強い力に引き戻されるように、現場へ。
するとタイミングよく、工事の方が来て、
たまたま持っていたチェーンソーで
私の車で運べるサイズに切って下さった。
折れた桜の枝を全部積むと、
バックミラーも役に立たないほどの状態だったが、
とにかくアトリエに持ち帰った。
親木も、車上の枝を見守る。
別れの瞬間、でも希望を託された瞬間。
大量の桜の枝を、枝ぶりごとに選別し、
花のアトリエの可能な場所を全部使って生けた。
ちゃんと咲くのかどうかわからなかったが、
とにかく祈るような気持で、生けた。
ある日、気づいた。
つぼみが少し大きくなっていた。
またある日、気づいた。
つぼみの先っちょにピンクの点が現れた。
そしてある日、小さな花びらがほころんだ。
4月10日の桜
4月17日の桜
驚くべきは、DNAの能力。
現地の花の咲き具合と、持ち帰った桜のそれが
ぴったり同じペースなのだ。
こちらは陽も当たらないし、
気温も違うはずである。
今朝の桜、ほぼ満開。
アトリエの中は一気に華やいだ。
ふわぁとした優しい空気につつまれている。
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裏山の桜の方は、枝を減らした分、
残った体で懸命に花を咲かせている。
満身からみなぎるパワーのすごいこと。
となりの桜とも競うように咲く。
今朝は、この桜のシャワーを浴びて
どれほどのエネルギーをもらったかわからない。
植物の潜在能力の高さを思い知った春。
人間が植物を支配しきれるわけがないのだ。
相互の関係ではあるけど、
テレパシーのようなものを持つ(と私は思う)植物には、
動物のように動く力がなくてもいいのである。
あたふたと余計なエネルギーを使わずとも、
こうして動物を動かして、
枝いっぱいの桜を咲かすことができればよいのだ。
花が咲けば、虫も鳥も人間も
吸い寄せられるように集まってくる。
時々、植物にしてやられたな、
と思うことがあるけれど、
それは、やっぱり我々は自然界の一細胞なのだな、
と再認識するということでもあるのだ。
さて先ほどから降り出した雨で、
いよいよ裏山の桜も散りはじめることでしょう。
今朝の桜の美しさを、眼の奥で再生している。
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