語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


食材を求めて〜 台湾の旅④

2017年02月08日 | 旅で出会った花々



レストラン「四知堂」を営むChenさんの朝は、新しい舞台の始まりのようだ。

昨夜のテーブルで繰り広げられた物語は、

すべて食されて終演。

夜が明けると、新しい素材を探し求めて、

今日の脚本を作らねばならない。





台北市内に、古くから続く市場がいくつかあり、

Chenさんは、市場を渡り歩いて、その日の一番を買い求める。

忙しい朝の仕入れに、私は毎朝 同行させていただいた。


野菜、果物、魚介、肉、乾物、調味料、加工品 . . .

小さな専門店が軒を連ねる市場の風景は、

どこの国を旅しても、その土地の命の輝きだ。

色彩、匂い、交わされる言葉の響き。

エネルギーが満ち溢れている。

















台湾は、一年を通して、食材の宝庫。

山も海も 豊穣で、あまたの旬の素材が、

時節に合う滋養を含んで、店頭に並んでいる。

例えば、一年中出まわるタケノコも、

季節ごとに細かく種類が異なるらしい。



上の写真のタケノコは、昨年7月の市場で出会ったもの。

この時期限定の、細くて味の濃いタケノコだった。


とれたての野菜も、種類が豊富。

1月は、ブロッコリーや白菜など、

日本の冬にも欠かせない野菜がたくさん売られているが、

種類もいろいろある上に、

芯の部分だけで売られていたり、

脇芽や、花のつぼみだけを集めて袋売りされていたり、

一つの野菜の成長段階で変化する様々な味を

使い分けている食文化の深さを感じた。






さらに、Chenさんのこだわりは、

ハウス栽培や促成栽培などで作られる野菜には手を出さない、ということ。

つまり、本当の旬のもの、台湾産のものだけ、ということだ。

そして、もちろん無農薬で、化学肥料を使わない野菜であること。

丁寧に、手間ひまかけて、滋味あふれる野菜を育てる農家や

そういう野菜や果物だけを誠実に売る業者には、

決して値切ることなどしない。

高くても正当なお代を払うことで、

生産者がその営みを維持発展できるという信念があるから。

それは、私も花の仕入れで心得る事なので、

深く共感できる。





そして海に囲まれた国、魚の新鮮なこと。

市場でまだ踊っているような艶。









Chenさんのお店で、日替わりで出される魚介料理、

素材の新鮮さを生かして、蒸したり焼いたり、

良い塩で、あっさりと、魚の滋味を味わえるのが幸せ。




また、お肉料理も素晴らしい。

お店の人と、納得いくまで話し、

吟味して買い付ける。

そういうのが、市場の小さな専門店で買う、大きな利点。







そして、台湾伝統の調味料も、厳選される。

日本の味噌や醤油のように、大豆などから作る発酵調味料もあるし、

小さな果実を塩漬けにして発酵させたもの、

その他干し野菜などを使ったものなど、料理によって使い分けられるようだ。






このおじいさんは、自家製の調味料を自ら販売。

作る日と、売る日を分けて、週の半分だけ市場に立つ。

化学調味料や、保存料を一切使っていない、

本物の、伝統の調味料である。

これはどんな料理に合う、とか、

想像ふくらむ会話がまた楽しい。




Chenさんの、仕入れは、街の中心部にある市場にとどまらない。

ある日の午後は、もっと魚を求めて、車で1時間ほど郊外の漁港へ。







さらに、内陸の山の幸を探求する日に、しつこく同行させていただく。

台北から車で1時間半ほど、

「客家(はっか)」と呼ばれる血筋の人々が住む街へ。

Chenさんもその血を受け継ぐ一人である。

客家のルーツは、漢民族で、中国大陸から長年に渡って移住してきた人々。

歴史を辿ると、古代王家の末裔である、とも言われているそうだ。

その人たちが伝えてきた食文化が、息づいている。

お母様の故郷の、古い市場へ。











次は、ご親戚の、小さな工場めぐり。

周囲で採れる、10種類以上のハーブを煮出し、




ゼリー状に固める。

薬効成分があり、また味は爽やかでほんのり甘く、美味しい。

夏、疲れた体に良いそうだ。








台北の市場でも売られていたし、

Chenさんのお店では、食前の飲み物として、出して下さった。

小さな山間の工場で、脈々と受け継がれてきた。


そして、地酒の工場へも。





お米から作られるお酒だが、日本酒とは違う製法だった。

試飲はしていないので、味は不明。

チェンさんは、料理に使うそうだ。





そして、山の野外市場。

(すべて7月に撮影したもの)



味の濃い、台湾産のピーナッツ。

様々な瓜系の野菜。













豊富な野菜やフルーツ類。











ショッキングピンクに熟した、ドラゴンフルーツと

まだ青い、未成熟のもの。




次の写真は、近辺で採れるオレンジをペースト状にしたもの。

そのままでも美味しいけれど、

料理のソースとして使うそうだ。





また台湾では、干し野菜がよく作られ、使用される。

キャベツやゴーヤ、大根などいろいろ。

自家製の干し野菜を売るお店。






Chenさんは、干し大根の5年もの、10年もの、さらにはなんと30年ものの

膨大なストックをしているそうだ。

年月が経つほど、味が深くなり、色も濃くなる。

30年ものの干し大根は、黒っぽい茶色で、

アサリと合わせてスープを作っていただいたが、

出汁をとらなくでも、素材から出る旨味が強く、

それはそれは深い味わいの、美味しいスープだった。





たくさんの食材の中から、

今日のベストを、妥協せず選び出し、

今日できうる最高の料理を作る。

レストランの開店時間ギリギリまで

Chenさんの探求はつづき、

同時に、頭の中は、創造が始まっている。


これとこれを組み合わせて、

こんな順番で、

あの器に盛り付けて、

どんな人たちに

どんなよろこびの舞台を作ろうか。





ただ、お腹を満たすだけではない。

そこに物語があり、心が豊かなもので満たされる料理。

その舞台裏の、五感と体力を駆使した、エネルギッシュな過程を

垣間見させていただけた幸せ。



※ 掲載した写真は、2016年7月のものと、
2017年1月に撮影したものが混在しています。
さらに、Chenさんが撮影した写真も時折含まれていると思われますが、
特定しづらいので、記載しませんでした。


































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美食「四知堂」 〜台湾の旅③

2017年02月01日 | 旅で出会った花々


台湾の首都、台北の中心部にありながら、
隠れ家のごとき、
台湾キュイジーヌ「四知堂」

オーナーの陳超文(Chao Wen Chen ) さんの
食、美術、空間、音楽、サービスなど、
総合芸術の世界を堪能できるレストランだ。




まずここの建物は、台湾建築界の巨匠と言われる
建築家の自宅だったのだそうだ。
Chenさんは、もともとグラフィック、建築のデザイナーでもあるので、
自身のアイデアと感性で、一階をリノベーションし、
この美食の館を作り上げた。




外から、お店と認識できるものは見当たらない。
目じるしといえば、小さな大理石の表札が、
植物の中で見え隠れしているだけ。







緑のアプローチをくぐり、扉を開けると、
中にはいつも満杯のお客さん。
くつろいで、にぎやかに話を交わしながら
お料理を楽しんでいる。






館内、いたるところに、絵画やアンティークの置物、家具
美しい照明、そして水槽に揺らぐ金魚 . . .
常に世界を旅するChenさんらしい、無国籍な魅力の空間。

















Chenさんとの出会いは、ちょうど一年前の2月、
私の花屋に、突然入ってきたことから始まる。
外でタクシーを降りたのを見た時点で、
その神々しいまでの雰囲気に、私は興味津々だったのだけど、
戸を開けてから、待たせてあったタクシーで去るまでの
ほんの10分ほどの会話の中で、
初対面とは思えない、驚くほどの共感を覚えたのでした。
そして
Chenさんのことや、台湾のことを知りたい!
という熱い思いが湧いてきて、
その数ヶ月後の7月に、私は初めて台湾の地を踏むことになった。




Chenさんは、これまでにさまざまなタイプの飲食店を
10店ほどプロデュースしてきて、
どのお店も新しい感覚で、大人気店になったそうだ。
現在、経営に携わっているのは、台北市内に2件。
もう一軒は、よりカジュアルで、
カフェ利用もできるレストラン「四知堂Tua」

開店前のTua店内にて、Chenさん。





また、音楽関係の会社で、数知れないレコードジャケットの
デザインもしてきたChenさんは、
当然、音楽にも造詣が深く、
店内のBGMは、多彩。
世界中のすばらしい音につつまれる。
ワインを飲む前に、気持ちよくて酔ってしまいそう。


地元の方々のみならず、世界中から予約が入るので、
さまざまな言語が飛び交うレストラン。

文化人のお客さんも多く見受けられ、
毎夜、ここで、食事をし会話を交わしながら、
何かが生まれる場としても大事な役目を果たしているようだった。



お客さんにお料理の説明をするChenさん。



毎年、必ずワインの産地に赴いて、
料理に合う、おいしいお酒を仕入れてくるそうだ。
極上のオリーブオイルや、チーズなどもしかり。

つねに、より良いものを探し求めて
旅を続けている。












お料理は、Chenさんが指揮をとり、
5〜6人の料理人がそれぞれの腕をふるう。

パティシエが作るデザートだけでも名店になりそうなレベル。
天然酵母のパン、もちろん自家製、
コーヒーの焙煎も行なっている。
食後のコーヒーが、これまた唸るほど、おいしいのだ。


お花を担当するスタッフも。




野菜、魚介、肉、果物、
すべての食材が、台湾産の旬のもの。

毎朝、Chenさんは市内の市場をまわり、
誠実な生産者から、料理の素材を仕入れている。
私は、滞在中、毎日その仕入れに同行させていただいたので、
いかに妥協なく、丁寧に食材選びをしているか、
よく知ることができた。

無農薬で力のある野菜、果物。
新鮮で質の良い肉魚類 . . .
伝統の調味料などもしかり。

生産者、販売者と、納得いくまで話し、
驚くべき判断力で買い付ける。

















あらゆる分野で、素晴らしい才能を発揮するChenさんのことを、
地元の人は「超人(スーパーマン)」と呼んだりするそうだ。
名前の「超文」にも由来している。




風に揺れる植物を、どの席からも感じられる。
差し込む光も、刻々と、美しい。

ここでは、つねに、何か美しいものがたゆたい、
うつろっていく。

























決して、説明過多ではない。
食べていると、あ、と気づかされる。
見た目も美しいけれど、それ以上に、
奥行きのある味が、体の中に豊かに広がっていくのだ。

この緑の一皿は、究極なお料理だった。



5種類にも及ぶ ブロッコリーの、
太い芯の部分だけをスライスして使い、
アサリとひよこ豆を合わせて、あっさり蒸し炒めにしたもの。
パッと見に、とてもシンプルなのだが、
味わうと、その微妙な味の違いが、
複雑な美味しさとなって、口の中に広がっていくのだ。

これは、私が花で目指す世界そのものである、と気づいた。
似ているけど、少しニュアンスの違う色合い、表情を持った花々を
合わせると、最初は気づかなくても、
長時間見ていても飽きない美しさが表現できる。

緑の山にも、青い海にも、
単色ではない、繊細なグラデーションがあるから
惹きつけられるのだろう。

それを、Chenさんは料理で表してくれる。




言葉はなくとも、たくさんのことが伝わってくる。
それは、食す人への愛情であり、
食材への敬意であると思う。


食事をすること。
そのために、あらゆることを丁寧に準備し、
整え、作り出し、
あたたかく迎える。

「食」を通して、ほんとうにたくさんのことを教えてくれたChenさんに
心からの感謝を申し上げます。














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植物と暮らす街〜 台湾の旅②

2017年01月29日 | 旅で出会った花々


静かな住宅街に、植物につつまれた建物。
小さな表札のみのお店。

門をくぐると、また緑。



緑の中を進んで、扉を開けると
お茶を売る小さなお店。
気品ただよう、ご主人とマダムが迎えてくれた。

よく手入れされた植物の息吹き。
あるいは 室内のそこここに置かれた調度品の
美しい佇まい。

良い気に満たされて、いただくお茶の美味しいこと。


台北の街を歩いていると、人々がいかに植物を愛し、
共存していこうとしているかがよくわかります。



少しのスペースにも、植物。
こまめに水やりをしていないと、すぐ枯れそうな場所にも . . .


そして、ビルの植木鉢から生えているような大木。




素敵なカフェの外には、水の庭。











建物が密集する静かな界隈に、
また ビルから生えているように見える木が目にとまり、
近づいてみたら、なんと木の中に
色とりどりの光が灯り、










手作りのランプのお店。

作業台で集中していた男性が、手を止め、招き入れてくださった。

使われなくなったモノを組み合わせて、
新しい命を生み出す人。





サクスフォーンやトランペットから、光。








緑の館は、生き返った光のキノコの家だった。
ここにも、あたたかくて心地よい気が流れていた。

つづきは、やはり植物のよい香りに包まれた、
Chenさんのレストランについて書きます。

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花蓮という町へ 〜 台湾の旅①

2017年01月24日 | 旅で出会った花々

二度目の台湾。
一応「冬」と言われる季節で、
15〜20℃くらいの、過ごしやすい気温が続いていた。
ただし比較的 雨が多く、太陽が出なければ肌寒いこともある。

ある曇天の1日、ローカル線に乗って、
東海岸の日帰り旅(台北拠点)に出かけた。

乗り物はなんでも大好き。
流れる景色を眺めているのが旅の楽しみ。
春節の少し前で、平日を選んだので、
列車は空いていて、ゆったり寛ぐことができた。






素朴な田舎の風景、
街の中の、ハッとする色彩、

左は海、右は山野。




3時間ほどで、「花蓮」という街に着いた。
花蓮(ホワァ リエン) . . . 美しく芳しい名前。



花蓮駅から、ローカルバスに乗る。
海のそばを通るけれど、まずは山へ。
太魯閣(タイルウガヲ)という渓谷を目指す。

海を離れるとすぐに山道に入る。
山が海岸に迫っていて、壁のような断崖が突然、目の前に現れた。

険しい山々は、大昔、珊瑚礁の海底が隆起したものだそうだ。




激しい標高差には、度肝を抜かれます。

そして、こんな断崖を削って道を作ったとは、
人間のはかりしれない野望にも驚きますが、
ここの石質は、なんと大理石だそうで。
さらに翡翠(ひすい)や猫目石なども採れるのだとか。
宝の山だったのですね。





手元のガイドブックによると、
国共内戦の後、国民党政権が、
大陸から連れてきた兵士などを動員し、
この山道を、驚くべき短期間で開通させた。
その時、多くの殉職者を出し、
霊を祀ったのが、写真の中国宮殿様式のお寺だそうです。

このお寺の建設時に殉職者は出なかったのだろうか . . .




バスの終点、太魯閣を散策。
台湾原住民の一つ、タロコ族が住んでいる場所らしい。
普段は民族衣装を着ていないだろうから、
判別はできなかった。

野生のブーゲンビリアがあちらこちらに。






そして、梅が満開。
あたりに春の香りを漂わせている。




そうかと思うと、
ポインセチアも鮮やかに咲きほこり。



熱帯〜亜熱帯では、
野生の、巨大な枝ぶりのポインセチア、よく見かけるけれど、
梅との饗宴は、不思議な光景に映った。






さらに、キク科ヒマワリ属のキクイモと思われる花。
日本では、夏の花です。


珍しい椿。
これはお寺の庭で栽培されているもの。




様々なシダ類。



我が家の家紋、カタバミ。





と、花に誘い込まれ、道草をしすぎたようで、
いつの間にか、山道で、ぽつねん。
すっかり道に迷ってしまった。

太陽が出てたら、なんとなく方向はわかったのだが、
空には厚い雲。
静かな車道に出て、トンネルを抜け、とぼとぼ歩いていると、
一台の車が通りかかり、ご年配の男女の顔が見えたので、
手を上げて、助けを求めた。
つまりヒッチハイク。

優しいご夫婦は、こころよく帰り道のバス停まで乗せて行ってくださり、
無事、山から戻ることができた。


さて、まだ帰りの電車までに時間があるので、
今度は海へ。



「七星譚(チーシンタン)」という、美しい海岸。
山から下りてきたところがここの海。



肌寒いのに、ココナツジュースを売っているおばさん。
無事、生還できて高揚していたので、つい買ってしまったが、
案の定、体が冷えてしまった。


でも 少し歩いたら、温まった。

この海岸には、丸くて綺麗な石がびっしり敷きつめられている。
それもそのはず、あの大理石の美しい山肌から流れてくるのだから。
しばし、夢中で石拾い。


犬も楽しそう。






雲が生まれて、流れていく光景を
時間を忘れて眺めていた。

何時も見たことのないものと出会わせてくれる。
大自然のいとなみは、なんて神秘的で美しいのだろう。








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