この秋で3回目、工藤和彦さんのうつわ展は
おかげ様で盛況のうちに終わった。
嬉しかったのは、前回、前々回からのリピーターの方々が
とても多かったということだ。
一度使ってみると、とりこになってしまう器。
作家ものの器は、もったいなくてなかなか普段使いできない人も
工藤さんの器は、毎日使ってしまうという。
食の器でいうと、
食べ物がなんでも美味しそうに見える色、風合い、形、
料理が盛りつけやすい、
高台とのバランスなども絶妙で
持ちやすいので粗相しにくい、
など、使ってみてこその魅力が潜んでいる。
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花の器もしかり、である。
工藤さんの黄粉引(きこひき)は
優しいクリーム黄色が特徴で、
不思議とどんな花色も引き立ててくれる。
そして、2億年前と推定される、大陸の土の風合い、
工藤さんの生み出す有機的なかたちは
植物たちを優しく受け入れてくれる。
たっぷり水を入れた状態で持っても、
しっかり手におさまるので、食器同様、
安心感の高さが、使用頻度につながるとも言える。
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黄粉引の花器で、今回驚かされたのが
次の写真の大きな壺である。
高さ60センチ以上もあり、大迫力。
この明るい黄色の大壺は、
暗い和室でも明るいモダンな空間でも
浮くことなく、合うのではないかと想像する。
そして近づいてみるとまたびっくり、
美しい貫乳(かんにゅう)が、全身にびっしりと。
*貫乳 . . . 釉薬(うわぐすり)が割れてできる模様
あたたかな午後の光の中で、
「この壺を抱きかかえて、ずっと眺めていたい」
と言っている人がいた。
今回、出品されたうつわはなんと350点あまり、
工藤さんの作品展としては たぶん日本一の規模だそうだ。
前後にびっしり作品展のスケジュール、
それぞれの会場に合った作品を作る工藤さん、
助手ももたず、たった一人で
よくこれだけの数を作れるものだと感心する。
しかも一つ一つの完成度の高さ。
工藤さんのすごい所は、
人気のうつわにいつまでもこだわらず、
次々と自分を壊し、新しいものを生み出していくことだ。
だから、去年買った器と同じものを、
というお客さんは、その希望が叶わない。
今年の作品は、かなり思い切った変化があった。
「紙細工」に例えられるほどの軽さが魅力だった工藤さんの作品だが、
依然求められるその軽さを見直し、
しっかり厚みをつけたこと。
これさえ作っておけば間違いなし、を あっさり打ち破り、
次に行ける勇気と力を持った人だとつくづく思った。
厚みをもった器は、その存在感もさらに増していた。
本当に、工藤さんの生み出すエネルギーには圧倒される。
「こうしたらウケるかな、とかいう邪念を頭から消して、ひたすら作陶したい」
という工藤さんの真骨頂は、
「刷毛目(はけめ)」の模様とも言えるかもしれない。
描いてみたこともない私には、
そのすごさが最初わからなかったのだが、
会場を訪れる人の中には、
骨董から現代までの器にとても詳しい人がいらっしゃる。
数えきれないほど、陶芸家の方々も。
で、みなさんが感心されるのがこの「刷毛目」だった。
何気ないこの線が、なかなか描けないのだそうだ。
大人気だったこの花器も、刷毛目がすばらしい。
白樺の灰釉で、白樺の化身のような器。
「これはどうやって線を描いたのですか?」
と質問してみたら、なんと片手で器の底をつかみ、
もう片手で刷毛を持って、両手を一気に回して描いた、との返答。
ぐるりと回してみても、つなぎ目など
どこにも不自然さがないのだ。
自ら土を掘り出し、丹念に練って作る土。
北海道に自生する木をせっせと薪割りし、
ひと冬かけて燃やす手作りの灰釉。
せっかく北海道にいるのだから、そこでしかできないものを、
という強い思い、
土地の力、魅力を生かすということに全力をかける。
自分自身の能力の可能性も、果敢に挑戦してきた。
電動ではなく、自分の脚で回す「蹴ろくろ(けろくろ)」を駆使し、
四肢すべてに違う動きをさせながら、一つの器を作る。
それが、うつわの躍動感につながっているのだと思う。
ほとばしる情熱と、へこたれない強さ。
しかし実際、工藤さんに対面すると、みんな一様に驚いて、
「爽やかな風が通るような人」
「あの曇りのない笑顔にただ癒される」
などという声があがる。
人気作家になっても、
少年の頃からかわらない純真な気持ちで
ひたすら大好きな陶芸に取り組んでいる人。
今年もまた、工藤さんから たくさんのことを学ばせていただいた。
私も、花とともにそんな人生を送りたい。
さて来年の秋は、
工藤さん、フランスからお声が掛かっているらしい。
すばらしい。きっとヨーロッパの人々にも
すぐにこの魅力は伝わることだろう。
ということで、次回の花と器の響宴は、
再来年の春あたりだろうか。
工藤さんの進化に置いていかれないよう、
私も精進していかなければ。
イベント期間中は花の仕事のピークとも重なって、
なかなかレポートできなかったのです。
本当はもっとはやく工藤さんのことをこうして書きたかったのですが。
今年2月に見ていただいた開発さんの作品とは対照的で、
開発さんの器は、美術品であり、何も入れなくても
その存在感だけですごいのですが、
工藤さんの器は、ぐっと人に近づいてくる器です。
それぞれの人柄がそのまま器に反映しているかのようです。
ところが開発さんも工藤さんも、お互いの作品を讃え合っています。
開発さんは工藤さんの作品を一目見て、
「この人は無心で作っている、相当作らないとこんな何気ないものはできない」とおっしゃいました。開発さんの眼力、さすがですね。
今井さん、次回の開催はたぶん再来年の春です。
それまでお互いいろいろな経験を積んで、努力を積んで、
臨みたいと思います。
その時はぜひ、見にいらしてください。