語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


風の中のコスモス

2010年10月17日 | 庭の花たち
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15年前の10月、コスモス咲き乱れる季節に

私は東京での修行を終え、石川にもどってきた。

そして田舎の自宅の一室を花の仕事場にして、

「花のアトリエ こすもす」と名付けた。


この季節、家の庭はコスモスでおおいつくされる。

だから簡単に、かなり安易に、そう決めた。

でもこの花は、私と強い絆で結ばれた花なのだ。

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小学校時代最後の夏休み、

毎日遊びに行っていた川の中州に

一株のコスモスが育っていた。

川上から種が流れ着いて、やっとの思いで根付いたのだろう、

ヒョロリとか細い茎の先端に小さなつぼみがついて、

夏の終わりに、淡いピンクの花がひとつ開いた。


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翌朝、台風の接近を大人たちが話題にしていた。

通学路にも、むぁっとした風が吹いていた。

雨が近づいている。

私は突然、あの中州のコスモスを思い出し、

学校から帰るや否や、スコップを持って川へ走った。


すでに強風にさらされ、

右に左に大きく揺れているコスモスを

私は根から掘り起こし、家の庭に移植した。

これが私とコスモスの、長い付き合いのはじまりとなる。

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瀕死のコスモスは、しっかり庭に根付き、

こぼれた種から翌年にはたくさんのコスモスが咲いた。

そして数年のうちに、庭はコスモスの花園に。


いつの間にか白や赤のコスモスも咲くようになり、

色とりどり、楽しそうに唄っている。


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母もせっせと家中にコスモスを生け、

霜が降りる頃まで、私たちは

コスモスの優しい姿につつまれて暮らすようになった。


もはや他の何を植えても、

秋にはコスモスにおおわれてしまう庭。


やがて「こすもす」と名付けた花のアトリエで、

秋には思う存分その花を生けて遊ぶ。

生けても生けても減らない。

生けるのに飽きることもない。

あまりにもよく生けすぎて、

生けるというよりは

会話をしている感覚になってしまった。


あふれるように咲いていても、

一輪一輪、表情がちがうので、

あなたはここね、と

一番きれいに見える場所をさがしてやると、

にっこり笑って返してくれるのだ。



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優雅に咲くのに、

台風の季節を生き抜く力を 兼ね備えた花。

風には抵抗せず、しなやかに揺れる。

たとえ倒されても、

地面についた茎から根を生やし、

また空に向かって茎をのばしてくる。


その姿は憧れであり、

私に多くのことを教えてくれた。

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コスモス(kosmos / cosmos) は

ギリシャ語で、調和するという意味だそうだ。

そこから「宇宙」という意味につながり、

つまり自然界の完璧なるバランス、調和の象徴、

ということになる。


風に揺れるコスモスを眺めながら、

まだまだつかめない宇宙を考える。

花一輪の不思議。

その一輪の宇宙がわかるようでわからない。

そんな秋の日々。













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葡萄色のウェディング

2010年10月01日 | ウェディングの花
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近所の葡萄園の娘さんが嫁ぐことになった。

結婚式の朝、私は少し緊張しながら、

その葡萄園に足をはこんだ。

つやつやの黒い葡萄が、

このハレの日に合わせたかのように

甘く熟して、あたりに芳醇な香りを漂わせていた。


ご両親は、丹精こめて育てた立派な葡萄を

娘さんのために吟味して摘み穫り、

私は 箱にいっぱいの瑞々しい葡萄を受け取った。

さらに葡萄棚からのびる 美しい葉 と つる を

いくつも採らせていただいた。


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結婚披露宴のお花を依頼された数ヶ月前、

せっかくだからお花と家の葡萄を組み合わせて

テーブルを飾ってはいかがでしょう、

と提案したはいいが、今年の猛暑で

葡萄の実る時期がどうなるか、ずっと心配だった。

でも、こうして美しい葡萄が穫れた。


私は大急ぎで仕事場に向かった。

時間の余裕はなかったが、

葡萄の実と葉の生命力に助けられ、

一気に生けていった。

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その朝、ご両親から託されたものがもうひとつ。

赤くて巨大な粒の高級葡萄 " ルビーロマン " 

(ひとつぶ が なんと数百円~数千円する!)

「デザート用に一人一粒、厨房に渡してください」と。


これは予定外のことだったが、

料理長は、機転をきかせて、

それをケーキの飾りにしてくれた。


ご家族、会場スタッフの心がひとつになり、

この日、一番かがやいて力満ちるものたちが

この晴れ舞台に出そろった。

二人の未来も、きっと豊かに実っていくことだろう。


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