お能には、花や木の精が人間の姿になって現れる曲が
たくさんあるようです。美しい空想ですね。
人が人を愛するように、花や木にも深い愛情が、
むしろさらに畏敬の念をもって、植物を見てきた
東洋人の思想が、お能に反映されているように感じます。
4月に開催するお能の会では、
桜の季節に合わせて、桜の精、桜を守る天人の曲を選んでいただきました。
そのあらすじをまとめてみました。
また、今回一緒に企画をすすめてくだった
シテ方の下平克宏さん、ワキ方の殿田謙吉さんは
各地の大舞台でご活躍のすばらしい能楽師さんです。
合わせてプロフィールをご紹介します。
【 曲(演目)】
両日とも昼の部は「吉野天人(よしのてんにん)」
夜の部は「西行桜(さいぎょうざくら)」です。
「吉野天人」
(シテ 下平克宏 写真提供 前島吉裕)
毎春、色々な場所の桜を見ることにしている都の男が、
今年は吉野の桜を見ようと思い立ち、仲間たちとともに吉野山に入ります。
するとそこへ高貴な姿をした女性が現れます。
このような所になぜ女性が?と不審に思った男が女に尋ねると、女は
「私はこの辺りに住む者で、
一日中 花を友として暮らしているのです。」
と答えます。
そして都人と共に花を眺めます。
しかし女がいつまでも帰ろうとしないので、男が尋ねると、女は
「実は私は天人で、花にひかれて来たのです。
今夜ここに旅居して信心なさるならば、
古の五節の舞をお見せしましょう。」
と言い、女は消え失せます。
やがて夜になり、どこからともなく音楽が聞こえ、
辺りにはなんともいえない良い香りが立ちこめます。
するとそこへ天人が現れ、桜の花に戯れ舞を舞っていましたが、
また花の雲に乗ってどこかへ消え去っていくのでした。
前シテ:里女 /後シテ:天人 . . . 下平 克宏(観世流)
ワキ:都人 . . . . . . . . . . . . . . . 殿田 謙吉(下掛宝生流)
地 謡 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 大槻 祟充(観世流)
笛 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 江野 泉 (森田流)
「西行桜」 夜の部(ろうそく能)
(シテ 藤波重満 写真提供 前島吉裕)
嵯峨の奥に住まいする西行の庵には、桜の名木がありました。
修行の障りになるのをおそれて、
今年の春は花見客の訪問を受け付けまいと決心しますが、
都の者たちから乞われるとしぶしぶ見物を許します。
都人たちは、今を盛りと咲く桜を愛でて花見に興じます。
その様子を見て西行は、花の散るのを静かに眺めて心を澄まそうとしたのに
俗世の人々に妨げられたのは桜のせいであると歌に詠みます。
夜になり、花の下でまどろんでいる西行のもとへ
老人が現れ、桜に罪はないとさとします。
そして自分はこの老木の桜の精であると名乗り、
物言わぬ草や木もこうした道理を教えさとすことで
今度は悟りえた西行に導かれて、
仏の知遇を得ることになるのだと喜びます。
老木の精は、都周辺の桜の名所を案内して西行を楽しませ、
やがて夜明けとともに姿を消します。
西行が目覚めると辺り一面に
雪のように花が散り敷いているのでした。
シテ:桜の精 . . . . . . . . 下平 克宏(観世流)
ワキ:西行法師 . . . . . . 殿田 謙吉(下掛宝生流)
地 謡 . . . . . . . . . . . . 大槻 祟充(観世流)
笛 . . . . . . . . . . . . . . 江野 泉 (森田流)
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【 能楽師 プロフィール 】
下平 克宏(しもだいら かつひろ)
観世流 シテ方
群馬県高崎市出身 1958年生
学習院大学入学後、サークル(観世会部)にて能と出会う。
藤波重満師(観世流職分、東京芸術大学名誉教授、
重要無形文化財総合指定保持者)の許へ内弟子として入門。
東京芸術大学音楽学部邦楽科能楽専攻に入学。
同校卒業後、邦楽科助手を歴任。
昭和63年独立。
平成元年4月に独立披露能を主催し、「羽衣」を勤める。
平成3年「石橋」、平成5年「乱」、
平成7年「道成寺」をそれぞれ自身主催の記念会で披く。
平成10年 自身記念会にて「井筒」
平成15年 自身記念会にて「道成寺」赤頭を披く。
平成20年に演能の会特別公演にて「安宅」瀧流之伝を披く。
平成21年オーストリア・ルーマニア海外公演に参加。
現在、演能の会を主宰し、東京を中心に演能活動を行う。
シテ方観世流準職分
(社)能楽協会会員
(社)観世会会員
正派音楽院講師
上毛芸術奨励賞特別賞受賞
ぐんま観光特使
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殿田 謙吉(とのだ けんきち)
下掛(しもがかり)宝生流 ワキ方
石川県金沢市出身 1959年生
東京都練馬区在住
殿田保輔(やすすけ)の長男
宗家 人間国宝の宝生 閑及び父に師事
東京芸術大学 音楽学部邦楽科能楽専攻卒業
公益社団法人 能楽協会 東京支部常議員
日本能楽会会員
重要無形文化財総合指定保持者
いしかわ観光特使
石川県金沢市出身 1959年生