田中一村の天井画が、「やわらぎの郷」の小さな御堂にもどってきた。
県内外の美術館での展示を終え、修復された美しい状態で。
実家のとなり町、宝達清水町にあるこの場所は、
ひっそりと、訪れる人も少なくて、気のすむまで絵を眺められる。
49枚の植物画は、田中一村が40代のころ(奄美大島に移住する前)
ここで寝泊まりし、近辺の野山から集めた薬草を描いたもの。
素朴な植物ながら、一枚一枚の構図の美しさ、躍動感、
何度見ても見飽きない。
当時、千葉で苦しい生活を送っていた孤高の画家に
天井画を依頼し、石川にいざなったのは 施設の創始者、北橋茂男氏。
大阪で洋食店を営み財をなした人だが、
健康な「食材」に対するこだわりから、
身近な植物の中から、食材となる薬草を
この聖徳太子を奉る御堂の天井に描かせたのだそうだ。
一番奥の絵に、一村のサインが。
北橋氏のおかげで、一村は新境地をひらき、
世にも珍しい、薬草の天井画が後世に残された。
しかもここは一年中、無料開放されている。
なんてありがたいこと。
園内には、一村が2ヶ月ほどの制作期間中、
滞在していた小さな家も残されている。
.
それからもう一つ、別棟の道場に残された作品が。
仏壇の地袋に描かれた白い蓮の花の絵、
これも展覧会での展示から一緒にもどってきた。
美術館でのよそいきの顔でなく、
絵が、生活の中で息をしている。
描かれた蓮の花が、匂い立っている。
美術館に収蔵されるという話もあったようだが、
こうして作品が本来の場所にもどってきた。
そして、ここの光のうつろいとともに
表情を変えてはたのしませてくれる。
やわらぎの郷
.