語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


田中一村の絵

2012年08月21日 | インポート
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画家、田中一村(いっそん)が、石川県に残した49枚の天井画。

長い修復を終え、

現在、石川県立美術館で、全国初公開されている。

しかも元の場所を再現するように、

仰ぎ見るかたちで、展示されている。


田中一村のことを知ったのは、いつのことだったか、

友人がくれた一冊の本がきっかけだった。

その高潔で情熱的な芸術への姿勢と

印刷からも伝わってくる絵のすごさ、

いつかは実物を見てみたいと願い続けていた。

ある時、奈良の飛鳥で展覧会が催され、

ようやく本物の絵と対面することになる。

それは予想もはるかに越えた神々しさ、

植物の湿度や匂いまで立ち上がってくる絵なのだった。


それからほどなく、私の実家から近いところに

一村の残した天井画が存在するという話を聞いた。

灯台もと暗し。

春のお花見に行く以外は寄ることもなかった「やわらぎの里」

その園内の、聖徳太子が奉られた御堂の中にあるのが

この美しい天井画である。



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はじめて御堂に入った時は愕然としてしまった。

堂内は無人で、侵入自由、

雨漏り、虫食い、と 本当にあの名画伯の絵なのだろうか、

と一瞬、目を疑うほどだった。

しかし、その薄汚れた環境の中でも、

絵は素晴らしい光を秘めていた。

それは、今まで見たこともないようなテーマの絵、

華やかな花々ではなく、

よもぎ、わらび、ワレモコウ、くずの花、など

雑草とさえ呼ばれる、身近な植物たちの絵だった。

一つひとつの絵の構図、生き生きとした表情、

すばらしくて、時間を忘れて魅入ってしまった。

それから何度ここを訪れたことだろう。


ある時、近所でここの管理を任されているおじさんに話を聞いた。
(管理、と言えるのかはわかなないけど . . . )

一村は、当時、千葉に住んでいたが、

縁あってこの石川の地で天井画を任され

半年ほど現地に滞在し、地元の子供たちにも協力してもらって

たくさんの植物を採集、スケッチを重ねたのだそうだ。

手伝ってくれたたくさんの村人たち全員に

色紙や掛け軸の絵などを贈ったようだが、

現在はそれらのほどんどが見つかっていないのだという。


近年 ようやく専門家チームで一村の本格的な研究がはじまり、

その一環として、この天井画が修復され

美術館での一般公開、となったようだ。

このあと、天井画が「やわらぎの里」に戻るのか、

美術館で管理されることになるのかはまだ決まっていないらしい。


今回の展覧会では、天井画もさることながら、

奄美大島で描かれた晩年の名作もたくさん見ることができる。


〈田中一村は栃木で生まれ、東京、千葉時代を経て、

 画壇の表舞台に立つことのないまま

 50歳の時に奄美大島に渡り、69歳で亡くなるまで

 この島で独自の日本画の世界を切り開いていった。〉


.

(写真は絵の一部分、本より)

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「アダンの海辺」と題されたこの絵を、奈良で初めて見た時、

潔く切り取った、ダイナミックな構図と

人間業と思えぬほどの精緻さに驚愕した。

そして

同じ太陽の陽に照らされているような錯覚、

波の音が聞こえるような錯覚、

見たこともない「アダンの実」の甘い香りがする錯覚を

おぼえてしまった。つまりそこへ連れていかれたということだ。


ここからさらに奄美への強烈な興味がわき、

3年半前、ついに私は彼の地に導かれた。














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この光景 . . . 確かにはじめてなのに、デジャヴな感じ . . .

それは一村の絵の力なのだろう、と思った。

でも実際の場に身をおくということは、

何にも代えられないことである。

勝手に感じていた香りは、少し違うものだったし、

頬にあたる風の強さ、湿度も、初めての感じ、

新鮮な体験だった。







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一村が住んでいた家も訪ねた。

元はもっとあばら屋に住んでいたらしいが、

最期を迎える少し前にここに移り、

「天国のようだ」と喜んでいたとも伝えられる。

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家の裏手には自給していた畑、

そして亜熱帯の植物、

その奥には深い奄美の森が

簡単に入ってはいけないようなオーラを放っていた。






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恐る恐る森に入って行くと、

絵に描かれたたくさんの植物が、

森の中から立ち現れる。

が、やはり怖くて先に進めない。


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「不喰芋と蘇鉄(くわずいもとそてつ)」(一部)









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「蘇鉄残照図」(一部)


車で、島を一周してみた。

島全体が一つの生命体のように、呼吸しているようだった。

「海の向こうから、ここに神が渡ってくる」

という場所の辺りには、本当に神がいると思った。


ものすごい自然のエネルギーを、

ここにくると誰もが体感するに違いない。






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「熱帯魚 三種」(一部)




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3年働いて、画材費を貯め、

3年描く。

そしてまた3年働き . . .

極貧の生活だったが、

奄美に魅せられ、ひたすら絵に残そうとした画家の一念。


“ すでに世の中の乖離(かいり)など奄美に渡った時点で清算済みで、
 一村の心情はそんなところにはなく「天地一体」の画境に遊んでいる “
    (金沢21世紀美術館館長・秋元氏の北陸中日新聞寄稿より抜粋)


それほど大きな力を内包する場所。




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「神童」と呼ばれていた頃の絵から

千葉や、石川や、四国、九州と

遠征先で感化され描いて来た絵を順番におっていき、

奄美の絵へと続いていく。

最後にたどりついた奄美の地で、

すべての経験が統合され、昇華されていった。

一村は、ここだ と直感した場所で、

とてつもない領域に到達してしまった。

「5秒とかからない署名もできなかった」ほど

絵に 持てるもの全てを注いだ画家。


その力を与える自然の神秘は

到底、 人知のおよぶところではないけれど、

ここまで近づくことができた画家がいるのだと

絵を見るたびに、深く感じ入ってしまうのだ。


会期あとわずかだが、ぜひ目の当たりにしてほしい。




























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「孤高の画家 田中一村 展」~知られざる石川での軌跡
 石川県立美術館 8月26日(日)まで


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大地の芸術祭/越後妻有①

2012年08月15日 | 旅日記
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新潟の、山あいの集落で

三年に一度行われる大規模な芸術祭。

世界中のすばらしいアーティストが

この大自然の中で触発されて生み出すアート。

美しい風景や、豪雪地帯特有の建造物で

ユニークな世界が展開される。

この夏、何度かに分けて訪れる計画で、

まずは先日見た、ほんの一部を。

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森の朝

2012年08月05日 | 石川の四季
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森の朝、響き渡る鳥の声。

鳥がやんで、突然訪れる、ひぐらしの時間。

遠く、近く、妖怪の笑い声のようなひぐらしの鳴き声は、

森の深さを感じさせてくれる。

















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静かな いとなみを続けるものたちがいる。

朝の開店準備に忙しい蜘蛛たち。

蜘蛛の巣が、暗い森に光を集めてくる。








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森の光、森の影。









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街の中に咲く花たち Ⅱ

2012年08月03日 | 金沢の四季
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家のすぐ近所にあるオレンジのユリの家。

街の中なので、庭らしい庭もないのだが、

家は蔦(ツタ)で覆われ、

家のきわから、一年を通していろんな花が顔を出す。

まるで家自体が植木鉢のようなのだ。


家も不思議で気になるのだけど、

ユリの造形のおもしろさにも魅せられる。















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そういえば誰かが、

「宇宙人の襲来」と表現していたなぁ。

.








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街の中に咲く花たち Ⅰ

2012年08月03日 | 金沢の四季
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金沢・武蔵が辻から一本入ったスタジオ通りに

毎夏、楽しみにしているムクゲの木がある。

そのゆったりした花びらだけでなく しべ も白くて、

清々しい気持ちにさせてくれる。



















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街の真ん中に、こんな大きなムクゲ。

ビルの間を爽やかな風が通っていく。
(気がする)

.



コメント (2)
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