語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


美食「四知堂」 〜台湾の旅③

2017年02月01日 | 旅で出会った花々


台湾の首都、台北の中心部にありながら、
隠れ家のごとき、
台湾キュイジーヌ「四知堂」

オーナーの陳超文(Chao Wen Chen ) さんの
食、美術、空間、音楽、サービスなど、
総合芸術の世界を堪能できるレストランだ。




まずここの建物は、台湾建築界の巨匠と言われる
建築家の自宅だったのだそうだ。
Chenさんは、もともとグラフィック、建築のデザイナーでもあるので、
自身のアイデアと感性で、一階をリノベーションし、
この美食の館を作り上げた。




外から、お店と認識できるものは見当たらない。
目じるしといえば、小さな大理石の表札が、
植物の中で見え隠れしているだけ。







緑のアプローチをくぐり、扉を開けると、
中にはいつも満杯のお客さん。
くつろいで、にぎやかに話を交わしながら
お料理を楽しんでいる。






館内、いたるところに、絵画やアンティークの置物、家具
美しい照明、そして水槽に揺らぐ金魚 . . .
常に世界を旅するChenさんらしい、無国籍な魅力の空間。

















Chenさんとの出会いは、ちょうど一年前の2月、
私の花屋に、突然入ってきたことから始まる。
外でタクシーを降りたのを見た時点で、
その神々しいまでの雰囲気に、私は興味津々だったのだけど、
戸を開けてから、待たせてあったタクシーで去るまでの
ほんの10分ほどの会話の中で、
初対面とは思えない、驚くほどの共感を覚えたのでした。
そして
Chenさんのことや、台湾のことを知りたい!
という熱い思いが湧いてきて、
その数ヶ月後の7月に、私は初めて台湾の地を踏むことになった。




Chenさんは、これまでにさまざまなタイプの飲食店を
10店ほどプロデュースしてきて、
どのお店も新しい感覚で、大人気店になったそうだ。
現在、経営に携わっているのは、台北市内に2件。
もう一軒は、よりカジュアルで、
カフェ利用もできるレストラン「四知堂Tua」

開店前のTua店内にて、Chenさん。





また、音楽関係の会社で、数知れないレコードジャケットの
デザインもしてきたChenさんは、
当然、音楽にも造詣が深く、
店内のBGMは、多彩。
世界中のすばらしい音につつまれる。
ワインを飲む前に、気持ちよくて酔ってしまいそう。


地元の方々のみならず、世界中から予約が入るので、
さまざまな言語が飛び交うレストラン。

文化人のお客さんも多く見受けられ、
毎夜、ここで、食事をし会話を交わしながら、
何かが生まれる場としても大事な役目を果たしているようだった。



お客さんにお料理の説明をするChenさん。



毎年、必ずワインの産地に赴いて、
料理に合う、おいしいお酒を仕入れてくるそうだ。
極上のオリーブオイルや、チーズなどもしかり。

つねに、より良いものを探し求めて
旅を続けている。












お料理は、Chenさんが指揮をとり、
5〜6人の料理人がそれぞれの腕をふるう。

パティシエが作るデザートだけでも名店になりそうなレベル。
天然酵母のパン、もちろん自家製、
コーヒーの焙煎も行なっている。
食後のコーヒーが、これまた唸るほど、おいしいのだ。


お花を担当するスタッフも。




野菜、魚介、肉、果物、
すべての食材が、台湾産の旬のもの。

毎朝、Chenさんは市内の市場をまわり、
誠実な生産者から、料理の素材を仕入れている。
私は、滞在中、毎日その仕入れに同行させていただいたので、
いかに妥協なく、丁寧に食材選びをしているか、
よく知ることができた。

無農薬で力のある野菜、果物。
新鮮で質の良い肉魚類 . . .
伝統の調味料などもしかり。

生産者、販売者と、納得いくまで話し、
驚くべき判断力で買い付ける。

















あらゆる分野で、素晴らしい才能を発揮するChenさんのことを、
地元の人は「超人(スーパーマン)」と呼んだりするそうだ。
名前の「超文」にも由来している。




風に揺れる植物を、どの席からも感じられる。
差し込む光も、刻々と、美しい。

ここでは、つねに、何か美しいものがたゆたい、
うつろっていく。

























決して、説明過多ではない。
食べていると、あ、と気づかされる。
見た目も美しいけれど、それ以上に、
奥行きのある味が、体の中に豊かに広がっていくのだ。

この緑の一皿は、究極なお料理だった。



5種類にも及ぶ ブロッコリーの、
太い芯の部分だけをスライスして使い、
アサリとひよこ豆を合わせて、あっさり蒸し炒めにしたもの。
パッと見に、とてもシンプルなのだが、
味わうと、その微妙な味の違いが、
複雑な美味しさとなって、口の中に広がっていくのだ。

これは、私が花で目指す世界そのものである、と気づいた。
似ているけど、少しニュアンスの違う色合い、表情を持った花々を
合わせると、最初は気づかなくても、
長時間見ていても飽きない美しさが表現できる。

緑の山にも、青い海にも、
単色ではない、繊細なグラデーションがあるから
惹きつけられるのだろう。

それを、Chenさんは料理で表してくれる。




言葉はなくとも、たくさんのことが伝わってくる。
それは、食す人への愛情であり、
食材への敬意であると思う。


食事をすること。
そのために、あらゆることを丁寧に準備し、
整え、作り出し、
あたたかく迎える。

「食」を通して、ほんとうにたくさんのことを教えてくれたChenさんに
心からの感謝を申し上げます。













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