この明るいオレンジ色の花は、
2月の後半に私のもとへやってきて、
以来、花瓶の水だけで成長を続けている。
先端にできる蕾を咲かせながら、
最初は天に向かって伸びていたが、
そのうち、自分の重さに耐えきれなくなって、
いったん急降下したかと思うと、
そこからぐいっと体を持ち上げてきた。
花たちは、体勢が急変したというのに、
相変わらず不敵な笑みを浮かべて、
茎にぶら下がっている。
そのマイペースな様子は、まるで
ムーミン谷を行進するニョロニョロのようだ。
名前も忘れてしまったこの花、
奇妙さゆえか、たくさん売れ残り、
私の部屋で面倒みることになったのだけど、
生き物と暮らしている実感があって、
なんだか楽しいのだ。
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明るいローズ色のチューリップ、
その名も " ジャクリーン "
花市場にやってくる あまたのチューリップの中で、
これほど艶のあるものはないと思うほど。
花びらの先が尖っていて、
ひらくと百合のような、チューリップ。
花自体の大きさも百合に負けないほどで、
それゆえ花を支える茎も長くて、しなやか。
このジャクリーンが入荷する時期に
もう一つ私の大好きなチューリップがやってくる。
白と紅の二色で、
やはり百合咲きのチャーミングな花、
名は " マリリン "
ジャクリーンのおしべが明るい黄色なのに対し、
マリリンは、スパイシーな濃紫色。
どちらの色合いも絶妙で、魅力的。
私は この二種の組み合わせが好きで、
長年に渡って 生けたり、束ねたりしてきたが、
先日、お客さんから
「ケネディをめぐる女たちですね。」
と言われるまで、全然気づかなかったのだ。
ジャクリーンだけは
麗しいファーストレディの印象と重ね合わせていたのだが。
ジャクリーンとマリリンは、
競い合い、響き合い、
お互いの美しさを引立て合いながら、
周囲を明るい光で満たしてくれる。
このはじけるようなエネルギーに、
私はいつも活力をもらっている。
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光。
ほとんどの植物が、太陽の光を受けて、花ひらく。
その花を切り取って器に生けたら、
直射日光こそ避けた方がよいけれど、
窓から家の中にやわらかく入り込む光に、
花たちは幸せそうな笑みをうかべる。
特に、新しい光が生まれる朝の時間は、
その歓びに満ちている。
私は、10年ほど前から、
営業中であっても、晴れた日中は、照明を点けず、
ガラスごしの穏やかな光の中に花を並べている。
古い町家で、しかも天井が高めなので、
外から見ると、照明を点けても点けなくても、
ほとんど変わりなく暗いのだが、
一旦、中に入ると、意外に明るいと驚かれる。
晴れてさえいれば、ガラス戸から入る自然光だけで
充分な明るさを得ることができる。
時の流れとともに変わる光の変化や
適度な陰影、
自然光のもとでは、
その微妙なうつろいを楽しむことができるし、
花本来の美しさが表出するように思う。
日中の人工光に疑問を持った、そもそものきっかけは、
10年前に旅行した、インドでのこと。
あるハイクラスの王立小学校を訪れた時、
どの教室も照明を点けずに授業をしていた。
停電でもないだろうし、裕福な学校のはずなのに、
「なぜ点けないのですか?」と生徒の一人に聞くと、
逆に「なぜそんな質問をするのですか?」と返された。
そして、
「昼間に照明を点ける必要はないでしょう?」と。
日本の学校では、昼でも電気を点けるのは
当たり前のようなことだし、
家でも「目が悪くなるから」と、
読み書きの時は手元を明るくするようにしつこく言われた。
蛍光灯のスタンドの光には大変お世話になったが、
視力は悪くなった。
でも、日本人に比べて、
インドの子供たちはずっと視力がよさそうなのだ。
私は、はっとした。
日本の生活は、人工の光が過剰なのではないか。
不自然な光は、体にストレスを与えるのでは?
目にもよくないし、
肌も老化させるのではないか?
もしかして動物だけでなく、植物も?
その証拠に、夜でも照明を当てられた桜は、
そうでないものに比べて、早く散ってしまう。
眠りに入るはずの時間に無理やり起こされて、
興奮状態が長く続いた挙げ句、
命を縮めてしまうのでは?
私は、インドから戻った後、
さっそく日中の照明を減らすようにしてみた。
すると、ほんとうに花の状態がよくなった。
お客さんが買って帰った後でも、
とても長持ちするとよく言われるようになった。
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日本がいかに照明過剰であるか、
インドだけでなく、外国に行くとその違いがよくわかる。
おさえた照明が、いかに体をリラックスさせてくれるか、
誰しも体感しているはずなのに、
日本の街は、どうしてこんなに光が多いのだろう。
昼も明るい、夜も明るい。
自然光とともに暮らす生活を
思いきって取り入れてみれば、
この国に蔓延する疲労感のようなものが、
少し緩和されるのではないかしら?
この心地よさが、もっと街に増えていってほしい!
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