語りかける花たち

角島 泉(かどしまいずみ) 花日記
 ~石川の四季、花の旅、花のアトリエ こすもす日々のこと


枯れてもなお

2011年09月23日 | 思い出の花
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十日町に住むくみさんから、こんな美しい写真を添えて

メールが送られてきた。

「エキセアナ・グリーンジュエル、
 花瓶に生けてずっと楽しんでいたのですが、
 立ち枯れて秋色にいい感じになりました。」

8月の終わりに、くみさんのお庭で咲いていた花、

そんな長い名前の花だったのか。

“ エキセアナ・グリーンジュエル "











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夢の中に咲く花

2011年06月11日 | 思い出の花
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遠い記憶の中に

今も鮮明な色を残したまま

時々現れてくる風景、

そんな風景を誰もが持っていると思う。


子供の頃、家の庭と菜園のつづきに

なだらかな丘があった。

砂地の丘なので、肥えた土壌ではないけれど、

そんな条件でも生きていける植物で満たされていた。

 
初夏の風が吹くころ、

その丘は、濃いピンク色に塗り替えられた。

小さな花が集まって咲く、なでしこの花。

可憐な見た目とはうらはらに、

細い茎には ところどころ

粘着テープが取り付けられたようになっていて、

そこに時々、小さな虫がひっかかっていた。

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この花の正式名は「ムシトリナデシコ」

でもこの現実的な名前がいやで、

母と私は、勝手に「夢の花」と呼んでいた。


そう、この一面に咲くピンクの花の中にたたずんでいると、

夢の中かおとぎ話の世界に入ってしまうのだから。


野性的な、ほんのり甘い香り、

今でもこの香りをかぐと、

あの頃の妄想の世界にトリップできる。


.

中学生くらいになった時だったか、

あの丘に大型重機が入ってきて、

数日のうちに、平らな土地になってしまった。

跡地には、瞬く間に 別の植物が生え始めた。

丘を作っていた砂は、

どこかでコンクリートの材料にされていることだろう。


幻のように消えた、ピンクの丘。

今でも別の場所で生きのびるこの花に出会うと、

私の心の中に、ひとときだけ現れる。


.

コメント (2)
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ニコールのウェディングブーケ(後編)

2010年06月08日 | 思い出の花
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ニコールの結婚式の招待状を送ってくれたのは、

なぜか彼女の叔母にあたる、ヴィクトリアだった。

「式の前の一週間はいろいろ楽しいから、早めにいらっしゃい。」

という、楽しそうな お誘いの言葉が添えられていた。


すべて友人たちによる手作りのウェディングだから、

私も手伝いに加わるつもりで、8日前から

ヴィクトリア叔母さんの家にお世話になることになった。


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私の心は、あの薔薇、

ニコールのために植えられた薔薇の色でいっぱいだった。


でもヴィクトリアから聞かされた現実に呆然とする。


数年前、ニコールの両親は離婚し、

家族は全員、ばらばらに暮らしているという。

そして、あの薔薇の木ごと、家は売ってしまった、と。

「だからこそ、ニコールの結婚式は、

   幸せあふれる、楽しいものにしましょう!」

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一人一枚、ハートのアップリケを作って、

各々メッセージをしたためた。

それをヴィクトリアがつなぎ合わせて、

一枚の大きなキルトに仕上げた。

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当日のパーティを飾る小物を作ったり、

食材や花などを買い出しにいったり。


4日前からは、その準備に加えて、別の仕事も山のように。

女性だけのパーティとか、

親族だけの会食会とか、

連日、さまざまなイベントをこなしてった。


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2日前、ウェディングケーキの仕込みが始まった。

ニコールの母方の先祖がノルウェー人なので、

ノルウェー式のケーキ。


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微妙にサイズが異なるドーナツ状の型で

クッキーのようなものをたくさん焼く。

それを積み重ねて、タワーのようなケーキを作った。


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こうして、ヴィクトリアの家にみんなが集い、

大騒ぎをしながら準備をすすめていった。


ニコールのお母さんも、2,3日前から、合流していた。

お母さんは、私に言った。

「会場の花は、あなたが指揮してちょうだいね。

   ブーケは、当日、私が作ります。

 今のニコールに合う花を集めて、束ねたいと思ってる。」


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きらめく光の朝、

ニコールのお母さんは、庭に咲く薔薇や

野に咲く可憐な花を、大事そうに摘んで帰ってきた。


そして、おだやかに微笑みながら

その花たちを束ねる彼女の横顔が、あまりにも神々しくて、

私は、写真を撮ることもできなかったが、

その、美しい絵画のように静かな場面は

心に焼き付いて、生涯 残っていくだろう。


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やがてドレスに身を包んだニコールが、入ってきた。

お母さんは、まぶしそうに微笑みながら、

束ねたブーケを手渡した。


お転婆娘のニコールが、泣きそうな顔をこらえながら

満面の笑顔をかえした。


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離別した両親が、ニコールをエスコートして、

みんなの前に現れた。


カルフォルニアの、底抜けに明るい光があふれている。

カラッと爽やかな風が、みんなの頬をなでていく。


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サンフランシスコの近く、バークレーにある公園、

といっても、ただ、大きな木々とデコボコの地面の広い場所、

ここで、野外結婚式とパーティを行う。

さすが、ヒッピーの血筋、野性味あふれるパーティだった。



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みんな思い思いの場所に、パイプ椅子を置いて、

食べたり飲んだりおしゃべりしたり、


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突然、誰かがお祝いのスピーチを始めたり、

生演奏で、踊り出したり、


みんなで作ったハートのキルトは、

二人の席に飾られた。


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みんなの笑い声が、森の中にこだまする。

朝から、陽が傾くころまで、

幸せのピクニックパーティは続いた。

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悲しい出来事も、かなえられなかった夢も、

心の中の畑では、いつしか大地の下へ潜っていく。

やがて新しい種がまかれ、

新しい芽が出てくる。


いろんなものを乗り越えて、その朝 ひらいた美しい花は、

いつまでもみんなの心に咲き続けるのだ。

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お母さんがニコールに渡したブーケは、

心の花を束ねたものだった。

二人の間で交感された、他の誰にもわからない思いが、

その小さな花束に、こめられていたのだと思う。

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ニコールのウェディングブーケ(前編)

2010年05月26日 | 思い出の花
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薔薇は、私をこの仕事に導く道しるべとなった花である。


私が、花の仕事を初めて意識したのは、

高校2年生の夏だった。


夏休み、私は アメリカ カルフォルニア州の南、

小さな山あいの町で、ホームステイをさせてもらえることになった。

私がお世話になった家は、

おいしいワインを作る、ワイナリーの家だった。


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家族は元ヒッピーのお父さんお母さん、

小中学生の子供が三人、とても楽しい家だった。


二番目だけが女の子、当時4年生くらいだったニコールと私は

毎晩ひとつのベッドをシェアして、ふざけ合いながら眠った。


そのひと月の間に、ニコールの誕生日がめぐってきた。

ある日、お母さんがそっと私を呼んで、買い物に出ようという。

今年は大事な贈り物をしたいから、立ち会ってほしいと。



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向かった先は、ガーデニング ショップだった。

たくさんの薔薇の苗木が並んでいた。

あらゆる色の薔薇の中から、お母さんは、吟味を重ね、

まだひょろひょろの苗木を一本選び出した。

そして、こう言った。

「この薔薇の色が、ニコールの肌の色に合うはず」


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一輪だけ咲いていたその花の色は、

うすいクリーム色に、ほんのりサーモンピンクがかかったような

淡い優しい色だった。


お母さんは、続けて言った。

「この薔薇で、いつかニコールのウェディングブーケを作ろうと思うの」



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そのエレガントな薔薇は、

ニコールの部屋からすぐ眺められる場所に植えられた。


一本の薔薇の木から、ひとつの夢が生まれた瞬間だった。


私は、その時初めて、花嫁の持つブーケというものを意識した。

なにか特別な思いをこめる花束なのだろうと思った。


自分も誰かのために、こんなことをしてみたい。

と、そのとき確かに思ったのだが、

まさかそれを仕事にすることになろうとは。


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ニコールの結婚式の招待状が届いたのは、

それから15年後、私が花屋になって2年目の夏だった。


つづく。

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