アトリエの前の薔薇
20年近く見守っている薔薇
チャーミーピンクの一重(ひとえ)の薔薇
名前はもう忘れてしまったけど、
咲かなくなって15年。
この春 1輪咲いて、
はじめて秋に 3輪咲いてくれた。
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薔薇はなぜこんな気まぐれを起こしたのだろう。
去年、アトリエの前の植え込みを思いきって配置換えした。
この薔薇のとなりにいた、紅く華やかな薔薇を
一番遠くに置いた。
代わりに青々としたモミの木を傍に。
変化といえばそれだけ。
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植物の相性は歴然とあると感じている。
花たちは、無言で教えてくれる。
だから、切り花の配置も、毎日
となりにベストパートナーが来るように、
花たちの声なき声に耳をかたむける。
今日の最善を尽くすと、
植物たちから一斉に、
キラキラしたオーラみたいなものが発せられる。
それぞれが、一番きれいに見える場所にいるのは、
大自然の中では当たり前のこと。
そんな場所を植物たちは選んで咲いているし、
場所に応じて見え方を変化させたりもする。
自然の中にすべてのお手本が隠されている。
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15年間も見つけられなかったことを
ひとつ発見して、
はじめて秋に、薔薇が咲いてくれた。
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さやわかな風が吹く休日、
ふと思い立って能登へ。
碧く高い空に、ぽっかりスコールの雲が浮かぶ日。
雲は、気ままに移動しているようだ。
夏から咲き続ける花々は
たっぷり陽にあたって、ひときわ艶やか。
でも能登に咲く花々は、どこか優しげな表情をしている。
「能登は優しや 土までも」
という言葉があるけれど、その土で育つ花までも。
海辺に咲くコスモス。
可憐な花を支えるのは、
しっかり張った根と、しなやかな茎。
海からの風に大きく揺れても
足元はゆるぎもしない。
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美しい初秋の風景を楽しみながら、
あっという間に、能登半島の先っちょ、木浦海岸へ。
ちょうど一年前、ここで映画の撮影が繰り広げられていた。
その映画の公開はまだ少し先、今は静かな海。
この小屋は、何もなかった原っぱに、
映画のために建てられたもので、
古い舟小屋を改装し、
珈琲屋の営業をはじめた女性の物語が展開する場所だ。
撮影はとっくに終わったけれど、
地元の人たちが大事に見守り続け、
瓦がとばないように、
漁師さんが漁網をかけてくれたそうだ。
すぐそばにそのモデルになった「二三味(にざみ)珈琲」の小屋がある。
舟小屋を自力で改装した、海辺の焙煎所。
ここは小さな入江になっていて、
荒波の印象強い能登でも、おだやかな海。
ほんとうに綺麗な海水、
おいしい魚介や海藻がとれるところ。
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小さな入江の小さな集落。
家々の黒い瓦屋根が、西陽に反射して美しい。
そして家のまわりは花でいっぱい。
能登半島の外海、西陽を追うように、帰路。
空模様は めまぐるしく移り、
海の色も刻々と変化していく。
神仏のよりどころが
ごく身近にある暮らしを垣間見る。
山にも、海にも、花にも、
あやゆるところに 神がおわすのを感じつつ。
そして、田畑にも。
美しい人のいとなみにも、神が存在する。
陽を浴びた ふくよかな稲の香り。
能登の農業は、日本ではじめて世界農業遺産に認定された。
豊かな土に恵まれているものの、
過酷な自然環境の中で、工夫を凝らした作農。
植物も、必死に根を張って、力いっぱい命を燃やす。
だから能登のお米、野菜はすばらしい。
滋味深く、体を元気にしてくれる。
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分厚いスコールの雲間から
すべてを金色に染める光が、一瞬。
ほんの半日だったけれど、
心に滋養が染みたような旅だった。
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このタイムカプセルに乗った。
とある国のとある庭園で、
時空をさまよう。
その庭に降る雨は、いろんな音がした。
https://www.youtube.com/watch?v=-mUdV1A0oGo&feature=youtu.be
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