いせ九条の会

「いせ九条の会」の投稿用ブログです(原稿募集中)。
会の趣旨に賛同される方、メールでご投稿ください。

安倍首相の態度は誠実さがない/山崎孝

2007-08-31 | ご投稿
安保法制懇:憲法9条解釈の見直し検討 第5回会合(2007年8月30日付毎日新聞)

憲法9条解釈の見直しを検討する安倍晋三首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二前駐米大使)の第5回会合が8月30日午前、首相官邸で開かれた。首相が示した4類型のうち最後の「国際平和協力活動における自衛隊の後方支援のあり方」について議論し、現行解釈では認められていない戦闘地域内での物資輸送や医療など後方支援を認めるべきとの意見が大勢を占めた。

これまで政府は、自衛隊による医療活動など、それ自体が武力行使とは言えない活動についても、戦闘地域内では他国軍との密接度が高く、「武力行使と一体化したと見なされる」として容認してこなかった。これに対し委員らからは「国際的に通用しない考え方だ」などの否定的な意見が相次ぎ、報告書では、「一体化論」の見直しを求める方向となった。(以上)

朝日新聞は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の第5回会合の冒頭に安倍首相は「後方支援のあり方についてこれまでどおりでよいのか。国際平和協力の今後を考えていく上で重要な検討課題だ」と述べ、見直しに向けて議論を進める必要性を強調した、と報道しています。

8月6日、広島市平和記念式典の平和宣言で、広島市の秋葉忠利市長は、核の拡散が加速するなかで「唯一の被爆国である日本政府は、謙虚に被爆のほんとうの姿を学び、世界に広める責任がある。世界に誇るべき平和憲法をあるがままに遵守し、米国の時代遅れで誤った政策には、はっきりとNOと言うべきです」と述べました。

この式典で安倍首相は「今後とも平和憲法の規定を遵守し、国際平和を誠実に希求し、非核3原則を堅持していくことをあらためて誓う」と述べました。

だが、さほど日が経ないうちに、安倍首相は、秋葉忠利広島市長の解釈改憲の動きを念頭に入れた言葉「世界に誇るべき平和憲法をあるがままに遵守」の要求を無視して、また自らも述べた「今後とも平和憲法の規定を遵守」の言葉さえ忘れてしまいました。日本国民と世界の人々を愚弄するもので、誠実な態度とは言えません。

安倍首相の基本政策は「国民感覚」とずれている/山崎孝

2007-08-30 | ご投稿
【改造内閣支持率40・5% 共同通信が世論調査】(2007年8月29日付中日新聞より)

安倍改造内閣の発足に伴い、共同通信社は二十七日夜から二十八日にかけて全国緊急電話世論調査を実施した。内閣支持率は40・5%と、参院選直後の前回調査(七月三十、三十一両日)に比べ、11・5ポイント上昇した。不支持率も45・5%で13・5ポイント減少。内閣支持率が40%台となったのは、年金記録不備問題が本格的に取り上げられる前の五月中旬の調査以来。一方で、参院選で惨敗した首相の進退について「辞めるべきだ」が51・3%と前回より1・8ポイント増加し、過半数となった。

内閣支持理由では「ほかに適当な人がいない」が34・3%と最多で、「首相を信頼」の25・0%などを大きく上回った。「首相に指導力がある」は2・2%だった。支持しない理由は「指導力がない」が30・5%、「経済政策に期待が持てない」18・3%など。

(中略)改造内閣の顔触れについて「最初から期待していない」が52・4%に上った。「期待通り」が26・3%、「期待外れ」は12・5%だった。

内閣が最も優先して取り組むべき課題は「年金など社会保障」が38・1%と、年金記録不備問題などの早急な解決を求める声が根強いことを示した。参院選後、首相が重視の姿勢に転換した「格差問題」が16・1%で、「景気・雇用」は11・8%。「政治とカネ」は8・9%で、首相が意欲を示してきた「憲法改正」は3・0%にとどまった。

十一月一日に期限切れを迎えるテロ対策特別措置法については「延長すべきではない」が48・2%と、「延長すべきだ」の38・6%を上回り、世論は延長に批判的なことが明らかになった。

首相の進退で「続けるべきだ」は44・8%(1・1ポイント増)だった。

政権の枠組みについては「自民党中心」が44・2%と、「民主党中心」の41・7%を抑えた。衆院の解散時期としては30・0%が「年内」、28・7%は「来年前半までに」と答え、早期の解散・総選挙実施を求めていることが浮かび上がった。(以上)

毎日新聞社の世論調査の中で、テロ対策特別措置法については「延長すべきではない」が48・2%と、「延長すべきだ」の38・6%を上回り、昨日紹介した朝日新聞社の世論調査結果、テロ対策特別措置法の延長については「賛成」35%、「反対」53%で反対論が強いと同じ傾向です。

また、毎日新聞社の世論調査の結果は、首相が意欲を示してきた「憲法改正」は3・0%に止まりました。そして、安倍首相が戦後レジームからの脱却として力を入れている教育問題は、朝日・毎日の世論調査の報道記事では影も形もありません。朝日新聞では首相の続投に「そうは思わない」人で56%の人が「国民感覚とずれている」を理由に挙げています。

戦後レジームからの脱却は、戦後の日本の大きな柱とした自由と民主主義・平和主義を大切にしたいという「国民感覚」とずれているのです。

世論調査でテロ対策特別措置法の延長に反対多数/山崎孝

2007-08-29 | ご投稿
【テロ特措法 女性・若年層、強い反対】(2007年8月29日付朝日新聞)

朝日新聞社が緊急調査した安倍首相の組閣に関する調査で、テロ対策特別措置法の延長については「賛成」35%、「反対」53%で反対論が強い。男性で「賛成」44%、「反対」50%、女性では「賛成」26%、「反対」56%と女性の慎重さが目立つ。

支持政党別でみると、自民支持層で「賛成」60%、「反対」29%と賛成が多いのに対し、民主支持層の「賛成」は17%にとどまり、「反対」が75%と圧倒的。評価がくっきりと分かれた格好だ。

「地方軽視」路線の転換をにらんで総務相に起用された増田前岩手県知事に「期待する」は41%、年金問題を担う舛添厚労相に「期待する」は73%と、ともに「期待しない」を超えた。舛添氏に「期待する」は自民支持層で8割超、民主支持層や無党派層でも約7割と人気ぶりが際立つ。(以上)

世論は、「イラク特措法」の延長にも多数が反対し、テロ対策特別措置法の延長にも多数が反対しているように、自衛隊が海外における軍事に関わる活動に反対しています。ましてや安倍首相の唱える解釈改憲、明文改憲で企図する集団的自衛権行使を可能にすることは尚更のことです。この世論を持続していかなければならないと思います。そのためには「九条の会」の活動が大切なものとなります。

テレビに多く出ている舛添厚労相に期待感が持たれていますが、舛添要一氏は、昨日ブログで書いたように、安倍首相と一緒で軍事志向の強い人です。このことを知らないためと思えます。

安倍首相の組閣人事、大元のところ一致する人物を配置/山崎孝

2007-08-28 | ご投稿
朝日新聞の組閣記事の見出しは《理念後退「延命」にじむ》です。

また、2007年8月28日付毎日新聞は、

「お友達内閣」からの脱却。首相・安倍晋三にとって今回の改造の評価は、自分と距離がある政治家や批判派の政治家も閣内に入れ、リーダーの度量を示せるかどうかにかかっていた。そのシンボルになったのが、厚生労働相に起用された参院自民党政審会長の舛添要一だ。

舛添は参院選前から、激しい安倍政権攻撃を繰り返してきた。惨敗が決まった先月29日の選挙当日には「国民の声に耳を傾けないことは許されない」と続投を批判。党勢立て直しの本格議論が進まない自民党を「(惨敗で)ショック死状態」とこきおろした。

「耳の痛いことを言う人をちゃんと配置できるかにかかっている。今は茶坊主内閣。最もいい仲間は、裸の王様には聞こえない外の声を教えてやる人だ」(毎日新聞1日夕刊)と安倍に注文をつけていた舛添。その舛添の携帯に、27日午後2時ごろ、安倍から入閣要請の電話が入った。

「ずっと批判してきた人間が入っていいのか」と念押しする舛添に、安倍は答えた。「それがむしろいいんだ」

年金問題の対応に追われる厚労相は「誰がなっても大変なポスト」(自民党幹部)。自民党前総務会長・丹羽雄哉ら経験者の名前が一時はとりざたされたが、安倍はあえて安倍批判派の急先鋒を矢面に立たせた。

皇居での認証式を終えた安倍は27日午後9時すぎ、官邸での記者会見で舛添起用の理由を「年金への造詣が深く、国民に説明できる方だから」と説明した。舛添も、組閣本部に呼ばれたあとの会見でこう強調した。「批判は批判。今は一体となって自民党を立て直さないといけない」(敬称略)(以上)

毎日新聞は、「首相・安倍晋三にとって今回の改造の評価は、自分と距離がある政治家や批判派の政治家も閣内に入れ、リーダーの度量を示せるかどうかにかかっていた。そのシンボルになったのが、厚生労働相に起用された参院自民党政審会長の舛添要一だ、と報道していますが、日本が集団的自衛権行使を可能にするという基本的な考え方では完全に一致しています。

2006年10月11日の参院予算委員会で、北朝鮮の核実験問題を口実に、明文改憲や海外での武力行使を可能とする集団的自衛権行使に向けた解釈改憲を求める議論がありました。口火を切ったのは、自民党の舛添要一参院政審会長。舛添氏は、「軍事制裁」を後押しする立場に立って、米軍が北朝鮮への制裁として臨検(船舶への立ち入り検査)を実施するケースを想定。「臨検をしているアメリカ海軍に向かって発砲が始まったときにそばにいて、うちは憲法で禁じられているから何もできませんというのが通じるのか」とのべ、米軍とともに武力行使に乗り出すべきだという考えを強くにじませました。そのうえで、「もはや(自衛権を)個別や集団と峻別する意味はない」「憲法改正という形で筋道を立てたい」と改憲を強く求めています。

安倍首相も、公海上で米軍艦が攻撃された場合や、イラクで英豪軍が攻撃された場合を挙げ、「(集団的自衛権の行使を可能にするよう)しっかりと研究していくことが、われわれの責任だ」と答弁。さらに「研究を行った結果、それはわが国が禁止する集団的自衛権の行使ではないという解釈を政府として出すことも十分あり得る」と応じています。

舛添氏は、自民党新憲法草案を事務局次長として取りまとめ、既に集団的自衛権の議論は終わったと、集団的自衛権行使の可能は既定の方針という発言をしています。

麻生幹事長は歴史観が安倍首相と共通しています。2006年2月14日の予算委の閣僚答弁で、安倍氏は「侵略戦争をどう定義づけるかという問題も当然ある」と述べ、麻生氏も「(連合国軍最高司令官だった)マッカーサーも侵略戦争のみとは言い難かったと認めている」と語った。あの戦争について「きちんと政府としても検証することが必要だ」と述べています。

また、昨年の北朝鮮のミサイル発射実験への対応では「外務省は当初から非難決議への譲歩を想定していたが、『安倍長官がネジを巻いた』結果、麻生外相、谷内正太郎事務次官らが集まった7月7日の幹部協議で『中国に拒否権を行使させてもいい』と正面突破を図る方針を確認した」ことがあり、強硬な外交路線を取る体質を秘めています。

しんぶん「赤旗」の報道は、内閣の要となる官房長官には、「仲良し官邸団」などと批判の的になっていた塩崎恭久氏にかわり、経済財政担当相や党政調会長、官房副長官などを歴任してきた与謝野馨氏を充てました。与謝野氏は、自民党の新憲法制定推進本部事務総長として、党新憲法草案をとりまとめた“実績”があり、幹事長に起用された麻生氏とあわせ、党と内閣の中枢を改憲派が押さえた形です。

首相が看板にしている「教育再生」についても、伊吹文明氏を文科相に、山谷えり子氏を教育再生担当首相補佐官にそれぞれ留任させ、継続姿勢を鮮明にしました。

民間から岩手県前知事の増田寛也氏を地方都市格差是正担当として入閣させたものの、甘利明経済産業相、大田弘子経済財政担当相、渡辺喜美行革担当相は、それぞれ留任。貧困と格差をひろげ、参院選での自民党大敗の要因となった「構造改革」路線を継続する布陣を敷きました、と報道しています。

このように組閣人事で、安倍首相とは日本の方向を変えようとする考え方では根本のところで一致している人物たちを配置しています。

安倍首相は、政権を延命させ、政権の支持率を回復させ、チャンスを作り出すことが出来れば、必ず「戦後レジーム体制」からの脱却の総仕上げとして、改憲を強力に進めることは間違いありません。

戦い方如何では、国連決議=正義とはならない/山崎孝

2007-08-27 | ご投稿
8月23日の朝日新聞に、テロ特措法が11月1日に期限が切れるため、延長を図る政府が、防衛省に出させた国会向け資料に関する記事が掲載されていました。その中からの抜粋です。

資料は「自衛隊の活動状況及び実績」と題する文書。参院で野党が多数を占めたことを踏まえ、主に野党議員の説明用に作ったとみられる。

多国籍軍の「海上阻止活動」はテロリストの海上移動を阻み、アフガニスタンヘの武器や麻薬の海上輸送を遮断するのが目的。資料によると、海自は11カ国の艦船に対し米同時多発テロから間もない01年12月以降、今年7月26日までに延ベ769回、約48万㌔リットル(約219億円分)の給油活動を行った。このうち米国が350回を占め、パキスタンの135回を大きく上回った。3番目はフランスの94回。

 給油実績の回数、量とも年々減っており、02年に17万5千㌔リットルだった給油量は06年に4万8千㌔リットルまで減少した。資料は、多国籍軍の海上阻止活動にも言及。立ち入り検査を延ベ1万1千回以上、無線照会を14万回以上実施したとした。無線照会数が04年の4万1千回から翌年に1万4千回、06年には9千回へと減っていることから「不審船が減少した」と成果を強調している。(以上)

この記事よりも、テロ特措法の延長問題を詳しく解説、論じた8月26日の「しんぶん赤旗」の記事の抜粋を紹介します。

【海上自衛隊 インド洋派兵5年9カ月/テロ根絶と無縁/これで「特措法」延長とは】

自爆・誘拐ひん発も MSOが縮小しているのは、「対テロ」で効果らしいものを挙げられないからです。

 日本政府はMSOの成果として麻薬の押収などを挙げていますが、テロリストの拘束はいまだに報告されていません。また、防衛省が今月作成した資料によると、不審船舶に対する無線照会件数が〇四年の四万一千件から、〇六年には九千件に激減しています。MSO自体の存続が問われているのが実情なのです。

 しかも、海自がインド洋への派兵を続けた六年間を見ると、テロはむしろ拡大しているのが実態です。アフガニスタンでは米軍の「対テロ」戦争に参加する兵士の死者が増え続け、自爆テロや外国人の誘拐も頻発しています。

 今年三月の国連事務総長報告では、武装勢力タリバンなど「反乱勢力の規模が顕著に増加し、戦術および訓練も改善」していると指摘しています。

 欧州や中東の親米国では、大規模なテロ事件が相次ぎました。テロの根絶ではなく、テロの温床を拡大し、国際的に拡散したのです。

 それでも米国が日本などの派兵継続を執ように求めているのは、「世界の七十五カ国が『地球規模のテロとのたたかい』に協力している」という構図を維持し、ブッシュ戦略を正当化するためです。

パキスタンへの影響は? 米国は、アフガンの隣国、パキスタンへの影響を挙げてテロ特措法延長の必要性を訴えています。

 シーファー駐日米大使は民主党の小沢一郎代表との会談の際、「日本が支援をやめたらパキスタンの活動は困難になる。パキスタンは活動に参加する唯一のイスラム教国だ」と述べました。

 前出の防衛省資料によると、最近は米軍への給油が大幅に減少し、昨年十一月以降ではパキスタンが四割近くを占めています。しかし、パキスタンが派兵しているのは小型のフリゲート艦一隻のみ。本当に海自が給油しなければ活動が困難になるのか疑問です。

 しかも、パキスタンは米国から圧力をかけられ、協力を強要された経緯があります。さらに、対米支援がきっかけで逆に国内のテロ勢力が増長し、現政権が危機的な状況に陥っています。

派兵能力習得の場 見過ごせないのは、ブッシュ政権の戦略が破たんしても、自衛隊はインド洋派兵を「海外派兵隊」化のテコとして利用し続けていることです。

 本紙は海自が作成した「協力支援活動等実施報告」という資料を情報公開請求で入手しました。インド洋から帰国した海自部隊の司令官が作成する文書です。

 昨年十二月に作成された同報告では、「百八十日の派遣期間中、各艦が全能発揮を維持した。これは、当部隊が海外長期展開能力を習得したことによるもの」「まもなく、国連平和維持活動等が自衛隊の本来任務となることから、当隊にとって時期(ママ)を得た大きな成果となった」とまとめています。

 昨年十二月の「防衛省」法成立で自衛隊の海外派兵が本来任務化されたのを契機に、海外派兵能力の習得の場として位置付けていることが分かります。

 〇一年以来、海自は最新鋭の大型補給艦二隻を配備し、すでにインド洋に派兵するなど、遠征能力も高めています。

国民には秘密主義 政府はこれまで、インド洋派兵で約二百二十億円の税金を投入してきました。しかし、納税者である国民には軍事機密を理由に、必要な情報を隠し続けています。

 前出の「協力支援活動等実施報告」では、「米海軍等艦艇隻数の推移」というデータを、「他国等の間で相互の信頼に基づき保たれている正常な関係に悪影響を及ぼす」として黒塗りにしています。しかし、外務省ホームページでは「各国艦船の隻数の推移」を公表しています。

 ほかにも、米軍が公表しているデータまで黒塗りにするなど、秘密主義が目立ちます。

 「対テロ」戦争の大義が失われ、軍事的効果もなく、是非を判断する情報すら国民に提供しない――。これで「テロ特措法延長に賛成しろ」というのは、あまりにも国民を愚ろうしています。(以上)

テロ特措法は国連決議1368などを根拠にしています。同決議はテロの脅威に「対応するために、あらゆる必要な手段をとる用意がある」となっています。

だが「あらゆる必要な手段」と言っても、住民を巻き込む戦闘は許されません。アフガニスタン戦争は、開戦から多くの住民を犠牲にしてきました。6年経てもこの傾向は変わらず、米軍などの空爆で住民が死傷する事態が続き、本年5月、アフガニスタンのカルザイ大統領は「我慢の限界だ」という声明さえ出しました。

アフガニスタンの国連人権高等弁務官事務所は、本年5月28日、交戦するタリバン勢力と多国籍軍の双方に民間人の保護を規定するジュネーブ条約など国際人道法の順守を求めました。戦い方如何では、国連決議=正義とはなりません。

 日本国憲法は戦争放棄が理念。この理念にふさわしい政策は、戦争をする艦船に燃料を供給することではなく、非軍事でアフガニスタンの人道復興支援に尽力することだと思います。

ベトナム 米大統領演説に反論/山崎孝

2007-08-26 | ご投稿
【大統領の侵略正当化発言/ベトナム外務省が反論/戦争の事実が逆さま】(2007年8月25日付「しんぶん赤旗」)

ベトナム外務省のレ・ズン報道官は二十三日、ブッシュ米大統領が前日のミズーリ州でのイラク政策演説で米国のベトナム侵略戦争を正当化したことに対し、「戦争はベトナム人民に非常に大きな損害を与えた」「私たちは祖国防衛のための戦争をし、それはベトナム人民の正義のための戦争だった」と反論しました。

 ブッシュ大統領は米軍のイラク駐留継続をはかるため、ベトナムからの「米国の撤退の代償は、再教育キャンプ、ボートピープル、キリングフィールド(大量殺人現場)といった新しい言葉とともに数百万の無実の市民の苦痛で支払われた」と述べました。

 さらに、「オサマ・ビンラディンは、米国民がベトナム戦争で政府に反対して立ち上がった、今日も同じようにすべきだと言っている。これもベトナムからの撤退の代償だ」などとも主張しました。

 レ・ズン報道官は「戦争の傷跡はいまに至るまで残っており、戦争を忘れるベトナム人民はいないといえる」と強調。同時に、「ベトナム人は平和を愛するため、過去を忘れることはないが、現在を重視し、未来を志向し、すべての国と良好な関係を持っている。米国もその一つだ」と述べました。

 ベトナム戦争で米国は、後にウソだったことが明らかになる一九六四年の「トンキン湾事件」を口実に侵略を拡大。この戦争でベトナム人三百万人、米兵六万人の命が奪われました。米軍が大量に散布した枯れ葉剤は三百万人といわれるベトナム人に被害を与えました。

 ブッシュ大統領はまた、「(朝鮮やベトナムの共産主義者が)イデオロギーを他者に強制することにわれわれが立ちふさがったため、彼らはアメリカ人を殺した」と、かつてのドミノ理論を正当化しました。

 ドミノ理論は、ベトナムなどが共産主義化すれば周辺諸国も「ドミノの列のように倒れてしまう」(アイゼンハワー大統領)というもので、侵攻の口実にしました。しかし、ベトナム戦争を推進したマクナマラ国防長官自身が、ドミノ理論は「強迫観念」「ものの見方の誤り」だったと認めています。(以上)

米国がトンキン湾事件を口実に北ベトナムを攻撃し始めましたが、それまでの南ベトナムの人たちの戦いは、米国の支援を受けた独裁政権との戦いでした。このことは何人もの僧侶たちが南ベトナム政権に抗議の焼身自殺を行なったことで明確です。

戦争を起こした国の人が自国の行為を正当化する場合、自分たちが戦争を仕掛けなければ起こらなかった、相手国の人的・物的被害のことを率直に見つめることだと思います。

このことは米国の大統領に限らず、日本の日中・太平洋戦争を正当化する人たちにも言えることです。

日本の改憲を推進する人たちは、宣伝し少なからぬ日本人に植え付けた北朝鮮と中国への「強迫観念」を利用してきました。しかし、最近は北朝鮮関係においてはこの宣伝量はかなり減っています。そして、ニュースでは6者協議が前進していく情報が多くなっています。憲法を守り生かす立場の人たちにとっては有利な情勢です。

その国の未来はその国の人々にゆだねられている/山崎孝

2007-08-25 | ご投稿
8月25日付朝日新聞「社説」は、ブッシュ大統領の退役軍人会における演説をテーマに論説をしています。ブッシュ大統領のイラク政策の自己弁護を批判し、かつ、ブッシュ演説にあった言葉を引用して安倍政権を諧謔しています。

【ブッシュ演説 日本の過去に触れるなら】

 とかく権力者は、自分の都合に合わせて歴史を解釈するものですが、ブッシュさん、あなたの見方も歴史のつまみ食いではありませんか。

 イラク戦争の正当性と米軍の駐留の必要性を強調するために、第2次大戦やベトナム戦争などを取り上げた、退役軍人会での大統領の演説です。

 「日本の軍国主義者、朝鮮やベトナムの共産主義者は、人類のあり方への無慈悲な考えに突き動かされていた」

 「日本の文化は民主主義とは両立しないと言われた。日本人自身も民主化するとは思っていなかった」

 9・11テロで、多くの米国人は日本軍の真珠湾攻撃やカミカゼ特攻隊を思い浮かべました。イラク戦争を始めるときに米政府内には、武力による民主化の成功例として、日本の占領を考える人たちがいました。日本に言及したのは、こんな背景があるからでしょう。

 しかし、戦後の日本の民主化が成功し日本の過去に触れるならたからといって、イラクもというのは乱暴すぎます。日本には、明治の自由民権運動や大正デモクラシーの歴史がありました。占領軍の民主化政策にも助けられましたが、戦争は二度とごめんだという民意が軍国主義を復活させませんでした。イラクのように占領後も反米闘争が続いている状況とは違います。

 米軍がベトナムから撤退したから、ベトナムでは大量の難民が発生し、隣国のカンボジアではポル・ポト派による大量の虐殺が起こった、という見方も単純すぎます。米国の介入でベトナムの人々がどれだけ傷ついたか。カンボジアまで爆撃したことがポル・ポト派を勢いづかせた歴史も無視しています。

 イラクに関連して第2次大戦やベトナム戦争から学ぶとしたら、その国の未来はその国の人々にゆだねるしかないということです。戦後の日本やドイツでは、戦争の指導者たちを排除したあと、できるだけ自治に任せました。ベトナムでは米軍が撤退したからこそ、両国のいまの友好的な関係があるわけです。

 それにしても、演説ではずいぶんたくさん日本へ言及されましたね。

 「天皇に根ざした狂信的な神道があるので日本は民主化できない、天皇を裁判にかけないかぎり日本の民主化は失敗する。そういった意見が米国内にはあったけれど、日米が協力して民主主義制度のなかに天皇を位置づけた結果、より強固な民主主義が育った」

 最近、米国内では、靖国参拝問題や慰安婦問題などで、日本の保守回帰が第2次大戦の正当化につながり、それがやがて米国離れを導く、といった懸念が出てきています。ひょっとして、「過去を直視しない日本」への牽制がもうひとつのメッセージだったのでしょうか。

 ブッシュさんも安倍さんも、「共通の価値観」が日米の絆だと言っています。第2次大戦について、その観点からお二人でじっくり話し合ってみませんか。(以上)

社説の「その国の未来はその国の人々にゆだねる」これは国際法の原則です。この原則を守らなかったために、米国はイラクに武力を用いて介入し失敗しました。

民主主義を選ぶか、独裁体制を選ぶがも、その国の人の意思に任されています。その体制内において非人道的なことが行なわれれば、国際社会としては批判し、場合によっては人道支援を行ないます。

社説で「日本には、明治の自由民権運動や大正デモクラシーの歴史がありました」と述べていますが、これは自民党の押し付け憲法と関係することなので、少し述べておきます。

歴史を振り返れば1870年代の半から自由民権運動が盛んになり、国会開設運動の参加者は1874年から81年にかけて約32万人が参加しました。自由民権運動の指導者 植木枝盛の書いた憲法草案は、国家は思想・信教・言論・出版・集会・結社・学問などの自由を保障すべきことが盛られました。自由民権運動は弾圧を受けましたが、その思想は大正デモクラシーに受け継がれ、石橋湛山は大正3年、戦争は「人類生存上に有害無益」と主張、小国主義で日本の植民地放棄を唱え、軍艦を作るより工場、兵営のかわりに学校を建設し、国力を学問・技術・産業に注ぐことを主張します。これは日本の戦後の国是と同じ考え方です。自由・民主・平和思想は軍国主義下でも根絶やしにされず、敗戦を機に鈴木安蔵らによって表舞台に登場、マッカーサー草案より先に発表された日本人の手による民主的憲法草案で結実しました。

二つの記事から読める朝鮮半島の変化/山崎孝

2007-08-24 | ご投稿
【華川 南北対立の『あだ花』】( 2007年8月18日付中日新聞)

以前から訪ねてみたいと思っていた場所へ、ようやく行く機会に恵まれた。北朝鮮と非武装地帯を挟んで向かい合う江原道の華川郡。北漢江流域にある「平和のダム」がお目当ての場所だ。

着工から完成までに約四百億円、十八年を要した。国内三番目の規模だが、普段は貯水しない珍しいダムである。訪れた日も、水はダムの底にほんの少しだけ。

事業は、上流で北朝鮮が巨大ダムに着工したのがきっかけだった。韓国側は、「水攻め」を仕掛けられたり、上流のダムが老朽化で決壊したりすればソウルが水没すると懸念し、国民から広く寄付金を募って建設した。ある知人は「小学校で集金された覚えがある」と話す。

華川郡は今、新たな観光資源として周辺に施設や公園を整備。南北対立という時代が生んだ「あだ花」は、歴史遺産に変わりつつある。山間にそびえるコンクリートの塊。ダムの巨大さが、民族分断の悲劇の大きさと重なった。(中村清)

【韓国が大規模資材支援へ 北朝鮮水害で】(2007年8月24日付中日新聞)

【ソウル24日共同】韓国の李在禎統一相は24日の記者会見で、北朝鮮の水害復旧のため、韓国政府が同日、総額374億ウォン(約46億円)相当の資材や重機の支援を行うことを決めたと発表した。9月中旬ごろから始められる見通しとしている。

支援にはセメント10万トンや鉄骨5000トン、トラック80台などが含まれる。ほかに輸送費が50億-100億ウォン程度かかる見込みという。

李統一相は、水害で北朝鮮内の道路約640カ所と鉄道の線路約100カ所、橋約300カ所で被害が出ていることを確認したと述べた。

北朝鮮は、18日と21日の2回、韓国側に資材などの提供を要請していた。

韓国は既に医薬品や生活用品などの71億ウォン相当の緊急支援品の輸送を23日から開始。民間団体が行う支援への補助も含め、これまで計105億ウォンの拠出を決めている。(以上)

二つの記事を合わせて読めば、朝鮮半島が大きな変化を遂げていることが歴然とします。韓国の北朝鮮への支援は、北朝鮮は身内だという意識が強く働いていることを感じます。

改憲の一つの理由である朝鮮半島有事を日本の周辺事態として捉え、有事に介入する米国を支援するために集団的自衛権行使の可能が必要とする理由は希薄なものとしか写りません。

日教組 教科書検定の変更撤回を決議する予定/山崎孝

2007-08-23 | ご投稿
【「集団自決」修正/日教組 大会で撤回決議へ】(2007年8月22日付沖縄タイムスより)

日本教職員組合(森越康雄委員長)は、高校歴史教科書の沖縄戦の記述から「集団自決(強制集団死)」への日本軍関与の記述を削除・修正した文部科学省の検定意見の撤回と、記述の回復を求める決議を今月末に開かれる第九十五回定期大会で、採択する。決議案は現在調整中としているが、同教組は「沖縄戦の歴史歪曲を許さないとの決意を盛り込む」としている。日教組は組合員約三十二万人で組織する国内最大の教職員組合。教科書検定問題をめぐっては地理教育研究会、歴史教育者協議会などが撤回を求めており、全国的な広がりを見せている。

同教組は来月には、同問題に関する全国集会も開催する予定で、検定意見の撤回を求める署名活動も行っている。県高教組の松田寛委員長は「県内だけでなく、全国でも動きが広がってきている。九月二十三日には県民大会も控えており、今後も波状的に検定意見の撤回を訴える必要がある」と決意を述べた。沖教組の大浜敏夫委員長は「同じ教員として、沖縄戦の真実を歪めないという思いを共有するとともに、何としても撤回を求めるという思いを一つにしたい」と語った。

沖縄戦の歴史歪曲を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会の山口剛史事務局長は「両教組を中心にこれまでも全国に運動を呼び掛けていく努力は続けられてきたが、大会であらためて一つの方針として位置付けられるだろう。日本の歴史認識の問題として、実践でも共にやり抜きたい」と歓迎した。(以上)

沖縄タイムズは「集団自決」訴訟関連などのニュースを詳しく伝えています。(2007年7月28日付沖縄タイムスより)

【体験者の無念 代弁/隊長側、重ねて否定】大阪地裁で二十七日開かれた「集団自決」訴訟の証人尋問。原告の戦隊長側と、被告の大江・岩波側の証人が約五時間にわたって主張をぶつけ合った。被告側証人の宮城晴美さんは座間味島での聞き取りを通じ、「集団自決」に軍命があったと断言。体験者の無念さや絶望感を代弁した。一方、原告側は渡嘉敷島に駐屯した戦隊長の元部下らが「戦隊長からの命令は聞いていない」と繰り返した。逃亡した住民の処刑など日本軍の加害を裏付ける証言もあり、法廷は緊迫感に包まれた。

宮城さんは上下黒のスーツで出廷。約二時間、落ち着いた口調で答えた。

軍命の有無について、宮平春子さんが、座間味村の兵事主任で助役(当時)だった兄の宮里盛秀さんから聞いた「軍からの命令で敵が上陸してきたら玉砕するように言われている」との証言を引用。

内容の信ぴょう性に疑義を唱える戦隊長側に「自決した人の本当の気持ちを聞いたことがありますか?」と問い掛け、「泣きながら子どもを抱いて自決に追い込まれた犠牲者に、言葉を自分でつくるゆとりはない」と語気を強めた。

戦隊長側の証人に立った、海上挺進第三戦隊長の副官だった県出身の知念朝睦さん。沖縄戦の実相を描いた「鉄の暴風」に記述された「米軍が上陸したら玉砕するように」との戦隊長からの指示を「あります」と認めたが、すぐに「聞いた覚えはない」と訂正、岩波側に追及されると「記憶がない」と答えた。

米軍の捕虜になって逃げ帰った二人の少年が戦隊長に「汚名をどうつぐなうか」と追及され首をつった事件で、岩波側は「戦隊長は捕虜になることを許さなかったのか」と質問。知念さんは「ううむ…」と考えた末に「はい」と認め、投降を許さなかった当時の軍の方針を明らかにした。

知念さんは投降勧告した伊江島の女性を銃で処刑したことなども証言した。

【捏造証言元職員「援護課に勤務」 原告側反論】 被告側が前回の弁論で、軍命を捏造し、渡嘉敷島住民に援護法を適用させたとする元琉球政府職員の証言について、援護法の適用方針が明確となった一九五七年には援護課におらず、「信用できない」と主張したことを受け、原告側は二十七日、琉球政府の援護事務嘱託辞令(五四年十月付)と旧軍人軍属資格審査委員会臨時委員辞令(五五年五月)を証拠として提出。五四年から元職員が援護課に勤務していたと反論し、「元職員は、援護事務の一環として住民の自決者についても情報を集め役所に提出。この結果が後に、『集団自決』に援護法適用が決定されたときの資料として活用された」と主張した。

【「命令あった」反対尋問切り返す/宮城さん】「自尊心を傷つけられてもいい。答えるチャンスをもらった」二十七日午後、約二時間の証人尋問を終えた宮城晴美さんは、淡々と語った。

法廷では、はっきりした口調で反対尋問を切り返した。座間味村の兵事主任で助役(当時)だった宮里盛秀氏の妹・宮平春子さんが証言したことで、隊長命令はなかったとした認識を変更することに触れ、「新たな証言が出たので、認識を変えたことについて答えることがしんどかった」と語った。

母の希望でまとめた著書「母の遺したもの」の証言の一部が原告側の自決命令がなかったとする主張に使われたが、この日まで沈黙してきた。証人尋問を前に、宮平さんが証言したことに後押しされたという。

著書の表現の仕方で反省する部分もあるとし、「原告側は沖縄戦の実相や『集団自決』の悲惨さをまったく分からず、個人の名誉を勝ちとろうとすることだけを野放しにしてはいけない」と強調した。証言後は、「亡き母に『集団自決』は軍が仕向けたということを原告側へ伝えられたことを報告したい」と語り、大阪地裁を後にした。

【論戦 双方手応え「関与認めた」「混同明らか」】 沖縄戦時に慶良間諸島で起きた「集団自決(強制集団死)」をめぐる訴訟は二十七日、証人尋問が始まった。出廷した代理人や傍聴した関係者は、互いの主張や相手の矛盾を引き出せたとして、それぞれに手応えを感じていた。

琉球大学の高嶋伸欣教授は「戦隊長側が『集団自決』への軍の関与や責任を認めたのは大きな成果だ」と指摘。「集団自決」への日本軍の関与を削除した高校歴史教科書検定の根拠が崩れたとの認識を強調した。

歴史教育者協議会の石山久男委員長は、戦隊長側証人の皆本義博さんの証言に着目。「戦隊長からの命令はなかったという主張だが、『集団自決』前後に一緒に行動していないことが分かった。命令がないと証明できないことになる」と述べた。

一方、戦隊長側代理人の徳永信一弁護士は、大江・岩波側証人の宮城晴美さんについて「戦隊長の命令と軍命や軍の責任は明確に分けて考えるべき問題だが、これらを混同していることが明らかになった」と指摘。

戦隊長から直接の命令があったことは立証されていないとの認識を示した。

【琉大教授ら抗議決議】 琉球大学教授職員会(会長・上里賢一法文学部教授)は二十七日、定例総会で文部科学省の高校歴史教科書検定で沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」に関する記述から日本軍の関与が削除されたことに抗議する特別決議を採択した。

決議文は「戦後歴史学の成果である沖縄戦の研究や体験者の証言の集積によって明らかになっていることは、沖縄戦における『集団自決』は軍隊による命令、強要、誘導なしには起こりえなかった」と指摘。「検定結果が著しく沖縄戦の実相を歪め、戦争の本質を覆い隠し、生命の犠牲を賛美するのではないかと危惧する」とし、文科省に対し、修正指示の撤回と記述の回復を求めた。決議文は文部科学省と県、大学当局などに送付する。

早野透・大江健三郎 共通する想いを綴る/山崎孝

2007-08-22 | ご投稿
戦前・戦後にかけて少年だった人に焦点に当て、その少年だつた人たちが戦中・戦後の社会をどう感じ取っていたのか、そして現在の安倍首相が唱える「戦後レジーム」を念頭においた文章が朝日新聞に相次ぐ形で掲載されました。

8月20日に、シリーズのコラム「ポリティカにっぽん」で、朝日新聞コラムニスト早野透さん、21日に、シリーズのコラム「定義集」で、大江健三郎さんが書いています。

早野透さんは7月の参院選の最中に自民党の衆院議員の家に取材の電話をした。議員は不在で妻とひとしきり話した中で妻は「私、こんどは自民党に投票したくない。戦争のにおいがしていやだわ」。と話したことを紹介しました。

早野透さんは、この「戦争のにおい」を参院選で安倍政権の敗北がはっきりした7月30日未明に亡くなった小田実さんとその妻(同行者)の弦順恵さんが小田実の死後に出した著書「私の祖国は世界です」に触れながら述べています。

早野透さんは、小田実著「終わらない旅」の文章を紹介した後《ふつうの人がふつうの感覚で、「戦争はいやだ」ということ、戦争になれば、ふつうの人も被害者になるばかりではなく、戦地にいって加害者になりうること。まともな心を失えば、「特攻」とか「玉砕」とかに突き進んでしまうこと。それを繰り返さぬ決意として憲法9条ができたこと。こんなふうに「平和」を説いた小田は「市民の巨人」だった》と述べています。

そして、《小田は「同行者」の後書きに「おおらかで懐の深かった日本が偏狭な愛国心に毒された『美しい国』になりつつあるようにみえる」と書き残した。小田はいまわのきわに、こんどの選挙をどう思ったか。ふつうの人々の「まともな心」が若き首相の「美しい国」に「戦争のにおい」をかぎとった結果と信じて逝ったのではないか」と述べています。

早野透さんは、安倍首相の「戦後レジーム」を念頭に入れて、劇画家の上村一夫さんと作詞家の阿久悠さんについて書いています。

上村は千葉の疎開先で、阿久は淡路島で、10歳に満たぬ子どもとして敗戦を迎えた。上村は劇画「関東平野」で、阿久は小説「源戸内少年野球団」で、少年の目で見たその時代をいきいきと描いた。それは「戦争のにおい」から解き放たれた「白い光の夏まつり」だった。

上村にとって「戦後」は「性のめざめ」だった。阿久には「野球」と「民主主義」だった。2人はのちに東京の広告会社で席を並べ友情を結ぶ。「関東平野」には若き日の阿久が登場する。上村は1986年、45歳で死に、阿久は美しい歌を残して70歳で死ぬ。ときあたかも、「戦後」を覆そうともくろむ若き首相が居座っている。(引用以上)

大江健三郎さんは、小田実さんとのことを次のように書いています。

8月4日の小田実さんの葬儀で、ドナルド・キーン先生が、古典ギリシア語の若い研究者だった小田さんを追想されました。私も青山の会場に向かう地下鉄で、かれが生涯の最後に発表した翻訳、『イーリアス』第一巻を読んでいました。(「すばる」七月号)

 ベトナム戦争に反対するデモを組織し、先頭に立っている小田さんから集会への呼びかけがあって、初めて出かけた時にも、かれとは『イーリアス』冒頭の、泥沼化したトロイア戦争から離脱するか留まるか、指導者間で行われる熱い議論の話をしました。

 それから四十年後、「九条の会」でまた会うようになると、かれは『イーリアス』に特徴的な、ギリシア詩法への質問に愉快そうに答えてくれました。すでに大きい規模となって長く続く社会的活動と、長編小説の執筆とに加えて、専門家の初心を失わないでいる小田実が印象的でした。(引用以上)

大江健三郎さんは、戦前・戦後にかけて少年だった人に焦点を当てて次のように書いています。井上ひさしさんについて書いた後に大田富雄著「寡黙なる巨人」を読んだことを紹介し、それとの関連で次のように述べています。

この世界的な免疫学者を、私が多田さんと呼ぶのは、自分もまた、この人と共に、そして小田実、井上ひさしと共に(この本から要約してゆきますが)「戦後初めての少年たち」であったこと、「屈折はしていたが、初めて自由を手にした者であったこと」、「私たちの原点であった」日日に、この国の様々な地方で、将来に向けて自由な選択し、それを展開し、実現しようとしてきたことを考えるからです。(引用以上)

大江健三郎さんは、安倍首相の唱える「戦後レジーム」を念頭に入れて次のように述べています。

選挙で発せられた国民の声は聞かず、不思議な確信をこめて語る首相に、私はこの人の尊敬するお祖父さんの、1960年の声明を思い出します。――声ある声に屈せず声なき声に耳を傾ける。

「戦後レジームからの脱却」というあいまいな掛け声が一応の魅力を持つのは、じつは脱却した後のレジームが具体的には示されていないからです。それだけに、政府が変わっても生き続けそうな気がします。これに抵抗する手がかりの実体は、戦後の民主主義レジームに勇気づけられた世代から手渡してゆかねばなりません。(引用以上)

岸信介元首相やそのDNAを受け継いだ安倍首相の聞いたと思われる声は幻聴の類です。

早野透さん、大江健三郎さんの文章は、格調があり、日本の現在に重要な意義を持つ素晴らしい文章です。私の稚拙な引用で文章の格調を壊してしまっています。是非とも全文を新聞記事でお読みいただきたと願っています。私が紹介した以外の人についても書いておられます。