文部科学省は3月29日、2005年度の教科書検定結果を発表しました。対象は主に高校1年生が来年4月から使う教科書です。これに関する新聞三紙の報道を紹介します。
2006年3月30日付け朝日新聞夕刊記事より
「政府の立場に沿わない書きぶりは絶対に認めないという姿勢だった」と、29日発表された高校教科書の検定での文部科学省の「こだわり」について、社会科の教科書編集者らは戸惑う。検定意見が集中したのは、小泉首相の靖国神社参拝に対する司法刊断、イラク戦争と自衛隊派遣、領土問題の3項目。「教室での議論が生まれない」と心配する声も聞かれた。
「裁判での違憲判断は傍論。判決正文は国が勝訴なのに、それが理解できない取り上げ方はどんなものか」
文科省の教科書調査官は、小泉首相の靖国神社参拝に違憲判断を示した04年の福岡地裁判決を取り上げた大手教科書会社にこう指摘したという。
別の教科書会社も、年表に「04年4月小泉首相の靖国神社参拝に福岡地裁が違憲判断」と事実を書いたが認められず、結局「参拝について福岡地裁判決」と直し、違憲部分を削除した。
福岡地裁判決の記述をあきらめ、東京高裁が合憲、大阪高裁が意見と判断したと両方を書いて合格した社もある。
文科省は「事前に首相官邸サイドに相談した事実はない」と説明する。
米国のイラク改革を「先制攻撃」とした記述や自衛隊の多国籍軍参加に関する記述に、ことごとく検定意見がついた。
文科省は「『先制攻撃』は国際法上禁止されている侵略攻撃という意味だ」と説明。そのうえで「(対イラク軍事行動は)先制攻撃や予防攻撃には当たらない」とした小泉首相の国会答弁を検定意見の根拠に挙げた。
「非戦闘地域での後方支援」や「多国籍軍への参加」という書きぶりもすべてはねられ、「人道復興支援活動」だと明記することを求められた。
文科省は政府見解に基づき、「自衛隊は復興支援という目的に限って多国籍軍に参加したことが明確でないと、誤解を生む」としている。
外交上の焦点となる竹島と尖閣諸島の問題を取り上げる教科書が増えた。今回申請された教科書のうち、地理と現代社会、政治・経済では9点が新たに盛り込み、大半の教科書に掲載される。
目立つのは「日本固有の領土」の明示を徹底した点。現在の教科書と同記述でも、検定意見で修正する例もあった。
2006年3月30日付け「しんぶん赤旗」電子版より
文部科学省は二十九日、来春から主に高校一年生で使われる教科書の検定を公表しました。
戦時中の従軍慰安婦について「日本軍により慰安婦にされた」という記述を「日本軍の慰安婦にされた」と書き直させ、軍の責任をあいまいにするなど、侵略の事実を隠そうとする検定がおこなわれました。(山崎註 1993年8月4日「河野内閣官房長官談話」朝鮮人慰安婦の「募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行なわれた」)
検定ではこのほか、南京大虐殺の犠牲者数を二十万人とした教科書に対して「諸説を配慮していない」と書き直しを求めました。
自衛隊のイラク派兵について「戦時中のイラクに自衛隊が派遣された」と書いた教科書は、派遣先は「非戦闘地域」だとする政府の主張に従って「主要な戦闘終結後も武力衝突がつづくイラクに…」と書き直されました。
現代社会の申請本にあった「ジェンダー・フリー」という言葉が削除されるなど、女性の権利にかんする記述を書き直させる傾向も目立っています。(山崎註 ジェンダー・フリーは男女の役割を否定するものと自民党政治家は捉えていて、この言葉を使う男女の共同参画計画の協議が出来ないケースが生まれています)
2006年3月30日付け毎日新聞電子版より抜粋
南京事件の配述
旧日本軍が多数の捕虜や市民を殺害した南京事件「教科書記述をより公正でバランスのとれたものにする」として前回検定後の02年度に設けられた検定のバランス基準が適用され、犠牲者数については20万人程度のほか、30万人以上という中国の主張に加え、「日本国内では十数万人などの説もある」との紀述が追加される修正も行われた。(山崎註 犠牲者の数字を幾通りも記せば、事件の信憑性に疑問を持つ生徒も出てくるでしょう)
中韓両国から激しい反発を呼んだ小泉純一郎首相の靖国参拝。清水書院の現代社会では、年表の04年4月に「小泉首相の靖国神社参拝に福岡地裁が違憲判断」と記述した。しかし「下級審に過ぎず、請求も棄却された」(文科省)ことから「誤解の恐れのある表現」と意見がつき、「小泉首相の靖国神社参拝について福岡地裁判決」と判決内容が全く分からない表現に修正された。(以上)
自民党は扶桑社の教科書の採択運動に失敗していますが、これの変化球として、文科省の検定をターゲットにしたかもしれません。文科省は「事前に首相官邸サイドに相談した事実はない」と述べていますが、結果的には、教科書検定官はお上の心を察して以心伝心の悟りをひらき、自民党政府の意に適う教科書にするため手直しをしました。
小泉首相は国民が嫌悪してきた自民党の金権体質、密室派閥体質を暗示した「自民党をぶっ潰す」の言葉で、国民の異常な人気を獲得し、その人気に乗じて、歴代自民党政府が果たせなかった有事関連法制を制定、現在は全国自治体が有事法制に対応できる作業に入っています。国民を戦争に動員できる態勢を整えつつあります。その総仕上げとして改憲の具体的作業を進めています。改憲されてしまった場合は、有事法制の発動は日本が攻められた場合だけとは限らないでしょう。現在でも武力攻撃事態を日本周辺で日米が一緒に行動していた場合に、米軍への攻撃は日本への攻撃と見る見方があり、さらに日米再編で自衛隊と米軍の一体化が進めば、日本独自の政策判断は難しくなると自衛隊幹部は述べています。
これらの動きと関連して「戦争で最初に犠牲になるのは真実」という言葉が、教科書検定の世界に露骨に及ぶ事態になってきました。憲法を守るためには教科書をめぐる動きも国民に宣伝しなければと思います。
2006年3月30日付け朝日新聞夕刊記事より
「政府の立場に沿わない書きぶりは絶対に認めないという姿勢だった」と、29日発表された高校教科書の検定での文部科学省の「こだわり」について、社会科の教科書編集者らは戸惑う。検定意見が集中したのは、小泉首相の靖国神社参拝に対する司法刊断、イラク戦争と自衛隊派遣、領土問題の3項目。「教室での議論が生まれない」と心配する声も聞かれた。
「裁判での違憲判断は傍論。判決正文は国が勝訴なのに、それが理解できない取り上げ方はどんなものか」
文科省の教科書調査官は、小泉首相の靖国神社参拝に違憲判断を示した04年の福岡地裁判決を取り上げた大手教科書会社にこう指摘したという。
別の教科書会社も、年表に「04年4月小泉首相の靖国神社参拝に福岡地裁が違憲判断」と事実を書いたが認められず、結局「参拝について福岡地裁判決」と直し、違憲部分を削除した。
福岡地裁判決の記述をあきらめ、東京高裁が合憲、大阪高裁が意見と判断したと両方を書いて合格した社もある。
文科省は「事前に首相官邸サイドに相談した事実はない」と説明する。
米国のイラク改革を「先制攻撃」とした記述や自衛隊の多国籍軍参加に関する記述に、ことごとく検定意見がついた。
文科省は「『先制攻撃』は国際法上禁止されている侵略攻撃という意味だ」と説明。そのうえで「(対イラク軍事行動は)先制攻撃や予防攻撃には当たらない」とした小泉首相の国会答弁を検定意見の根拠に挙げた。
「非戦闘地域での後方支援」や「多国籍軍への参加」という書きぶりもすべてはねられ、「人道復興支援活動」だと明記することを求められた。
文科省は政府見解に基づき、「自衛隊は復興支援という目的に限って多国籍軍に参加したことが明確でないと、誤解を生む」としている。
外交上の焦点となる竹島と尖閣諸島の問題を取り上げる教科書が増えた。今回申請された教科書のうち、地理と現代社会、政治・経済では9点が新たに盛り込み、大半の教科書に掲載される。
目立つのは「日本固有の領土」の明示を徹底した点。現在の教科書と同記述でも、検定意見で修正する例もあった。
2006年3月30日付け「しんぶん赤旗」電子版より
文部科学省は二十九日、来春から主に高校一年生で使われる教科書の検定を公表しました。
戦時中の従軍慰安婦について「日本軍により慰安婦にされた」という記述を「日本軍の慰安婦にされた」と書き直させ、軍の責任をあいまいにするなど、侵略の事実を隠そうとする検定がおこなわれました。(山崎註 1993年8月4日「河野内閣官房長官談話」朝鮮人慰安婦の「募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行なわれた」)
検定ではこのほか、南京大虐殺の犠牲者数を二十万人とした教科書に対して「諸説を配慮していない」と書き直しを求めました。
自衛隊のイラク派兵について「戦時中のイラクに自衛隊が派遣された」と書いた教科書は、派遣先は「非戦闘地域」だとする政府の主張に従って「主要な戦闘終結後も武力衝突がつづくイラクに…」と書き直されました。
現代社会の申請本にあった「ジェンダー・フリー」という言葉が削除されるなど、女性の権利にかんする記述を書き直させる傾向も目立っています。(山崎註 ジェンダー・フリーは男女の役割を否定するものと自民党政治家は捉えていて、この言葉を使う男女の共同参画計画の協議が出来ないケースが生まれています)
2006年3月30日付け毎日新聞電子版より抜粋
南京事件の配述
旧日本軍が多数の捕虜や市民を殺害した南京事件「教科書記述をより公正でバランスのとれたものにする」として前回検定後の02年度に設けられた検定のバランス基準が適用され、犠牲者数については20万人程度のほか、30万人以上という中国の主張に加え、「日本国内では十数万人などの説もある」との紀述が追加される修正も行われた。(山崎註 犠牲者の数字を幾通りも記せば、事件の信憑性に疑問を持つ生徒も出てくるでしょう)
中韓両国から激しい反発を呼んだ小泉純一郎首相の靖国参拝。清水書院の現代社会では、年表の04年4月に「小泉首相の靖国神社参拝に福岡地裁が違憲判断」と記述した。しかし「下級審に過ぎず、請求も棄却された」(文科省)ことから「誤解の恐れのある表現」と意見がつき、「小泉首相の靖国神社参拝について福岡地裁判決」と判決内容が全く分からない表現に修正された。(以上)
自民党は扶桑社の教科書の採択運動に失敗していますが、これの変化球として、文科省の検定をターゲットにしたかもしれません。文科省は「事前に首相官邸サイドに相談した事実はない」と述べていますが、結果的には、教科書検定官はお上の心を察して以心伝心の悟りをひらき、自民党政府の意に適う教科書にするため手直しをしました。
小泉首相は国民が嫌悪してきた自民党の金権体質、密室派閥体質を暗示した「自民党をぶっ潰す」の言葉で、国民の異常な人気を獲得し、その人気に乗じて、歴代自民党政府が果たせなかった有事関連法制を制定、現在は全国自治体が有事法制に対応できる作業に入っています。国民を戦争に動員できる態勢を整えつつあります。その総仕上げとして改憲の具体的作業を進めています。改憲されてしまった場合は、有事法制の発動は日本が攻められた場合だけとは限らないでしょう。現在でも武力攻撃事態を日本周辺で日米が一緒に行動していた場合に、米軍への攻撃は日本への攻撃と見る見方があり、さらに日米再編で自衛隊と米軍の一体化が進めば、日本独自の政策判断は難しくなると自衛隊幹部は述べています。
これらの動きと関連して「戦争で最初に犠牲になるのは真実」という言葉が、教科書検定の世界に露骨に及ぶ事態になってきました。憲法を守るためには教科書をめぐる動きも国民に宣伝しなければと思います。