いせ九条の会

「いせ九条の会」の投稿用ブログです(原稿募集中)。
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憲法理念に立ちかえるべき日本社会/山崎孝

2009-03-13 | ご投稿
教育費でつらい思いさせない 3教職員組合が提言(しんぶん赤旗の3月14日のHPより)

 全日本教職員組合(全教)、日本高等学校教職員組合(日高教)、全国私立学校教職員組合(全国私教連)は「卒業・入学・進級で子どもたちにつらい思いをさせないための緊急提言」を十二日、東京都内で共同発表しました。八、九日の二日間共同で行った「教育費ホットライン」で明らかになった実態に基づいたものです。三教職員組合は文部科学省に提言を届け、提言が実現するよう要請しました。

 全教の北村佳久書記次長は「電話相談から深刻な実態が明らかになった。教育に携わる者が力を合わせ、教育費に苦しむ子どもや保護者への緊急支援体制をとることが急務であり、提言を発表した」とのべました。

 提言は(1)無利子・無保証人の緊急融資制度の創設(2)現行の制度の周知徹底と卒業・入学・進級時の教育費負担に苦しんでいる児童・生徒・保護者が早急に活用できるための緊急受付の実施と現行制度の拡充(3)保護者の失業・倒産等で経済的に困難な家庭への緊急支援制度の創設(4)全国の都道府県庁、行政機関、学校に教育費の「相談窓口」を設置―です。

 「『教育費でつらい思いをする子』を一人も出さないために、学校関係者による最大限の努力をつくしましょう」とすべての学校関係者へ向けたよびかけも発表。よびかけは都道府県知事、教育長、私学の担当部局へ送付する予定です。

 「教育費ホットライン」には全国から二百十件以上の相談が寄せられました。中学、高校、大学に関する相談がほとんどで、私立学校の相談が半数以上ありました。保護者の失業、倒産、収入の激減などで「今日中に○万円必要」「すでに納入期限をすぎている」など急を要する相談が多数ありました。

 三教職員組合の代表らは「問題の背景には高学費があり、学費の軽減、無償化が求められている。国が全国的な制度をつくり、支援する必要がある」とのべました。(以上)

【コメント】紹介した記事にあるように《保護者の失業、倒産、収入の激減などで「今日中に○万円必要」「すでに納入期限をすぎている」》と訴える生徒が多く出ています。授業料滞納を理由に卒業証書を渡さない学校さえ出ています。NHKの「クローズアップ現代/貧しくて学べない」でも、家計のやりくりがつかず、高校の授業料が払えず滞納する学生が増えている。そしてついには退学を余儀なくされる学生が増えていると、伝えていました。

番組で宮本みち子・放送大学教授は、子供をとりまく状況の悪化は、昨年に始まったことではなく、この10年間でじじわと悪化し、退学する生徒が増えてきた。

番組の2人のコメンテータは、教育費の負担を親だけにまかせず、将来の社会投資として考えるべきだと述べていました。

高齢化社会の構造になっている社会は、若者や現役世代が担っています。その若者の未来や現役世代の生活にダメージを与えてしまっています。このようなダメージを与えた根幹に、弱肉強食を原理とした新自由経済主義があります。日本の社会は文化的な生存権を保障した憲法理念に立ちかえる必要があると思います。

竹中平蔵氏の主張を考える/山崎孝

2009-03-10 | ご投稿
3月9日の朝日新聞に元経済財政相へのインタビュー記事が掲載されていました。以下はその抜粋です。聞き手は深津弘氏です。

(記事は前略をしています)

■勉強し稼ぐカを

――製造業への派遣解禁など、労働市場の規制緩和が格差を拡大させたのではありませんか。

 「事実と違います。小泉政権の5年半は格差拡大のスピードは弱まっています。そもそも日本の格差は競争の結果ではなく、制度がゆがんでいるから生じているんです。非正規雇用が増えたのは、正規雇用はクビが切れないという30年前の裁判所の判例があるから。怖くて正規は雇えず、非正規を増やさざるを得ない。正規と非正規の給与格差も、それを容認する判例があるから。だから私はそんな解釈ができないように法律を変える改革が必要と言い続けている」

 ――構造改革は止まりました。

 「消費や投資は、自分の所得が将来何%増えるかという期待成長率に基づいて動くんです。小泉改革のとき、それがようやく高まり05年は株価が42%上がった。しかし改革が頓挫して成長が止まってしまった。日本経済はサブプライムの影響で世界が沈む前から沈み始めていたんです。これは重要なポイントですよ。成長するには必要な改革を続けるしかない。一つは羽田空港の24時間国際化を進めるなどして日本をゲートウェイ国家にすること。もう一つは税制改革。日本の法人税は高すぎます」

――日本の生きる道として、竹中さんはアメリカ型を目指してきましたが、今も変わりませんか。

 「国民が高い税金を払って多くのサービスを受ける、それをスウェーデン型と言い、できるだけ国民が自立して税金の負担を抑え、その代わり政府のサービスも最小限にする、それをアメリカ型と呼ぶなら、私は後者を選びます。日本のような人口が多い国で政府に大きな役割を任せたら、社会保険庁みたいな役所が増え、むちゃくちゃなことをやるだけですから。でも私はアメリカ型という言葉は使いません。アメリカかぶれじゃないですから。自助自立を前提にした社会、と言っています」

――もう少し具体像を。

 「まさに福沢諭吉が描いた世界ですよ。一人一人が勉強して稼ぐ力を身につけ、自分の足で立っていく。そうすることで初めて真に助けの必要な人に公的なお金をきちんと回すことができるんです」

■頑張るのは嫌か

――郵政民営化は自助自立ですか。年金の引き出しを郵便局員頼んでいた過疎地のお年よりは、不便になって困っています。

「日本の郵便料金はアメリカの2倍です。赤字が増え、料金がどんどん高くなるかも知れないという中で、年金の引き出しのようなサービスを続けていいんですか。私はそこまでする必要がないと思う。それが自助自立ですよ」

 「小泉改革でやったのは、郵政民営化のほか、不良債権の処理と公共事業を減らしたこと。だれが困りましたか。郵政民営化では、200余の子会社を作って甘い利権を吸っていた人たちが困った。不良債権処理では、ずるずるやってきたゾンビのような企業が困った。仕方ないですよね。公共事業を7兆円減らしたので、地方の土建屋さんが困った。でもこれをやっていなかったら消費税を3・5%上げなければならなかった。どっちがいいですか。国民は、公共事業を減らしても消費税を上げない方を選んだと思いますよ」

――竹中さんの話を聞いていると、日本人は常に気を張っていなければいけないようです。競争一辺倒でなく、「脱成長型」を目指す選択肢はないのですか。

 「だってグローバル化の時代ですよ。インドや中国が世界で頑張っている中、もう頑張るのは嫌だと言うのですか。所得が増えなくていい、みんな平等にしてくれ、と国民が求めるならそうすればいい。でも国民は、景気をよくしてほしいと常に言っているじゃないですか。マイナス成長でもいい、でも景気もよくしてほしい、と言うのは虫がよすぎます」(以上)

【コメント】竹中平蔵氏は《小泉政権の5年半は格差拡大のスピードは弱まっています》と述べています。事実を見てみます。小泉政権は2001年4月26日から始り2006年9月26日までです。絶対的貧困を表す指標となる生活保護受給所帯は、1996年は61万所帯であったのが2004年には100万所帯となり2005年は105万所帯になっています。

絶対的貧困を表す指標となる貯蓄のない所帯は1970年代から1980後半にかけては5%あたりを推移していましたが2005年は22.8%に上昇しています。

絶対的貧困層が増加したのは低賃金の非正規労働者が増えたのと比例しています。1995年は正規労働者3779万人、非正規労働者は1001万人でした。2005年になると正規労働者は3374万人で非正規労働者は1633万人となっています。製造業への規制を取り払った法律の労働者派遣法が変えられたのは1999年ですが、竹中平蔵氏の持論である新自由主義の具体化の一つでした。

竹中平蔵氏は《正規と非正規の給与格差も、それを容認する判例があるから。だから私はそんな解釈ができないように法律を変える改革が必要と言い続けている》と述べていますが、新自由主義とは、国の規制を受けずに資本家が企業の利益を最大限追求できる経営環境を整える経済主義ですから、竹中氏がこのように述べるのは矛盾しています。新自由主義は、労働者を人間として扱わず単なる労働力として経営者の都合よく使用して最大限の利益を追求するという資本家の本性を見落とした経済主義なのです。そして労働者が真面目に働いても生活出来ないような労賃から受取れなかったことや非正規労働者の大量解雇が原因となって、2009年1月には生活保護受給所帯が116万8305所帯を越してしまいました。

家計が行き詰まり学費が払えず高校を退学せざるを得ない生徒が多く出ています。竹中平蔵氏が福沢諭吉を持ち出して《一人一人が勉強して稼ぐ力を身につけ、自分の足で立っていく》この社会環境が崩れはじめています。

竹中平蔵氏は《日本の法人税は高すぎます》と述べています。しかし、小泉政権下の2005年の段階でも法人税減税などで、大企業は、過去最高の利益を上げて、内部留保は82兆円に膨らんでいます。

竹中平蔵氏は大企業の経営者の立場でものをいう人だと思います。

安心感が持てない小沢一郎民主党代表/山崎孝

2009-03-07 | ご投稿
東京地検特捜部は、小沢一郎民主党代表の公設第一秘書で資金管理団体の陸山会事務所の会計責任者を政治資金規正法違反(虚偽記載など)で逮捕しました。小沢一郎氏のスタッフで重要な位置にいた人物が逮捕されるような疑惑を持たれたことについて、小沢一郎氏に全く責任がないとは言い切れません。

私は以前から小沢一郎氏に安心感を持つことが出来ませんでした。近年では、2007年10月から11月かけての自民党福田前首相との大連合の会談は、2007年7月の参院選挙で政治の刷新を民主党に求めた意思をないがしろにしようとした行動でした。

本年2月の小沢一郎氏の発言は、東南アジアに必要な米軍は第7艦隊だけで十分、米軍の引くことによる日本の安全保障、防衛は日本が責任を果たすと述べ、日本の軍拡の懸念を抱かせました。

これは現在、国の借金である国債残高が、一般会計税収の約10年分に相当し総人口で割ると国民一人当たり約433万円の借金を抱えているとされる財政の状況と、今日の国費を民生支援に特段に必要な状況があることを深く認識した上での発言とは思えません。

私が一番望んでいるのは、現在の民主党、共産党、社民党などの政治家を含めて、憲法9条に基づく外交政策、憲法25条の理念を実現していくことを柱にした国民連合戦線を結成し、そこから立候補した政治家を増やす形で、与党の議席を大幅に減らすことが出来ればと考えています。

または、総選挙に立候補する政治家にアンケートを配布して前記の理念に賛同する政治家を選択して投票するような運動を起こせばと良いのではと思っています。

武器使用基準―「海賊」に便乗はいけない/山崎孝

2009-03-02 | ご投稿
(朝日新聞2月2日の社説)

 アフリカのソマリア沖で横行する海賊から日本商船を守るため、海上自衛隊の護衛艦2隻が今月中旬、現場海域に向かう。これは、自衛隊法の海上警備行動を適用した派遣だ。

 この応急措置とは別に、政府の「海賊対策新法」の概要が固まった。

 海賊行為という犯罪に対し、海上保安庁と海上自衛隊が取り締まりにあたる。海上警備行動とは違い、警護の対象は日本の船舶に限らず、他国の商船を守ることも可能とする。

 ただしこれは、海賊犯罪を取り締まる警察行動が目的だ。海上保安庁の手に余る事態には海上自衛隊が手助けするという仕組みが基本的な考えだ。

 政府は今回、海上警備行動による自衛隊派遣に踏み切るが、本来は、こうした法律をきちんと整備したうえで出すのが筋だったろう。

 最終段階にきた法案作りの焦点は海賊を取り締まる際の武器使用をどこまで認めるかという基準のあり方だ。

 海外に派遣した自衛隊の武器使用は正当防衛と緊急避難に限って必要最小限が認められている。だがこれでは、海賊船が警告射撃や威嚇射撃を無視した時に対応しきれない恐れがある。

 そこで、不審船などが停船に応じずに逃走した場合、海上保安庁の巡視船が船体に向けて射撃できる現行法の規定を援用して、公海上でも船体射撃を認める方向になっている。

 海賊行為を確実に阻止するために必要な措置だとしても、あくまでも過剰な武器使用にならないように、明確な基準と歯止めは必要だろう。

 派遣にあたって国会の承認は不要とされ、活動内容の基本計画を報告するだけにとどめるという。海外、それも洋上での活動だと、国民の目からは遠い。国会がきちんと活動をチェックできる文民統制の仕組みを確立しておかねばならない。

 法案作りに関連して見過ごせない動きが自民党内などに出ている。

 新法の規定を機に、自衛隊を海外に派遣する際の武器使用基準を広げたいという声が上がっていることだ。

 国連の平和維持活動でも、イラクでの活動でも、憲法が禁じる武力行使にあたらないよう、武器使用には極めて抑制的な基準が設けられてきた。それが自衛隊の活動範囲を必要以上に狭めているという不満は、防衛省や自民党内などでよく聞かれる。

 だがこの問題は、憲法のもとで日本の果たすべき役割、自衛隊の能力、国際社会の要請などを踏まえ、冷静に議論すべきことだ。海賊対策で認めたのだから、他の派遣でも認めたいというのはとんでもない筋違いである。

 平和維持活動一般への自衛隊派遣の問題と議論を混同させてはならない。国会での審議では、その点を明確にしてもらいたい。

【コメント】朝日新聞社説は、《法案作りに関連して見過ごせない動きが自民党内などに出ている。 新法の規定を機に、自衛隊を海外に派遣する際の武器使用基準を広げたいという声が上がっていること》を指摘しています。自民党はこの意図があるために、本来は海上保安庁の活動の範疇であり、マラッカ海峡海域の海賊対策にも実績のある海上保安庁の活動にはせずに、自衛隊の仕事にしてしまいました。

海賊対策という国民が反対しない事柄につけこんで、その海賊に対応する便宜として武器使用基準の拡大がされて、更に軍事的な自衛隊の海外派遣を行なう時の一般法を制定しその法律に武器使用基準の拡大がされてしまうことを許してはならないと思います。

自民党が海賊対策の中にこのような企みを持っていることを国民に知らせなければならないと思います。その意味でも古山葉子さんが紹介していたアバマ大統領の就任演説の一節《理想は今も世界を照らしており、我々が一時の便宜のために手放してはならないものである》の言葉は、平和憲法を持つ日本にとっても重要だと思います。

小沢発言 専門家は「憲法改正が必要になる論法」と指摘/山崎孝

2009-02-28 | ご投稿
小沢代表:対米追随脱却を強調 防衛力強化も言及(毎日新聞のHPより)

 日米首脳会談に合わせる形で、民主党の小沢一郎代表は2月25日、在日米軍削減論を重ねて示し、「対米追随脱却路線」を鮮明に打ち出した。次期衆院選後の政権交代をにらみ、「対等な日米同盟」の具体策として持論を強調したものだが、日本の防衛力強化にも言及。専門家からは「憲法改正が必要になる論法」との指摘が出たほか、野党内に困惑や警戒感が広がった。

 「グローバルな戦略を米国と話し合って役割分担し、日本に関係の深い安全保障面は日本が負担すれば、米軍の役割はそれだけ少なくなる」

 小沢氏は25日、大阪市で記者団に語った。そのうえで「米国のプレゼンスは必要だが、おおむね(米海軍横須賀基地に司令部を置く)第7艦隊の存在で十分だ。米軍が引くことによって日本の防衛に関することは日本が責任を果たせばいい」と改めて指摘した。

 小沢氏に近い民主党関係者によると、在日米軍の役割のうち「日本の防衛」に応分の負担をする分、「極東の安定」は第7艦隊で十分になるという意味だという。

 ただ、森本敏・拓殖大大学院教授(安全保障)は「在日米軍には海兵隊と戦略空軍があり、海軍である第7艦隊だけでは抑止機能の一部しか果たせない」と指摘。「出ていった米軍の肩代わりを日本がするのであれば、再軍備を意味し、憲法改正が必要となる」と語った。

 こうした中、共産党の志位和夫委員長は「軍拡の道を進むことでイコールのパートナーになるのは間違った道だ。日本が軍事的な力を強めれば強めるほど米国は利用する」とけん制。社民党の福島瑞穂党首は「『第7艦隊で十分』の後が『日本でやる』か『基地縮小』かで意味が違う。軍備拡張には反対だ」と戸惑いを見せた。

 民主党の鳩山由紀夫幹事長は東京都内で記者団に「極東において脅威が増大している状況ではないという発想ではないか。日本の軍備増強という発想ではない」と語り、小沢氏の発言への理解を求めた。ただ、その一方で「将来ミサイル防衛網などをしっかり作れば、米国に頼らなくとも専守防衛の中で日本の安全を保てる」という持論も展開した。【渡辺創、古本陽荘】

【コメント】「グローバルな戦略を米国と話し合って役割分担し、日本に関係の深い安全保障面は日本が負担すれば、米軍の役割はそれだけ少なくなる」という民主党の小沢一郎代表の発言は、20世紀後半と21世紀に入ってからの米国が行なってきた軍事的行為を基本的には肯定的に捉えたものと考えます。私は米国が起こしたベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争の例をみても、またパレスチナ人の生活を圧迫し、犠牲にしているイスラエル行為を米国が支持していることを見ても、米国の軍事力が世界平和に貢献したとはいえません。

小沢一郎代表の「将来ミサイル防衛網などをしっかり作れば、米国に頼らなくとも専守防衛の中で日本の安全を保てる」という発言も、基本的には軍事力によって安全保障を確保するという考えです。安全保障は軍事力によって得られないことは明らかで、また軍事を増強することは国力を疲弊させ国民生活を圧迫します。日本国憲法の精神による外交こそが考えが対立している相手を安心させ、脅威なるものを取り除き、恒久的な安全保障の確保に繋がると思います。

作家の村上春樹さんが「エルサレム賞」授賞式の記念講演の言葉、《わたしたち一人一人は卵であり、壊れやすい殻に入った独自の精神を持ち、壁に直面している。壁の名前は、制度である。制度はわたしたちを守るはずのものだが、時に自己増殖してわたしたちを殺し、わたしたちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させる。》という言葉は、安全保障を軍事力に頼ることへの警告と取れます。日本の戦前の歴史、米国の戦後の歴史、イスラエルのパレスチナ政策に当てはまります。

映画「おくりびと」 「人の生をいくつしむ心」の政治を/山崎孝

2009-02-24 | ご投稿
第81回米アカデミー賞外国語部門に「おくりびと」とアカデミー短編アニメ賞に「つみきのいえ」が受賞しました。

「おくりびと」は、遺体を清め、装束を着せ化粧を施し棺に納める「納棺師」という仕事を描いた映画だそうです。

納棺師との関連で、遺体を葬る方法の話をすると、日本では火葬し墓に納骨する、或いは遺体を墓に土葬にするのが一般的ですが、「千の風になって」という歌が流行ってからは、自然界に「散骨」する人も目立ってきました。

特異なものに沖縄県周辺で行なわれていた「風葬」は、マブイ(魂)というのは、煙のようなものと考えられ、遺体を土中に埋めない風葬は、魂を海の彼方の幸せの世界「ニライカナイ」に還す方法だとされました。

チベットの「鳥葬」は、死体をハゲワシなどの鳥類に食べさせます。鳥葬は魂の抜け出た遺体を「天へと送り届ける」ための方法として行われており、鳥に食べさせるのはその手段に過ぎないと言われています。また、多くの生命を奪うことによって生きてきた人間が、せめて死後の魂が抜け出た肉体を、他の生命のために布施しようという思想もあるともいわれています。

「風葬」や「鳥葬」も死者を敬うことでは共通しています。

「天声人語」の筆者は映画「おくりびと」を《いくつしむ所作を通して「人の尊厳」がにじみ出る》と書き、米国の映画紙が《死に対する畏敬の念を通して生をたたえる感動作》と評したことを紹介しています。

今日の日本は、人を人として扱わない企業経営、福祉の分野でのサービスが切り捨てられ「人の生をいくつしむ心」で、社会が営まれているとは言えません。日本国憲法で謳われる「人の尊厳を尊ぶ」心の政治が行われなければならない。庶民が日本に生まれ育ち生きてきて良かったと言える社会にならねばならないと思います。

イスラエルに人間の自由の理念に関する国際賞を与える資格はない/山崎孝

2009-02-20 | ご投稿
作家の村上春樹さんがイスラエルから「エルサレム賞」を贈られるニュースを読んで考えたことを朝日新聞の読者欄に投稿しました。運良く掲載されましたので、この文章をブログにも投稿します。

2009年2月20日付朝日新聞「声」欄掲載文【村上春樹講演感動して共感】

イスラエル軍のパレスチナ・カザ地区の攻撃で1300人の市民らが犠牲になり、その中に子供たちが多く含まれていた。ガザ地区の封鎖で、食糧不足や電気・水道の供給不足が起こり、国連人道問題調整事務所の報告書は「人道的尊厳の危機」と訴えていた。

イスラエルの非人道的な行為は、国際的な制裁に値すると思う。そのイスラエルが村上春樹さんに「エルサレム賞」を贈った。この賞は、社会における個人の自由の理念を表現した著作の筆者に与えられると言うが、イスラエルが罪の無い多くの人の生きる権利と自由を奪っておいて、このような賞を与える資格があるとは思えない。

私の気持が救われたのは、村上春樹氏が授賞式の記念講演で、イスラエルのガザ攻撃に言及し、私たちを守るはずの制度が組織的に人を殺すことがあると述べ、一人ひとりの力で国家や組織の暴走を防ぐよう訴えたことであった。

自民党は国民の安全の確保とか国際協力とか称して自衛軍を持とうと考えている。このことを思うと村上春樹氏の言葉は、実に教訓的である。(以上)

【参考】【エルサレム16日の共同通信配信記事】作家の村上春樹さんが2月15日行った「エルサレム賞」授賞式の記念講演の要旨は次の通り。

 一、イスラエルの(パレスチナ自治区)ガザ攻撃では多くの非武装市民を含む1000人以上が命を落とした。受賞に来ることで、圧倒的な軍事力を使う政策を支持する印象を与えかねないと思ったが、欠席して何も言わないより話すことを選んだ。

 一、わたしが小説を書くとき常に心に留めているのは、高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる卵のことだ。どちらが正しいか歴史が決めるにしても、わたしは常に卵の側に立つ。壁の側に立つ小説家に何の価値があるだろうか。

 一、高い壁とは戦車だったりロケット弾、白リン弾だったりする。卵は非武装の民間人で、押しつぶされ、撃たれる。

 一、さらに深い意味がある。わたしたち一人一人は卵であり、壊れやすい殻に入った独自の精神を持ち、壁に直面している。壁の名前は、制度である。制度はわたしたちを守るはずのものだが、時に自己増殖してわたしたちを殺し、わたしたちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させる。

一、 壁はあまりに高く、強大に見えてわたしたちは希望を失いがちだ。しかし、わたしたち一人一人は、制度にはない、生きた精神を持っている。制度がわたしたちを利用し、増殖するのを許してはならない。制度がわたしたちをつくったのでなく、わたしたちが制度をつくったのだ。(以上)

日米政府は沖縄の声を聞かない/山崎孝

2009-02-18 | ご投稿
2月9日の沖縄タイムス社説 [グアム移転協定]住民不在の露骨な策だ

 日米両政府は、新たに締結する在沖米海兵隊のグアム移転協定の中に「ロードマップ(行程表)の順守」を明記する方針だという。

 ロードマップとは、二〇〇六年五月、日米安全保障協議委員会で合意された在日米軍再編に関する最終報告(「再編実施のための日米のロードマップ」)のことである。

 ロードマップを「政治文書から条約と同レベルの合意に引き上げる」(外務省幹部)ことによって、ロードマップに盛り込まれた日米合意案に強い法的拘束力をもたせる、というわけだ。

 なぜ今、協定を締結するのか。なぜ、「ロードマップの順守」をあえて協定に盛り込まなければならないのか。

 次期衆院選を控え、政権交代の可能性が取り沙汰される中で、「選挙の結果にかかわらず、米軍再編は最終報告に盛り込まれた合意案通りに進める」との姿勢を明確にする狙いがあるのは明らかだろう。

 だが、米軍普天間飛行場の移設に関する日米合意案(V字形滑走路二本案)は、一見、地元の合意を得たように見えるものの、その内実は、どさくさまぎれの押しつけというほかなく、多様な見方や読み方が可能な代物だ。

 ロードマップ発表後、額賀福志郎防衛庁長官と稲嶺恵一知事(いずれも当時)は〇六年五月十一日、「在沖米軍再編に係る基本確認書」に署名した。しかし、その時点では防衛庁と県の信頼関係は失われており、確認書の解釈をめぐって、署名直後から大きな食い違いが生じた。

 「知事は政府案を容認した」と主張する防衛庁に対し、稲嶺知事は、V字形滑走路案を容認したわけではない、と言い続けた。〇六年四月に沖縄タイムス社が実施した世論調査で、県民の約七割がV字形滑走路案に反対であることも明らかになった。

 〇六年十二月に就任した仲井真弘多知事も、名護市キャンプ・シュワブ沿岸部へのV字形滑走路案について「現行のままでは賛成できない」と明言し、頭越しの日米合意を批判してきた。沖合移動を求める知事の姿勢は今も変わっていない。

 丁寧な合意形成がなされないまま、強引に、上から押しつける形で地元に示されたのが、ロードマップに盛り込まれた日米合意案なのである。

 ロードマップの順守を協定に明記するということは、沖縄地元の声をローラーで敷きならすのに等しい、と言わざるを得ない。

 日米合意案をまとめた守屋武昌元防衛事務次官は「沖縄の食い逃げは許さない」というのが口癖だった。県政不信の土壌の上に築かれたのが現行案だ。

 不信の土壌の上に、「アメとムチ」の交付金をつくり、さらにロードマップの順守を衆院選前に協定化する―それが「沖縄の負担軽減」のための政策といえるのだろうか。

 普天間問題のそもそもの出発点は普天間飛行場の危険性除去である。その具体策も示さないまま、ロードマップ順守の協定を「駆け込み締結」するのは納得できない。

【コメント】中曽根弘文外相とクリントン米国務長官は2月17日、会談後に、沖縄米海兵隊のグアム移転に関する協定に署名しました。この協定について沖縄タイムスの社説は《不信の土壌の上に、「アメとムチ」の交付金をつくり、さらにロードマップの順守を衆院選前に協定化する―それが「沖縄の負担軽減」のための政策といえるのだろうか》と述べています。

このグアム移転に関わる日本側の費用負担で2009年度政府予算に、346億円負担するといわれるうちの202億円が計上されています。しかも沖縄から移転する海兵隊とは無関係なグアムの海軍や空軍の施設基盤整備の費用まで含まれています。以前にも紹介していますが、沖縄からグアムに移転する海兵隊員の生活などのインフラ整備にも日本が負担することになっています。

憲法で定められた日本国民の生存権を守ろうとしない政府が、他国の軍隊の生活環境や軍事施設を整備する必然性はどこにあるのかと問い質さなければと思います。

小泉元首相のふたたびの脚光浴びに私はあきれた/山崎孝

2009-02-14 | ご投稿
【小泉元首相:厳しく政権批判 郵政見直し「あきれた」】(毎日新聞HPより)

自民党の小泉純一郎元首相は12日、党本部で開かれた「郵政民営化を堅持し推進する集い」であいさつし、民営化を巡る麻生太郎首相の一連の発言について「怒るというよりも、笑っちゃうぐらい、ただただあきれている」と厳しく批判した。郵政民営化見直しの動きに対し、小泉氏が公の場で反論するのは初めて。首相は構造改革路線の転換を鮮明にしているが、小泉氏の「反麻生発言」を機に、党内の改革推進派の反発が一層高まり、政権内の亀裂がさらに広がりそうだ。

 会合には政権批判を強める中川秀直元幹事長や塩崎恭久元官房長官ら18人が出席した。(中略)

 小泉氏は総額2兆円規模の定額給付金の財源を確保する08年度第2次補正予算関連法案についても「本当に(衆院の)3分の2を使ってでも成立させなければならない法案だとは思っていない」と指摘。法案が参院で否決された場合の衆院再可決に疑問を呈した。その上で「参院の意見と調整して、妥当な結論を出してほしい」と見直しを求めた。(後略)

【コメント】小泉元首相が民営化を巡る麻生首相の一連の発言について「怒るというよりも、笑っちゃうぐらい、ただただあきれている」と批判しましたが、国会では郵政民営化見直し法案は、昨年12月に参院を通過し(民主党、日本共産党、国民新党、社民党が賛成)継続審議となっていました。11日の衆院本会議で採決され自民・公明両党の反対多数で否決されています。これを見れば郵政民営化成立当時に関する麻生氏の発言を除外すれば、それほど小泉氏が「怒るというよりも、笑っちゃうぐらい」というような政治的なピントのはずれた問題ではありません。

 郵政民営化見直し法案採決に先立って、日本共産党の塩川てつや議員が賛成討論に立ち、「郵政民営化から一年を経過して、政府・与党が主張してきた民営化のメリットなるものは、根底から破たんしている」とのべ、国民へのサービス後退や、郵政労働者の労働条件悪化などを告発しました。

 また、安心・安全という郵便局の信用のもと、「官から民へ資金を流す」の看板で、リスクの高い金融商品を売りさばくのは、「国家的詐欺といわれても仕方がない」と強調。郵政民営化を要求した「アメリカ金融業界が、日本と世界に押し付けてきた『金融の規制緩和』が何をもたらしたかは今や明白」「小泉内閣のすすめた郵政民営化に未来はない。根本から見直すべきだ」と主張しました。

 その上で、全国の郵便局ネットワーク、金融サービスの全国一律サービスの維持など、公益優先の経営への見直しには、国が日本郵政の株式を100%保有し続けることが不可欠の条件だと指摘し、「国民の財産である郵政の本来あるべき姿について、国民的合意をつくるべきとき」「私たちはそのために力を尽くす」と表明しています。

2月12日の小泉氏の発言をテレビ各局はニュースで朝から晩まで、そして翌日まで取り上げて放送しました。そのニュースには、今日の非正規雇用労働者の生存権を脅かしている状況と絡めて小泉氏への批判はほとんどありませんでした。これに対して私は腹が立ちました。

小泉氏に当時の麻生氏の郵政民営化法案審議に関する発言を批判する資格はありません。《08年度第2次補正予算関連法案についても「本当に(衆院の)3分の2を使ってでも成立させなければならない法案だとは思っていない」》という発言は、定額給付金がそれほど重要な法案という認識がなければ審議をしていた当時の衆議院で発言すべき筋合いの発言です。参議院で反対され否決されることは判っていました。

それにイラク戦争は誤りという世界の評価が定まっている状況になっても、小泉元首相はイラク戦争に賛成し加担したことについて、ひとことの反省の弁を語っていません。選挙民も劇場型政治に踊り、衆議院の議席を与党が3分の2まで与えたことをしっかりと反省しなければと思います。

9条が危ない政治状況になれば軸足を研究から運動の方に移す/山崎孝

2009-02-07 | ご投稿
2月6日に、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英・京都産業大学教授は、母校の名古屋市立向陽高校で講演をしました。その中で「学問は、より多くの自由を獲得するための作業だ」、勉強は本来は知ることで楽しいものであらねばならないという趣旨のことを述べました。

益川敏英教授は「『九条の会』のアピールを広げる科学者・研究者の会」の呼びかけ人になっています。1月31日の朝日新聞の記事で「9条が危ない政治状況になれば軸足を研究から運動の方に移す」と述べたことを紹介します。朝日新聞の武田肇さんがインタビューをしています。

見出しは「平和の心 常に/戦争体験は人生の一部/改憲の動き放置できぬ」

――受賞講演では「自国が引き起こした無謀で悲惨な戦争」という表現で太平洋戦争に言及した。1940年生まれ。父は当時家具職人。5歳のとき破る。

益川教授 家財道具を積んだリヤカーに乗せられ、おやじやお袋と逃げまどう。そんな場を断片的に覚えている。焼弾は不発で、近所でうちだが焼けなかった。発火してれば死んでいたか、大やけを負っていたと恐怖がわい」。こんな経験は子や孫に絶対させたくない。戦争体験はぼくの人生の一部であり、講演では自然と言葉が出た。

――敗戦翌年に小学校入学。校舎は旧日本軍の兵舎跡。銭湯の行き帰り、父から天体や電気の話を聞かされ、理科や数学が得意と思い込んだ。

 小学校3年生のとき、大好きだった担任の先生が突然いなくなった。レッドパージ(共産党貞やその支持者の職場からの追放)だと後で聞いた。戦前に植民地下の朝鮮で豊かな暮らしをしていた祖父母のことを、妹がうれしそうに母にたずねるのを見て「そんなの侵略じゃないか」と怒鳴ったことがあったらしい。高校生のとき。戦争につながるもので利益を得るのは許せ

ないと思っていた。

――58年春、名古屋大理学部に入学。日本初のノーベル賞受賞者の湯川秀樹博士の弟子の

坂田昌一氏が教授を務める素粒子論教室で学んだ。

 家業の砂糖商を継ぐことを願っていた父に、1回だけの条件で受験を許してもらった。その坂田先生は「素粒子論の研究も平和運動も同じレベルで大事だ」と語り、反核平和運動に熱心に取り組んでいた。科学そのものは中立でも、物理学の支えなしに核兵器開発ができないように、政治が悪ければ研究成果は人々を殺傷することに利用される。「科学的な成果は平和に貢献しなければならず、原水爆はあるベきでない」と熱っぼく語られた。私たち学生も「そうだそぅだ」ということで全国の科学者に反核を訴える声明文や手紙を出すお手伝いをした。

――67年、名古屋大理学部助手に。大学職員の妻明子さんと結婚した。学生運動全盛の時代。べトナム反戦デモに参加したり、市民集会に講師として派遣されたりした。

 とにかく戦争で殺されるのも殺す側になるのも嫌だという思いだった。ぼくのやるべき仕事は物理学や素粒子論の発展で、平和運動の先頭に立って旗振りをすることじゃないと。でも研究者であると同時に一市民であり、運動の末席に身を置きたいと考えてい

た。受賞対象の研究「CP対称性の破れ」を手がけていたときは京都大の職員組合書記長として非常勤職員の解雇撤回に取り組んでいた。

――作家大江健三郎さんらが設立した「九条の会」に賛同して、05年3月、「『九条の会』のアピールを広げる科学者・研究者の会」が発足する

と呼びかけ人になった。

 日本を「戦争のできる国」に戻したい人たちが改憲の動きを強めているのに、ほっとけない。自衛隊がイラクヘ派遣されたが、海外協力は自衛隊でなくてもできる。まだおしりに火がついている状態とは思わないが、本当に9条が危ない政治状況になれば軸足を研究から運動の方に移す。

――ノーベル賞授賞式から約一カ月後、黒人初のオバマ大統領が誕生した。

 ぼくは物理屋でいるときは悲観論者だが、人間の歴史にっいては楽観的。人間はとんでもない過ちを犯すが、最後は理性的で100年単位で見れば進歩してきたと信じている。その原動力は、いま起きている不都合なこと、悪いことをみんなで認識しあうことだ。いまの米国がそう。黒人差別が当然とされてきた国で、黒人のオバマ大統領が誕生するなんて誰が信じただろう。能天気だと言われるかもしれないが、戦争だってあと200年くらいでなくせる。

【沢田昭二の話】 科学者の思い代弁 名古屋大で益川教授の論文を審査し、広島での被爆体験もある沢田昭一・名古屋大名誉教授の話当時の研究室では社会や政治の問題を自由に語り合った。益川さんには、アインシュタインや湯川博士が核兵器廃絶を訴えて「ラッセル・アインシュタイン宣言」(55年)を発表したように、物理学者には成果が正しく利用されるようにする社会的責任がある、という意識が強い。益川さんの受賞は科学者の平和への思いが伝わるいい機会となるだろう。