いせ九条の会

「いせ九条の会」の投稿用ブログです(原稿募集中)。
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安倍政権の二刀流 表看板=建前、裏看板=本音の二枚看板/山崎孝

2006-10-31 | ご投稿
【「核論議」発言 河野談話見直し、首相は「問題ない」で済むか】2006年10月30日付け「しんぶん赤旗」電子版

安倍政権の閣僚、与党幹部らから、「核保有」論議を容認したり、「従軍慰安婦」問題で旧日本軍の関与を認めた河野官房長官談話の見直しなど、従来の政府見解をくつがえす重大発言がとまりません。これらをただそうとしない安倍晋三首相の姿勢が問われています。

「核保有」問題では、麻生太郎外相が十九日以来、「言論封殺に加担するつもりはない」との発言を繰り返し、二十七日には非核三原則の堅持について「二十年後のことはだれも分からない」とまでのべました。発端をつくった中川昭一・自民党政調会長も「(核保有の)議論は大いにしないと(いけない)」「憲法でも核保有は禁じていない」との発言について、二十六日発売の週刊誌のインタビューで「撤回しません」と断言しています。

これに対し、安倍首相は「非核三原則は堅持する。政府内で(核保有を)議論することはない」とのべる一方、麻生発言について「議員個人が話すことは言論の自由だ」(十九日)と容認しています。

もう一つは、下村博文官房副長官の発言。二十五日の講演で、河野談話について「客観的に科学的な知識をもっと収集して考えるべきだ」と再検討を示唆しました。安倍首相は「河野談話を受け継いでいるのが政府の基本的な立場だ」とのべつつ、「議員個人の責任で言っているのだから、問題ない」(二十六日)と不問にしました。

しかし、政府の基本方針を否定する発言が出たならば、首相として放置できないはず。それを「議員個人の責任」だから「問題ない」などとするのは、政府の要職にある立場と議員個人の立場の使い分けを首相が許していることになります。

「核保有」論議や、河野談話見直しは、安倍首相自身がかつて主張していたことです。マスメディアから「(麻生発言は)安倍晋三首相と役割分担して『北朝鮮への脅し』に狙いがあったと見るのも可能だ」(「毎日」二十三日付)、「下村氏の発言は…『首相が言えないことを代わりに言っている』との見方もある」(「読売」二十七日付)との指摘も出ています。

ほんとうに、非核三原則を堅持し、河野談話も受け継ぐのなら、閣内不統一は許さない明快な対応をすることが必要です。(藤田 健)

★朝日新聞10月30日「窓」欄―論説委員部屋から【安倍政権の憲法感覚】中川自民党政調会長や麻生外相が、日本も核兵器の保有を「議論しておくのは大事だ」と繰り返し述べている。

政府や与党の要職にある人がこうした発言をすれば、国際社会に誤ったメッセージを送りかねない。きわめて不適切だ。

もうひとつ気になるのは、無法21条の言論の自由を引き合いに「議論することを止めるのは言論封殺だ」と、批判を封じ込めようとする麻生氏や安倍首相の言い分だ。

だが、その論理は逆立ちしている。

憲法が保障しているのは、国民の自由と権利が国家権力に侵されないということにほかならない。国家権力を行使する立場にある人が、どんな言動をしようと批判されない、ということではないのだ。

最近の政界では、こうした憲法をめぐる勘違い、あるいは曲解がまかり通る。

思い出されるのは小泉前首相が靖国参拝について、19条の思想・良心の自由を引用し、「どんな形で哀悼の誠を捧げるかは個人の自由だ」と正当化したことだ。

小泉路線を踏襲してもいいが、誤った憲法解釈まで引き継がれては困る。

そういえば、菅総務相がNHKの矩波ラジオ国際放送に対し「拉致問題を重点的に扱うよう命令したい」と明らかにした。

閣僚や党首脳らは言論の自由を盾にしながら、NHKの報道の自由には頓着しない。そう見られても仕方がない。

この程度の憲法感覚の安倍政権が、最重要課題として憲法改正を掲げる。その危うさを思わざるを得ない。(恵村順一郎)(以上)

二つの新聞が指摘した《「核保有」論議や、河野談話見直しは、安倍首相自身がかつて主張していたこと。マスメディアから「(麻生発言は)安倍晋三首相と役割分担して『北朝鮮への脅し』に狙いがあったと見るのも可能だ」(「毎日」二十三日付)、「下村氏の発言は…『首相が言えないことを代わりに言っている』との見方もある」(「読売」二十七日付)》は、的を射た指摘だと思います。

下村博文官房副長官が、河野談話について「客観的に科学的な知識をもっと収集して考えるべきだ」と述べるのは、日本の負の史実を述べることを自虐史観と批判の人たちは、従軍慰安婦は強制されたケースばかりではないという考えと同じです。仮に強制されたケースばかりでないとしても、日本軍が関与していた重要な側面は否定できず、従軍慰安婦問題の性格は変わりません。以前に軍隊で従軍慰安婦に関する事務をとった人の証言が新聞に載っていました。

「窓」欄の恵村順一郎さんの《憲法が保障しているのは、国民の自由と権利が国家権力に侵されないということにほかならない。国家権力を行使する立場にある人が、どんな言動をしようと批判されない、ということではないのだ》の主張は、言論の封殺をするなと主張する政治家への的を射た主張だと思います。政権党の要職にある政治家は特別に「国家権力を行使する立場にある」、「政府の公式見解に拘束される立場」という法律上の自分の置かれた立場を認識できないでいます。

再度言う 日本は、米国とは違う条件の下にある/山崎孝

2006-10-30 | ご投稿
【周辺事態:政府、米国の動向みて「認定」最終判断へ】(毎日新聞10月29日付け電子版)

政府は、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議を受けた、不審船への周辺事態法を適用した対応について、米国の出方を見極めた上で最終判断する方針だ。船舶検査は米軍への後方支援が中心となるが、その米国が11月7日の中間選挙まで船舶検査で強硬措置を取らないとの見方が出るなど、方針決定に時間をかけるとみられるため。政府は当面、海上自衛隊による不審船舶の監視強化を柱に対処する一方で、船舶検査実施に向けた具体策について米国と事務レベルで調整を続ける。

久間章生防衛庁長官は25日、東京都内の講演で、米国の船舶検査について「米国はまだ公海上で軍艦を使って検査をする決意まではしていない」と述べた上で、「米国が(船舶検査を)やる場合には、日本としても協力しなければならない」と強調した。

日本政府は、安保理で全会一致で採択された北朝鮮制裁決議に「船舶などの貨物検査」が盛り込まれたことを受け、周辺事態認定を前提に準備に入った。一方、その後来日したライス米国務長官は船舶検査の具体論には入らず、外交的な解決を模索する姿勢も示したが、北朝鮮が柔軟な姿勢を見せなければ、米政府はいずれ、船舶検査に踏み切る可能性は高く、まずは米国の動向を見極めることにした。

北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記は19日、訪朝した中国の唐家セン国務委員に対し、再度の核実験の可能性について「米国の対応次第」との従来の主張を繰り返した。政府は27日、北朝鮮の核実験実施を事実上認定する見解を発表。北朝鮮の核実験への警戒感は依然として変わっておらず、外務省幹部は「再実験があれば、米国は本格的に船舶検査をやるだろう。その前にやるべきことを準備する必要がある」と強調している。(以上)

毎日新聞は「不審船への周辺事態法を適用した対応について、米国の出方を見極めた上で最終判断する方針」と伝えました。これを見ても政府の対米追随の姿勢はもろだしです。

北朝鮮の隣国である中国、韓国、ロシアは国連決議に基づき北朝鮮への制裁は行っていますが、政策のベースにあるのは、対決ではなく紛争を拡大させないことです。

米朝が対決して紛争が起これば、北朝鮮の隣国に位置し米軍基地がある日本は大きな影響が出ます。そのためには、対決ではなく紛争を拡大させない政策に徹しなければならないと思います。現段階で北朝鮮は米国の領土を攻撃する能力は持っていませんが、日本は違います。この違いを踏まえた政策を実行しなければならないと思います。

もっとも北朝鮮が事を起こせば自滅への道であることは明らかですが、民衆に惨禍が起こります。これを政治家たちは人道を口にする以上、防がなければなりません。

平和問題への思考は、国境を超えた視点が必要/山崎孝

2006-10-29 | ご投稿
10月27日付け朝日新聞「天声人語」より 眼下に、戦後の混乱したウィーンの街が広がる。遊園地の遊覧者の中で、男二人が相対している。粗悪な密造ペニシリンの売人になったハリーに旧友マーチンスが問う。「子供の病院へ行って、君のー犠牲者を一人でも見たことがあるのか」。キャロル・リード監督の「第三の男」の名場面の一つだ▼ハリーは、観覧車の下の方に虫のように小さく見える人々を指して言う。「あの点の一つが動かなくなったら――永久にだな――君は本当にかわいそうだと思うかい」(『グレアム・グリーン全集』早川書房)▼軍事史研究家の前田哲男さんは、この場面を、第二次大戦の「戦略爆撃」と重ね合わせて述べている。「空中高く他者への生殺与奪樺を保有することになった時代の不条理を鮮やかに描き出した」(新訂版『戦略爆撃の思想』凱風社)▼20世紀の初頭に生まれた飛行機が無差別爆撃に使われ、おびただしい市民が殺されてきた。独軍によるスペイン・ゲルニカへの爆撃から、旧日本軍による中国の重慶、連合国側による独・ドレスデン、日本へのじゅうたん爆撃、そして原爆投下。点のような人、あるいは点にすら見えない遠い相手への爆撃は、戦後もベトナムやイラクなどで続いた▼1938年から5年に及んだ重慶への爆撃の責任を問う裁判が東京地裁で始まった。原告の言葉が重い。「無差別爆撃は私に、一生続く身体と精神に傷を与えました」▼無差別爆撃の傷は、日本にも深く残っている。人間を単なる「点」と見た時代を省み、その実相を未来のために記憶したい。(以上)

★10月20日付け朝日新聞より【「政治家、人々殺し続ける」】「硫黄島」イーストウッド監督 「ずっと前から、そして今も、人々は政治家のために殺されている」――。太平洋戦争末期の硫黄島攻防戦(1945年2~3月)を描いた米国映画「父親たちの星条旗」の公開を前に、監督のクリント・イーストウッド氏(76)が19日付の仏紙ルモンドに自身の戦争観を語った。

「硫黄島で戦死した米兵は平均19歳。15歳もいた」。監督は当時15歳。4年後に徴兵されたが、朝鮮戦争は(50~53年)には行かず、故郷カルフォルニアで軍の水泳指導員などを務めた。続くベトナム戦争についても「若者を地獄に送っただけ」と距離を置く。

「米国が今ほど分断されたことはない。私はイラクヘの介入は優先課題ではなかったと考える側だ」と、現ブッシュ政権の対応を批判する。

「政治家たちは最前線にいる者の運命より、自らのちっぽけな権力を行使し、保持することに関心がある」と厳しい。

硫黄島の高地に星条旗を立てる兵士の写真は、当時の米政府によって戦費調達キャンペーンに使われた。だが「真実」は別にあった。兵士たちの運命をたどる「父親たちの星条旗」は、日本側の視点で措いた「硫黄島からの手紙」

(主演・渡辺謙、12月公開)との2部作で制作された。(以上)(私は硫黄島の戦いを描いたNHKの番組をブログで紹介しています)

★京都造形芸術大学学長の千住博氏は「芸術と教養」という講演の中で、芸術とは作り手が、自分のイマジネーションを、何とかして他人に伝えたいと思う心、「オレの叫びを聞いてくれ」「私の歌を聞いてくれ」と思う心が芸術なのです。芸術の究極は「平和です」。他者同士がお互いを理解し合い、仲良くやるために存在するのです。相手に伝えようとしていることに対して、まず相手の話を聞く。こんなことをしたらどうなるんだろうと考えてみる。これだけのことがこの時代にどれだけ大切か。きっとこの発想が、教養とする考え方の柱になるのではないかと思っている(講演は10月28日付け朝日新聞参考)、述べています。

国や民族が違っても人間は、同じような感性や理解力をもっています。なぜなら音楽、映画、小説、哲学、絵画など芸術は世界的な規模で愛される作品が数多く存在することがそれを証明しています。平和の問題は、国家や民族を超えた視点で捉えなければならないと思います。

10月27日、自民党中川政調会長はワシントンでの記者会見で、核攻撃を受けるような「事態が起こらないための一つとして核の議論がある」と核抑止力論の類の意見を述べました。相手を敵視するばかりで、安全保障を最大の無差別攻撃兵器に依拠する発想は、人間を単なる「点」としか見ない考えが根本にあることは間違いなさそうです。

人類滅亡までの「終末時計」/山崎孝

2006-10-28 | ご投稿
【小沢代表:中国全人代委員長と会談】毎日新聞10月28日付け電子版

訪中している民主党の小沢一郎代表は27日、人民大会堂で中国の呉邦国全国人民代表大会常務委員長(国会議長)と会談し、麻生太郎外相や中川昭一自民党政調会長が核武装論議を容認していることについて「残念に思う。賛同しない」と批判した。北朝鮮の核実験に関しては「中国が火遊びをやめさせるよう努力してほしい」と要請した。

これに対し、呉委員長は「米国が敵視政策を取っているという北朝鮮の認識が変わらなければ問題は前に動かない。(マカオにある北朝鮮の)2400万ドルの口座を凍結しても問題の解決にはならないと米国には言っている。米国は(経済制裁という)小さなことにこだわって大きな損をしないことが重要だ」と述べ、北朝鮮の6カ国協議復帰に向け、米国に柔軟な外交姿勢を求めている立場を明らかにした。

また、北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記と唐家セン国務委員との会談について「北朝鮮は現段階では2回目の核実験をしないと言っているが、米国の出方次第だとも言っている」と述べ、米国が経済制裁の強化などで圧力を強めた場合は再実験の可能性があるとの見方を示した。

★共同通信の27日付け電子版は、小沢代表は中国全人代委員長と会談で、核保有を排除しないとする麻生太郎外相の発言について「一昔前ならハチの巣をつついたような騒ぎになった。国民が(発言を)受け入れる風潮が出てきている。大きな岐路にさしかかっている」と危機感を示した、と報道しています。

★【核全廃決議:国連総会委が決議】毎日新聞10月27日付け電子版

国連総会第1委員会(軍縮・安全保障)は26日、核兵器全廃を目指し、日本が提出していた決議案を圧倒的な賛成多数で採択した。決議は94年から毎年採択されているが、今年は「北朝鮮が10月9日に実施を発表した核実験を非難する」との文言が加えられ、米国と北朝鮮がそろって反対した。

決議には169カ国が賛成し、米朝とインドの3カ国が反対、中国やキューバなど8カ国が棄権した。米国は決議が核実験全面禁止条約(CTBT)の早期署名、批准を求めていることを理由に反対を続けてきた。北朝鮮はこれまで棄権していた。

「核兵器のない平和で安全な世界の実現」を目指す決議は「核兵器の拡散により、危険が増大しつつある」と懸念を示し、特に北朝鮮の核実験を非難した。

★首相「議論封殺できない」共同通信10月28日付け電子版報道 安倍晋三首相は、共同通信加盟社編集局長会議で講演し、日本の核保有をめぐる論議に関し「政府としても自民党の機関でも議論する考えはないが、それ以外の議論を封殺できない。非核三原則の方針を堅持する方針は不動だ」と表明した。閣僚や自民党幹部の一連の発言が、政府や党の核保有を求めたものではなく、問題はないとの認識を示したものだ。(後略)

安倍首相は「非核三原則の方針を堅持する方針は不動だ」とのべて、核保有を排除しないとする麻生太郎外相の発言などを黙認、非核三原則を堅持するとして表面的には取り繕っています。私は最大の問題点は、安倍政権が、日本が国連に提案した「核兵器全廃」を目指して取り組む考えを、真剣に一丸となって取り組む考えを持っているのであれば、それに横を向く閣僚やその与党の自民党幹部の一連の発言は、重大な問題と受け取るのが普通です。

政府が世界に宣言した”真剣に核廃絶を取り組む姿勢と実践という基準”から、見て、安倍首相の姿勢、閣僚らの発言を評価しなければならないと思います。

民主党の小沢代表が述べた、「一昔前ならハチの巣をつついたような騒ぎになった。国民が(発言を)受け入れる風潮が出てきている」と述べていますが、一番の問題は政治家たちの姿勢です。仮に国民の一部にそのような風潮が出ているとしたら、オピニオンリーダの政治家は、日本の国是であり、世界が取り組むべき課題「核廃絶」の理想と恒久平和を獲得する理念に向かって、国民を説得し励ます義務を負っていることを忘れてほしくはありません。

朝日新聞10月25日の「海外メディア深読み」には次のような文章があります。《米国の原子力科学者会が1947年から公表している時計は、冷戦終結後の1991年、人類滅亡の「17分前」を指していた。その後、インド、パキスタンの核実験や核の闇市場の浮上などで、時計の針は幾度か進められ、いま、終末の「7分前」にある》。

同記事はロサンゼルス・タイムズ紙に掲載されたジョゼフ・リシンシオ氏の言葉を紹介し「核兵器はとても重要で役に立つが、君は持ってはいけない。こういう二重基準は持ちこたえられない」と批判する。米国は核軍縮を進め、そのメッセージを世界各国に伝えるべきというのだ、書いています。

米国は核兵器を開発する未臨界核実験を止める。すべての核保有国が核抑止力の二重基準から脱却しない限り「終末時計」の針は止められません。核抑止力論は人類の滅亡の危機と隣り合わせにある考え方です。

安倍政権、戦後体制から船出の船のもやいを解く/山崎孝

2006-10-27 | ご投稿
10月27日付け共同通信電子版報道より 衆議院運営委員会は10月26日、防衛庁を「省」に昇格法案について27日午後の衆議院本会議で審議入りする日程を採決し、自民、公明両党の賛成多数で可決した。(中略)民主党は「北朝鮮の核実験問題が解決しない段階で議論するのは時期尚早」との立場。共産、社民両党は法案そのものに反対しており、教育基本法改正案とともに与野党の攻防の焦点になりそうだ。(後略)

朝日新聞の報道では、公明党は来年の統一地方選挙や参院選への影響を避けるため、防衛庁「省」昇格法案の今国会の成立を強く望んでいると伝えています。これは正に、この法案が平和の党の看板と相容れず看板を大きく傷つける性格の法律であることを物語っています。

10月26日付け「しんぶん赤旗」からの情報を紹介します。防衛庁から防衛省になることは、たんなる名称変更ではありません。内閣府の一外局の「庁」から独立した「省」になれば、「防衛大臣」は内閣府の主務大臣である総理大臣を通さずとも、閣議開催要求、省令制定、予算要求が可能になるなど権限は拡大します。これは、憲法の制約を受けて防衛「庁」とし、防衛行政をいまの仕組みにとどめた政府の立場をくつがえす重大問題です。

 憲法九条は、軍部の暴走を許した侵略戦争の反省に立ち戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認を明記しています。このため政府は、自衛隊を「自衛のための必要最小限度の実力組織」だといいつくろい、防衛庁を内閣府の一外局の組織にしました。

 戦前は軍部が幅を利かし、外務省などの他省庁をらち外において領土拡張政策を進める推進力になりました。歴代首相が防衛「省」化を否定してきたのは、こうした過去の苦い経験をふまえてのことです。

 一九六〇年の安保国会で、安倍首相の祖父であり、太平洋戦争開戦時の東条内閣で商工大臣をつとめた岸首相(当時)は、「戦後の新憲法のもとにおける防衛というものは、旧憲法のときの軍部、陸海軍とかその他のような立場を絶対にとらしてはならない。国防省という考え方が、(権力肥大化の)懸念を伴う」と答弁しています(六〇年五月十六日衆院内閣委員会)。また、中曽根首相も「憲法そのほかの関係から見て、総理大臣の直属の庁にしておいたほうが適切」といいました(八六年十二月九日参院内閣委員会)(以下省略)

★10月23日付け朝日新聞は、安倍首相は10月23日の衆院本会議で、自衛隊の海外派遣を可能にする一般法(恒久法)の制定について「国民的議論を十分踏まえた上で、幅広く進めていく」と述べた。政府として自民党の条文案をもとに検討作業を加速させるものだ。ただ、閣内には「一くくりの法律を作るのは技術的に難しい」(久間防衛庁長官)と慎重論があり、公明党にも異論がある。政府・与党内の調整は難航しそうだと伝えています。

安倍首相はこの恒久法に関した国会答弁で「国際社会の多様な取り組みに機動的に対応し、わが国として的確な国際協力を推進する必要がある」と述べています。しかし、自民党の条文案は、これまで必要だった国連決議や国際機関の要請がなくても自衛隊の海外派遣が可能になっています。この自民党の条文案から察するに、安倍首相の「わが国として的確な国際協力を推進する必要」は、自民党政府の先制攻撃さえ正当化してイラク戦争への協力した経緯から見ても、「米国への的確な協力」という考え方だとも言えます。

★10月24日付け毎日新聞電子版は、久間防衛庁長官は24日の参院外交防衛委員会で、憲法解釈で禁じられている集団的自衛権行使の問題について「何十年も前の解釈が現時点でも変わらないことがいいのか。状況は変わってもいると思うので、立法府でも議論すべきだ」と述べ、政府が示してきた憲法解釈の是非を国会で議論すべきだという考えを示した、と報道しました。

「何十年も前の解釈が現時点でも変わらないことがいいのか。状況は変わってもいると思う」ではありません。2003年には日本の集団的自衛権行使の是非が問われた状況に具体的に直面したのです。自衛隊は憲法の制約を受けて、イラクの「非戦闘地域」に派遣されましたが、2006年1月、日米防衛首脳会談では、イラクの治安維持の要請を受けたのです。しかし、2004年10月の朝日新聞紙上で内閣法制局長官が示した「我が国が武力攻撃を受けて、国民の生命、財産が危機にある時に、黙ってみていることは国家としてはありえない、という立場をとってきた。国家の最低限の義務として自衛権は行使できる。ただ、集団的自衛権はそれを超えている」の見解が確立していたため、日本は「現行法では困難」と断ることが出来、反米武装勢力と交戦をしなかったために、自衛隊員から戦死者が出なくて済みました。現在119人の死者を出した英軍のようにはならなかったのです。

米国とは自由と民主主義という価値観を共有すると考えている安倍首相や久間防衛庁長官は、英陸軍のリチャード・ダナット参謀総長の言葉「もともとの意図は自由民主主義を植え付けることだった」が、「私たちがそれを実現するとは思えない」、「私たちの駐留は治安を悪化させており、近いうちに手を引くべきだ」、「イラク人の意思を無視した強引な軍事行動と軍駐留が、イラク情勢の泥沼化やロンドン同時テロを含むテロ拡大の要因となっている」という反省に耳を傾けるべきです。

★防衛庁の省昇格法案は、共同通信10月27日付けは、《民主党は「北朝鮮の核実験問題が解決しない段階で議論するのは時期尚早」との立場》と報道していましたが、27日の朝日新聞朝刊には、民主党は《法案そのものには反対しておらず、集中審議を含む審議時間の十分な確保などの条件付で審議に応じる方針を固めため》法案は《今臨時国会で成立する公算が大きくなった》と報道しています。

専守防衛の任務から海外での活動への軸足を移す防衛庁の省昇格法案の審議入り、国のために戦う若者を作ることを意図した教育基本法改定案の審議入り、集団的自衛権行使の出来る憲法改定のための一里塚である国民投票法案の審議入りの状況が作り出されています。安倍首相の考える戦後体制からの船出の船のもやいが一斉に解かれました。戦争が出来る日本への船出です。

10月19日投票の沖縄県知事選で、「沖縄に新たな米軍基地を作らせない」とする革新統一候補、糸数慶子候補が勝利をおさめ、対米追随路線に打撃を与えることを切に願っています。

全銀協会長は、神様を取り違えるな/山崎孝

2006-10-26 | ご投稿
【全銀協会長 企業献金再開を検討 法人税1円も払わずに 経団連が要請】(2006年10月25日「しんぶん赤旗」電子版報道)

 三菱UFJフィナンシャル・グループの畔柳信雄(くろやなぎ・のぶお)社長は二十四日、全国銀行協会会長としての記者会見で、日本経団連(会長・御手洗冨士夫キヤノン会長)から企業献金再開を要請されていることを明らかにしました。

 企業献金の再開について、会見した畔柳社長は「今後検討していくが、まだ白紙の状態だ」「いつごろまでに(再開する)と申し上げる段階ではない」と述べました。また、経団連から「全銀協の会員行に献金を呼び掛けてほしい」と要請があったことも明らかにしました。

 銀行業界は、不良債権の最終処理を進め「体力」を強化するための巨額の公的資金の投入を受けて、一九九八年から企業献金を自粛していました。三菱UFJ、みずほ、三井住友のメガバンク三グループは、二○○六年に入り相次いで公的資金を完済しました。経団連からの要請は、公的資金を返済したという局面で行われました。

 大手銀行は○六年三月期には、そろって過去最高の利益を上げ、りそな、住友信託、三井トラストも含む六大グループで同期の純利益は三兆円を超えています。

 ところが庶民の預金金利は低く抑えたままです。さらに、大手行は繰越損失を抱えているという理由で法人税を一円も納付していません。にもかかわらず企業献金の再開に踏み切れば国民的批判は免れません。(以上)

私は大手銀行が相次いで公的資金を返済できたのは、超低金利預金に腹を立てながらも我慢をして預金をするより仕方がない庶民のお陰だと思っていました。銀行の最大のお客様は万が一のためにこつこつと預金を行う一人一人の庶民の筈です。超低金利預金による銀行利益は、預金した庶民に正当な預金利率を上げて報いる性格のものです。

ところが、三菱UFJフィナンシャル・グループ畔柳社長は「今後検討していくが、まだ白紙の状態だ」と語り、経団連の要請を拒否はしていません。銀行協会は神様を取り違えて自民党に献金をするような気配を感じます。経団連が自民党に多額の献金を行っているということは、自民党の政策が大企業にとって利益となっている証明です。

★2006年10月25日付け毎日新聞電子版速報によりますと、久間章生防衛庁長官は10月25日、日本外国特派員協会で講演し、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議に伴う船舶検査活動について「米国はまだ公海上で軍艦を使って(検査を)する決意まではしていないと思う」と述べ、当面は陸上や港での検査が中心になるとの見通しを示しました。

私は先日、危機をエスカレートさせないためには、貨物検査で米軍をどう動かすかの検討は時間をかけて慎重に行わなければいけない事柄だということを述べましたが、久間章生防衛庁長官が、米国はまだ公海上で軍艦を使って(検査を)する”決意”までという認識を述べたことは、公海上での船舶の臨検という行動は「危機をエスカレートさせる可能性」を秘めていることを物語ります。久間章生防衛庁長官の国会での発言を自省してほしいと思います。そして米国には危機をエスカレートさせないために慎重な行動が望まれます。

英国兵士の手紙「もしぼくが死んだら、開封して読んでほしい」/山崎孝

2006-10-25 | ご投稿
【英参謀長が撤退主張 イラク駐留で状況悪化】10月14日付け「しんぶん赤旗」電子版報道

【ロンドン=岡崎衆史】英陸軍のリチャード・ダナット参謀長はデーリー・メール紙十三日付とのインタビューで、イラク駐留英軍がイラクの治安状況を悪化させているとして、早期撤退を求めました。英国は七千人以上の兵力をイラクに駐留させています。今回の発言は、制服組の最高首脳の一人が駐留継続というブレア政権の方針に公然と反旗を翻した形です。

 同参謀長は、「私たちの駐留は治安を悪化させており、近いうちに手を引く」べきだと述べました。イラク侵略の経緯については、「明らかに私たちは当時のイラク人に招待されてはいなかった。二〇〇三年の軍事行動はドアをけ破ってしまったという事実を認めなければならない」と発言しました。

 さらに、「私たちが世界で直面している困難がイラク駐留によって引き起こされているとはいわないが、イラク駐留が事態を悪化させているのは疑いない」と述べ、イラク人の意思を無視した強引な軍事行動と軍駐留が、イラク情勢の泥沼化やロンドン同時テロを含むテロ拡大の要因となっているとの見方を示しました。

 ダナット参謀長は侵略の目的にも言及。「もともとの意図は自由民主主義を植え付けることだった」が、「私たちがそれを実現するとは思えない。より低い目標を目指すべきだ」と述べました。(以上)

★10月24付け朝日新聞夕刊は、イラク南部の多国籍軍を統括する英軍のシレフ司令官は22日、BBCラジオに対し、バスラの治安回復作戦が来年前半に終了した段階で、イラク側に治安権限委譲の条件を改めて提示する考えを示した。そして、来年中に「英軍部隊を相当数削減できるだろう」と語り、早期撤退への意向をにじませていた。これに先立つ13日には「英陸軍トップのダナット参謀総長が、英軍の駐留長期化によってかえって治安が悪化していると異例の警告を発していた。ICM社の世論調査では、ダナット氏の発言を支持する人が英国民の74%にのぼった、と報道しています。

★朝日新聞には同じ紙面で次のような悲しい記事が掲載されています。若い英国人兵士がイラクで銃弾に倒れた。戦場に赴く前、彼は婚約者に一通の手紙を残していた。もしぼくが死んだら、開封して読んでほしい、と託して「君はぼくの世界のすべて、ぼくはいつでも君のことを見守っている」。手紙は婚約者によって公開され、深く静かな感動を呼んでいる。

(中略)手紙の内容は英BBC放送や主要紙に報道され「涙が止まらなかった」といった声が寄せられ続けている。2003年に始まったイラク戦争では、これまでに119人の英国兵士が犠牲になっている。(以上)

記事には手紙の全文が掲載されています。英陸軍のリチャード・ダナット参謀総長は、「私たちの駐留は治安を悪化させており、近いうちに手を引くべきだ」、「イラク人の意思を無視した強引な軍事行動と軍駐留が、イラク情勢の泥沼化やロンドン同時テロを含むテロ拡大の要因となっているとの見方を示し」、英国の政策の誤りを認めました。これは米国のイラク戦争とテロとの関係を評価した機密報告書「国家情報評価」の結論部分「イスラム世界への米国の干渉に対する深い恨みを生み、地球規模のイスラム過激派運動への支持を拡大させた」と分析したのと同じ考えです。

私は戦争の大義を論ずる前に、指導者もその国の民も、戦争に参加する兵士たちの人生、兵士たちが戦うことになる相手国の人たちの人生と運命に想像力を働かせて、軍事にかかわる国家の政策は決めなければならないと思います。後から「涙が止まらなかった」では遅いと思います。両親、兄弟、恋人、友人たちが悲しい思いをしないために、日本国憲法前文は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意」したのだと思います。

北朝鮮の核実験を受けて、枡添要一氏は国会質問で北朝鮮の核実験を絡ませて、米軍が北朝鮮の船を臨検中に発砲されても、側にいる自衛隊は何も出来ませんというのか、と発言。久間防衛庁長官は10月17日の衆院安全保障委員会で、海上自衛隊が補給している米艦船が攻撃された場合について、「(自衛隊が)自分が攻撃されたとみなして反撃するのが自然だ。『自分が攻撃されていないから知らない』ということが、現実に選択できるのか」とのべて個別的自衛権の範囲で認められるとの考えを示しましたが。しかし政府が選択しなければならないのは、久間防衛庁長官が想定するような危険なことが起こる政策を実行しないことです。

朝日新聞の報道によりますと、10月24日、安倍首相は、伊吹文部科学相に対して教育基本法の改定案について「民主党の案のいいところを含めて話し合うように」と指示しています。民主党案は前文に「日本を愛する心を涵養する」などを盛り込んでいます。

現在の教育基本法は教育の目的を「平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび」となっています。私が紹介した英国のイラク戦争に関する新聞報道を見れば、どの教育のあり方が、一人一人の人生を明るい未来に導くかは明瞭です。国家は往々にして誤りを犯します。その国家の価値とするものが個人の価値より上位において、絶対化してはならないのです。民主党案は「人間を愛する心を涵養する」に変えなければなりません。

日本、韓国、中国、ロシアの4カ国を訪問したライス米国務長官は「危機をエスカレートさせるつもりはない」と強調して、「危険な船の情報が得られた時だけを特定して検査する」と各国首脳に伝えた。外務省幹部は「米側は当分外交に力を入れる。貨物検査で米軍をどう動かすかの検討は時間がかかる」と分析する、と10月24日の朝日新聞は報道しています。

この報道からでも、危機をエスカレートさせないためには、貨物検査で米軍をどう動かすかの検討は時間をかけて慎重に行わなければいけない事柄だということがわかります。にもかかわらず、日本の周辺事態と認定して米軍の船舶検査の支援を行い、集団的自衛権行使の議論を行う政治家のセンスは、軍事の恐ろしさを麻痺させて、事態をエスカレートさせるようなことを国会で平然と論議します。この軍事の恐ろしさを麻痺させた政治家たち、命令された任務を遂行する人たちの大切な人生に対する想像力が欠如した政治家たちが、世界の人たちから厳しい批判を受けているにもかかわらず、米国の戦争の大義を肯定的に捉え、それを支援するための集団的自衛権行使が出来る憲法を推進しています。一人一人の人生に思いやる血の通った心「人間を愛する心を涵養」して政治を行ってほしいと思います。

民衆に犠牲を強いるのは北朝鮮ばかりではない/山崎孝

2006-10-24 | ご投稿
【韓国政府高官:核保有論議発言を懸念 日本人記者団と会見】毎日新聞10月23日付け電子版

【ソウル中澤雄大】韓国の柳明桓(ユミョンファン)外交通商省第1次官は23日、毎日新聞など日本人記者団と会見し、自民党の中川昭一政調会長や麻生太郎外相らが核保有論議を提起していることについて「韓国内でも大きく反響を呼んでいる。日本が核武装すれば、北東アジアの平和的構図が崩れる」と述べ、懸念を表明した。

日本独自の対北朝鮮制裁措置については「歯が鋭すぎて相手を殺してしまってはならない。(北朝鮮が)戻る橋を残しておかなければならない」と指摘。金剛山観光事業など一連の「包容政策」に関しては「北朝鮮が国際社会の一員となるための現実的、合理的対策との確信に全く揺らぎはない」と述べ、基本的に維持する考えを強調した。(以上)

10月23日付けの朝日新聞に、金剛山観光に同行した朝日新聞記者の記事があります。《》のところが記事の抜粋部分です。

北朝鮮の案内人が核実験を《「我々はもう弱い民族ではなく、米国も手をつけられない強くなった。将軍様がいないと今日のような強い民族にはなれなかった」と語った》。北朝鮮の案内人は公式的な意見を述べています。「米国も手をつけられない強くなった」という言葉から、核実験が米国への対抗措置であったことを物語っています。

《一方で韓国人の観光客たちに緊張感は感じられなかった。ツアーの目玉は山歩き。山々の頂上付近はすでに紅葉で燃えていた。登山道に入ると、売店で手に入れた北朝鮮産の「マッコリ」(どぶろく)で、紅葉を眺めながら即席の酒盛りを始める観光客も見られた。登山をせず、北朝鮮側の職員と座って話し込んだり、道中で北朝鮮兵士に手を振ったりする参加者の姿もあった。》

記事のこの部分を読むと、核実験という軍事的緊張関係を迎えても、緊張や敵対関係ばかりではなく、民衆同士には融和的関係を保ち続けることが出来るのは、同じ民族の絆の強さでしょうか。それとやはり韓国政府の宥和政策があるからだと思います。

日本政府は「歯が鋭すぎて相手を殺してしまってはならない。(北朝鮮が)戻る橋を残しておかなければならない」という韓国の指摘が報道されていますが、日本政府は制裁を強めています。更に北朝鮮の核実験を利用して、自民党の政治家たちは、日本の集団的自衛権行使や核武装論の議論を唱え、軍事化路線の方向に国民を誘導しようとしています。

朝日新聞の記事は、今年7月の水害を受けて北朝鮮の国民の必要とする15%(約80万トン)の穀物が不足すると述べた後《ツアーに参加した中年の韓国人男性が、灰色にくすんだ村の姿を見てつぶやいた。「食べるものがない北が核実験をするとは、どういうことだろう」》と伝えています。

韓国人観光客は北朝鮮政府の政治姿勢に疑問を投げかけています。しかし、この民衆のことを考えない政治姿勢は、その国のおかれた国力の状況により露出した程度の差はありますが、北朝鮮政府だけの姿勢ではありません。

米国の新自由経済主義と軍産複合体制による軍事政策の民衆への矛盾は、ハリケーン「カトリーナ」で大きく露呈しました。財力のある階層の人たちは逃げて助かり、貧困層の多くの人が逃げられず犠牲になりました。州兵は本来、災害活動が任務のひとつとなっていましたが、イラク戦争に派遣されていたために救助活動は手薄になりました。軍事費との関係で政府は堤防の改修も後回しにしていました。イラク戦争による犠牲がどの階層に多く出ているかもわかりました。AP通信によれば、米兵の戦死者のうち、34%が貧困層の出身者で、極めて高い所得を得ている世帯の戦死者は17%と指摘されています。

日本政府は財政再建を理由に、財力の弱い階層に負担を増大させながら、バブル期より利益を上げている大企業には法人税を上げず財政再建を負担させません。そして、世界のどの地域の有事にも即応させる目的の米軍再編での日本側負担は、米国の要求のほとんどを受け入れています。専守防衛では必要のない空中空輸機を増やし空中空輸部隊を創設、高性能の大型輸送機や高速輸送艦の導入などを行います。

現在の日本は、平和主義の日本国憲法を守り、生かすことが大切となっています。

テロ対策特別措置法 3回目の延長から考える/山崎孝

2006-10-23 | ご投稿
テロ対策特別措置法が、10月19日に衆議院を通過しています。参議院を通過すれば3回目の延長になります。(その後、参議院は通過したかどうか調べましたが不明で私にはわかりません)

共同通信の報道によりますと、海上自衛隊は2001年9月から本年9月までの間に米、英、仏など11カ国に艦船用燃料を678回(約199億円)艦艇搭載ヘリコプター用燃料を49回(約4020万円)水77回(約428万円)を支援した。(この活動に要した費用は別です)防衛庁はこの活動の結果、麻薬6.8トン、小銃500丁以上、弾薬1万2000発を押収したとしています。

しかし、海上自衛隊が後方支援している肝心要のアフガニスタンにおけるテロとの闘いはどうなっているのでしょうか。

すでにブログで紹介していますが、アフガニスタンの治安が最近悪化して、アフガン派兵国は増派が必要という記事が9月12日付けの朝日新聞にあります。

2006年10月18日朝日新聞は次のように伝えています。(要約)ソ連のアフガン侵攻の時は自爆テロはなかったと言われます。2001年に始まった米英軍のアフガン攻撃でタリバーン政権が崩壊して以降、年々自爆テロは増加している。NATOなどによると2003年は2件、2004年は6件、2005年は21件に増加、今年はすでに80件近くに達し、約200人が犠牲になっている。タリバーン指導者のオマール師は3月、駐留外国軍への徹底攻撃を呼びかけており、それに呼応した支持者の犯行とみられる。パキスタン政府が本年9月に同国の国境地帯で活動する武装勢力と和平協定を結んだことも影響している。また、アフガン国内は職のない若者を中心にタリバーンに同調する人が増えているとされており、自爆テロを増やす原因になっている。

次もブログで紹介していますが、2006年9月3日朝日新聞「テロと世界」では、アフガニスタンで米国が直面した問題は次の3点にある。①民衆と兵士の区別のつかないゲリラ戦での軍事力の限界②戦後の治安・経済の崩壊と反米感情の高まり③周辺地域から注がれる反米闘争への支援の輪――それらはすべてイラクにも当てはまる現実だ。

これらの報道を見れば、テロ特措法はテロとの闘いという点から言えば、費用ばかりがかかりその効果はさしたることもなく、朝日新聞が指摘した「①民衆と兵士の区別のつかないゲリラ戦での軍事力の限界②戦後の治安・経済の崩壊と反米感情の高まり③周辺地域から注がれる反米闘争への支援の輪」という、テロとの闘いの本質的な部分には対応できていません。

歴史の教訓を今日に生かすとは/山崎孝

2006-10-22 | ご投稿
読売新聞は、戦争責任検証委員会を2005年8月に社内に設置し、それから1年間「検証、戦争責任」と題する連載記事を掲載しました。その連載記事に携わった浅海伸夫・東京本社編集委員が、「論座」11月号で次のように述べています。

【我々は何を学ぶのか】

 こうした人物を特定していく際、我々がものさしにしたのが「国際主義」と責任政治」そして「人間主義」である。

 「国際主義」とは、国際情勢認識でリアリズムを失い、政策決定を誤って、戦争に訴えた責任と要約できるだろう。ここでは、指導者ばかりでなく、その誤断を拍いたサブリーダーの情勢判断の過ちも問われる。国際潮流を捉え損ねて外交・戦争指導を誤り、内外の多数の国民の生命を奪った責任は、極めて重いというはかない。

 「責任政治」とは、閣僚・重臣として天皇を十分に補佐しなかった責任、あるいは政党政治を終息させ、議会を翼賛化した責任などが挙げられる。また、幕僚や官僚の暴走を鼓舞したり、これを制止しなかったり、逆に幕僚らが閣僚・重臣の職務を妨害した行動などもこれに含まれる。つまり、責任政治のシステム破壊、責任をとらない官僚制などを追及する視点である。

 「人間主義」とは、人命の尊重や思想・信条の由由などの基本的人権を蹂躙した責任だ。国民の幸福追求権を真っ向から否定した罪は大きい。非人間的、非合理的な特攻や玉砕作戦などの計画立案者や作戦を強いた軍人は、この観点から、重大な費任を負わなければならなかった。(中略)

我々は最終報告が締めくくりとして昭和戦争から「何を学ぶか」を記した。国家指導者、議会、官僚、ジャーナリズムが陥った過誤を挙げたが、その最大の過ちは、国際主義をないがしろにし、責任政治を忘れ、人間主義に反したことだった。これは現在にも生きる教訓だ。(後略)

 斉藤貴男さんは、「ルポ改憲潮流」で次のように述べています。

(前略)そもそも渡邉主筆の下で読売新聞は、かねて改憲に向けた”提言報道”を積み重ねてきている。一九九二年に社外の専門家を集めて「憲法問題調査会」(会長=猪木正道・元防衛大学校学長)を設置したのが始まりで、翌九三年に社内のプロジェクトチームを発足させ、早くも九四年十一月には第一回目の改憲試案発表にこぎ着けた。さらに二〇〇〇年試案を経て、二〇〇四年の憲法記念日には、三回日の試案を打ち出すに至っている。一連の読売試案を貰いてきた基本的な発想は、この間の自民党や、第二章で触れた「民間憲法臨調」のそれとほぼ一致している。後者には朝倉敏夫・論説委員長も代表委員の名簿に名を連ねているのだから、当然ではあるのだが。

 はたして『読売新開』二〇〇五年十月二十九日付朝刊の社説は、この前日に発表された自民党の「新憲法草案」を、〈戦後の憲法論議の歴史上、画期的なこと〉だとして高く評価。第九条第二項を書き換えて自衛隊改め「自衛軍」の任務に「国際平和協力活動」などを加えて、〈解釈上、当然、集団的自衛権を行使できる〉ようにした条文案を、〈ごく当たり前のことだ〉と、手放しの賛辞を送っていた。(以上)

読売新聞の浅海伸夫・東京本社編集委員が述べた《その最大の過ちは、国際主義をないがしろにし、責任政治を忘れ、人間主義に反したことだった。これは現在にも生きる教訓だ。》の言葉は、読売新聞が賛辞を贈ったと言われる自民党の「新憲法草案」の中に生きているでしょうか。

自民党の「新憲法草案」は、単独行動主義で先制攻撃をするような「国際主義をないがしろにしろ」にする米国に対して、軍事的支援レベルを拡大するために集団的自衛権行使を盛り込んでいます。個人の尊厳よりも国家を上位に位置づけていますから、「人間主義」も後退しています。これでは歴史の教訓が「現在にも生きる教訓だ」とは言えないと思います。「人間主義」の基準から言えば読売新聞が支持したイラク戦争は多くの人々を殺害しています。「人間主義」に完全に悖るものです。