いせ九条の会

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早野透・大江健三郎 共通する想いを綴る/山崎孝

2007-08-22 | ご投稿
戦前・戦後にかけて少年だった人に焦点に当て、その少年だつた人たちが戦中・戦後の社会をどう感じ取っていたのか、そして現在の安倍首相が唱える「戦後レジーム」を念頭においた文章が朝日新聞に相次ぐ形で掲載されました。

8月20日に、シリーズのコラム「ポリティカにっぽん」で、朝日新聞コラムニスト早野透さん、21日に、シリーズのコラム「定義集」で、大江健三郎さんが書いています。

早野透さんは7月の参院選の最中に自民党の衆院議員の家に取材の電話をした。議員は不在で妻とひとしきり話した中で妻は「私、こんどは自民党に投票したくない。戦争のにおいがしていやだわ」。と話したことを紹介しました。

早野透さんは、この「戦争のにおい」を参院選で安倍政権の敗北がはっきりした7月30日未明に亡くなった小田実さんとその妻(同行者)の弦順恵さんが小田実の死後に出した著書「私の祖国は世界です」に触れながら述べています。

早野透さんは、小田実著「終わらない旅」の文章を紹介した後《ふつうの人がふつうの感覚で、「戦争はいやだ」ということ、戦争になれば、ふつうの人も被害者になるばかりではなく、戦地にいって加害者になりうること。まともな心を失えば、「特攻」とか「玉砕」とかに突き進んでしまうこと。それを繰り返さぬ決意として憲法9条ができたこと。こんなふうに「平和」を説いた小田は「市民の巨人」だった》と述べています。

そして、《小田は「同行者」の後書きに「おおらかで懐の深かった日本が偏狭な愛国心に毒された『美しい国』になりつつあるようにみえる」と書き残した。小田はいまわのきわに、こんどの選挙をどう思ったか。ふつうの人々の「まともな心」が若き首相の「美しい国」に「戦争のにおい」をかぎとった結果と信じて逝ったのではないか」と述べています。

早野透さんは、安倍首相の「戦後レジーム」を念頭に入れて、劇画家の上村一夫さんと作詞家の阿久悠さんについて書いています。

上村は千葉の疎開先で、阿久は淡路島で、10歳に満たぬ子どもとして敗戦を迎えた。上村は劇画「関東平野」で、阿久は小説「源戸内少年野球団」で、少年の目で見たその時代をいきいきと描いた。それは「戦争のにおい」から解き放たれた「白い光の夏まつり」だった。

上村にとって「戦後」は「性のめざめ」だった。阿久には「野球」と「民主主義」だった。2人はのちに東京の広告会社で席を並べ友情を結ぶ。「関東平野」には若き日の阿久が登場する。上村は1986年、45歳で死に、阿久は美しい歌を残して70歳で死ぬ。ときあたかも、「戦後」を覆そうともくろむ若き首相が居座っている。(引用以上)

大江健三郎さんは、小田実さんとのことを次のように書いています。

8月4日の小田実さんの葬儀で、ドナルド・キーン先生が、古典ギリシア語の若い研究者だった小田さんを追想されました。私も青山の会場に向かう地下鉄で、かれが生涯の最後に発表した翻訳、『イーリアス』第一巻を読んでいました。(「すばる」七月号)

 ベトナム戦争に反対するデモを組織し、先頭に立っている小田さんから集会への呼びかけがあって、初めて出かけた時にも、かれとは『イーリアス』冒頭の、泥沼化したトロイア戦争から離脱するか留まるか、指導者間で行われる熱い議論の話をしました。

 それから四十年後、「九条の会」でまた会うようになると、かれは『イーリアス』に特徴的な、ギリシア詩法への質問に愉快そうに答えてくれました。すでに大きい規模となって長く続く社会的活動と、長編小説の執筆とに加えて、専門家の初心を失わないでいる小田実が印象的でした。(引用以上)

大江健三郎さんは、戦前・戦後にかけて少年だった人に焦点を当てて次のように書いています。井上ひさしさんについて書いた後に大田富雄著「寡黙なる巨人」を読んだことを紹介し、それとの関連で次のように述べています。

この世界的な免疫学者を、私が多田さんと呼ぶのは、自分もまた、この人と共に、そして小田実、井上ひさしと共に(この本から要約してゆきますが)「戦後初めての少年たち」であったこと、「屈折はしていたが、初めて自由を手にした者であったこと」、「私たちの原点であった」日日に、この国の様々な地方で、将来に向けて自由な選択し、それを展開し、実現しようとしてきたことを考えるからです。(引用以上)

大江健三郎さんは、安倍首相の唱える「戦後レジーム」を念頭に入れて次のように述べています。

選挙で発せられた国民の声は聞かず、不思議な確信をこめて語る首相に、私はこの人の尊敬するお祖父さんの、1960年の声明を思い出します。――声ある声に屈せず声なき声に耳を傾ける。

「戦後レジームからの脱却」というあいまいな掛け声が一応の魅力を持つのは、じつは脱却した後のレジームが具体的には示されていないからです。それだけに、政府が変わっても生き続けそうな気がします。これに抵抗する手がかりの実体は、戦後の民主主義レジームに勇気づけられた世代から手渡してゆかねばなりません。(引用以上)

岸信介元首相やそのDNAを受け継いだ安倍首相の聞いたと思われる声は幻聴の類です。

早野透さん、大江健三郎さんの文章は、格調があり、日本の現在に重要な意義を持つ素晴らしい文章です。私の稚拙な引用で文章の格調を壊してしまっています。是非とも全文を新聞記事でお読みいただきたと願っています。私が紹介した以外の人についても書いておられます。