しかし私に確かめる度胸はない。そうこうしているうち選手も集まってきて、アカシヤ書店の店じまいも終了し、そろそろ打ち上げに行くことになった。黒のノースリーブの女性は誰だったのか、最後まで謎だった。
1階出口ではShin氏に会った。将棋ペンクラブの面々は前方を歩いているが、私はShin氏と積もる話もあり、歩みが遅い。そのうち信号ひとつぶん離されてしまった。
Shin氏とは名残惜しいがここで別れ、私はみなを追い駆ける。しかし見失ってしまった。前回の打ち上げ会場が浅草駅近くの「和民」だったので、見当をつけてそこに行く。すると2階でちょうど合流し、私は何食わぬ顔でみなのいちばん後ろに付いた。
それがそのまま着席の順番になって、以下の配置になった。
壁
星野 Aku 木村 Osa
□ □ □
Abe 山野 藤原父 藤宮 一公
Yam氏、Kan氏は遅れてくるようだ。テーブルは4人掛けが3つ用意された。つまり私のテーブルはいまのところ私しかいないが、すぐに増える。でもAkuさんが気を利かせて、すぐに私の前に移動してくれた。紅一点が私の前ではみなに申し訳ないが、オジサン連中はAkuさんが眼中にないらしい。
山野氏は4回戦の開始時に間に合わなかったが、打ち上げのみの参加。ただ私が同じ立場だったら、4回戦の1回のみ戦うだけで、わざわざ浅草まで来るだろうか。来ない。それだけに、山野氏の情熱に頭が下がるのである。
Osa氏は将棋ペンクラブ交流会の常連だが、チームは将棋ペンクラブではない。もちろん参加は歓迎だが、参加チームのほかのメンバーは何も言わないのだろうか。
今回も2時間飲み放題(食べ物は別料金)を選んだ。ほとんどが生ビールを頼み、乾杯。私は酒は飲まないが、ビールの最初の一口は美味いと思う。
ほどなくしてYam氏が来た。彼はAkuさんの右隣、すなわち奥の席に座った。
将棋ペンクラブなので、先日のペンクラブ大賞の話などをする。今回は私の予想とはまったく違う結果になり、私は読み手としての能力のなさを痛感した。
ただ、Akuさんは今回の選考会に、テープ起こし係として立ち会ったらしいのだが、近年稀に見る激戦だったようだ。
ちなみに私イチオシ・先崎学九段の「うつ病九段」が落ちた理由を聞くと、将棋の話題があまりなかったから、みたいなことだった。
そうだろうか。私は十分、将棋の話題も詰まっていたと思うのだが。
和民の食事はどれも美味いのだが、ボリュームに劣る。もう少し盛りがあれば、文句はないのだが……。
ほどなくしてKan氏がきた。Kan氏、社団戦の事務の二刀流は大変だった。お疲れ様というしかない。
私が横にずれ、Kan氏が私の席に座る。しばらく経つと、木村晋介会長が退席となった。会長も落語の稽古などで忙しいのだろう。
するとKan氏があちら側に移り、また私とAkuさんが対面になってしまった。
聞くと、Akuさんは将棋に対しての情熱があり、素晴らしい。本人は「観る将です」と謙遜するが、観る将は将棋は指さない。Akuさんは立派な指す将?で、真剣に上達を目指しているところが偉いのだ。
私と話していてAkuさんは退屈しないだろうかと、私はハラハラである。最近は女性との会話の仕方も忘れてしまった。
将棋談義は続く。「大沢さんの将棋はね」
とOsa氏。「イヤな将棋なんだよ」
これは最大限の賛辞であろう。私もOsa氏の指し手は強力に思っている。
前回は店員さんが意味もなくうろうろして、退席を促されているようで不快だったのだが、今回はまだ時間内ということもあり、まだ落ち着いて飲めている。
藤原父は酔いが回ってきたのか、私の将棋をホメ始めた。とくに1回戦の将棋に感銘を受けたようで、その将棋をみんなに見てほしいという。私はそういうのは好まないのだが、藤原父が熱心なので、とりあえず並べた。

この将棋の白眉はA図の▲5五桂を△同飛と切り△5六桂を打ったところだろう。
「▲5五桂の時どう指すんだろうと思ったら、大沢さんがノータイムで飛車を切ったんで驚きましたよ!」
△5一飛と回ったところではこの順を読んでいたが、一時的に駒損になるので、自分としては会心の手順というわけではなかった。

さらにB図の△7二飛も藤原父が絶賛した。
「ここは(持駒に)飛車はいらないんですね!」
と藤原父。いや、△7二飛はカッコのつけすぎで、やはり持駒に飛車があったほうがよかった。
▲4一飛成の金取りを無視して、△6九銀▲8八玉(▲6九同玉は△8八金で必至)△7八金▲9八玉に、△9五歩と突いた手も感心された。これは▲6一竜なら△8八金打▲9七玉△9六歩▲8六玉△8五歩まで詰みで、△9五歩が詰めろになっていたのは幸運だった。
投了の△6八角まで並べ、藤原父は自分が勝ったことのように頬を紅潮させている。私は荒っぽい将棋を指したので、かえってこそばゆい気分だ。ただOsa氏が、
「美濃囲いが崩されるのはイヤなんだよ。終盤は相手の金を攻めるのが大切だから、飛車を切って△5六桂は、初段になれば指せる」
と冷静な分析をした。
宴たけなわだが、予定の2時間を過ぎた。私は飲み放題料金の1,500円のモトは取った感じではないが、仕方ない。これでお開きとなった。
みなは翌日から仕事で大変だろうが、その大変がいいのである。仕事がないほうがよほど大変だ。
(おわり)
1階出口ではShin氏に会った。将棋ペンクラブの面々は前方を歩いているが、私はShin氏と積もる話もあり、歩みが遅い。そのうち信号ひとつぶん離されてしまった。
Shin氏とは名残惜しいがここで別れ、私はみなを追い駆ける。しかし見失ってしまった。前回の打ち上げ会場が浅草駅近くの「和民」だったので、見当をつけてそこに行く。すると2階でちょうど合流し、私は何食わぬ顔でみなのいちばん後ろに付いた。
それがそのまま着席の順番になって、以下の配置になった。
壁
星野 Aku 木村 Osa
□ □ □
Abe 山野 藤原父 藤宮 一公
Yam氏、Kan氏は遅れてくるようだ。テーブルは4人掛けが3つ用意された。つまり私のテーブルはいまのところ私しかいないが、すぐに増える。でもAkuさんが気を利かせて、すぐに私の前に移動してくれた。紅一点が私の前ではみなに申し訳ないが、オジサン連中はAkuさんが眼中にないらしい。
山野氏は4回戦の開始時に間に合わなかったが、打ち上げのみの参加。ただ私が同じ立場だったら、4回戦の1回のみ戦うだけで、わざわざ浅草まで来るだろうか。来ない。それだけに、山野氏の情熱に頭が下がるのである。
Osa氏は将棋ペンクラブ交流会の常連だが、チームは将棋ペンクラブではない。もちろん参加は歓迎だが、参加チームのほかのメンバーは何も言わないのだろうか。
今回も2時間飲み放題(食べ物は別料金)を選んだ。ほとんどが生ビールを頼み、乾杯。私は酒は飲まないが、ビールの最初の一口は美味いと思う。
ほどなくしてYam氏が来た。彼はAkuさんの右隣、すなわち奥の席に座った。
将棋ペンクラブなので、先日のペンクラブ大賞の話などをする。今回は私の予想とはまったく違う結果になり、私は読み手としての能力のなさを痛感した。
ただ、Akuさんは今回の選考会に、テープ起こし係として立ち会ったらしいのだが、近年稀に見る激戦だったようだ。
ちなみに私イチオシ・先崎学九段の「うつ病九段」が落ちた理由を聞くと、将棋の話題があまりなかったから、みたいなことだった。
そうだろうか。私は十分、将棋の話題も詰まっていたと思うのだが。
和民の食事はどれも美味いのだが、ボリュームに劣る。もう少し盛りがあれば、文句はないのだが……。
ほどなくしてKan氏がきた。Kan氏、社団戦の事務の二刀流は大変だった。お疲れ様というしかない。
私が横にずれ、Kan氏が私の席に座る。しばらく経つと、木村晋介会長が退席となった。会長も落語の稽古などで忙しいのだろう。
するとKan氏があちら側に移り、また私とAkuさんが対面になってしまった。
聞くと、Akuさんは将棋に対しての情熱があり、素晴らしい。本人は「観る将です」と謙遜するが、観る将は将棋は指さない。Akuさんは立派な指す将?で、真剣に上達を目指しているところが偉いのだ。
私と話していてAkuさんは退屈しないだろうかと、私はハラハラである。最近は女性との会話の仕方も忘れてしまった。
将棋談義は続く。「大沢さんの将棋はね」
とOsa氏。「イヤな将棋なんだよ」
これは最大限の賛辞であろう。私もOsa氏の指し手は強力に思っている。
前回は店員さんが意味もなくうろうろして、退席を促されているようで不快だったのだが、今回はまだ時間内ということもあり、まだ落ち着いて飲めている。
藤原父は酔いが回ってきたのか、私の将棋をホメ始めた。とくに1回戦の将棋に感銘を受けたようで、その将棋をみんなに見てほしいという。私はそういうのは好まないのだが、藤原父が熱心なので、とりあえず並べた。

この将棋の白眉はA図の▲5五桂を△同飛と切り△5六桂を打ったところだろう。
「▲5五桂の時どう指すんだろうと思ったら、大沢さんがノータイムで飛車を切ったんで驚きましたよ!」
△5一飛と回ったところではこの順を読んでいたが、一時的に駒損になるので、自分としては会心の手順というわけではなかった。

さらにB図の△7二飛も藤原父が絶賛した。
「ここは(持駒に)飛車はいらないんですね!」
と藤原父。いや、△7二飛はカッコのつけすぎで、やはり持駒に飛車があったほうがよかった。
▲4一飛成の金取りを無視して、△6九銀▲8八玉(▲6九同玉は△8八金で必至)△7八金▲9八玉に、△9五歩と突いた手も感心された。これは▲6一竜なら△8八金打▲9七玉△9六歩▲8六玉△8五歩まで詰みで、△9五歩が詰めろになっていたのは幸運だった。
投了の△6八角まで並べ、藤原父は自分が勝ったことのように頬を紅潮させている。私は荒っぽい将棋を指したので、かえってこそばゆい気分だ。ただOsa氏が、
「美濃囲いが崩されるのはイヤなんだよ。終盤は相手の金を攻めるのが大切だから、飛車を切って△5六桂は、初段になれば指せる」
と冷静な分析をした。
宴たけなわだが、予定の2時間を過ぎた。私は飲み放題料金の1,500円のモトは取った感じではないが、仕方ない。これでお開きとなった。
みなは翌日から仕事で大変だろうが、その大変がいいのである。仕事がないほうがよほど大変だ。
(おわり)