一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

カトモモに教えていただく(前編)

2019-08-21 00:07:00 | 女流棋士の指導対局会
将棋界には2人の「桃子」がいる。ひとりは言わずとしれた中村桃子女流初段。そしてもうひとりは、本年4月に女流棋士デビューした、加藤桃子女流三段である。
その加藤女流三段の指導対局が川口市の大野教室であり、私は申し込んだ。10日(土)の第1部・午前11時の回である。
朝は余裕があったのにのんびりし過ぎて、教室には8分くらい前に入った。加藤女流三段は談笑中で、私は生の彼女を見るのは初めて。当然緊張感も高まった。
大野八一雄七段には先月の社団戦でお会いしたが、W氏とは久しぶりである。どうも、4月27日に飯野愛ちゃんに教えてもらったとき以来となる。以前は毎週のように会っていたが、すっかり縁遠くなってしまった。
さっき「加藤女流三段は今年デビュー」と書いたが、加藤女流三段は奨励会在籍時から女流棋戦で大活躍しており、2011年、16歳で第1期女流王座を獲得したのを皮切りに、マイナビ女子オープン(女王)4期、女流王座戦4期と、実績十分である。奨励会員が参加できる女流棋戦はこの2つだけだから、いかに加藤女流三段の実力が抜きんでていたかが分かる。
ちなみに、加藤女流三段がタイトル戦で敗れた相手は、里見香奈女流五冠と西山朋佳女王(奨励会三段)。つまり、女流棋士は里見女流五冠以外まったく歯が立たなかったわけで、これは女流棋士側が猛省しなければならない。
奨励会初段である加藤女流三段の女流棋士転向にあたり、日本将棋連盟は「女流三段」を授与した。規定では奨励会の段級と女流棋士のそれはリンクするが、加藤女流三段はすでにタイトル8期である。これだけ見れば女流五段に相当するので、その中間を取ったものだろう。
だが個人的には、女流五段を差し上げてもよかったと思う。だって、女流四段への昇段は、タイトル3期である。加藤女流三段が昇段するには、またタイトルを3期獲らなければならないのだろうか?

対局場の洋室では、教室名物のツーショット写真が撮られている。ひととおり終わったあと、対局の用意である。私はいちばん右に座った。現在5面指しで、残る1人、Kur氏の話題になる。彼は角桂落ちや銀落ちなど変則的な手合いが好きで、その筋では有名である。加藤女流三段も興味津々のようだ。
私の対局場所は大盤の近くで、加藤女流三段がこちらに来ると、「9九」側の角が当たりそうだ。将棋盤を少しずらし、危険度はやや緩和された。
さて、手合いである。ふつうの女流棋士なら平手でいいのだが、元奨励会初段、タイトル8期の強豪ときては、ちょっと指しづらい。よって駒を落としてもらいたいが、角では下手が図々しすぎる。では香、となるがこれも微妙である。下手の指し方によっては、香無しが上手の有利に働くことにもなるからだ。
だが加藤女流三段は居飛車党である。不慣れな振り飛車を強要することで、香以上のハンデになると思われた。私は「香」を希望し、対局開始となった。

初手からの指し手。△3四歩▲7六歩△4四歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△3三角▲4八銀△4二銀▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二銀▲5八金右△7一玉▲1六歩△3五歩▲1五歩△5二金左(第1図)

加藤女流三段は白のワンピースにブルーのフレアスカートで、涼しげである。
香落ちは端を攻める定跡のほかに、相振り飛車という手もある。上手に端攻めをされにくいからだ。だが中央の戦いに持ち込まれたら香落ちのアドバンテージがなくなるし、香落ち定跡も頼りにならなくなる。私は予定通り居飛車で臨んだ。
なお、5人の手合いは私から左に、香、角、飛、飛、角。4人目のTok氏は、私との対局では私の飛車香落ちだったので、よく分からない。ああ、Tok氏が上達して、手合いが上がったのかもしれない。
「指し手はやさしめでお願いします。加藤先生の指し手は厳しいとお聞きしたので」
「そうですよ」
Tok氏の懇願に加藤女流三段が散文的に応え、室内が苦笑の渦に包まれた。
いやしかし、これは大変な上手だ。私は手合いを間違えたようだ。
加藤女流三段は三間飛車に振った。まあそうであろう。私も▲2五歩と応じ、△7一玉までは私相手のみで一気に進んだ。ただその前の△7二銀は、少し考えた。これがさすがの工夫で、3手で玉を納めることで、離れ駒をなくしている。

第1図以下の指し手。▲1四歩△同歩▲同香△3六歩▲2四歩△同歩▲3六歩△1三歩▲同香成△同桂▲1八飛△1二歩(第2図)

このあたりでKur氏がきた。「この前、山根さん(ことみ女流初段)に六枚落ちで負けた」と、早くも怪しいコメントである。加藤女流三段との手合いは「ノーマルに角桂落ちで」と言うから、「どこがノーマルなんだよ」と私がツッコミを入れた。
私は▲1四歩。香落ちならこの手は指さなければならない。なおここで▲9六歩△9四歩の交換を入れるかどうかだが、下手は7七から逃げ道があるので、早急には必要ない。ただし端攻めの味がなくなるので一長一短である。上手は端攻めをされるのもするのもないが、玉の逃げ道が少なくなる。よって、私が勝つとすれば、上手の逃げ道がない「端歩を突かない形」しかないと判断した。
本譜に戻り、▲1四同香に△3六歩。これに▲2四歩が習いある手だ。今回の香落ち希望に際し、私もネット上で定跡を調べたのだが、やはり情報の絶対数が少ない。そんな中、△3六歩に▲2四歩の記述があった。
これを省いて▲3六同歩だと、のちに△1五角のノゾキが嫌らしいらしい。
だがこの辺りの情報は未整理で、やや覚束ない。以前「将棋世界」誌で、プロ対プロの香落ち戦が行われたことがあったが、あの時にしっかり勉強していればよかったと思ったものだ。
加藤女流三段は△2四同歩と穏やかに応じ、△1三歩に▲同香成。この香損も下手としてはよく分からないが、定跡だから仕方がない。
▲1八飛に△1二歩と受けさせたが……。

(つづく)
コメント (2)
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