一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第4回 江の島将棋頂上決戦・1

2019-03-13 00:19:16 | 将棋イベント
▲アマ三段 つるの剛士
△アマ初段 ザブングル・加藤歩

▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二飛▲6六歩△6二玉▲7八飛△7二銀▲4八玉△4四歩▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲7六飛△3二銀▲5八金左△1四歩▲3八玉△3三角(第1図)

つるの剛士アマ三段が、舞台の向かって右側に座った。初手▲7六歩。その手つきはプロと遜色なく、対局姿には風格すら漂う。
加藤歩アマ初段は、ダウンジャケットを着こんでいる。今日は風も強く、当然の防備である。△3四歩、▲7五歩。解説の戸辺誠七段は、舞台左にある大盤の左側にいる。
「この▲7五歩は、▲7八飛をやるつもりなんですね」
つるのアマ三段は振り飛車党である。しかし加藤アマ初段もそうらしく、一足先に四間飛車に振る。つるのアマ三段も三間飛車に振り、双方の作戦が決まった。
大盤の右側には竹俣紅女流初段、乃木坂46・伊藤かりんさんがいる。ドルオタから見たらクラクラする光景だが、そこは「写真撮影禁止」の札が掲げられている。今の時代、この措置はやむを得ない。
「相振り飛車になったので、見ていて分かりやすいですね。ところで観客の居飛車党の方も、私の『振り飛車党』のタオルを持ってくださっているんでしょうか」
と、かりんさん。もちろんそうであろう。
つるのアマ三段は▲7四歩から1歩を手にした。

第1図以下の指し手。▲6八銀△1五歩▲9六歩△9四歩▲4八金上△4三銀▲6七銀△4五歩▲7七桂△5四銀▲9七角△4五歩▲9八香△7一玉▲5六銀△3五歩▲8六角△3六歩(第2図)

つるのアマ三段は▲4八金上とし、二枚金の形。
戸辺七段「ちょっと変則的な囲いですが、相振り飛車ではよく用いられています」
いっぽう加藤アマ初段は、とうに△7二銀と上がっているが、なかなか△7一玉と入らない。
▲9八香は後手の角筋を避けて渋い。ここで加藤アマ初段が、ようやく△7一玉と入った。
戸辺七段「振り飛車は玉の囲いが簡単なんです。△7二銀として、△6二玉・△7一玉で、ほぼ完成。金銀の特性をよく活かしているんですね」
と、加藤アマ初段が△3六歩と突っかけた。
「いきなり行きましたね!」
戸辺七段が叫んだ。

第2図以下の指し手。▲2八銀△3七歩成▲同銀△5五銀▲同銀△同角▲5六歩△6四角(第3図)

つるのアマ三段は▲2八銀と上がった。戸辺七段は駒の名称を言わず、変化を述べる。それを訳すと、「ここで素直に▲3六同歩は、△4六歩▲同歩△同飛▲4七歩△3六飛と捌かれるのを嫌ったということでしょうか」となる。
加藤アマ初段は△3七歩成から、△5五銀とぶつけた。「積極的ですね」
公開対局では時間との兼ね合いもあるので、じりじりした将棋はそぐわない。それに早くチャンバラになったほうが、観客も楽しい。
竹俣女流初段「そうそう、加藤さんは負けたら『悔しいです!』をやるんですけど、勝ちバージョンもあるらしいんですよ。私は教えてもらったんですが、加藤さんが勝った時のために、今は言えません」
今日は紅のコートがよく映えて、さしずめ中国の美人女優のようだ。
戸辺七段が「伊藤さんは将棋の収録はどうでしたか」と聞く。かりんさんは4年間続けた「NHK将棋フォーカス」のMCを今月いっぱいで離れる。かりんさんは、「名人とか竜王とか強い方がいっぱいいて、圧倒されました」と答えた。
盤上。▲5五同銀△同角▲5六歩には△6四角と、さらに駒をぶつけた。

第3図以下の指し手。▲6四同角△同歩▲9五歩△8九角▲9七香△5六角成▲5七歩△5五馬(第4図)

振り飛車は駒を交換していくのがいい、と藤井猛九段は著書で語っている。加藤アマ初段の△6四角もそれに沿ったものだが、ここは▲7五銀と打てば、この角が死んでいる。
しかしそれには△3六歩の切り返しがあり、A▲3六同銀は△1九角成、B▲2八銀は悔しくて指せぬからC▲6四銀となるが、△3七歩成▲同金△6四歩は二枚換えで後手よし。
……と、私の読みを両者も考えていたかどうかは知らぬが、つるのアマ三段は▲6四同角と応じた。そうか、▲7五銀には単純に△同角でも取り方が難しいのだ。
つるのアマ三段▲9五歩。相振り飛車における待望の端攻めだ。
ここで戸辺七段がかりんさんに形勢を聞く。しかしかりんさんは、「実は私の位置からは、大盤があまり見えないんです……」と言う。
やはり3人横に並ぶのは厳しいか。前述の通り今日は南風が強く、戸辺七段のほうにはマイクの指し手が聞こえにくいらしい。しかもマイクは暴風の音を拾っている。でも観客からのアシストもあって、何とか駒を進めている状態だった。
加藤アマ初段、△8九角。かりんさんは一歩こちら側に出て、大盤を見る。
「加藤さん持ちでしょうか。でも飛車が向かい合っている形(相振り飛車)は見ていて楽しいです」
かりんさん、将棋ファンを喜ばせるコメントである。
戸辺七段「どちらもうまく指していますね。見てください、どちらも金銀3枚で囲って、攻めは角銀を手にしている。無駄な駒がないのは有段者の証です」
▲9七香も渋い。つるのアマ三段は「戸辺攻め」の戸辺門下だが、受けも得意のようだ。
加藤アマ初段は△5六角成と、こちらに成った。ここで戸辺七段が「成」の説明をした。
戸辺七段「ここは△9八角成として、かりんさんの好きな香車を取りに行く手もありました」
かりんさん「私は香車というか、取れる駒を全部取りたい。でもそれで負けちゃうんですけど」
戸辺七段「そうですね、いろいろ見ると、負けている方は駒をいっぱい持っていることが多いですね」
将棋は億万長者ゲームではなく、敵の大将を討ち取ることが目的なのだ。
つるのアマ三段は▲5七歩と打ち、ハタハタと扇子で仰ぐ。さすがは役者で、それが絵になっている。
加藤アマ初段は落ち着いて△5五馬と引いた。
「今年はいつになく真剣勝負の気がします。以前はチョコレートタイムとかあったんですけど……」
と、かりんさんがつぶやく。将棋は中盤の難所である。

(つづく)
コメント
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