一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

指せなかった▲9七玉

2019-03-10 00:51:15 | 男性棋士
8日は第32期竜王ランキング戦4組2回戦・畠山成幸八段対藤井聡太七段が行われた。
竜王戦は対局料が高額のうえ、対局者が藤井七段だから注目が集まった。
対する畠山八段は49歳のベテランで、弟の鎮七段とは双子棋士で有名だ。
1989年10月、鎮四段と同時にデビュー。翌年の第3期竜王戦6組では決勝戦で双子対決があり、1990年6月7日の読売新聞夕刊には、珍しく写真入りで取り上げられたものだ。
この対決は成幸四段が勝ちいっしょに昇級したが、翌期は鎮四段が5組で優勝し、一歩先んじた。
だが順位戦ではB級2組まで成幸六段が先んじた。その後は鎮七段がB級1組に昇級し、現在は順位戦も竜王戦も、鎮七段が上のクラスにいる。
だが順位戦で早くに昇段した成幸八段のアドベンテージは生きていて、成幸八段が勝ち星昇段で先に八段に上がった。果てしなく続く、兄弟の昇級昇段レースも面白い。
さて本局もAbemaTVで中継があったが、私は朝からネットに張り付くほど精神が強くないので、昼にチラッと見た。すると先番畠山八段のひねり飛車になっていた。
夜に見ると、第1図になっていた。

第1図以下の指し手。▲6九玉△2八歩▲1七桂△同と▲7九玉(第2図)

私はテレビを同時に観ているのと、PCの調子が悪く、現在音が出ない。
畠山八段は居玉になっていて、それが激戦を物語っていた。藤井七段の玉は4二だが、藤井七段の囲いはいつも簡素なのに、どこか懐が深い気がするのは不思議だ。
畠山八段は玉を寄った。「居玉は避けよ」と格言も教えている。
藤井七段は△2八歩。駒不足を解消するにはこのくらいしかない。
畠山八段はさらに▲7九玉。左の金銀が強力な守りになって、俄かに先手が指しやすく見えてきた。

第2図以下の指し手。△7四歩▲8九玉△7五歩▲7一角△5二飛▲6一角△7六桂▲8七銀△5一飛(第3図)

ここで後手の指す手が見えなかったが、△7四歩。指されてみればナルホドの手で、▲同歩は△同銀だから▲8九玉だが、藤井七段は△7五歩。この3手で強力な拠点ができて、また後手がよく見えてきた。
ネット掲示板を見ると、畠山八段は溜息が激しいらしい。鎮七段は奨励会幹事を務めたり専門誌に講座を連載したり、何かと露出が多いが、成幸八段はあまり見ない。
それも道理で、八段はマスコミに出ない主義らしい。その意味でも、今回は貴重な映像といえるのだ。
畠山八段は二枚角を打つ。その手つきはしっかりしており、溜息とは裏腹に、自信がある局面に思われた。

第3図以下の指し手。▲5三角成△同飛▲3四角成△8八歩▲9八玉△6九角(途中図)

▲3五馬△8九銀▲9七玉△7八銀不成▲同銀△同角成(第4図)

畠山八段は▲5三角成。解説は北浜健介八段らしいのだが、この手を絶賛したらしい。△同飛に▲3四角成とした手が銀取りで、確かにこれは先手が面白くなった気がした。
ここでPCの動画が止まっていたようだ。スマホを点けると動いていて、△8九銀まで進んでいた。あれ? この銀は相当痛い気がするのだが……。
私はPCでもいろいろなサイトを見ているので、いったんAbemaTVを離れると、また入らなければならなくなる。次に見た時は、第4図だった。
いい!? 一気に先手玉が風前の灯になっている。どうしてこうなった!?

第4図以下の指し手。▲5三馬△同玉▲5四銀△4二玉▲8二飛△7二銀打▲8七金(第5図)

盤面を見ると、3五に馬がいる。そうか、畠山八段はあの銀を取ってしまったのだ。
だがここで1枚得をしても、自陣で1枚損をしているから同じこと。否、自玉の被害の方が大きいのが最大の罪だった。
掲示板を見ると、途中図からの▲3五馬がやはり疑問手で、ここは▲9七玉(参考図)と早逃げするのがよかったらしい。

確かにこれなら△8八歩と△6九角がピンボケしていて、先手玉ははるか上空にいる感じだ。畠山八段、玉を右辺からここまで移動してきたのに、もう一手の早逃げができなかった……!
そうは言ってもこの局面、3五銀を取りたくなるところである。これは畠山八段に指運がなかった。
畠山八段は▲5三馬と突撃したが、後手玉に詰みはない。もっともここで詰みがあるなら、藤井七段がこの局面に誘導するわけがない。すなわち、ここは畠山八段が負けたと思った。
畠山八段は王手を2度利かせて▲8七金。この期に及んで受けか、と私は嘆息した。

第5図以下の指し手。△7一金▲8四飛成△8九歩成(投了図)
まで、藤井七段の勝ち。

△7一金が大山流を彷彿とさせる「負けない手」。畠山八段は▲8四飛成よりないが、△8九歩成で攻防ともに見込みなく、ここで投了した。だが私はこの場面をリアルタイムで観なかったので、唐突な投了に見えた。

だがこれは藤井七段、苦労した勝利と言うべきだろう。ともあれこれで今年度成績を42勝7敗.8571とし、中原誠十六世名人が1967年度に作った「47勝8敗.8545」の最高勝率を、一時的にではあるが抜いてしまった。
本局、下馬評では藤井七段の圧倒的有利だった。が、ふたを開けてみれば、終盤までいい勝負。否、畠山八段が押していた。勝率8割5分の藤井七段はもちろん凄いが、中堅ベテラン棋士でも互角以上に争えるのだ。やはりプロのレベルは凄いと、私は唸ったのである。
本局、株を上げたのは藤井七段ではなく、実は畠山八段だった。
コメント (2)
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