正規・非正規労働者の均等待遇
その本気度は
5日の衆院予算委員会である。テレビ中継の場面に民主党の長妻昭議員が質問席にいた。甘利前大臣の口利き疑惑、年金積立金の運用解禁の是非、そして厚生年金違法未加入200万人の緊急対策について民主党政権の厚労大臣の知見を活かした質問には鋭いものがあったと思う。そして後段に、同一労働同一賃金の実現までのプロセスをめぐる安倍首相、塩崎厚労相との間でかわした討論に、かつての若き日の懐かしい記憶を取り戻すものがあった。安倍晋三首相が、施政方針演説で掲げた「同一労働同一賃金」を論戦の焦点にした長妻議員の提起はまさに時期を得たものと受け止めたい。
安倍首相は、この日の衆院予算委員会で初めて法制化の可能性に言及し『同一労働同一賃金』実現の方向性を示したいと述べている。さらに「仕事内容や経験などが同じであれば同じ賃金を保障する『均等待遇』に踏み込んで検討する」とも語っている。非正規労働者の賃金底上げに触れることでアベノミクスへの期待を高めさせたいという狙いがあるのだろうが、鵜呑みにすることができない。というのも『均等待遇』という定義が明らかになっていないことを知るべきである。そのことを塩崎厚労相の次の発言が証明をしている。「同一労働同一賃金とは仕事に応じた職務給の中身や定義・評価をしっかりやることが第一歩である」との回答をもっても明らかである。つまり安倍首相の演説は「言葉の一人歩き」であり、いつもの「夏の選挙目当て」のものであると見て間違いない。
今や賃金制度は、かつての年功序列から職務、職能、資格制度を主体としたものに変わっている。いわゆる賃金に占める「固定給」(定期昇給に見合う部分)の比率は下がっている。定期昇給もないところさえある。よって付いた仕事によって減給もすれば増額もする。同じ仕事でもその仕事の難易度、経験度によって額が異なる。さらにどの資格に付くかによって賃金も一時金も、そして退職金も異なる。これが現在の賃金制度の実態である。つまり「正規雇用を対象とする労務管理」の賃金体系になっている。この民間企業が取り入れた賃金制度が、今や公務員職場も含めてあらゆる職場に取り入れなられていることを知らなければならない。よって、「職務給の中身や定義・評価をしっかりやることが第一歩」と答えた塩崎厚労相の答弁はまともであり、「均等待遇」の実現とか、法制化などを口にしたとは安倍政権の本気度への疑いを持つのは私だけであろうか。現に、厚生年金の加入が義務付けられている企業の多くが、「無年金」の労働者生み出していることに、政治が手を付けられないでいる事実も知らなければならないだろう。
そこで長妻議員の発言である。世界標準である「同一価値労働同一賃金」の考え方を採用すべきと政府に問うている。つまりEU諸国では「同一(価値)労働同一賃金原則」は人権保障の観点から、性別など個人の意思や努力によって変えることのできない属性等を理由とする賃金差別を禁止する法原則が取り入れられているとして、「正規・非正規の別をもっての賃金差別はあってならないとする原則こそ、法制化の中に盛り込むべき」との発言をしている。するとどうだろう。自民党委員席からの「そんなことをしたら会社はつぶれる、それは労働者の言い分だ」とのヤジが飛んだ。すかさず長妻委員は次の反論をしている。久しぶりに小気味の良い光景を見た想いであった。「国際競争力を上げるためにクビを切りやすい非正規雇用労働者を増やしたことで、逆にスキルが上がらずに労働生産性は下がっている。今や経営者の常識はスキルの高い労働者を雇う方が高付加価値の産業が生まれるという考え方を常識にすべき」と述べた。まさに、ここが論議の原点というものである。
そして、かつて「同一労働・同一賃金」が「男女の賃金差別解消」の論拠として戦ったことをあらためて思い出した場面であった。
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