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比較「昔にくらべれば、鈴木君にくらべれば、まだまし」

2020-07-29 | ポジティブ心理学
比較「昔にくらべれば、鈴木君にくらべれば、まだまし」

  • なぜ比較をしたがるのか
SMAPの持ち歌に「世界は一つだけの花」という歌があります。
「そうさ 僕らは 世界に一つだけの花
 一人一人違う種を持つ
 その花を咲かせることだけに
  一生懸命になればいい」(槙原敬之作詞、作曲)
この歌詞は、「only one」をめざすことの大切さを訴えるものですが、それは、私たちの比較心性への警告でもあります。
私たちは比較が本当に好きです。無意識のうちに比較をしながら生きています。ちょっと考えただけでも、ついつい比較してしまっている自分に気づかされます。
こうした比較をする、あるいはしてしまうのは、なぜなのでしょうか。
 一つは、事をよりよく知ることができるからです。
 唐突ですが、学校での一人の子どもの学力をどのように評価するかを引き合いに出してみます。相対評価、絶対評価、個人内評価の3つがあります。
 相対評価とは、その人が所属する集団の中で、その人がどれくらいの順位になるかで評価するものです。偏差値がその代表です。集団を比較の基準にするものです。
 絶対評価とは、学ぶべき内容がどこまでできているかという(絶対的)規準で評価するものです。日本の教育界では、今は、もっぱらこちらのほうが使われます。内容を比較の基準にするものです。
 個人内評価とは、一人の人が過去よりどれくらい進歩したかで評価するものです。時間を比較の基準にするものです。
 それぞれ、一人の子どもの学力を知るために、比較の基準を変えたものです。それによって、子ども学力がよりよく見えてきます。
 比較の目的のもう一つは、気持ちをコントロールすることができるからです。ここでは、こうした比較心性について考えてみたいと思います。

●「――よりまし」の比較
 物事を楽観的に考えるコツの一つが、まずい事が起こったときに、「――より今はまし」と考えることです。やってみます。
・まずい料理ができてしまった。でも、ないよりまし
・病気になった。でも、前の病気よりまし
・給料が少ない。でも、失業するよりまし
・貧乏だが、あの人よりはまし
きりがないのでこのあたりでやめておきますが、あなたも、ぜひ、あれこれ思考実験をしてみてください。
 この「―-よりまし」比較が楽観につながるのは、おわかりですね。
 今よりもネガティブな状況や劣った(と思う)人を比較の基準に設定して、それを比べれば、今の自分のほうがまだまし、と考えるわけです。
その基準には実にさまざまなものが採用されます。
もっともよく使われる基準は、過去ですね。昔とくらべれば、という比較です。時間比較と呼んでおきます。
67歳の自分の世代。戦後の復興期でした。どんどん物質的に豊かになってきました。多少、不幸なことがあっても、でも前よりはましで、頑張ってこの年までこれました。
それに比して、生まれたときから豊かな生活に慣れてきた今の若い世代は、どうでしょうか。過去と比較すると、どうしても、ネガティブ比較になってしまうことが多いのではないでしょうか。不機嫌世代にも同情したくなります。
ここでは、皮肉なことに、過去に不幸せであるほうが、現在が幸福に思えるということなります。そういえば、「貧乏は、買ってでもせよ」なんて格言がありますね。
比較によく使われる基準のもう一つが、周りとの比較ですね。横並び比較と呼んでおきます。教育評価で言う、相対評価ですね。
これについても、自分の世代は幸福でした。25歳で就職するまで、本当に貧乏でしたが、仲間が総じて貧乏でしたら、あまり気になりませんでした。貧乏も相対的なものなのです。今の若い世代の方々、この点でも結構、つらいところがあるようにも思います。
関連して、「井の中の蛙効果」というのを紹介しておきます(外山美樹による)。
同じ人でも、能力レベルの高い集団にいるより低いレベルの集団にいるほうが、自尊心が高まるという効果です。「鶏口(けいこう)となるも、牛後となるなかれ」ですね。

  • 楽観的になるための比較のコツ
  • ①基準を多様化しておく
先ほどは、よく使う基準として、過去と周りの2つを取り上げました。
 それぞれ、その中身は多彩です。
 「過去基準」も、個人的なものも歴史的、社会的なものもあります。
 「周り基準」も、仲間も物も国もあります。
 今現在は、多かれ少なかれ過去と周りからの影響を受けているからです。
そうした基準を多様化しておくことで、「これがだめなら、これがある式の比較ができます。そして、現在の、一見すると不幸な状況でも楽観的になれます。
ただ、過去基準の場合、「より下」の回想をすることになります。これは、心が痛むネガティブな回想を使うことになりますので、もしかすると、気持ちの葛藤状態に陥ってしまうかもしれませんので、なかなか難しいところがあります。
そこで一つの工夫は、できるだけ、遠い過去、あるいは、気持ちの上でもう整理ができている過去を使うことです。感情成分がそぎ落とされて事実だけになりますので、回想に伴うネガティブな感情に負けないのではないかと思います。
②比較の基準として、人生観、あるいは使命感を使う
あるいは、目標基準、教育評価でいうなら、絶対評価といっても良いかと思いますが、これと、今現在の状況とを比較してみるのです。いわば、未来の達成べき内容を比較の基準にするのです。
大きくは人生観、こうありたい自分と現在の自分とを比較する、あるいは、自分はこういうことで社会に役立ちたいとする自分と現在の自分とを比較するのです。
ちょっとやそっとの失敗、成功でぐらぐらせずに、どっしりと構えて、気持ちを前向きにできるはずです。真正な心の元気は、こういうところから出てくるのではないでしょうか。

●比較心性は、しかし、諸刃の剣
 たぶん、もうお気づきかと思いますが、気持ちを楽観的にするのも比較心性ですが、その逆、つまり、比較したために気持ちが悲観的になることもあります。
どっちに転ぶかは、その人の性格と思考習慣に依存します。
しかし、比較心性を心元気にするためにどう使うかを知っていれば、たとえ、悲観的な状況の陥ってしまったときにでも、一時的かもしれませんが、そこから抜け出るきっかけをつかむことができます。
ただ、過去と周りとの比較ばかりの人生もつまりません。あれこれ右往左往することになります。比較心性からは逃れられないとしても、どうせなら、未来の基準との比較、それはとりもなおさず自分の生き様にもかかわってくる真正の比較になりますが、そのほうで堂々と生きていきたいものですね。
 やや文脈はことなりますが、すてきな言葉を3つ引用させていただき、話を閉じたいと思います。
「「優劣のかなた」はちょっとしゃれた言葉で、恥ずかしいような気持 もしますけど、私、とにかく優劣をなくすんじゃなくて、向こうの優劣の届かな いその先の世界へいくのでなければ、評価と言えないんだ、というふうに思って います。」(大村はま)
「あなたの劣った特性は、周りを元気づけるものになっているのです。背の低さは、あなたの隣にいる背の高い人に優越感をもたらしています。」(曽野綾子)
曽野氏のこの言説は、正直、びっくり仰天、青天の霹靂でした。すごいですね。


 
ポジティブ心理術トレーニング@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「あなたは幸福ですか」という問に答えてみてください。そして、その判断の根拠をあげてみてください。それは、本文に述べた比較のどれに相当しますか。

笑う

2020-07-19 | ポジティブ心理学
笑わない高齢者 介護必要になるリスク1.4倍に 名古屋大など
2020年7月16日 5時41分(NHKネットニュースより)

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ポジティブマインド
スポーツと健康,積極的な生き方の心理学
著者
海保 博之 監修
中込 四郎 著
石崎 一記 著
外山 美樹 著

ワードマップ
心理学・認知科学・臨床 > 認知
ワードマップ
2010/04/05




笑う「一日3回の爆笑で心もからだも元気」

  • 笑いってどんなもの
 笑うから元気なのか、元気だから笑うのか。いずれであるかはともかくとしてーー実は、これは、感情心理学の大問題の一つなのですがーー、笑いと心身の健康(元気)とは関係があることは間違いありません。
 ただ、「笑い」には実にさまざまなものがあります。苦笑、嘲笑、冷笑、せせら笑いなどのようにネガティブな感情の表出としての「笑い」から、笑顔、爆笑、微笑のようにポジティブな感情に伴う「笑い」まであります。さらに、照れ笑いなんてのもあります。
まさに、人間その笑う存在です。
ここでは、言うまでもなく、後者のような笑いを取り上げることになります。
 さて、その笑いってどんなものなのでしょうか。
 笑いに限りませんが、気持ちの喜怒哀楽は、顔の表情として表出します。笑いもその一つ、しかも、人に固有の表出です。
怒りなどのネガティブ感情に伴う表出は、犬猫でもあるのになぜでしょうか。(もっとも、動物愛好家なら、犬猫も笑うというかもしれせんが。)
 それは、笑いの2つ目の特徴になります。つまり、笑いは、社会生活の中で、かなり大事なメッセージを伝えているのです。
・私はあなたのことを全面的に受け入れます
・私は今ポジティブです
・あなたは私の予想を外れた行為をしています
 社会的動物である人にとっては、このように、笑いは、欠かすことのできないコミュニケーションの道具なのです。
 笑いをあえて、3部の「仲間を元気にするためのキーワード」に入れたのも、このためです。

  • どういう時に笑うのか
まずは、お互いがポジティブな感情を共有しているときに、笑います。
やや余談になりますが、大学で40年余り講義をしてきましたが、どう考えてみても、講義中に学生が笑ってくれたという思い出が一度もありません。
何度も冗談やダジャレのようなことも言ってみたこともありましたが、学生のほうは、ぽかーんとしていました。そんなことが続くため、いつからかもう、学生を笑わせるような努力をしなくなってしまったようです。
笑わせようとして努力したのに笑ってくれないときほど、ばつの悪いことはありませんから。

 それに対して、落語や漫才の寄席中継。
笑いの渦ですね。なんでそんなことがおかしいの、というところでも笑いが起こります。
 つまり、講義室とは違って、寄席では演ずる人も観客も、笑って楽しむという目的を共有しているのですね。笑わにゃー損々、というわけです。
ですから、笑いの閾値が低いのです。
 大学の講義以外にセミナーや講演などでも、笑いをとるのは、日本ではかなり難しいです。聴衆のほうが、まじめすぎるのです。お勉強するのに、笑いなんて不謹慎とさえ考えているふしがあります。

 でも、ポジティブな感情を共有しているだけでは笑いはおこりません。
 笑いを起こすのは、相手の言動が、こちらの解釈のための図式(スキーマ)とずれている必要があります。
 最近のお笑いタレントは、奇妙な動作で笑いを取るのが流行のようです。
「奇妙」に見えるのは、そんな動作は「普通は」しないからです。この「普通は」を支えるのは、あなたの頭の中にある知識のまとまり、すなわちスキーマなのです。
 スキーマからのズレがはなはだしくなると、笑いより驚きになってしまいますので、微妙なずれ具合をとるのが聴衆を笑わせるコツになります。
そのあたりのうまい下手が、お笑いタレントのタレントということになります。
 
  • 笑いの効用
繰り返しますが、
 「相手を全面的に受け入れる」
「自分がいま、ポジティブであることを伝える」
「あなたは私の予想を外れた言動をしています」
といったメッセージを相手に言わずもがなに伝えることは、笑いの一つの効用です。
 この「言わずもがな」が大事ですね。何も言わなくとも、笑いは、これだけのことをわかってもらえるメッセージなのです。
 使わない手はありません。
これ以外に、笑いは、相手の気持ちを元気にする効用もあります。
笑いだけではありませんが、笑いには、感染効果があります。ある人の笑いが回りの笑いを誘うのです。この効果は場の雰囲気を変えます。周囲を元気にしてくれます。
もうひとつ、横道にそれますが、最後に全然違った笑いの効用を2つ紹介しておきます。
一つは、笑いの病気の防止と治療効果です。
笑う人のほうが病気にかからない、病気になっても回復が早いということを示すデータがあれこれ報告されているのです。筑波大学の名誉教授で遺伝学の研究で著名な村上和雄先生によると、笑いは、病気の発症や治療にかかわる遺伝子のオンオフに関係しているらしいのです。
もう一つは、同僚の市村教授から仕込んだ話です。笑いの心理的効果です。引用しておきます。
「野球のピッチングの練習を、笑顔でやるのと苦しそうな顔でやるのとでは、笑顔のほうが球速を持続させられる、というスポーツ心理学の実験研究もある。心理学の有名な実験に、氷水の中に手を入れておく時間を、笑顔の人と苦しい顔の人が競争すると、笑顔の人が勝つ確率が高い、というものもある。」
笑いは、このように、心身の元気作りに関係が深いのです。
 
  • 効果的に笑う、笑わせる
さて、では、効果的に笑ったり、笑わせたりするのは、どんなことに心がけたらよいの
でしょうか。
 いずれの場合でも、気持ちがポジティブでないとどうにもなりませんね。無理な作り笑いになってしまいますから。
 その上でまず、自分から効果的に笑うほうから。
 先ほど、講義や講演では、学生諸君や聴衆がまじめで笑ってくれないという話をしました。まじめなのは良いのですが、でも、相手が笑わせようとしているときには、場の雰囲気がありますから大声で笑う必要はありませんが、せめて顔の緊張をほぐして微笑くらいはするように心がけることです。
確かに、お笑いタレントと違って、笑いのきっかけになる思考のズレは、もっぱら知識のズレですので、きちんと話を聞いていないと笑うタイミングがとれません。それだけに、笑うということは、あなたの話をきちんと聞いている、話が私に伝わっているというメッセージを相手に送り返すことになります。
もう一つは、かなり強引な笑いになりますが、ともかく笑う、もっと言うと爆笑することです。さらに言うなら、気持ちに関係なく笑ってしまうことです。
冒頭で、「笑うから元気なのか、元気だから笑うのか」は、感情心理学の大問題と言いました。それは、
笑う(身体の末梢反応)――>元気(ポジティブ感情)
という因果を想定するのか、あるいはこの逆なのかということなのですが、ジェームズ・ランゲ説として古くからあったのが、「笑うから元気」という因果関係なのです。
それが最近、少し装いを新たに再登場してきたのです。ちょっとだけ説明します。
笑うーー>「自分は、なぜ笑うのだろう、と推論する」ーー>おもしろいからだ
「身体反応」と「感情」との間に、身体反応を推論する過程が入って、その解釈に従って感情が発生する、というのです。「笑っているから、自分はおもしろいと思っているのだ」というわけです。
人は何にでも理屈をつけたがる存在であることを考慮した仮説です。
 決着はついていませんが、でも、ともかく笑ってみる。そうすれば、元気になるのですから、試してみる価値はありますね。
 
次は相手を効果的に笑わせるコツです。
 お笑いタレントの真似をして、「冗談、ユーモアを言う」「ぼけたり」「突っ込んでみたり」「ダジャレを言ったり」「からかってみたり」は、場面によってはあってもよいかもしれませんが、普段は、そんなハイテンションは不要です。というより、疲れてしましますね。
 相手を効果的に笑わせるには、結局はここでも、あなたが笑えば良いのです。あなたの元気を見せればいいのです。
あまりにも簡単なことですが、これがすべてです。(笑)というのは、嘘です。3部で取り上げるキーワードの随所で、周りを笑わせるための具体的なコツが披露されています。

 




0:45 / 10:52 海保博之の心を元気にする習慣づくり「第1回」」you tube にあり

2020-06-27 | ポジティブ心理学
いつ頃、撮影したものか、
10年くらい前かも。
入試広報の方にお願いされて作成したものです。
なんの工夫もない講義ですが、全10回。
若き頃、元気な頃の私の姿です。
なつかしいです。笑い

そうそう、思い出した。
なぜ、こういう動画を作成したか。
当時の上司・国分大先生の動画を作成し、
それが大好評だったあとを受けて、恥をしのんで作成したものでした。
「國分康孝の談話室 第1回 「人生の目的」(東京成徳大学)」
その大先生の講義動画も、you chubeで見ることができます。



10年前の今日の記事「親と教師の元気がまずは大切」

2020-06-24 | ポジティブ心理学
教師へのマスコミ定番パッシングも相変わらずです。
精神疾患に悩む教師の数も増加の一途
子どもの心がつかめない親
理不尽なクレームで教師を痛めつけるモンスターペアレントの跋扈

元来、明るく元気なはずの子ども
彼らが一日の大部分を過ごす学校と家庭
それを取り仕切る教師と親
彼らが心を病み、不機嫌になってしまっては、
せっかくの子どもの明るさと元気も萎えてしまいます。
教師、親に加えて子どもまで不機嫌になってしまっては
日本の未来はありません。 


回想「思い出話が元気を作る」ポジティブマインド作り

2020-06-14 | ポジティブ心理学
回想「思い出話が元気を作る」ポジティブマインド作り

●回想療法
 高齢者用の心理療法、というよりケアー(介護、援助)技術の一つとして回想療法というのがあります。
 回想療法とは、過去の思い出を引き出して、高齢者の頭の働きを活性化し、さらに、過去を思い出させることによって、自分の人生の物語作りをさせようというものです。
 活性化とか物語作りという耳なれない言葉がいきなり出きましたが、これについては、のちほど説明することにして、話を続けます。
 自分も現在77歳。
 過去が忽然と思い出されることがあります。ほとんど何の脈絡なしに思い出すこともありますし、その時その場の何かに触発されて思い出すこともあります。
楽しい思いでもありますが、つらい、悲しい、思い出したくないことも思い出してしまうこともあります。
楽しい思い出は、気持ちを元気にしてくれますが、反対に、つらい思い出は気持ちを落ち込ませます。
できれば、楽しいことを思い出したいものですが、そう都合よくはいきません。
そこで、ここでは、もっぱら楽しい思い出の回想が、頭を元気にする話をしますが、その前に、つらい、悲しい思い出の回想はどうするかについて、先に一言述べておきます。
そんな回想はないのに越したことはないのですが、そんな思い出ごまんとあるはずです。そして、あるときふと脈絡なくそれが頭に浮かんできてしまいます。
でも、そうした回想も、実は、回想することで心が開放されるということもあります。無理にそうした回想を閉じ込めて思い出さないようにするよりも、むしろ思い出すことで、気持ちが楽になることもあります。そして、思い出すたびに悲しい、つらい気持ちがだんだん弱まって冷静に見つめることができるようになってくるところもあるはずです。
このように考えれば、回想も、プラスもマイナスも含めて、頭を元気にする心の働きとして活用していきたいものです。

  • 回想ってどんなもの
記憶には、覚えこむ(記銘)、覚えたものを保存しておく(貯蔵)、保存しておいたも
のを思い出す(想起)の3つの局面があります。
回想は、想起の一つで、自分の昔々の経験(エピソード)を思い出すことです。
昔々のことを思い出すのですから、ちょっと前を思い出しのとは少し違っています。その違いのいくつか。


①必ずしも事実が思い出されるわけではない
 一般的に思い出せる量も思い出した内容の正確さも、時間に反比例します。名前、場
所、エピソード、いずれも、昔になればなるほど思い出は曖昧になってきます。したがって、思い出せたとしても、どうしても不正確なものになってきます。
②回想には一貫性がある
回想された内容は曖昧で不正確だとしても、思い出した人にとっては、それなりに一
貫したものがあります。なぜかというと、一貫性があるように自分で記憶している内容を編集してきているからです。編集を促すのは、自分自身やあなたの周囲に常にいた家族などです。
 先ほど、「物語作り」という用語を使いました。記憶内容の一貫性のある編集とは、この物語作りと関係します。
 ここで少しやや面倒で長に道草をします。でも、大事なことなのでちょっと我慢してお付き合いしてください。できるだけ、わかりやすく説明しますので。
 「あなたは何者?」といきなり聞かれても困ってしまうと思いますが、実は、中学生頃から、陰に陽に、こんな問に悩まされ続けているはずです。

自分にはどんな才能があるのだろうか
自分の性格は
自分は人に好かれているのだろうか

 自分なりの世界(自我)が広く深くなっていく時期だからです。
 もとより「自分が何者?」かなんてビッグな問にただちに答が出せるわけではありません。でも、それが気になってしかたがないのが、青年期なのです。そして、青年期とは、その問の答を見つけるために、あれこれと格闘、葛藤する時期なのです。
 時には、使命感に駆られてのボランティア活動にのめりこんだり、時には、怠惰で自堕落な生活にはまり込んだり、となります。こんな時、あなたは自分なりの一貫性のある自分作り、つまり「自分物語作り」をしているのです。
 青年期は、その「自分物語作り」が混乱しています。というより、いくつもの物語作りが同時進行しています。過去と現在と未来とが渾然一体となって進行します。
だから大変なのです。あまりの混乱ぶりに、心が耐え切らなくなってしまうことさえあります。その混乱が収まってくると、つまり、一貫性のある物語が出来上がってくると、青年期が終わりに近づいたことになります。
 さて話を元に戻します。
 回想の一貫性の話でした。
 高齢者の回想は、青年期のこうした自分物語作りの経験も含めて、その時々でやってきた物語作りの経験の総まとめになります。一見すると、ばらばらな回想内容のようですが、
たとえば、今の自分をしあわせだと思っているひとは、幸せ物語を作りあげているエピソードを回想します。それは、たとえ、経験したときは、つらく悲しいものであっても、「あの経験があったからこそ今のしあわせがある」というように編集されることになります。
  • 感情的な要素が入り混じっていることがほとんど
うれしいかったことや、反対に悲しかったこと、それも凄くうれしかったことや、反対に凄く悲しかったことがよく回想されます。
 回想されるのは、このように強い感情を伴うエピソードが多くなります。いたずらしてひどく叱られた思い出、艱難辛苦のすえ試験に合格した思い出などなど。
 ただ、その感情は、回想されるときには、客観的なものになっています。そういえば、涙を流しながら喜んでいたなーとなります。
さて、ここが、回想療法に関係してくるのですが、心を元気にする回想内容は、言うまでもなく、ポジティブな感情を伴うエピソードになります。

  • 頭を元気にする回想をする
さて、では、どうすれば頭が元気になる回想ができるのでしょうか。
一つには、今現在が幸せと思えること、感じることです。
  幸せをと思う(幸福感)については、別のところで、大事なキーワードとして取り上げますので、ここでは、それほど深く考えずに常識的な意味でとっておいてください。
 なぜ、幸せ感なのか。それは、楽しい時には楽しいことが、悲しい時には悲しいことが思い出されるからです。これをポリアンナ原理と言います。
 もう一つは、幸せ物語を持つことです。
 自分の人生を振り返り、さらに、将来を見すえて、自分をポジティブな存在として自分なりに納得できることです。そのためには、幸せエピソードが必要になります。必要になれば、自然に思い出すことになります。
幸せ感と幸せ物語作りが幸せエピソードの回想を促すわけですが、実は、その逆もありえます。幸せエピソードの回想が、幸せ感をさらに強み、幸せ物語をもっと精緻はものにするのです。
つまり、幸せエピソードの回想は、幸せ感と幸せ物語と行ったり来たりきたりしているのです。この往復が大事になります。










そして、こうした往復がどうして頭を元気するかは、おわかりですね。
往復ですから、どちらから出発してもかまいませんが、一番楽なのは、幸せエピソードの回想だと思います。これまでの人生を振り返って何かうれしかったことを一つでも2つでも思い出してみてください。だんだん幸せな気分になってくるはずです。
そして、自分をほめてやりたい気分になってきませんか。そこで、自分についての幸せ物語作りをするのです。「貧しかったけれども、お母さんはかわいがってくれた」「才能はあまりないと思うが、よくここまでがんばってきた」などなど、物語といってもそれほど大げさなものを考える必要はありません。自分の誇れるところをつないでいけばいいのです。
こうした好循環を促すのが、思い出品です。写真、表彰状、あるいは給料明細など。自分の場合は、自著です。そんなものを時折、引っ張り出しては、幸福回想にひたってみるのです。

なお、今日のgooニュースに、大学の卒業アルバムを購入するのは、圧倒的に女子学生が多いとありました。思い出への思いにも男女差があるようです。
 思い出すのは、頭の働きです。その働きが活発になします。それはとりもなおさず、頭が元気になることにほかなりません。
 





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仕事で心の元気づくりの土台を作る」10年前の今日の記事

2020-06-10 | ポジティブ心理学

仕事で心の元気づくりの土台を作る

 心は自由奔放です。時間にもとらわれません。現実から離れて仮想世界に飛び出すこともできます。しかし、仕事の世界ではそうはいきません。厳しい制約が心に課せられます。それを不自由、強制、抑圧とネガティブにとらえてしまうと、仕事が苦痛以外の何物でもなくなってしまいます。
 でも、それで心の元気づくりのための土台ができると考えれば、仕事の苦労もまた別の意味を帯びたものになります。
 前に述べましたが、自分は、大学の仕事以外を経験したことはありません。大学の仕事は、かなり自由奔放なところがあります。子ども心のままでやっていけるようなところがあります。したがって、心の土台のどこか一部が欠けているようなところができてしまいます。今となっては遅かりしですし、大学内ではお互いさまですから、なんとここまでやってこれました。
 でも最近は、社会人出身の大学教員が増えました。自分のまわりにもいます。そういう先生をひそかに観察していると、「負けるなー」「おぬし、人間ができているな―」と思わされるような振舞いや言説に出くわします。
 たとえば、
 ・感情を実に上手にコントロールしている
 ・礼節が身についている
 ・相手を思いやれる
 ・コミュニケーション力がある
 ・人当たりがよい
 ・心身ともにタフ
 はやり、社会人としての経験、仕事を通しての経験は、心の安定した土台作りには絶対に必要ではないかと思います。


「ポジティブコミュニケーション「ほ(ん)わか」で、自分も周りも元気に」ポジティブマインド作り

2020-06-10 | ポジティブ心理学

「ポジティブコミュニケーション「ほ(ん)わか」で、自分も周りも元気に」


1)ほめ言葉「ほめ上手は誰からも好かれる」
●あめとむち
「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」
「せじ食わぬ馬鹿はおらん」
  • 言葉の働きは多彩
●ほめ言葉が威力を発揮するのはなぜ
・ポジティブに評価されていることで自尊心が高まるから
・相手が自分に好意をもっていることがわかるから
●ほめ言葉のさまざま
・見た目、外見をほめる言葉 例「愛想がいいね」「挨拶がハキハキしているね」
・内面、性格をほめる言葉 例「アクティブだね」「アグレッシブだね」
・能力、成果をほめる言葉 例「アイディアが豊富だね」「相手の立場にたてる人だね
●効果的なほめ言葉の使い方
①ほめるタイミングが大事
 ほめるタイミングは、その時その場で、が原則。
②ほめ言葉を言葉単独で無雑作に使わない
相手の心をまったく動かすことのできないほめ言葉ほどむなしいものはありません。
③いつもいつもほめ言葉はだめ
 「7つほめて、3つ叱る」です。
④ほめ言葉よりもほめる心が大事
⑤ほめ言葉のシャワーを浴びせよう
・1人の子どもを教室の前にたたせて、級友がその子を次々とほめる。
・ほめ上手になるための検定試験、称して「ほめ達」
・ほめられサロンというサイトhttp://homeraresalon.com/ を紹介しておきます。
*ポジティブ心理術トレーニング
どちらかと言うと、あなたが敬遠したくなる、あるいは嫌いな人を一人、思い浮かべください。そして、「でも、こういう好いところはある」という点を3つ列挙してみてください。

2)笑う「一日10回の笑いで心もからだも元気」
  • 笑いってどんなもの
 笑いは、人に固有の表出
 社会的動物である人間には、笑いは、欠かすことのできないコミュニケーションの道具
  • 笑いの効用
笑いには、感染効果がある
笑いの病気の防止と治療効果がある
氷水の中に手を入れておく時間を、笑顔の人と苦しい顔の人が競争すると、笑顔の人が勝つ確率が高い。 
  • 効果的に笑う、笑わせる
①相手が笑わせようとしているときには、笑ってあげるように心がける
②ともかく笑う。気持ちに関係なく笑う
*ポジティブ心理術トレーニング
笑い顔をつくってみよう。
  • リラックスする
  • おいしいケーキが目の前にある情景をイメージする
  • 唇を少し開けて両端を広げる

3)感謝「ありがとうは魔法の言葉」
  • 感謝マインドで非行少年を更正「感謝療法」
  • 感謝マインドが生まれるためには
  • 今の自分が幸せとの自覚
その今現在の幸せ心が、過去のどこから、何からくるのかを考える
●感謝マインドを作れない人「自己愛性人格障害の人」
「周囲を気にかけない自己愛的な人」 
・他の人々の反応に気づくことがない。 
・傲慢で攻撃的である。 
・自己に夢中である。 
・注目の中心にいたい
・送信者であるが、受信者ではない 
・明らかに他の人々によって傷つけられたと感じることに鈍感である。 
「過剰に周囲を気にかけすぎる自己愛的な人」 
・他の人びとの反応に敏感である。 
・抑制的で、内気で、あるいは自己消去的でさえある。 
・自己よりも、他の人々に注意を向ける。 
・注目の的になることを避ける。 
・侮辱や批判の証拠が無いかどうか、注意深く他の人々に耳を傾ける。 
・容易に傷つけられたという盛情を持つ。差恥や屈辱を感じやすい。
●感謝を表現する
①感謝日記
②「ありがとう」「お陰さまで、助かりました」を口癖にする
*ポジティブ心理術トレーニング
次のそれぞれのケースを2つずつ思いだしてみよう。
  • あなたが親切―>感謝された経験
例 落し物を拾ってあげたー>助かったと感謝された
②人が親切―>あなたが感謝
例 車で右折を譲ってくれたー>片手をあげて感謝の印を












感動「感動は心のはれ」ポジティブマインド作り

2020-06-02 | ポジティブ心理学
感動「感動は心のはれ」

●感動の心を心理する
「感動することをやめてしまった人は生きていないことと同じこと(アインシュタイン)」
その感動の話です。
そう毎日ということはありませんが、誰もが何度か体験した心ではあるはずです。
その心を分析してみると、いくつか特徴があります。
 外国旅行に行って、すばらしい景色に感動したことを想定してみます。
1つは、驚きや喜びを伴う知的な体験ということがあります。
 ただこれまで知らなかったことを知ることができたという知的満足だけではなく、そこに強い感情が離れがたく付随しているということがあります。 
2つは、感情も知性もその活動がピークに達しているということがあります。
 これまで見たこともない、驚きも喜びも最大に達している、さらに、これまでの知識を総動員しても追いつかないほどの情報処理の段階に達しているということがあります。
そして、第3に、満足感、幸福感に浸されるということがあります。
 その景色をみてよかった、幸せだ、という気持ちが伴います。
 こんな体験。誰もが、できればたくさん体験したいと思うはずです。では、どうしたらよいのでしょうか。
 
●感動を自分で作り出せるか
 基本的には、感動を自分の心だけで作り出すことはできません。
 ただ、感動できる可能性の高い場は、自分で作り出す、あるいはそこに出向くことはできます。
たとえば、
・映画みたり、小説を読んだりする
・外国旅行などめずらしい場所に出かける
・真善美に触れることができる場所、博物館、美術館、自然の景観などに出かける
こうした場には一体何があって、人を感動させるのでしょうか。
まずは、頭の中の知識を激しく刺激するものがあります。
映画を見た。月並みのストリー展開だった。これでは、知的な刺激はありませんから感動できません。奇想天外というほどはなはだしいものである必要はありませんが、少なくとも自分の頭の中にあるこれまでの知識の中に自然には取り込めないようなもの、予想できない展開があることが必要です。
そして大事な要素は、ポジティブ感情です。
感情を強く刺激するものはいくらでもありますが、ポジティブ感情を強く刺激するものでないと感動になりません。愛と喜びを強く喚起し、さらに正義、勇気、希望、真善美の感覚が湧き出させなくてはなりません。
さて、こんな場をあなたはいくつ持っているでしょうか。
と書いてから、自分を振り返ってみましたが、実は、ほとんどないことに気づかされました。そして、最近、とんと感動とは無縁な生活をしていることにも気づかされました。

●それでも感動したい
 高齢者の自分の感動はさておくとして、少しでも感動、あるいはそれに近い体験ができるようにするにはどうしたらよいかを考えてみたいと思います。
 前の項で、3つの場に出かければ、感動体験ができそうだ、といいました。それは間違いありません。
・評判の映画のラストシーンで涙が止まらなかった
・世界遺産を現地でみてわくわくどきどきだった
・「モナリザ」を生で見ることができて胸が締め付けられほどだった
こんな感動体験は、その場に行ったからこそです。子どもには、ぜひ、こうした場をたっぷりと体験させてやってほしいですね。感動体験のタネを蒔いていることになるからです。
もう少し日常的にミニ感動体験をすることはできないものでしょうか。
まず、知的なほうから。
外の世界を認識するのは、外からの情報と頭の中の知識とのやりとりになります。その間に適度のずれがあった時に、外の世界の認識は、好奇心の色合いを帯びます。
朝顔が咲いている光景。あーいつもの朝顔だー。では感動とは無縁。
でも、あー今日は、朝露が数滴。いつもと違うなー。おひさまが出てきたらどうなるだろうー。カメラにとってみようかなー。――――
となればどうでしょうか。だんだん、ミニ感動体験になっていきませんか。
つまり、あるがままを取り込むのではなく、絶えず、頭の中の知識を投入して、外の世界とやりとりするのです。このやりとりこそ、感動へと導く知的活動なのです。
これなら、誰もがいつでもできます。
いつもの見慣れた光景の中を散歩していても、感動のネタはいくらでもあることになります。
大事なことは、外と内との情報、知識のやりとりです。
いつもの平凡な光景にしてしまうのは、あなたの知識だけしか使っていないからです。見たいようにしか見ていないのです。これでは、感動とは程遠いことになります。
もうひとつ、ミニ感動のためには、何度も出てくることになりますが、ポジティブ感情です。
感情がネガティブでは、感動は絶対にできません。とはいっても、こればかりは、どうにもなりません。
ポジティブ・マインドづくり全体の中で心がけていくことになります。






ほめ言葉「ほめ上手は誰からも好かれる」(再掲)ポジティブマインド作り

2020-05-29 | ポジティブ心理学
ほめ言葉「ほめ上手は誰からも好かれる」

●あめとむち
 人を手っ取り早く動かすには、あめ(賞)とむち(罰)を使います。
信賞必罰という言葉があるくらい、賞罰は、人を動かす手段としては、非常に有効です。  
あなたの毎日を考えてみてください。いかに、賞罰の仕掛けがあちこちに、しかも巧みに用意されているかを発見してびっくりするはずです。
たとえば、
・ 一月働いたら月給がもらえる
・ 業績を上げたら昇進
・ 失敗したら叱られた
いくらでも挙げることができるはずです。何が賞で何が罰か、おわかりですね。そしてまた、それがどのように次のやる気の程度に影響してくるかも、おわかりですね。
私たちは人間ですから、動物とは違って、賞罰に言葉も使うことができます。
ほめ言葉と叱責言葉が使われます。これが、あまりに有効なので、つい動物にも使ってしまうくらいです。
 さて、そのほめ言葉。どうしてそれほど有効なのでしょうか。どう使えばよいのでしょうか。
 その前に、あまりに有名なのでご存知かと思いますが、山本五十六連合艦隊司令長官1節を紹介しておきます。
 「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」
 さらに、
「せじ食わぬ馬鹿はおらん」
なんてものあるそうです。

● 言葉の働きは多彩
さらに、本題に入る前に、もう一つ。言葉の4つの働きを確認しておきます。
言葉には大きく、認識の道具としての役割と、コミュニケーションの道具としての役割
があることを確認しておきます。
認識の道具としての言葉にも、自分の外の世界を知るためのものと、自分の心や振る舞い
を知るためのものとがあります。
 外の世界を知るための道具としての言葉とは、たとえば、初めて行った外国旅行。第一日目に、その日、目にした事柄を日記に書くことを考えてみてください。
たいていのことは言葉で表現できるはずです。
それがその世界を知ることに他ならないのですが、しかし、よくよく考えると、言葉にならない世界も見聞したはずです。ほとんどの場合は、言葉にならない世界は無視されたまま(認識されないまま)にされてしまっていることにも気が付くはずです。
言葉が認識の道具として使われるというのは、こういうことです。言葉がないと見える世界も見えなくなってしまうこともあることは知っておいていいことです。 
このことは、自分の心や振る舞いを知るための道具としての言葉でも同じです。
 心や振る舞いの複雑かつ微妙な動きのすべてをあなたは言葉で表現できるでしょうか。
たとえば、青年期まっただ中くらいの年頃になると、表現できない心や行動の世界が急速に拡大します。そのもやもや、不愉快さが青年期特有の心や振る舞いの混乱をもたらします。
もうひとつ、コミュニケーションの道具としての言葉の役割については、項をあらためて考えてみます。

● ほめ言葉が威力を発揮するのはなぜ
 コミュニケーションを、何をねらってコミュニケーションするのか、という観点から分けてみると、次の3つになります。
①カウンセリング場面でのそれのように、気持ちに対して働きかけるもの、
②説明場面でのそれのように、頭の中の知識に対して働きかけるもの、
③指示場面でのそれのように、相手の振る舞いに対して働きかけるもの
 ほめ言葉が威力を発揮するのは、言うまでもなく、この中で、気持ちと振る舞いに対して働きかけるコミュニケーションの場合です。
 どうしてこうした場合に、ほめ言葉は威力を発揮するのでしょうか。
これに適切に答えるのは、なかなか難しいのですが、こんな説明ではどうでしょうか。
たとえば、営業の成果を上司に報告したとします。
上司から「すばらしい」「よくやった」「さすが」などなどほめ言葉があなたに投げかけられとき、そのときその場にあるもの、あるいは心の動き、状態を考えみてください。
上司がいます。
上司の笑顔があります。
営業の成果があります。
ほめられてうれしいあなたの気持ちもあります。
周囲の仲間の賞賛の笑顔もあります。
ほめ言葉がこうした多彩な場と結びついているはずです。こうした結びつきをこれまでたくさん経験してきているはずです。これが、ほめ言葉の学習になります。
ほめ言葉の意味がわかるのは、そして、ほめ言葉が、うれしい気持ち、心の元気と結びついて威力を発揮するのは、こうした学習の賜物なのです。
 ほめ言葉の威力が発揮されるのは、当然、過去にこうした学習をどれだけしているかにかかってきます。
不幸にして、こうした学習をする機会のなかった人、少なかった人には、ほめ言葉の威力はあまりないことになります。
ほめられ体験なしで育った人はほめられてもその威力はあまり感じないことになってしまいます。
なお、乳幼児期の親からのほめられ体験の効果は、これ以外にも、主体性や思いやりなど社会適応力の高い子に育つことも最近の筑波大学教授・安梅勅江氏の大規模な調査でわかっています。

● ほめ言葉のさまざま
 今、手元に、本間正人ら著の「すぐに使える! ほめ言葉ハンドブック」(PHP)という本があります。その末尾には、ほめ言葉の一覧が次のような3つのカテゴリー別に6ページにわたって360個ほど挙げられています。
・見た目、外見をほめる言葉 例「愛想がいいね」「挨拶がハキハキしているね」
・内面、性格をほめる言葉 例「アクティブだね」「アグレッシブだね」
・能力、成果をほめる言葉 例「アイディアが豊富だね」「相手の立場にたてる人だね
その豊富さ、多彩さには驚かされます。これほどの語彙を身につけないと、ほめ上手になれないのかと自信を失ってしまうほどです。
 でも、心配はいりません。ほとんどの語彙は、すでにあなたの頭の中にあるものばかりだからです。ただ、それがタイミングよく使えないだけだからです。
 なお、蛇足になりますが、一つだけ付け加えておきたいことがあります。 
それは、ほめ言葉には、ポジティブな評価を伝える役割と同時にポジティブ感情を伝染させる役割もあるということです。
  「――がすばらしい」「―――は良いことだ」「―――は美しい」「――が上手」「よくがんばった」「うまい」などなどのほめ言葉を分析してみてください。
 一生懸命にやっている、あるいはやり終えたことに対するポジティブな評価がそこにありますね。それに加えて、その結果として、ほめた人のポジティブな気持ちがほめれた人にも伝わって(伝染して)共に、良好な関係が作り出せます。
 
● 効果的なほめ言葉の使い方
① ほめるタイミングが大事
一番大事なことは、ほめ言葉をどんな場でどんなタイミングで発するかです。
これは、自分の過去のほめられ体験を思い出しながら、さらなる体験を積み重ねていくしかありません。でもこの経験の積み重ねは、それほど難しいことではありません。
 なぜなら、ほめ言葉の効果は、その言葉を発したとたん、相手が反応してきますから、効果のほどを実感できますし、伝染して自分もうれしい気持ちになりますから、学習も気持ちよくできるからです。
 それでも、いくつか、ほめる場とタイミングについておすすめをしておきます。
 まず、場ですが、皆のいるところでほめることです。これは、ほめられた人の自尊心を一層高めることになりますし、周りの人への模範を示すことになります。
 なお、叱るときも、人々がいるところでやれば、そんなことはいけないのだということを周りにも同時に知らせる効果はありますが、叱られている人に自尊心へのダメージが大きいので慎重にしたいものです。
 ほめるタイミングは、その時その場で、が原則です。とりわけ、新人、若い人など学びの途中の人々には、この原則は極めて大事です。なぜなら、ほめられたその場で経験したことが強化されるからです。そうした一つ一つの積み重ねで成長していくからです。
 もっとも、この原則は、叱責のタイミングについても言えます。

②ほめ言葉を言葉単独で無雑作に使わない
言葉ですから、いくらでも使うことができますが、場とタイミング、とりわけ相手や自分の気持ちを無視してしまうと、空虚なものになってしまいます。相手の心をまったく動かすことのできないほめ言葉ほどむなしいものはありません。
小さい子どもにさえ、嘘を見ぬく力があります。無理に笑顔をつくり、心のこもらないほめ言葉を発してもたちどころに見破られてしみます。
 ちなみに、gooニュース(2013年2月14日)に、異性からほめられて素直に喜べない言葉の調査結果(社会人608人対象)が紹介されていましたので、参考までに。
1位 いい人だね 27%
2位 個性的だね 20%
3位 今日はキレイ(かっこいい)だね 18%
4位 健康的だね 12%
5位 いいパパ・ママになれそう 9%

③いつもいつもほめ言葉はだめ
 子育ての場で言われているのが、「7つほめて、3つ叱る」です。
3つ叱るからこそ7つのほめ言葉が対比的に効果を持つことになります。
 ほめ言葉には、前に述べたように、評価が含まれています。
いつもほめ言葉ばかりだと、その言葉の信ぴょう性が疑われてしまうということもあります。「本当にほめてくれているの?」となってしまっては、効果も半減してしまいます。
「3つ叱る」中に、まっとうな評価をした上でのほめ言葉なのだ、という暗黙のメッセージがあります。
 さらに、「7つほめて、3つ叱る」にこめられている大事なことがあります。
 それは、叱られ耐性、つまり叱られても大丈夫という心の強さにかかわることです。
 最近の若者の特徴の一つとして、「叱るとすぐにめげてしまう」ということが挙げられます。
ほめて育てることの良さはもちろん言うまでもないのですが、同時に、3つくらいの真剣な叱責によって育つ心の仕掛けが貧弱になってしまったようです。
 このことは、またほめすぎの危険性をも暗示しています。
 ほめられると舞い上がってしまいます。心をきちんと働かせて事態を認識するよりも、舞い上がった気持ちのほうに気をとられてしまいます。こいうことが続くと、どうでしょうか。
厳しさが欠けた甘い人間になってしまいます。
 話のバランスをとるために、老婆心から追加しておきました。

④ほめ言葉よりもほめる心が大事
これは、対人関係で言うなら、相手の言動や特性のポジティブな面のほうにバイアスをかけてみるということです。
・勉強ができなくとも人柄が良い
・口下手だが、言う内容は凄い
あるいは、ちょっと難しいところもありますが、現実のもろもろを一見するとネガティブではあっても、それをあえてポジティブにみてみるということでもあります。
・あと5分しかないではなく、まだ5分ある
・これしかないではなく、これがまだあった

⑤ほめ言葉のシャワーを浴びせよう/浴びよう
 最後に、今日の朝日新聞の夕刊(2010年3月13日づけ)で、小学校教諭・菊池省三先生のこんな試みが紹介されていました。
 1人の子どもを教室の前にたたせて、級友がその子を次々とほめるのだそうです。あまり仲のよくない友達もほめることで多面的な人間観を持たせることもできるし、クラスの絆も深まるようです。
 会社などの朝礼でも活用すると効果がありそうですね。
 ついでにもう一つ。ほめ上手になるための検定試験、称して「ほめ達」も紹介しておきます。短所を長所に言い換える、失敗をプラスに考えるなどができるかどうかが試されるようです。
 関連して?、ほめられサロンというサイトhttp://homeraresalon.com/ を紹介しておきます。
アクセスした人を徹底的にほめてくれます。ただし、こちらのほうは、まったくあなたは関係のないほめ言葉ばかりです。それでも、ほめ言葉の語彙を増やすには少しは役立ちますし、不思議にそれでも心がちょっぴり元気になります。
 さらにさらに、林寧彦氏のすすめ。
 気持ちが落ち込んだ時、心の中で、ともかくみるもの聞くものすべてをほめてしまうのだそうです。だんだん自分が元気になってくるそうです。
 
ポジティブ心理術トレーニング@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

どちらかと言うと、あなたが敬遠したくなる、あるいは嫌いな人を一人、思い浮かべください。そして、「でも、こういう好いところはある」という点を3つ列挙してみてください。





クイズ「小さい発見が頭を元気に」ポジティブマインド作り

2020-05-27 | ポジティブ心理学


クイズ「小さい発見が頭を元気に」

●クイズ効果
 講義がだれてきたようなときに、クイズを入れると、一気に学生が元気になります。
 たとえば、先日の知覚心理学の授業では、多義図形。「もう一つの見え方を探してください」とやる。頭をかしげて、そして「わかった」と顔を輝かせます。
 クイズは、頭を元気にするには、もってこいですね。
 さらに、相手に回答させることで、相手の頭の働きをこちらに巻き込んでしまう効果もあります。
 たぶん、あなたも、普通の会話で、似たようなことをしたことがあるはずです。
 「ねーねー、太郎が何で花子と結婚したか、知ってる?」なんてクイズ風の会話ですね・
 今回は、こうしたクイズの元気づけ効果を考えてみたいと思います。
 なお、ここで、クイズは、かなりルーズな意味で考えてください。「この漢字の読み方は?」といった類の単純クイズから、数学の簡単な問題解きまで含めて考えておきます。共通しているのは、問が出されて、その趣旨をすぐに理解できて、短時間で解答できるもの、というくらいです。

●クイズはなぜ好まれるのか
 余談になりますが、クイズはなぜ好まれるのでしょうか。
2つあると思います。
 一つは、頭を一気にピーク状態で活動させることに伴う喜びがあります。
 問に答えるわけですから、到達目標がわかります。そして、多くは時間プレッシャーがかかります。短距離競争のようのものですね。
大げさに言うなら、瞬間熱中の状態になります、だらだらしていた頭が一気にしゃきっとします。これが快感につながることになります。
 もう一つは、応答的な環境からくる喜びがあります。
会話など問を出す相手が目の前にいるときだけでなく、雑誌に掲載されているクイズに答えるときでも、そこには、問を出した「相手」がいます。
解ければ、「さーどうだ!」となります。自分で自分の力を実感できるだけではなく、「相手」にも自分の力や物知りの優位性を誇示できます。
これはうれしいですね。一銭の得にもならないにもかかわらず、クイズ好きになってしまう理由が納得してもらえたでしょうか。

●クイズで頭を元気に
 では、クイズをどのように活用すれば、頭を元気にすることができるのでしょうか。
まずは、アクセスする環境を点検してみてください。いつでもどこでもその気になればできる環境がほしいですね。
そして、好みの、というより、頭の元気(活性化)に役立つクイズを決めておきます。
自分は、書斎の机の日めくり卓上カレンダーがクイズになっています。朝机にすわり、パソコンが立ち上がるまでの数分、これに挑戦する習慣がつきました。
 最近ブームになっている、任天堂の脳トレなんか、やってみたいのですが、あまりに問題が単純すぎるような気がして、躊躇してます。
 もっと手軽には、ウエッブにも、無料で楽しめるクイズが公開されていますので活用してみるのもよいかと思います。登録すると、メール配信してくれるものもあります。(http://www.e-zunou.com/archives/2009/01/20200812.html)
 いずれにしても、自分の好みに合ったものを選んでやってみるといいですね。
 ただ、クイズのタイプ選ばす、クイズならなんでも、ということもあってよいと思います。
 最近は、やりませんが、一時期、週刊誌などに掲載されているクイズはすべて挑戦してみたことがあります。あまりに時間がとられるので、やめましたが、「クイズを選ばずクイズならなんでも」も頭を柔軟にするにはあってよいとおもいます。

●クイズは出すのもおもしろい
 冒頭に紹介したように、講義では、時折、クイズを出すようにしています。ただ、これは、大変です。講義の流れにそった内容のクイズはそれほどはありませんし、自分で考え出すのも大変です。それでも、40年も講義をしていると、だんだんと蓄積されはきます。
 今試みているのは、講義の随所で、「ちょっと考えてみよう」という問を出して、5分間くらい考えさせることです。ノート取りに懸命になっているところに、突然、「考えてみよう」は、教室の雰囲気を変えます。単調さを打ち破るのに効果があります。
 また、自分にとっても、そうしたクイズを考えることで、講義内容への理解も深まるところがあり、一石二鳥です。
 こうしたクイズ作成で注意していることは、3つです。
① すぐに答えられること
② 正解はないが、ちょっと考えてみたくなるもの
③ 時間は、5分限定
これも冒頭でも紹介しましたが、日常の会話でも、相手をこちらのペースに巻き込みたいようなときには、クイズ形式も極めて有効です。そんなときに使うのは、一発解答が可能なやさしい問か、逆に、まったく解が思いつかないような問、というより相手がすぐに「わからない!」と根をあげるような問が、効果的です。会話ですから大事なことは、やり取りの流暢さです。問がその流暢さを妨げてしまってはまずいですね。



会話---たかがおしゃべり、されどおしゃべり」ポジティブマインド作り

2020-05-24 | ポジティブ心理学
会話---たかが会話、されど会話」


● 女性の元気の源は会話にあり
この年になると、人と話すことがかなり減ってきます。とりわけ、大学の教員は、研究室があるので、誰も来なければ、一日まったく会話なし、といこともしばしばです。家でも老夫婦2人だけ。あらためて会話不足の自分に驚かされます。
それもあってか、最近やけに会話のことが気になります。とりわけ、女性の会話上手がうらやましくてなりません。
話すように作られている女性脳と、勝つことを志向するように造られている男性脳との違いなんて話もどこかで聞いた気がしますが、確かに、遺伝的な性差の一面ではないかとは思います。
ところで、会話には3つの機能があります。
 一つは、心の中に溜まっていた思いを吐き出させる「カタルシス機能」です。話してすっきりした、聞いてもらってありがとう、という気持ちにつながります。
 2つは、「親しみを高める機能」です。会話の頻度と親しみとはほぼ比例関係にあります。
 3つは、「情報交換と発想触発の機能」です。うわさ話からビジネス上の情報交換、さらに研究上の発想触発まで多彩です。
 となると、会話は「周りを元気にする」だけでなく、「頭」「気持ち」も元気にする、まさに総合的な機能をもっていることになります。


 ● 気持ちをすっきりさせる会話のコツ
① 聞き上手をみつける
 会話は相手があってはじめて成立します。ましてや、自分の思いのたけを受け止めて気持ちすっきりとなるためには、それなりの相手でないとうまくいきません。あなたの言うこと(思い)を、じっくりと共感的に受け止めてもらえる相手がほしいですね。


② 自分が聞き上手になる
 聞き上手の相手を求める前に、自分が聞き上手になってしまうこともあります。それが、相手に聞き上手の大事さを実感してもらえることにもなるなるかもしれません。会話は、相互的なものです。相互的であることを無視する会話をする人が結構、多いのも事実です。できれば、そういう人は避けたいですね。
「賢さは聞くことに由来し、後悔は話すことに由来する」なんて格言もあるくらいです。


● 親しみを増す会話のコツ


①会話の親しみの機能は、初対面でもう発生している
 前後左右、見知らぬ人に囲まれたところに着席したとして、すぐに隣の方に挨拶ができますか。そして、会話をあなたから開始できますか。


②秘密を話す
「実は、――」は、親しみを確実に増します。自己開示と呼ばれているものです。一種の秘密の共有です。会話の楽しみの一つでもありますね。


③会話の頻度を増やす
 会話に限りませんが、頻度は大事です。用件がなくとも、ともかく、会話する機会を増やすだけでも、親しみが増します。
 
● 頭を元気にする会話のコツ


①話題を豊かにする
 もちろん、ここでは、これまで述べてきた会話とは、内容が違います。たとえば、「夕べ読んだ本の感想」「今気になっていること」などなど。


②知的会話ができる雰囲気を作る
こうしたテーマを、お隣さんとちょっと休憩のときに会話できるよう人は幸せです。
やや「重い」会話になります。会話の暗黙のルールからすると、やや違反めいたところがあります。ですから、誰ととでもいつでも、というわけにはいきません。かなり努力をして普段から知的な会話ができる雰囲気を作っておく必要があります。





寛容「寛容になれれば心穏やか」ポジティブマインド作り

2020-05-23 | ポジティブ心理学

寛容「寛容になれれば心穏やか」

●寛容になれる
 この一連の連載をかいているうちに、自分の心が次第にかわってきたことに気がつかされました。
 その一つが、何事にも寛容になれるようになってきたことです。
 以前なら、お店の店員さんのちょっとした応対に腹を立ててしまうようなことがしばしばありましたが、最近では、「店員さんも大変なんだ」という相手への寛容な気持ちになれます。 
 こういう内容の原稿を書くことが気持ちの変化をもたらしたようです。
 もしかして、この連載をお読みいただいている方々も、そんな気持ちになっていただけたらうれしい限りです。

●寛容度ゼロ運動
 寛容をめぐるエピソード2つ。
 かつて、そして今でもアメリカでゼロ・トレランス運動があります。トレランス(tolerance)は寛容の意味です。
学校現場での子どもたちの無秩序で勝手放題の行動に立ち向かうための学校側からの容赦のない反撃です。
 そういえば、逆に、「寛容と忍耐の政治」なんてスローガンを標榜した政治家(第58代首相・池田勇人による)もいましたね。
 教育現場での寛容度ゼロ、政治の世界での寛容度100%。なんだか奇妙な対比ですね。
 それはさておくとして、寛容が、こういう現場であらためて取り上げられるところに、その大事さがうかがえます。

●寛容であることは気持ちがいい
寛容になるとどういうことが起きるのでしょうか。
周囲に対する共感性が高まります。
最近よく使われる「相手目線」、心理学で言う、「視点取得」です。相手の立場から事態をみつめることができます。結果として、相手を肯定的に受け入れることができます。
周囲に対する見方、振る舞いが変わります。周りが善意に満ちてみえます。
おおらかでゆったりした振る舞いをするようになります。
結果として、相手もまた同じような見方、振る舞いをしてきます。
場全体がポジティブ感情に満たされます。
こうした場として今ただちに頭に浮かぶのは、お祭り。
昔、徳島大学に赴任したその年。阿波踊りに参加した時に聞いたのですが、踊り期間中は、喧嘩などの類が極端に減るのだろそうです。
お祭りという場が、人々を寛容にするのだろうと思います。

●寛容になるために
まずは、許しの心が必要ですね。
何か気に入らないことがあっても、それにまともに立ち向かう気持ちがあっては、寛容とは逆の方向にいくことになります。
許しの心というと大げさになりますが、あるがままに人と場のすべてを受け入れる、といったような気持ちです。
 『自分自身の健康と幸福のために、 少なくとも敵を赦し、忘れてしまおう』 (カーネギー)。
「自分自身の健康と幸福のために」がいいですね。
さらに、忍耐も必要です。
不快や不条理に耐えられないと、寛容にはなれません。
ややしんどい心の作業になりますが、これも、習慣にしてしまえば、なんとかなります。
育児や介護の経験が、寛容と忍耐を身につける格好の現場ではないかと思います。
実は、自分もここ25年くらいの介護の経験をしていますが、それが驚くほど自分を変えました。寛容と忍耐が確実に身に付きました。
そうした中で心の習慣となっているのは、即応しないようにすることがあります。
気に入らないとき、不快なときに、一拍おく心がけです。
攻撃、不快といった感情は、その発生源に対してすぐに対応するように心はできています。そうしないと、生き残れないからです。
 しかし、今私たちの生活している場にそうした厳しさもはやそれほどはありません。だから、その感度を低めるのです。「どうということない」くらいの感じですね。
いずれにしても、寛容の心を身につけるのは、他のポジティブな特性を身につけるよりは、はるかにきついと思います。たぶん、ポジティブな特性の集積として自然に出てくるように思います。年輪を重ねないと無理かもしれません。

●寛容であることのマイナス面
 ゼロ・トレランス運動に見られるように、寛容は、周囲の「悪」を野放しにしてしまうところがあります。ですから、何事に対しても寛容というわけにはいきません。ここ一番は、というところでは、ゼロ・トレランスが必要です。
 余談になりますが、今の大学に移った1年目、教室での学生の私語の悩まされました。毎時間、怒声をあげるような状態が続きました。3年目になり、がらっと自分の考え方をあらためて、まさに、寛容と忍耐で望むようにしました。
 相変わらず私語は続き、教室はあまり好ましい学習環境ではありませんが、しかし、こちらのほうの気持ちは実に穏やかで余裕のあるものなりました。まさに、寛容、ひとのためならず、です。それでもちよっぴり、彼らも寛容と忍耐を発揮してくれることを期待しているところです。
 
 

感謝「ありがとうさえ言えれば大丈夫」ポジティブマインド作り

2020-05-18 | ポジティブ心理学
感謝「ありがとうさえ言えれば大丈夫」

● 内観療法
 非行少年の更生施設などで活用されている心理療法の一つに内観療法というものがあります。
 過去を振り返って、「何をしてもらったか」、それに対して「どんなお返しをしたか」を内観させるものです。
 かわいがられた経験の少ない非行少年でも、あらためてこういう振り返りをする機会を得ると、さまざまな感謝体験が回想されるようです。それが非行少年たちを変えるきっかけになるようです。
 実は、自分もあまりかわいがられた経験がないと思っていました。
 しかし、内観というより回想をしてみました。
 ありました。ありました。実にたくさん、口では言わねど、自分のためにしてもらっていたこと、そして感謝すべきことがふつふつと思い出されてきました。
・ からだが弱いから、自分だけ牛乳をとってもらい、さらに養命酒まで飲ませてくれた。
・ 通信簿で良い点をとると、天ぷらかカレーを作ってくれた。
・ 大学受験できる家庭の経済状況ではなかったにもかかわらず、何も言わずに受験勉強させてくれた
などなど。

● 感謝マインドが生まれる
 普通に感謝マインドが生まれるためには、まずは、今の自分が幸せとの自覚が必要ですね。
たとえば、「今こうしておいしい食事できる幸せ」「よき伴侶が得られた幸せ」などなど。そして、その今現在の幸せが、過去のどこから、何からくるのかを考えることになります。
その際に、自分の努力や才能によるとすることもありえます。
あそこでのあのがんばりがあったればこそというわけです。その場合は、自信、あるいは、自分は有能である、という感覚の強化になります。これはこれで結構なのですが、感謝とはほど遠い方向になります。
若いときは、これでよいのだと思いますが、これが極端になると、いわゆる自己チュー、つまり自分中心にしか物事が考えられない人なってしまいますので、要注意です。
感謝の気持ちが沸いてくるためには、今現在の幸せは、自分のまわりにいた人々、あるいは組織(家族、学校など)のおかげ、という認識が必要です。
・小学校の担任の先生が、貧乏で払えなかった給食費をこっそり立て替えてくれた。
・母親が内職をして学費を出してくれた
・ 高校の先生方は、勉強嫌いの自分を勉強好きにしてくれた
こうした認識は、それが本当であったかどうかはあまり問題ではありません。そのように自分が思い込めればそれで十分です。場合によっては、相手がまったくそんな意識がなかったとか、極端な場合、まったく反対のことをしていたなんてことがあってもよいのです。
今現在の幸福感とそれをもたらしてくれた過去の原因の認識。
これが自分の心の中でつながったとき、はじめて感謝マインドが生まれます。
なお、冒頭の内観療法では、この逆をやっていることになりますね。まずは感謝の対象を見つけさせるのですから。でもそれを見つけたら、結果として、今現在を幸せ感で満たすことができるということだと思います。

●感謝マインドを作れない人
ところで、どうしても、感謝マインドが作れないという不幸な人がいることが知られています。ガバードという研究者によると、「自己愛性人格障害の人」です。
両極端があります。
「周囲を気にかけない自己愛的な人」
・他の人々の反応に気づくことがない。
・傲慢で攻撃的である。
・自己に夢中である。
・注目の中心にいたい
・送信者であるが、受信者ではない
・明らかに他の人々によって傷つけられたと感じることに鈍感である。
「過剰に周囲を気にかけすぎる自己愛的な人」
・他の人びとの反応に敏感である。
・抑制的で、内気で、あるいは自己消去的でさえある。
・自己よりも、他の人々に注意を向ける。
・注目の的になることを避ける。
・侮辱や批判の証拠が無いかどうか、注意深く、他の人々に耳を傾ける。
・容易に傷つけられたという盛情を持つ。差恥や屈辱を感じやすい。

●感謝を表現するコツ
①感謝状を書く
いま 心理学の授業の冒頭の時間を使って、ポジティブ・マインドづくりの実習をしています。その最初が「感謝マインドづくり」です。
ねらい2つあります。
一つは、ここまで述べてきたように、過去を振り返っての感謝の表明です。いわゆる感謝状書きですね。人でも組織(学校や地域など)に対して、「あなたが自分に??してくれた陰で、今こうして幸せです」ということを文章に書くことです。
自分でもやってみました。
ひとつは、受講学生に対して、「よくぞ、本学に入学してくれた。ありがとう」。
もう一つは、定番ですが「家族への長年の労苦に対する感謝状」です。
やってみて気が付きました。
学生への気持ちが穏やかなものになりました。妻への思いも深いものになりました。
感謝状効果、馬鹿になりません。

②感謝言葉を口癖にする
感謝マインドづくりのもう一つは、「ありがとう」「お陰さまで、助かりました」を口癖にする習慣づくりです。
過去を振り返ることで感謝マインドを作り出せたら、それ毎日の生活の場で活かすのです。
生活の場では、心の中ではそう思っていても(感謝していても)、ついそれを言葉に出せないということが結構ありますね。
口癖になっていないということに加えて、もう一つ、やっかいなことに、感謝すると、そのお返しをしないという「追い目意識」が生まれます。これがいや、面倒ということで、つい感謝言葉を発しないということもあります。
これは、いずれは、自分が感謝されるようなことをしよう、ということで済ませばよいのです。あまり気にする必要はないと思います。あなたの感謝言葉だけで十分に相手はうれしいのです。お返しなんて考えてもいないかもしれません。
というわけで、気楽に感謝言葉を出せるようにしたいものです。
・朝、お弁当をつめてくれた母親に「いつもありがとう」が自然に出るようにするのです。
・エレベータでドアを開けて待ってくれた人に、「ありがとう」を言えるようすることです。
なお、こういう時って、どちらかと言うとネガティブな表現である「すみません」のほうをよく使ってしまいがちですが、ポジティブ表現の「ありがとう」の方が格段にいいですね。
いずれにしても、感謝マインドが少しでも芽生えたら、口に出せるように習慣にしてしまうのです。そうすれば、感謝された人にも感謝マインドが伝染します。そして、自分のしたことが相手に感謝されたことがはっきりとわかることで、自信になります。
さらに、相手も、自分のした行為が人の役に立ったという有能感に浸ることができます。それがやりがいにつながります。そのきっかけを与えてくれたあなたへの感謝にもつながります。
ポジティブ・スパイラルがあなたの周りで巻き起こることになります。
最後に、天童荒太「悼む人」(文藝春秋)の奇妙な感謝をめぐる本を紹介しておきます。
新聞記事から見つけた縁もゆかりもない死者のゆかりの地を訪ね、「その人は、誰を愛したか。誰に愛されたか。どんなことで人に感謝されたことがあったか」を聞きまわり、それをもとに死者を悼むのです。それが次第に周囲に感謝の波紋を投げかけていくのです。
たまたま目に触れて読んだ本ですが、感謝物語にこんな世界もあり、ということで紹介してみました。
ついでに名言を3つ。
「働く意味は、他人から‘ありがとう’を集めることにあると思います」(渡邊美樹)
「自分を幸せにしてくれる人たちに感謝しよう。彼らは魂を花開かせてくれる素敵な庭師である。」(プルースト)
 「十のサービスを受けたら十一を返す。その余分の一のプラスがなけ
れば、社会は繁栄していかない。」(松下幸之助)