三流読書人

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ドングリ小屋住人 

小さな兆候こそ

2005年02月19日 17時36分27秒 | 教育 
小さな兆候こそ 木下順二(『朝日新聞』1986年元旦「論壇」より抜粋)
≪丸山真男君が『現代政治の思想と行動』の中に紹介しているあるエピソードである。私の勝手なことばでいいなおしてみると、
 あるアメリカ人が、第二次大戦後のドイツへ行って、いろんなドイツ人に、あなたはあのひどいナチス政治の下で、どうして平気で暮らしていられたのですかと聞いて歩いたのへ、例えば一人の言語学者(だからインテリだ)はおおよそこういったというのである。
つまり、あの当時、「ナチ『革命』の全過程の意味を洞察」できるような「高度の政治的自覚」を持つことは、日常の生活に忙しく追われている一般市民には、とても望みがたいことであった。
ナチスが政権を取った年のある日、ドイツ人の経営する商店の店先に「ドイツ人の商店」いう札がさりげなく張られたとき、一般人は何も感じなかった。
またしばらくしたある日、ユダヤ人の店先に黄色い星のマーク(ユダヤ人であることを示す)がさりげなく張られた時も、それはそれだけのことで、それがまさか何年も先の、あのユダヤ人ガス虐殺につながるなどと考えた普通人は一人もいなかったろう。
つまり「ナチ『革命』の全過程の意味を洞察」できる普通人はいなかったのだ。
きのうに変わらぬきょうがあり、きょうに変わらぬあしたがあり、家々があり、店があり、仕事があり、食事の時間も、訪問客も、音楽会も、映画も、休日も・・・別にドイツ一般民衆の思想や性格がナチスになったワケでは全くないのだが、気のつかない世界(ドイツ社会)の変化に彼らは「いわば止めどなく順応したのである」。そしてナチスが政権を獲得した1933年から7年がたって、あのアウシュビッツが始まったというわけだ。≫
(本多勝一編「文筆生活の方法」に収録されている記事を拝借しました。)

かぎりなく今の時代に似ていると思いませんか。
もっと露骨かもしれない。憲法を変える,教育基本法を変えるというようなことが平気で叫ばれる。大資本、大企業だけに富は集中する。福祉を切り捨てる。労働者の権利を奪う。情報を統制する。
「とめどなく順応」するのではなく、それらの「全過程の意味を洞察」する力を持たなければならないのではないか。
20年前に木下順二氏が書いた文ですが、この20年どのような過程をたどりつつあるのか。
それほど「高度の政治的自覚」がない私も怖くなっている。

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