ちいさなちいさな いのりのことば

 * にしだひろみ *

“読むのがもったいなくて”*日々のつれづれ*

2015年07月22日 | Weblog


ある日、一冊の本を手に、息子がやってきて、言いました。


“なんだか、読むのが、もったいなくて・・・。”





幸せなため息のように。

少し困ったように。


顔は、輝いていて。

読みかけらしきページに、指をはさみつつ。






ああ、わたしもそうだった。


素敵な本にめぐりあい、少し読み進めて、

ああやっぱり素敵な本だ、と思ったとき、

本を閉じて、ため息をついてしまう。



読むのがもったいなくて。

素晴らしい本に出会えたことが嬉しくて。

いつかは必ず読み終えてしまうことがせつなくて。







その日、息子が持ってきた一冊は、佐藤さとるさんの名作、『だれもしらない小さな国』。

コロボックルという、小人たちの物語です。





少女の頃、わたしを魅了した、この物語。

読み終えてから、幾度も、蕗の大きな葉の下に、小人を探したものでした。

もしかしたら身の回りにいるかしら、と、お部屋やポケットを見たことも。






あんなふうなドキドキやワクワクを、息子にも感じてほしい・・・

そう願って、本棚にそっと並べておいた一冊でした。





息子は、それを手に取り、開いてみて、そして心ひかれたのね。


ああ、嬉しいこと。







いま、たいていの書店や図書館には、あまりにもたくさんの本があり、選ぶことは容易ではありませんね。

子どもたちが手に取るものは、背表紙や表紙が目立つものや、可愛いものだったりして、

素晴らしい内容の本に出逢う可能性は、低いかもしれません。




何が素晴らしくて、何がそうではないのか、そのような線引きはできないのかもしれませんが、

できることなら、

いつまでも心に残るような本、

心豊かになれるような本、

よい方へと導いてくれるような本に、出会ってほしい。




そう願って、時々、こっそりと、息子の本棚に新しい本を並べている、わたしです。










蝉のこえを聴きながら、

青空の見える窓の下で、

息子は、コロボックルの世界へと。



忘れられない夏の始まりです。